亡霊
「正直……勝てなくはない相手だと思うけど、国まで守るのは難しいか」
「ブブブブ」
「うるさい! 増殖してどれも本体とか言われたって、諦めるはず無いでしょうが!」
「かといって……この結界内で聖武器の加護で魔力や力の剥奪から耐えている訳ですけど……それも何時まで持つか」
「だな、元康じゃないが首都は諦める決断をするべきだと思う」
「……わかりました」
女王が決断したようですぞ。
「オルトクレイが起こした不始末に対して、私が責任を持ちます。どうか最小限の被害で済ませるため。どうか……お願いします」
「本当に良いんですか?」
「少しでも国の民が生き残るのにはここで手を拱いて居てはなりません。過去にオルトクレイも決断する時がありました。私は……国の為にも犠牲を出さねばいけないのなら、その責任を取る覚悟があります!」
力強く宣言した、その直後……お義父さんの唱えた満月盾の満ち欠けが始まり、守る範囲が縮小し始め、魔法が僅かに入りこんできました。
その魔法が俺達と女王に当たりそうになりましたぞ。
「危ない!」
お義父さんが手を伸ばしたその時、赤黒い豚の持っていた杖が輝き、拘束から近くに居た女王の目の前に漂い始めました。
「ブヒ!? ブブブ!」
赤黒い豚は邪悪な力で干渉しようとしていますが、お義父さんの欠けて行っていますが、満月盾の力に遮られて力が通らずにおりますぞ。
どうやら杖も抗っていたのですな。
そして杖から光が溢れ、人型を形作りますぞ。
……そこに居たのはクズですな。仕留めたはずなのに、何故ここに居るのですかな?
何やら穏やかな表情で女王と婚約者を見つめております。
「王……」
「オルトクレイ……」
「父上……?」
クズは喋らず、杖を女王に差しだしていますな。
そして赤黒い豚へ向けて険しい表情を向けておりますぞ。
女王が恐る恐る手を差し出すと、クズは杖を握らせました。
やがて……女王に杖が光を移しましたな。
クズは満足した様な表情を浮かべた後、婚約者を抱擁し、エクレアに敬礼してから、再度女王を見つめて頷きました。
「父上……」
「……わかりました。オルトクレイ、貴方が何を伝えたいのか。私が貴方の分まで、世界の為、国の為に尽力します!」
女王の返答に満足したのか、クズはフッとかき消えましたぞ。
「ブブブブブ!」
赤黒い豚はその状況に激昂したのか、激怒しながら暴れておりますぞ。
お? 分身共が消えて行きますな。
魔法とスキルが使えなくなったからか、それを補う様にムッキムキになって行きますぞ。
「あの王様も、もしかして死んでから国の状況、真実を知って国の状況に憂いて居たのかな?」
「でしょうね。じゃ無きゃ女王様に杖を渡したりはしませんよ」
「少し臭いが、これで切り口が出来た! もうアイツに切り札は無い!」
まだ儀式の術式が、赤黒い豚を中心に作られております。
杖だけでは無いのですな。
まったく、どれだけ厳重に術式を組み上げたのか、呆れて物も言えませんぞ。
「全く諦める気配が無いね……正直、降参して魔法を解除してほしいんだけど」
「ブブブブブブ! ぶふうううううううううううううううううううう!」
赤黒い豚はやる気ですな。
合計Lvはどんなモノなんでしょうな?
と言うか良く生きてますな。
体が壊れそうな物ですぞ。
「少しでも被害を出さない為にも! 勇者様方、力を貸して下さい!」
「うん! これも全て俺達が招いた事」
「責任は取りますよ」
「ああ、まあ……全ては馬鹿の所為だがな」
「いきますぞ!」
俺は掛け声と共に、スキルをぶちかましますぞ。
「バンカーショットⅤ!」
樹が赤黒い豚の至近距離に近づいて、前回の周回で放った近距離スキルを放ちましたな。
銃から杭のようなモノが射出されました。
バキンと赤黒い豚を守る障壁がはじけ飛びましたぞ。
「やっぱりですか。まあここまでくれば紙のような防壁のようですけどね」
貫通して赤黒い豚に樹の放ったスキルは当たりましたぞ。
「一斉射撃も息があって良いですが、俺が空気を読まずに決めますぞ! ブリューナクⅩ!」
「うわ!」
樹を突き飛ばして赤黒い豚にぶちかましてやりますぞ。
錬や女王、ライバル達は唖然としていますな。
「ブ、ブヒイイイイイイイイイイ――」
俺の必殺のブリューナクを受けて赤黒い豚は消し飛びましたな。
これでやっとメルロマルクの問題も解決ですな。
「あーもう……とはいえ、やっと解決かな?」
「そうなのか? なんか邪悪な雲は消えて無いぞ」
もはや城の上半分は跡形も無いですからな。錬は暗雲立ち込める空を見て呟きますぞ。
「儀式魔法、『聖域』で浄化していくしかないかもしれませんね」
女王が、空を見上げて答えます。
「原因を倒しても、こう言うのは解決する訳じゃないんですね……」
「ゲームだったら一発で何事も無かったかのようになるだろうね」
お義父さんが苦笑いしながら同意しますぞ。
「とりあえず、庭に居た兵士たちの様子や城下町の人達を調べに――」
みんなしてこの場を立ち去ろうとしたその時――。
「ブヒイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!」
赤黒い豚が居た所から半透明の……赤い豚が出現しましたぞ!
「な、な、あ!?」
俺を含めてその場に居た全員が唖然とした表情で振り返りました。
「な、何が……」
「ブヒイイイ……ブブブブ」
半透明の赤豚ですかな?
これは一体どういう事でしょうか?
「ま、まさか、さっきの子にお前が憑依して操っていたとでも言うつもりか?」
「ブブブ、ブブ、ブブブブブ!」
肯定だとばかりに亡霊赤豚が鳴き喚いていますぞ。
しっかし……赤黒い豚よりも尚、禍々しい気配と姿をしていますな。
「ブヒブブブ」
「な……城中の人間の魂を貪り喰らっている……? じゃ、じゃあ儀式で生贄にされたんじゃ……?」
「ブブブ、ブブブ」
「それもあるけど、呼びだされた悪魔たちの魂を喰らって使役していた……なんて化け物なんですか! あの人は!」
「なるほど……オルトクレイが何を指示していたのか合点がいきました」
「姉上……なんて事を……」
「どう言う事ですかな?」
赤豚の言葉など俺には全く理解できません。
ブーブーうるさいので、ささっと仕留めたいですぞ。
「あのね元康くん、あの王女の亡霊は元康くんに殺された後、王の魂と杖の力を利用してノコノコとやって来た三勇教の傀儡に乗り移って、新教皇、そして王の影武者を操っていたんだ」
な、なんと。
つまり赤豚は幽霊として蘇ったという事ですか。
殺しても復活するとか、どれだけ生き汚いのですかな?
そもそもアイツはフレオンちゃんの仇。
何度蘇ろうと、例え幽霊になろうとぶち殺してやります。
「挙句、城中の者達の魂を貪って力を高め、使役して操り、悪魔召喚の儀式を行って領土を増やしながら、範囲内の者の魂を喰らい続けてここまで強くなったそうです」
「完全に化け物だな。普通の人間がここまでの事を、魂だけで出来るのか?」
そんな奴が何人もいたら嫌ですぞ。
しかし赤豚はあの豚王に処刑されても生きていた程、しぶといのでしたな。
そういう意味では幽霊になってもおかしくはないのかもしれません。
殺しますがな。
「ブヒィイイイフウウウウウウウウウ……!」
赤豚を中心に何やら国中から光が集まって行くように見えますぞ。
同時に俺達にも何やら精神的な衝撃が走りますぞ。
なんて言うのですかな?
物理的では無く、無理やり内臓をえぐり取られそうな痛みと表現するべきでしょうか?
「う……く……力が……」
「魔力だけじゃない、別の何かが吸われてる。コウ怖い!」
「うー……」
俺は耐えられない事はありませんが、フィロリアル様達の様子がおかしいですぞ。
「なの! 魂を強引に吸引してるなの! すごく力が強いからがんばって耐えるなの!」
ライバルが翼を光らせて助手とモグラを守っておりますぞ。
「く……三日月盾を使い直すよ」
「オルトクレイ……私達に力を」
「私も力を貸す!」
お義父さんと女王、エクレアが力を合わせて結界を作りだしましたぞ。
若干体が軽くなったように感じますな。
「マルティ! 貴方は国の民をなんだと思っているのですか! 死したからと言って好き勝手やって良い物ではありませんよ!」
女王の激に赤豚はどこ吹く風とばかりに嘲笑っておりますな。
「ブブブブブブ」
「私があってこその世界、世界は私の為に従事するために存在する……だと!? ふざけるな!」
錬が激昂しながら剣を天に掲げますぞ。
「ハンドレッドソードⅩ!」
百本の剣が召喚されて降り注ぐスキルですな。
赤豚に向かって剣が降り注ぎますぞ。
ですが……赤豚はどこ吹く風とばかりに涼しげにしております。
「錬さん、相手は実体の無い亡霊ですよ! シルバーブレットⅩ!」
樹が対悪魔や亡霊にも効果があるスキルを放った様ですぞ。
ですが、それさえも赤豚には届かない様ですな。
目の前に悪魔っぽい奴を盾にして、貫通する前に爆発させて無効化させました。
設定はあったけど使わなかった設定その3
『亡霊ヴィッチ』