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生きている時間に限りがある君へ―島本和彦『締切と闘え!』書評 ✑川添 愛

✑ 川添 愛

 この書評の依頼が来たとき、私は多数の締切に追われていた。とても引き受けられる状態ではなかったが、引き受けざるを得なかった。だって、あの島本和彦先生が「締切」について書いた本だ。私は熱血漫画家・炎尾燃を主人公とする『吼えろペン』シリーズに多大な影響を受け、フリーでやっていくエネルギーをもらってきた。どんな状況であっても引き受けるし、むしろ締切に追い立てられている今こそ引き受けるべきではないかっ! こんなふうに、炎尾燃よろしく瞳に炎を宿した状態で担当者に「やります!!!」と返事をしたのだった。
 実際、本書から得られたパワーは計り知れず、おかげで他の仕事は超スピードで片付いた。いいタイミングで読めたのは幸運だったが、本書の書評を書く段階になって非常に困った。
 というのも、読みながら取っていた大量のメモがほとんど役に立たないのだ。「そうか!」「なるほど‼」「さっそくやります!!!」のように驚きや決意を示すだけのメモや、「ヒイィ!」「ふおぉ!」のように叫び声を記したメモ、さらには「今までの時間を全部無駄にしてやるっていう衝動!」とか「ちゃんとしてない仕事をやる喜び‼」のように島本先生の言葉をただ繰り返しているメモとか、そんなのばかりなのである。
 つまり、本の内容に大いに感銘を受けたということはいくらでも強調できるが、具体的にどう感銘を受けたか表現するのは容易ではない。「ここは重要!」とマーカーを引いた箇所は100以上あるので、全部列挙するわけにもいかない。というか、本書であれだけのパワーワードの雨を浴びておいて、それを自分のつたない言葉で言語化しようという試み自体が無謀なのかもしれない。人間は、本当に深く感じ入ったときには言葉を失うものだと実感している。
 こんなふうに、これまで経験したことのない追い詰められ方をして苦しんでいるが、こんなときこそ本書の教えを意識的に実践し、自分の血肉とすべきではないか。そう思った私は、まず「フッフッフ」と笑ってみた。なぜなら、島本先生が「ピンチのときに『フッフッフ』と笑う」と書いているからだ。笑いさえすればすぐ書けるのかって? そんなことはない。でも、なんとなく「大丈夫だ」という気がしてくる。
 そうやって不敵な笑みを浮かべながら原稿とにらめっこしていたら、また島本先生の言葉が頭に浮かんできた。「ただただ安全圏だけで闘ってると、能力が開花しづらい」。そうか、私は無意識に「安全圏」に籠ろうとしていたのかもしれない。
 そんなところに、担当者から「締切が近づいてきたので」とリマインドのメールが。勢いで「八割方できてます!」と返したが、原稿を見たら五割しかできていなかった。しかしこれも、本書にあった「『だいたいできてるんですが』って言った瞬間に、本当にできてくるから」という教えの実践だ。そうこうしているうちに「この本の書評を、本に書かれている内容を実践しながら書く」という流れを思いつき、現在に至る。
 これを読んだ人が、いい書評だと思うかどうかは分からない。しかし、島本先生は「すべてのものは『たかが』です」という、救いの言葉もかけてくれている。そうだ、たかが文章、たかが書評。人を傷つけず、自分も傷つけていなければそれでいいし、誰かに喜んでもらえれば御の字だ。
 締切というものは運命によって与えられる。かつて岡本太郎は「向こうから迫ってくる運命というのも、自分自身なんだよ」と語った。本書は、締切に対して、そして運命に対して受け身にならず、能動的に生きる方法を教えてくれる。
 とにかく「生きている時間に限りがある人」全員に読んでほしい。この本をお守りにして、辛いときに開いてほしい。そこには必ず、あなたの求めている言葉があるはずだ。

人生には締切がある。
 
締切(ほとんど)守って40年。
熱血漫画家が教えるスケジュール管理、ピンチを乗り切る方法、そして生き方。
特別付録「カウントダウンbook傑作選」つき!

【本書の目次】

はじめに 人生には締切がある
第1章 締切ってかっこいい
第2章 漫画家と締切
第3章 スーパー島本和彦、降臨
第4章 ごまかしてるんじゃない、安心させてるんだ!
第5章 嫌な仕事こそ完璧に
第6章 自分の「面白い」を取り戻す
第7章 机で死んじゃダメだ!
第8章 俺が一緒に殴られてやるよ!
第9章 でもやっぱり、締切があると頑張れる
おわりに かっこよく負ければいい
付録 カウントダウンbook傑作選

川添 愛(かわぞえ・あい):1973年生まれ。九州大学文学部卒業、同大大学院にて博士号(文学)取得。2008年、津田塾大学女性研究者支援センター特任准教授、12年から16年まで国立情報学研究所社会共有知研究センター特任准教授。専門は言語学、自然言語処理。現在は大学に所属せずに、言語学者、作家として活躍する。 実績 著書に『白と黒のとびら』『自動人形の城』『言語学バーリ・トゥード』(東京大学出版会)、『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』朝日出版社、『コンピュータ、どうやってつくったんですか?』(東京書籍)『ふだん使いの言語学』(新潮選書)など。


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