ガノタがニケになっちゃった   作:砂岩改(やや復活)

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別れ

 

「……」

 

 失意の中、なんとか勝利の翼号に戻ってきた指揮官、リリーバイス、レッドフード、スノーホワイトをソーンを除く3人が出迎える。

 

「…と言うことだ」

 

「そうでしたか。私たちも奇襲に対応できませんでした」

 

「これからどうなるのでしょうか?」

 

「上層部も協議を重ねている。それより、ソーンはどこだ?」

 

「「……」」

 

「まさか!」

 

 気まずそうにする3人の様子を見てスノーホワイトは駆け出す。それに他の3人も続く、もし重傷を負ったのなら手助けしなければとソーンの工房に足を運んだスノーホワイトは言葉を失う。

 

「え…なに……これ……」

 

 工房にはおそらくソーンであろう、残骸が横たわっていた。右腕はなく、全身穴だらけのスクラップとも言える姿を見て全員が言葉を失った。

 

「ソーン、嘘だろ…おい!」

 

 レッドフードが叫びながら彼女の肩を掴むが力なく顔が動き、吹き飛ばされた左半分の顔が露になる。

 それを見たレッドフードは思わずその場に座り込み、指揮官とリリーバイスもその場から動けなかった。

 

「ごめんなさい」

 

「…ソーン」

 

 指揮官もリリーバイスも一瞬、様々な思考を巡らせたがどうすれば良かったのか考えが纏まらなかった。

 

「はぁ…はぁ!はぁ!?」

 

 そんな中、スノーホワイトの反応は異常を越えはじめていた。

 息が荒く、全身が震えはじめる。

 

「うっ!頭が、頭が痛い!」

 

「スノー!」

 

「まずい、このままだと思考転換するぞ!」

 

「スノーホワイト!」

 

 リリーバイスがスノーホワイトを抱き締めるが震えは止まらず、酷くなる一方だ。

 人類の敗北、レッドフードの侵食、そしてソーンの死。スノーホワイトのストレスは限界を遥かに越えていた。

 

「白ちゃん」

 

 ソーンの声、体とは逆方向、駆け付けてきた紅蓮が持ってきた球体のマスコットから彼女の声がした。

 

「落ち着け、白ちゃん。深呼吸しろ」

 

「は、はい!?」

 

 話すたびに耳らしき物がパタパタする灰色の球体マスコットはから確かにソーンの声がする。

 またしても全員が唖然としてしまう。

 

「私もどうやって説明すれば良いか…とりあえず艦内で散歩していたから捕まえてきたが」

 

「紅蓮、俺を犬みたいに言うな。好きでハロになったわけじゃないぞ」

 

「この通りだ…まず説明するべきであった。申し訳ない」

 

「は、はぁ…」

 

 こんな状況を説明しろと言うのが難しいだろう。

 とりあえず食堂に移動するのだった。

 

ーー

 

「なるほど、その球体…ハロの中にソーンの脳が入ってると言うことか」

 

「シンデレラにやられる直前に脳を脱出させたおかげでダメージを逃れたからな」

 

「脳を脱出させるなんて…ソーンは相変わらずね」

 

 自分の体はしっかり認識しているはずなのにそれをロボット扱いしてしまうのがソーンの特異性であり、異端とよばれる由縁だ。

 

「助けてくれた紅蓮が咄嗟に掴んでくれて助かったよ。自力で帰らなきゃならんところだった」

 

「咄嗟に掴んだ物が脳であった私の気持ちを察してくれ…」

 

「大変だったな…」

 

 紅蓮の気持ちは察してあまりある。

 

「でも大切なものは守ったさ」

 

 ハロ(ソーン)が口を開けるとそこに備えられた収納スペースにスノーホワイトがくれた腕時計があった。

 

「完全修復までにいつまでかかる?」

 

「1ヶ月かな…できれば1ヶ月半待って欲しい。次はシンデレラを倒して見せる」

 

「ソーン、私がやるわ」

 

 リリーバイスの言葉に全身を使って横に振るソーン。

 

「ありがとう、でもシンデレラは俺が殺す。アイツを知る俺だからこそ終わらせたいんだ」

 

「…わかった。でも貴方が居なかったらそれだけは許してね」

 

「それだけでも十分だ。ありがとう」

 

 そうしてソーンは修復に専念、ゴッデス部隊も上層部の意見が纏まるまで一時待機となった。

 

ーー

 

 上層部の決定まで数日はかかるだろうと言う予想は外れ、決定はその日のうちに示された。

 

「これから、どうなるのですか?」

 

「人類は地下に避難する。世界はラプチャーの物になるだろう」

 

「人類は滅びるのですね…」

 

「そうとも言えない。アークには完璧に近い生存環境があるらしい」

 

 指揮官のやや明るい声とは裏腹に全員、通夜のような空気を纏っていた。 

 当然ソーンもハロ状態で来ているが身体の修理はと言うとなにもすることがない。

 現在はメンテナンスベットで自動で修復中だ、自力で生活ができるレベルまで回復するのに1週間と言ったところだろう。

 

「軽く観測していたが軌道エレベーター付近の戦力は爆増している軽く計算して100万ぐらいかな」

 

 絶望的な数字になす術もない。

 

「人類は負けたのですね…」

 

「負けてないさ」

 

 ドロシーの言葉を遮ったのはソーンであった。

 

「人類はまだ存在している。俺たちは負けてない、勝ってもいないがな。確かに俺たちはクイーン討伐に失敗した、だが俺たちが失敗したからこそ意味がある」

 

 人類の最強戦力が作戦を遂行できなかった。その事実があったからこそ、上層部は敗北を素直に受け入れることが出来たのだ。

 それがなければ勝ち目のない戦いに人類の数が減り続け、再起不能な状況に陥る可能性だってあった。

 

「敗けを認めれば人類が滅びる訳じゃない。そのアークとやらで次に繋げよう」

 

 正直、ソーンはアークとやらに行くつもりはサラサラなかった。だからこそ、ゴッデスを見送った後に自分は地上を旅しようとでも考えていたのだ。

 

(アークを封鎖するにしても最後まで護らなきゃならんしな…)

 

「そうか、じゃあ私はここまでだな」

 

 レッドフードのやや明るい声がその場に響いた。

 

「もう限界なんだ。たぶん、もってあと数日ってところだろうな」

 

 その日が来ることは分かっていたが、いざ来るとなると言葉に出来ない寂しさが溢れてきた。

 ソーンをギュッと抱き締めながら反論するスノーホワイト、せめて悲しい別れを阻止しようと頑張るソーンだがスノーホワイトがギュッとしすぎて苦しむことになる。

 

「お前ら、私を撃てるか?」

 

 レッドフードの問いに答えられるもの等いるものか。

 ゴッデス部隊の精神的支柱と言っても良いレッドフードの脱落、本人は認めないだろうがそんな彼女が侵食で狂う姿を見て誰が平静でいられるだろうか。

 

「撃てるのかよ」

 

「う、撃て…!」

 

「泣かずに撃てるか?」

 

 儚くも、しっかりとした意思を感じるレッドフードの姿に誰も反論できない。

 

「撃てないだろ…。バカみたいに、いい奴らばっかだよ」

 

「そうなったら、私が最後に見るのは。お前らの泣き顔になっちまう」

 

(レッドフード…)

 

 ソーンも何か言おうと思考を巡らしていたが彼女の心からの言葉に言葉を失う。

 

「それを見ろってのか?それを見て死ねって?」

 

 侵食がただ死を迎える物であったなら、こんなことにはならなかっただろう。

 正気を失い、死ぬことも出来ずに仲間に銃を向けてしまうことの恐ろしさはレッドフードが一番感じているものだろう。

 

「私は見たくない、絶対にイヤだ。だから、行かせてくれ…。行って静かに死ぬんだ」

 

 ゴッデスを心から誇りに思っているからこそ、最期まで誇り高いゴッデスであって欲しい。

 自分自身も仲間に誇らしくあって欲しい、そんな気持ちがひしひしと伝わって来た。

 

「そうか…」

 

「指揮官!」

 

「君がそう決めたのなら、止めはしない。本当にご苦労だった」

 

「隊長もな、みんなごくろうさん」

 

 指揮官の言葉にスノーホワイトを除く全員が無言の同意を示す。

 

「ドロシー、スノーホワイトを押さえろ」

 

「は、離してください、ドロシー!離してっ!!」

 

「おちびちゃん……かわいいスノー」

 

(痛い!痛い!)

 

 スノーホワイトが全力で抱き締めるため、痛みに必死に耐えるソーン(ハロ)。

 

「元気でな、楽しかったよ…」 

 

「レッドフード!行かないで!ここにいてください!」

 

 スノーホワイトの絶叫が艦内に響き渡る。

 

「わ、私が撃ちます。撃てばいいんでしょ!?」

 

 瞳から涙が溢れ

 

「な、泣きませんから!表情1つ変えずに撃てます!」

  

 絶望の表情を浮かべ

 

「だから行かないでください!行かないで!」

 

 そんな彼女への後悔を噛み締めながら

 

「本当に行っちゃうんですか?」

 

 レッドフードは無言で背を向け、歩き始めた。

 

「私を置いて…?」

 

 彼女は振り返らない

 

「本当に…?」

 

 歩みも止まらない

 

「分かったよ!行って!」

 

 レッドフードへ向けられた最上の愛情は瞬間的な憎悪に変換される。

 

「行っちゃえ!1人で寂しく死んじゃえばいいんだ!」

 

 例えそれが本心でなかろうと

 

「私は泣かない!レッドフードが死んだって、泣かないから!」

 

 溢れ出た感情と言葉は止まらない

 

「最低!嘘つき!大っ嫌い!」

 

 それを誰も制止できなかったのは

 

「大っ嫌いだ!」

 

 自分自身の感情もどこにあるのか分からなかったからだろう。

 

「レッドフード…」

 

 立ち去り、居なくなったレッドフード。

 

「行かないで…行かないでぇ……」

 

 その場で崩れ落ち、泣きじゃくるスノーホワイトをソーンはただ見つめることしか出来なかった。

 

「白ちゃん…」

 

 なぜ自分は彼女を抱き締められないのだろうとただ自分の無力さを感じるのだった。

 

 

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