「外国人採用予定なし」に直面の外国人留学生-H-1Bビザ改定後の米国
Francesca Maglione、Georgia Hall-
トランプ氏は新規申請に10万ドルの手数料を課すなどの変更実施
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企業は外国人留学生の就労ビザをスポンサーすることに消極的に
トランプ大統領
Photographer: Aaron Schwartz/Bloomberg「外国人の採用予定なし」
米国で多くの外国人留学生が就職活動で何度も直面する一文だ。
インドから約4年前に渡米したイシャーン・チャウハン氏にとって、それはまるで顔に平手打ちを食らったような感覚だ。ウィスコンシン大学マディソン校でコンピューター・データサイエンスの学位を取得し、将来の道が開かれると信じていた。だが、来年5月の卒業を前に就職活動を始めると、多くの企業は就労ビザが必要だと分かった時点で面接の機会さえないという。

チャウハン氏は、高度な知識や技能を持つ外国人の就労ビザ「H-1Bビザ」の制度をトランプ大統領が改定し、新規申請に10万ドル(約1530万円)の手数料を課すなどの変更を行って以来、一層厳しさを増した米労働市場で活路を見いだそうとしている多数の留学生の1人だ。
優秀な外国人留学生にとって、かつて道筋は明確だった。米国の大学を卒業し、ビザをスポンサーしてくれる企業に採用されるのが定石だった。
しかし今では、米国籍を持たないと分かった時点で採用活動が途絶え、将来の見通しが立たないまま取り残される学生も少なくない。先月には米最大の民間雇用主であるウォルマートが、H-1Bビザを必要とする人材の採用を一時停止すると発表した。
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チャウハン氏は「最高の大学に通い、最高の成績評価(GPA)を取り、最高のインターンシップをしても、うまくいかないことがある」と語る。「いつも聞かれるのは『現在または将来、スポンサーシップが必要ですか』という質問で、それで話が終わってしまう」と述べた。
非営利団体、国際教育研究所(IIE)によれば、現在米国の大学に在籍する留学生は約110万人に上る。多くの学生にとって米国での大学教育は金融やテクノロジー、研究、コンサルティングなどの業界でのキャリアにつながる投資と見なされている。
だが、トランプ政権2期目が発足して以降、移民政策が厳格化し、企業は留学生の就労ビザをスポンサーすることに消極的になっている。学生向け就職サイト、ハンドシェイクのデータによると、ビザのスポンサーシップを提供するフルタイム求人の割合は2023年の10.9%から25年には1.9%へと急減した。特にテクノロジー業界の落ち込みが最も大きく、前年の3分の1の水準にまで落ち込んでいる。
もちろん、現在のホワイトカラー職市場は、米国生まれの求職者にとっても厳しい状況にある。テクノロジーを含むホワイトカラー業界で採用の動きは大幅に鈍化しており、人工知能(AI)の進展で初級職の多くが失われつつある。22-27歳の新卒者の失業率は4月に5.8%に達し、21年以来の高水準となった。
カーネギーメロン大学キャリア開発センターのアソシエートディレクター、ケビン・コリンズ氏は、企業は現在非常に慎重な姿勢をとっており、現段階では採用活動が活発ではないと述べた。その結果、留学生はこれまで以上に多くの求人に応募せざるを得ないという。同氏はまた、全ての学生がプレッシャーを感じているが、特にビザのスポンサーが必要な学生にとってその負担は一段と重いと話した。
エール大学雇用関係部門ディレクターのケリー・マクサージ氏も、同様の傾向を指摘する。最近開催されたバイオテクノロジー分野のキャリアフェアでは、大手企業の1社が、秋の内定から新卒者の実際の就業開始まで約9カ月の空白期間が生じることを理由に、学生へのビザスポンサーを行わないと説明したという。
トランプ政権が9月にH-1Bビザ制度の大幅な見直しを導入して以来、状況はさらに複雑化している。改定では、次回の抽選サイクルから、外国人の高度人材をスポンサーする企業に対して10万ドルの申請料を課すことが盛り込まれた。トランプ氏はこの措置によって米国の雇用と賃金を守り、国内採用を促進できると主張する。
ホワイトハウスのロジャース報道官は質問への電子メールの回答で、「この常識的な措置は、企業が制度を乱用して米国人よりも割安の賃金で外国人労働者を雇用するのを防ぎ、トランプ大統領が掲げる『米国第一』の理念をまさに実現するものだ」と指摘。「この措置は、実際に高度な人材を米国に受け入れたいと考える企業が制度乱用に踏みにじられてきた状況を正し、確実性をもたらす」ともコメントした。
全米商工会議所はこの動きを違法だとして、トランプ政権を相手取り連邦裁判所に提訴し、差し止めを要請した。業界団体は、この規則が外国人材に依存する業界の採用活動に壊滅的な打撃を与える恐れがあると警告している。
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ホワイトハウスは、最近の外国人卒業生や学生ビザで米国に滞在中の一部労働者については、手数料の対象外になると説明している。それでも、度重なる方針変更により、スポンサー企業の多くはコストや手続きの複雑さを把握できずにいる。
アマゾン・ドット・コムやマイクロソフト、メタ・プラットフォームズなど、同制度の主要利用企業は特に影響を受けるとみられている。
25歳のニキル・クマール氏にとって、かつて夢見た米国での生活は必ずしも期待通りとは言えない。クマール氏はインドのデロイトでキャリアをスタートし、技術的スキルと実務経験を積むとともに会計士資格を取得した。

クマール氏は今年、マサチューセッツ州ウースターにあるクラーク大学の修士課程に奨学金を得て入学した。12月の卒業を控え、米国でキャリアを発展させたいと望んでいるが、必要であれば母国に戻る覚悟もしているという。
クマール氏が実際に就職活動を進める中で気づいたのは、「ビザスポンサーが必要」と示す欄にチェックを入れると、自動的に不採用になるケースが多いという現実だった。クマール氏は「応募してチェックを『はい』にした次の瞬間に不採用通知を受け取ったことが何度もある」と話す。
同氏は、米国市民が採用で優先されること自体には理解を示しているものの、政策の不透明さや突然の方針変更にはやりきれなさを感じているという。
さらに一部の留学生が不満を募らせているのは、何年も前に米国へ移住した家族がはるかに容易に就職できていたという現実だ。
プリト・チャカラシヤ氏は米国の大学院に出願した際、自身の進路も兄と同じように「ビッグテック企業で働き、定住する」というものになると考えていた。しかし実際には、4カ月余り就職活動を続けているものの、成果はほとんど得られていない。
チャカラシヤ氏は23年にインドから渡米し、サンディエゴ州立大学(のビッグデータ分析修士課程に進学した。クラウドファンディング企業のゴーファンドミーで昨夏、インターンを経験したが、そのために2000件の応募を出し、面接まで進めたのはわずか3社だった。
5月の卒業以降も、すでに500件を上回る求人に応募しているという。4年余り前に渡米した兄は、当時の雇用環境が良好だったこともあり、100件に満たない応募で採用されたと考えられる。
「なぜ今も人々が米国に来ようとするのか分からない」と話すチャカラシヤ氏は、「需要に対して供給が多過ぎるとすでに感じている」と述べた。
原題:H-1B Visa Hopefuls Are Being Shut Out of Jobs by Wary Recruiters(抜粋)