天使
「ただいまー」
「「クエー!」」
日が沈む少し前。待ち合わせの河原で待機しているとお義父さん達が帰って来ましたぞ。
ユキちゃんもサクラちゃんもフィロリアル・クイーンになっているようです。
「なんか途中で姿が変わったけど、大丈夫なんだよね?」
「大丈夫ですぞ。むしろこれが真の姿と言っても過言ではありません」
「へぇ……育成ゲームとかの進化みたいだね」
などと話をしながらお義父さんはサクラちゃんから降りました。
お義父さんは降りるなり痛そうに股を擦っていますぞ。
「いやー……股が擦れて乗り慣れてないとかなり大変だね」
「回復魔法を掛けますかな?」
「あ、大丈夫。シルトヴェルトの使者の人に途中で掛けてもらったから」
「そうですかな?」
「ブヒ……」
どさりとシルトヴェルトの豚がユキちゃんから転げ落ちましたぞ。
同時にエクレアが口に手を当てて青い顔をしながらユキちゃんにもたれ掛かっております。
「げ、限界だ……」
ドサッと落ちて、瀕死みたいになっていますな。
「魔物を跳ね飛ばすだけで凄い勢いで経験値が稼げるが……これは耐えられん……」
「まあ、乗り心地はあんまり良くないねー……」
「イワタニ殿は異常だ。これに乗ってなんともないとは……」
「そう言われてもなー……」
ポリポリとお義父さんは頭を掻いておられますな。
当然ですな。
お義父さんは全フィロリアルの頂点に立ち、フィーロたんを生んだ存在。
この程度の揺れでへこたれる様なやわな精神ではありません。
「さて、今日の戦果はどうでしたかな?」
「良い感じに上がったと思うよ。Lv28になったんだ。凄いね。エクレールさん達も少し上がったってさ」
「それは良かったですな。できればお義父さんはもっと上げておきたいですぞ」
「そうなんだけど……盾の強化とかするべきじゃない?」
「そうですな」
って考えてみたらお義父さんを町の武器屋に連れていくべきですな。
ウェポンコピーをさせておかねば装備品を増やせませんぞ。
「ねえ元康くん。今出せる盾で、武器強化とかしちゃって大丈夫かな?」
「問題ありませんぞ。欲しい素材があったらこの元康が調達いたします。お義父さんの防御力が上がれば刺客に対してそこまで警戒する必要はありませんからな」
「ありがとう。じゃあ今出せる盾で能力が高そうなのを見繕っておくね」
町の武器屋で良い盾が並んでいるか保証はありませんからな。錬の強化、覚醒をするにはまだ足りないでしょうから俺や樹の強化方法を試しておられるでしょう。
それだけでも一般の冒険者や兵士程度の攻撃は防げるようになると思いますぞ。
「これでお義父さんもある程度強くなりましたな」
「まだまだ元康くんには遠く及ばないけどね。魔法の一つも使えないし……スキルは解放させないといけないし」
「それでも大きく一歩前進ですぞ」
「うん。なんか急に強くなったような錯覚を覚えるよ」
明日にはお義父さんのLvを40にさせたい所ですな。
ユキちゃんたちの資質向上をして、俺たちは町の宿の方へ向かう事を決めましたぞ。
エクレアと豚を馬車で寝かせて、俺たちは町へ行きました。
「ふー……今日はゆっくり休めると良いんだけど」
宿屋の部屋でベッドに座ったお義父さんが愚痴りますぞ。
確かに、ここ数日は刺客に追われて大変でしたな。
見た感じだと、前回滞在した町よりも静かな印象を覚えますな。
いきなり宿に突撃してくる連中はいないご様子。
まあ、宿の前にはシルトヴェルトが雇った用心棒が見張りをしておられるようですが。
明日から同行してくれるのでしょうかね?
エクレア達は隣の部屋で既に就寝していますぞ。
酔いが酷過ぎて、治療が必要だそうですぞ。
使者が薬を買いに行きました。
とりあえず、今のところはお義父さんの護衛はユキちゃん達で十分ですな。
「では私は宿の馬小屋へ行きますぞ」
「え? 元康くん、部屋で寝ないの?」
「今日はまだ仕事があるのですぞ」
「何があるの?」
「それではお義父さんも立ちあって貰うべきですな」
俺はお義父さんを宿の馬小屋に連れ出しますぞ。
そこにはユキちゃん達が、そわそわした形で待っていましたぞ。
「お待たせしましたぞ」
「「「クエ!」」」
俺が来たのを確認するとユキちゃん達は楽しげに答えますぞ。
今日は頑張ってくれたご褒美にお義父さんが作ってくれた燻製肉を切って食べさせますぞ。
「で? 何があるの?」
「そろそろですな……」
ユキちゃん達が楽しげにクエクエと鳴いています。
俺はユキちゃん達に向けて囁きます。
「フィロリアル様方、そろそろ天使の姿になられるかと思います。どうか……その御姿を見せてくださいですぞ」
俺の言葉にユキちゃん達は顔を見合わせた後、背伸びをしてから……変身を始めましたぞ。
「え……」
淡い光と共にユキちゃん達の姿が天使へと変わっていきます。
その御姿を見てお義父さんが絶句していました。
外見はみんなフィロリアル様の姿の時と同じ体色の髪……翼を背中に生やしております。
背格好は基本的には同じですな。
おや? ユキちゃんの身長が僅かに高めですかな?
キリッとした表情でリーダーシップが感じられますな。
コウは好奇心が旺盛な男の子みたいな感じですぞ。
それでサクラちゃんは……なんですかな?
おっとり系というのですかな? 若干眠そうにしてます。
「元康様ー」
「モトヤスー」
「はいですぞ!」
コウを除いて各々俺の名前を呼んでくださいました。
ああ……みんな可愛らしいですな。
お義父さんが口をパクパクとさせておられます。
「話には……聞いていたけど、直に見させられると驚くね。エクレールさんに話をしに行きたくなっちゃったよ」
「今は部屋で休んでおられますぞ」
「うん。そうだけど……」
「ナオフミー」
サクラちゃんがお義父さんに向かって駆け寄りますぞ。
「君は……サクラちゃんかな?」
「うん! サクラーだよ?」
サクラ色の髪を靡かせてサクラはお義父さんに全裸で抱きつきますぞ。
「わ!」
お義父さんは目を白黒させながらサクラちゃんを抱きとめて、頭を撫でます。
そんなお義父さんを見上げながらサクラちゃんは笑みを浮かべます。
「えへへー」
「こうして、話をするのは初めてだね」
「うん。えっとね、あった時から御話がしたかったの。頭撫で撫でしてくれてありがとうー!」
「あ、うん……」
目のやり場に困ったかのようにお義父さんは明後日の方角を見ましたな。
「元康くん。この子達に服を着せないの?」
「その為の機材を調達したのですぞ。ササッ! ユキちゃん達、服を作る為の道具があるので、それを回してほしいですぞ」
「なんでー?」
フィロリアル様へ最初に尋ねますかな。
「それは服を着ることで、皆さまも魅力が増すからですぞ」
「元康様、ユキは服を着たほうが良いのかしら?」
「服かー。おしゃれしてみたいねユキー」
「ナオフミはサクラに服着て欲しい?」
サクラは甘えん坊ですな。お義父さんと仲睦まじくするその姿はフィーロたんを彷彿とさせますな。
ですが、フィーロたんとは髪の色も、目の色も異なりますな。
若干おっとりとしていて、足取りもゆっくりしてますぞ。
髪を花飾りみたいな形に纏めております。
魅力的ではありますが、フィーロたんとは髪質も違う感じがしますぞ。
何から何まで惜しいのがサクラちゃんですな。
「えっと、そうだね。服をきてくれると助かるかな」
お義父さんの言葉にサクラちゃんは頷きました。
「じゃあサクラ、服着る―」
「それでは先にこのユキがやりますわ」
「あ、それはサクラが先にやりたいー」
「だめですわ」
「ぶー……」
サクラちゃんが我慢してますぞ。
ユキちゃんは三人のリーダー役をしている様ですな。
「ん?」
そこにはコウが立っています。
そういえばコウはまだ俺の名前を呼んでおりません。
近付いて優しげな笑みを向けるとコウは言いました。
「キタムラ」
「はい、ですぞ」
「いや……なんでコウだけ元康くんを苗字呼び?」
この様なエピソードの後、コウが先にぐるぐると機材のハンドルを回し始めてしまいました。
「あはははーこれ面白ーい」
「こら! コウ、勝手に回すのではありませんわ」
そう言ってユキちゃんがコウを叱っておられます。
なんとも微笑ましい光景ですな。
「これなら……部屋の方で寝ても大丈夫そうだね?」
「そうですな」
ユキちゃん、コウ、サクラちゃんが糸をつむぎ終わるのを確認してから仮の寝巻きを三人に着せましたぞ。
「良いですかな? ちゃんとお義父さんを部屋でお守りして良い子に眠るのですぞ」
「わかっていますわ」
ユキちゃんは賢いですな。みどりを彷彿とさせますぞ。
「うん。サクラもーナオフミと一緒に寝たいー」
「はいはい。良い子にしてたら寝てあげるよ」
「わーいー」
サクラちゃんが楽しげにしていて、お義父さんが優しく撫でております。
子供の扱いも御上手なのはよく覚えていますぞ。
俺のフィロリアル様達もお義父さんの事をとても大切にしておりました。
コウはギュルギュルと魔力を糸にさせる機材を高速で回して糸を紡いでいます。
それに続いてユキちゃんが続きます。
「さ、次はサクラですわよ」
「はーい」
サクラちゃんが機材のハンドルを掴んで回し始めました。
ですが、マイペースなのかノロノロとしておりますな。
「サクラ、もう少し早く回しませんの?」
「えー?」
サクラちゃんがお義父さんの方を見ます。
「ナオフミは早くしてほしいー?」
「そんなに時間が掛らない様だし、気にしなくて良いよ」
「そっかー。じゃあサクラゆっくりと回してるー」
と言いながらサクラは糸を紡ぎ始めました。
「ふぁあ……コウ眠くなったー」
「ユキも眠たいですわ」
「では先に私達は寝室に行くのですぞ」
サクラちゃんが糸を紡いでいる間にユキちゃん達があくびをしてしきりに眠いを連呼しております。
お義父さんが先に行って良いよと合図を送ったのでこの元康はユキちゃん達を誘導いたしますぞ。
「じゃあ、サクラちゃんの糸が出来たら置いておくから、元康くんは先にみんなと寝てて」
「わかりましたぞ。サクラちゃん。何かあったらお義父さんをお守りするのですぞ」
「りょーかーい」
サクラちゃんは糸をつむぐのが楽しいのかゆっくり回したり高速でギュルギュルと回したりして遊んでおります。
その様子をお義父さんは温かく見守っておられました。
俺はその姿をほっこりとした心境で部屋にみんなを連れて帰り、眠りましたぞ。