「軌道エレベーターに居た融合体なんだけど」
「ゲルズゲーか?」
首なしの融合体は現在のところ確認されているのは軌道エレベーターの1体のみであった。
「公的にはデュラハンって名前になったわ」
「首がないからな分かりやすいだろうよ」
人類は敗北した。
だがそれは人類滅亡までのカウントダウンが始まった訳ではない。人類は《アーク》と呼ばれる地下都市に避難するために行動を開始した。
世界中に展開していた部隊は残らずかき集められアークの防衛に着くことになる。
だがそれはラプチャーを引き寄せる原因にもなる。
アーク移住決定から既に1ヶ月が経とうとしていた頃、100を越える襲撃をニケたちはひたすら耐えていた。
「ソーンが作ってくれたバクゥのおかげで休憩は出来てるけど。厳しい状況ね」
ソーンは自身の身体の修復と平行して、彼女が作り上げたのは企画倒れしていた獣型の自立兵器《T.A.V:A》であった。
現在ではアーク防衛のために十数機のバクゥ系列機たちが補給と迎撃を繰り返し活動している。
流石のリリーバイスも少し疲れているようで工房の椅子に座り、コーヒーを飲む。
「もうすぐ完成する」
「1ヶ月半じゃなかったの?」
「シンデレラの事は気がかりだが。それよりも俺が早く戦線復帰した方が良いだろう。身体も多少のアップグレードが出来た。状況的には仕方ない」
そんな話を聞いていたリリーバイスは1つ思い出したかのように質問する。
「そう言えば、最近身体に戻って試験とかしてた?」
「ん?してないが…」
「そう…その前、戦闘していた部隊がソーンを戦場で見たって報告があって。でも装備も何も着けていない生身だって言うから変だなって」
「疲れて見間違えたんじゃないのか?」
「そうかもね」
リリーバイスは少し休むと言って部屋を後にしたしばらくした後、ソーンは1ヶ月ぶりに身体に戻ってみた。
しかし1ヶ月間、ハロ状態でコロコロしていたせいで歩き方を忘れてしまい。
床をズリズリと這いずりながら廊下を移動しているところをドロシーに見つかり、ドロシーが聞いたことないような声で悲鳴を挙げたのは別の話である。
「ついに幻覚が見えたかと思いました」
とドロシーは語る。
ーー
数日後
「これで終わりかい?」
「あぁ。みんな、ご苦労だったな」
「前線指令部よりゴッデス部隊」
全員が帰り支度をしようとしていると無線が入る。その無線を聞いた瞬間、全員が嫌そうな顔をした。
「E4エリアにて新たなラプチャー集団を確認。迎撃に向かってください」
「仕方ない。補給コンテナを呼び出してすぐに」
「いや、俺が行く。みんなは休んでな」
無線に割り込んできたソーンはゴッデスの上空を通る。
今まで様々な装備を見せてきたソーンだがそれでも人形と言う原形は残していた。だが空を駆けていった異形の装備に全員はただ見つめるしか出来なかった。
「慣らしなしの実戦だ。持ってくれよ」
ソーンは大型メガ・ビームライフルを構え放つ。メガ・バズーカ・ランチャーに匹敵する高火力はラプチャーの前衛を焼き払う。
追随していた航空型ラプチャーが彼女に向かうが10基のファンネルを展開しソーンの脳波制御によりあっという間に全滅する。
「流石、ナイチンゲール。今まで以上にパワフルだ」
航空戦力を失ったラプチャーなどソーンにとっては雑魚に過ぎない。必死に対空迎撃を行うラプチャーに対し無慈悲にビームの雨を降らせるのだった。
ーー
「よ~し、よしよし」
待機中であったバクゥたちを撫でてやるとバクゥは嬉しそうに身体を動かす。犬のAIプログラムが搭載されているため見た目はゴツイがなかなかの愛嬌だ。
バクゥと戯れているとラプンツェルが顔を出してきた。
「流石ですね。単騎で殲滅するなんて」
「火力でゴリ押しただけだよ。シンデレラ相手にはまだ不足だがな」
他にも色々と考えていたが戦況のひっ迫で余裕がなかったために今まで作ってきた装備を分解して大急ぎでナイチンゲールを作り上げた。
シンデレラようにナイチンゲールにはない装備を搭載しているが基本的にナイチンゲールと大差ない。
「先日、シンデレラによって部隊が殲滅されたそうです。たった1人を除いて」
「そうか…シンデレラは悲しんでいるだろうな…」
そんなこと望んでいないだろうシンデレラを考えると悲しくなってくる。そのように考えているとラプンツェルのスカートでバクゥが遊び始める。
「こら!」
「クゥン…」
バクゥたちは産みの親であるソーンを絶対の上位者だと認識しているため彼女の命令は絶対なのだ。
「AIは犬なのですから気にしていません…犬に襲われるのもそれは、それで………はぁ、はぁ!」
「………」
最近、ラプンツェルに素敵本を渡して良かったのかと自問自答するときがある。だが本人が幸せそうならそれで良いだろう。
「ラゴゥ、2班のケルベロスと交代で巡回するんだ。無理はするな、ニケ隊と接触するまでに数を減らすことだけに専念するんだ」
1班のリーダーであるラゴゥは首を縦に降ると他のバクゥを連れて離れていくのだった。
ーー
人類連合会議室
人類連合上層部も現在はV.T.Cと協議し新たな都市《アーク》の統括組織、中央政府として組織を組み替えている最中であったが会議は穏やかな様子ではなかった。
「なぜ、ソーンが前線に出ているんだ!前の会議でソーンは研究開発に専念させると決まったはずだろう!」
「彼女が命令に従うとでも?」
「命令したが無視だ。返事すらなかった」
対シンデレラ戦において瀕死になったソーンを見て上層部も当然、肝を冷やした。彼女は前線の兵士としてではなく、技術面で貢献して欲しい人材だったのにそれが死にかけたのだから。
「我々で拘束しようか、罪状などいくらでも作れるが?」
「保安長官、それが出来たら苦労せんのだ」
「ナカモト博士の計画は進んでいるのかね。あれ以降、報告が上がってこんのだが?」
「もちろんです。ちょうどお渡ししようとしていたところです」
ナカモト博士の指示で上層部たちの目の前にファイルが置かれ、それを読み始める面々。
「アークの中でも深いところだな。研究所は」
「まぁ、入ってこられないところにせねば意味がない。もしもの時に逃げようとしても捕まえられるようにせねばな」
「懸念は捕獲の時です。専用装備を作りましたが運用は保安長官に一任したい」
「良いだろう。エプタ島ではかわいい部下が死んだ、そのお返しをずっとしたかったんだ」
保安長官と呼ばれた人物はかつてエプタ島で指導者として呼ばれていた男であった。彼は様々なコネを使い、一気に上層部の幹部へと登り詰めたのだ。
「気を付けろ。ヤツは人間を殺せるからな」
「所詮はニケだよ。人類は裏切れない」
保安長官の言葉を最後に会議が終了し解散となる。
ーー
オーガスタ研究所、ナカモト博士が所属していた研究所の名前をそのまま持ってきた研究所の最新部には巨大なカプセルを囲むようにして様々なケーブルが部屋の血管のように張り巡らされていた。
「遅かったな」
「会議に出ると言ってたはずですが…」
同研究員でも少数しか入れないはずの研究室で待っていたのは長身の女性。
「あんなものに何の意味がある。人間は無駄が多い」
「人間が暮らす社会と言うものには無駄が必要なのです。所詮、人間は感情で物事を考えるものですから」
美しく、長い銀髪が揺らめき、振り返った際に向けられた顔はガスマスクに包まれ、外からその素顔を知ることは出来ない。
「父上がおっしゃった通りだな」
「その…所長はアークに来られるのでしょうか?」
灰色の軍服に身を包み、ロングコートを肩に掛けていた彼女は腕を組みながら左手で自身の顎を触る。
「父上は私が殺したからな…難しいんじゃないか?」
「え…」
「父上は私たちにとって邪魔だったからな。姉さんなら殺しただろうし、運命は変わらん」
皮手袋に包まれた手がナカモトの肩を掴む。
「これで君の天下だ。おめでとう、ローレン・ナカモト博士」