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山田孝之さんインタビュー・自分たちで育てた酒米で日本酒造り

秋吉健太編集者

【京都・宮津にて稲刈りをする様子】


【山田孝之さんインタビュー】

2021年、俳優の山田孝之さんが「生きる力を身につけたい」と始めたコミュニティ『原点回帰』。筆者は2023年6月に山田さんが俳優仲間の松山ケンイチさんと一緒に田植えをする様子を取材するために京都・宮津の田んぼを訪れ、その様子をレポートした。

それから2年後となる今年10月、山田孝之さんが再び宮津の田んぼを訪れ、自分たちで育てた酒米を使って日本酒を造るべく稲刈りをするという話を聞き再び宮津の田んぼをたずねた。

初めての稲刈り

「これまで田植えは2回経験しましたけど、稲刈りをやるのは人生初ですね」と山田さん。

山田孝之さん(以下:山田さん):今回体験したのは手刈りの部分です。基本的には機械で稲刈りをやるんですけど、田んぼの角や外側の部分、機械が入れない箇所が生まれるんですね。そこに生えている稲を鎌で刈るんです。


初めての稲刈りで印象に残ったことはあったのだろうか。

山田さん:僕ら『原点回帰』メンバーは日頃から野菜を育てて収穫をしていますが、それと変わらないです。ただ、今日はまだ日差しも強くて、作業していくうちに暑くなるかなと思ってTシャツできたんですけど、稲刈りをしているうちにどんどん腕が痒くなってきて。それは失敗でしたね(笑)。

右手に鎌を持ち、稲刈りをする山田さん
右手に鎌を持ち、稲刈りをする山田さん


今回の稲刈りでは具体的にどんなことを行ったのか教えていただいた。

山田さん:稲を片手で束にして、根っこを鎌で刈る。その稲の束の根っこの部分を藁で縛っていくという作業です。以前、新潟の田んぼで収穫は体験させていただいたんですが、その時と手順は一緒でしたね。

京都・宮津にある『原点回帰』の田んぼで育った稲(原原種 亀の尾)
京都・宮津にある『原点回帰』の田んぼで育った稲(原原種 亀の尾)


京都・宮津にある『原点回帰』の田んぼでの稲作は今年で3回目。

山田さん: 以前、松山(ケンイチ)君とここの田んぼで稲を植えた時は仕事の都合で稲刈りには参加できなかったんです。3回目となる今回は自分で田植えをして、こうやって自分で稲刈りをできるっていうのがやはり感慨深いです。最初から最後まで、そこが体験できた。

稲刈りの途中、田んぼで稲穂をじっと見つめていた山田さんの姿が印象的だった。

山田さん: こうやって収穫できて純粋に嬉しいですね。稲が動物にどれくらい食べられちゃうかもわからなかったですし。

「お茶碗一杯分って稲穂何本分だろう」と山田さん
「お茶碗一杯分って稲穂何本分だろう」と山田さん

自分たちで育てたお米で日本酒造りに挑戦

原点回帰』は固定種を用いた野菜作りをしているが、今回自分たちの田んぼに植えたのは原原種の「亀の尾(かめのお)」という品種だ。

山田さん: 今回、僕らの田んぼで収穫するお米の中には現代の数々のブランド米の祖先にあたる「亀の尾」があります。普通に食べることもできるし、お酒にもできるお米なんです。

今回の稲刈りに参加された『原点回帰』のみなさん
今回の稲刈りに参加された『原点回帰』のみなさん


山田さん:原点回帰のメンバーで稲作をやってる方が、「原原種の亀の尾っていう米を持っている」っていうことで、じゃあそれを自分たちで数を増やそうと育てました。あとは今回原原種の「銀坊主」ともち米の「赤とんぼ」という品種の米も収穫します。

今回収穫したお米を使って『原点回帰』は初の日本酒造りを行う。

山田さん:日本酒は「亀の尾」で造ります。宮津の無農薬の田んぼで育てたお米で日本酒を作ったら絶対美味しいでしょってことで。これからどんな流れで完成までいくかは全く分からないですけど。それもそれで楽しいですよね。

初めての体験で学んだことを嬉しそうに語る山田さん
初めての体験で学んだことを嬉しそうに語る山田さん


『原点回帰』初となる酒造りだが「こんなお酒が造りたい」というイメージがあるわけではないと言う。

山田さん:全くないです。そもそも日本酒造りは僕が言い出したわけでもないんで。『原点回帰』はメンバーがそれぞれ自発的にアイデアを出して、いろんなことに取り組んでいます。

自分たちが育てたお米が日本酒になることに、何か意味を感じるのだろうか。

山田さん:日本酒というより、“清酒”という響きに意味を感じています。家を建てたときとかもそうだし、木を間伐するときとかもそうだし。米と塩とかと同じで儀式に用いたりしますよね。”清酒=清める酒”っていう言い方が、すごい素敵だなって単純に思ってます。

天日干しをするために稲の束を黙々と運ぶ
天日干しをするために稲の束を黙々と運ぶ


「これまで天気については心配したことはないんです」と山田さん。稲刈りのこの日は10月初旬、天気予報では雨の予報も出ていた。

山田さん: 自然のことは考えたってどうにもならないじゃないですか。もう、なるようになる。今年は梅雨の時期の一番雨が降ってほしかったときに、1ヶ月間全く雨が降らなかったらしくて。それでもこれだけ立派に実がついて、無事収穫できました。

稲束の根っこを藁で結ぶ
稲束の根っこを藁で結ぶ


休憩中、稲穂を見ながら「お茶碗一杯どれぐらいだろう」と呟いていたことについて尋ねてみた。

山田さん:僕はもともと母の教えで、絶対にご飯は米粒一つも残さないようにしています。それは自分の子供にもそう教えています。「ごちそうさま」「まだ残ってるよ。全部食べて」というやりとり。

さっきお昼に食べたお弁当にエビが入ってましたけど、エビの尻尾も基本的に絶対食べます。魚の皮とかももちろん。魚はサイズによりますけど、頭も丸ごと食べますね。サンマやアジぐらいならいけますよね。鮎はそのまま食べるじゃないですか。命は全部いただく、なるべく無駄にしたくないっていう感じですね。

稲刈りの休憩時、溝口さんのご自宅にある倉庫の前でお弁当を食べた
稲刈りの休憩時、溝口さんのご自宅にある倉庫の前でお弁当を食べた


山田さん: 母の教えでご飯は残さず食べる。ゴミは小さくして捨てる。僕はそれを親から教わったし、そのことについて感謝をしています。そして親になった今は子供に教えています。

野菜作りから稲作までやるようになって、食や環境への考えはさらに変わったのだろうか。

山田さん:変わらないですね。『原点回帰』の活動を始めてから何か変わったということでもない。さっき言ったように元々母から教わってたことではあるので。ただやっぱり感謝するっていうことは、年々日に日に大きくなるというか、増えていってますね。範囲も、時間も。今だけじゃなくて、過去も現在も未来も、生き物も出来事も、現象も…っていう感じで、いつも感謝を伝えています。

溝口さんが育てたコシヒカリで作ったおにぎりをいただいた
溝口さんが育てたコシヒカリで作ったおにぎりをいただいた


最近の『原点回帰』ではメンバーはどんなことに取り組んでいるのか聞いてみた。


山田さん: 『原点回帰』の中では日々いろんなことが起きていますが、運営側がすべて決めるわけでもないし、僕もその全部に携わるって気持ちはないんです。『原点回帰』は個々の集まりで、向いてる方向が同じってだけです。畑に興味がある人、仲間を作りたい人、釣りをやりたい人。例えばアートを表現したい人は個展とかやってますしね。

お米を干すために竹で作った「稲架(はざ)」に稲の束をかけていく
お米を干すために竹で作った「稲架(はざ)」に稲の束をかけていく

居場所を自分で作るということ

筆者は以前、『原点回帰』の収穫祭『バンブーマン』を取材し、参加者たちが自分たちができるものを提供する様子を見て「居場所は自分で作るものなのだ」と感じたことがある。

山田さん: なんでもそうですよね。待っててもこない。仲間がいると表情が優しくなるのかなってのもある。いまは『原点回帰』のメンバーは全国にいて、それぞれが全国いろんな場所でイベントをやっていますが、『バンブーマン』は年に1回いろんな人が集まります。そこでいろんなメンバーが思い思いのことを表現したり、提供しています。

稲を逆さにかけて太陽の光と風で稲を自然乾燥させる
稲を逆さにかけて太陽の光と風で稲を自然乾燥させる


『原点回帰の』一般消費者が食べられるようになるのはいつ頃になるのだろう。

山田さん: 日本酒は来年には出せると思います。どんなラベルデザインにするとか考えなきゃいけない。卸先は基本的には表参道にある「ネロリハーブ」になると思います。

「稲架(はざ)」の具合をチェック
「稲架(はざ)」の具合をチェック


山田さん:以前も無人島で採れたさつま芋を使用した干し芋や、菊芋のフレーク、溝口農園さんのお米も販売しています。今回の「亀の尾」の日本酒も「ネロリハーブ」で出していくことになると思います。あそこは健康志向の人たちが集まっていますしね。

『原点回帰』初となる日本酒、どれくらい作るのだろう。

山田さん:四合瓶(しごうびん)で1500本くらいでしょうか。来年なんとか発売できるように頑張ります。お酒の名前とかもこれからです。

休憩中に溝口さん(写真左)の畑で獲れたスイカをいただく
休憩中に溝口さん(写真左)の畑で獲れたスイカをいただく


「僕、実は全然日本酒飲まないんですよ」と山田さん。意外なことに、普段は日本酒はほとんど飲まないのだそう。


山田さん: お寿司を食べに行った時とかは飲むんですけど、理由があるんです。さっき言った通り「清酒=清めるための神聖なもの」という風に理解してるから、僕は日本酒はあまり飲まない方がいいな、と。

『原点回帰』メンバーと
『原点回帰』メンバーと


山田さん:“ある程度地に足つけておきたい”という感覚。僕が焼酎とかウイスキーをやめて日本酒だけ飲む人になったら、ちょっと浮いてっちゃう…って感覚がある。自分をあまり清めない方がいい。むしろちょっとダメージ与えといた方が、落としておいた方がいい、みたいな感覚ですね。

今年の「モンパチフェス」では『原点回帰』のお米が味わえる

「原点回帰」は毎年11月に沖縄・宜野湾市で開催される「モンパチフェス」(MONGOL800 ga FESTIVAL What a Wonderfull World!!25)に毎年お店を出店、今年は11月8日(土)、9日(日)の2日間参加する。

山田さん:「モンパチフェス」は我々にとって一年の中で大きなイベントです。『原点回帰』のみんなが、全国で育てたものを沖縄に集めて、メニューを考えて調理して出店して、それをお客さんに提供する――我々の努力の結晶。畑で汗をかいて大変な思いをして作った作物たちを、「全然味違うでしょ?」って食べていただいて。その人たちが「美味しい、全然違う」って反応をされるのが僕らの喜びです。

山田さん:基本は沖縄で釣った魚でフィッシュフライ、ここ宮津の田んぼで育てたお米で『ツナマヨおにぎり』と『サバマヨおにぎり』を作ります。お芋はさつま芋チップス、今年は在来種のジャガイモも結構収穫できたのでフライドポテトも出す予定です。


実際に日本酒ができたらどんな風に楽しみたいか聞いてみた。

山田さん:それこそ、収穫祭の「バンブーマン」で原点回帰のみんなと乾杯できたら最高です。「モンパチフェス」の打ち上げでも飲んでみたい。それから田植えや収穫の時とかも、原点回帰で造ったお酒を使えたら。お酒を造るって本当にいろんな意味がある。修道院でワインを造るみたいに。

稲架(はざ)の前で
稲架(はざ)の前で


山田さん: お米作りも少しずつ増やしています。無農薬のコシヒカリはみなさん食べたことあると思いますが、原原種の「銀坊主」はびっくりする美味しさです。食べなきゃ人生損するぐらい(笑)。田んぼを管理されている地元農家の溝口さんも最初は「銀坊主」のことはご存知なかったんですが、僕らが種モミを持ってきて一緒に育てて、収穫して食べたら「うまっ、こんな美味しいんだ」って。

これの収穫量を増やして外に出していけたらと考えています。ここ、宮津の山のほぼてっぺんで無農薬と湧水で育てられた「銀坊主」の味を知ってほしいです。


今回のモンパチフェスでは、この記事で収穫した宮津のお米で作ったおにぎりが食べられる予定だ。

山田さん:「モンパチフェス」は、原点回帰に入ってなくても、メンバーが何をやってるか一番伝わる場です。もし会場に来られる方は、ぜひ原点回帰のお店に我々が育てた野菜やお米を食べに来てください。

京都・宮津にある原点回帰の田んぼにて
京都・宮津にある原点回帰の田んぼにて

『原点回帰』 第20期メンバー募集要項
募集期間/2025.11.7(金)〜2025.11.16(日)
応募に必要な書類などを添え、「原点回帰」(https://about.gentenkaiki.jp )からアクセス

問い合わせ:株式会社 原点回帰
担当・伊月(イヅキ) mail:izuki@gentenkaiki.jp

<現在田畑がある場所は以下の通り>

石川県能登エリア

群馬県吾妻郡

山梨県富士川町

埼玉県さいたま市

神奈川県横浜市

愛知県豊川市

大阪府和泉市

京都府宮津市

香川県高松市

広島県尾道市

山口県萩市

山口県無人島

福岡県福岡市

佐賀県神埼市

鹿児島県志布志市

沖縄県中部


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ありがとうございます。
編集者

編集者としてのキャリアは出版、web合わせて約30年。雑誌「東京ウォーカー」、webメディア「Yahoo!ライフマガジン」など雑誌・webメディアの編集長を歴任。街ネタやおすすめの新スポット、それらにまつわる人物などユーザーニーズを意識した情報を、ストーリーと共に紹介。著書に、俳優・山田孝之が帰長を務めるコミュニティ「原点回帰」について紹介した『原点回帰 山田孝之、新しいコミュニティをつくる』(blueprint)がある。

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