番外編 盾の勇者のバレンタイン【13】
それからチョコレートの買い付けを終えた俺達は、村で手作りチョコレート作りの作業に入った。
イミア達ルーモ種の連中は毛が原因で参加させられないと別作業をさせようとしたら、イミアが全身防護服みたいな物を作りだしてくれた。
これで毛が混ざることなく作業が出来るらしい。
しかも僅かな魔力で熱さや息苦しさを解消できる機能付き。
誰がそこまでしてくれと頼んだ?
とか言いたくなったが仕事への熱意に俺は感心して、好きなようにやらせることにした。
村の仮設厨房では現在、手先や料理が得意な連中が総出でチョコ作りをしている。
失敗作はそれなりにあるが、今の所は順調だ。
それで俺は村の研究所に足を運んだ訳だが……。
「マナ、ミチサフビィハチモ。ゾフヒミモ?」
「魔物の言葉で話されてもわからん!」
ラトが俺に理解できない言語で出迎えた。
これが魔物言語という奴だろうか。
谷子が普通に会話出来ている所を見るに解読できれば話ができるのかもしれない。
まあ、新しい言語を覚えるなんて面倒な事はしないが。
そもそも伝説の武器には翻訳機能があったはずだが、さすがの盾でも魔物の言葉はわからないらしい。
「チョコレートモンスターのボスに関して谷子と一緒に調べているんだろ?」
「ん? 盾の勇者?」
ラトの後に谷子がやってきて答える。
「経過はどうなんだ?」
「うん。えっと……チョコレートモンスターが湧く地域に祭壇を作って、近隣でチョコレート作りをして一番おいしいチョコレートを奉納すれば良いんだって、近くの魔物が試食して満足したら大人しくなるみたい」
「ああ……そう」
祭り事はちゃんとしましょうって奴だったのかよ。
ただの異性へのプレゼントがなんでこんな七面倒くさい行事になってしまったんだろうな?
もしかしてクリスマス系も同じ催しだったりして?
まさかな。
「そんで? 村に来たチョコレートモンスターはどうしたんだ?」
「そこに居るけど?」
見ると扉の影から俺の方をチラッと……うーさーぎみたいな造詣の茶色い奴が見え隠れする。
一頭身で長い耳……ウサピルより頭身は高めか?
なんだ? 縮んでないか? 額に★が着いてる。
「話をしたら大人しくしてくれて……盾の勇者が作ったチョコ菓子が気に入ったんだって」
「食わせたのか?」
「一番美味しいチョコって言ったらこの村じゃ盾の勇者が作ったものでしょうが」
「キュア! キュアキュア!」
ガエリオンがチョコレートモンスターと何か話をしてるようだ。
すごく熱の入った感じで何か話し合い始める。
「ガエリオン、最近チョコ作りにはまってるの……ドラゴンなのに」
「甘いのが好きなんだろ?」
「そうなんだけど……希少な素材で伝説のチョコ作りでもするの?」
「ミチサフキリョホシマゲミチンビィハチモ?」
「そうなのかなー?」
ラト……何を言ってるかわからないが、俺の言葉に同意したと見て良いんだな?
谷子も首を傾げながら一応、納得した。
「とりあえず、被害に遭っている地域に伝えておく」
「うん」
こうしてイベントに備えたチョコレートの準備は着実に進みつつあった。
谷子達の証言通り、チョコを奉納した途端、バレンタインに出現する魔物はある程度大人しくはなったそうだ。
多少は被害が無い訳じゃないが、目に見えて報告は減少した……との話だ。
チョコレート作りも軌道に乗り、キールのアイドル化計画も順調に進みつつあるのだった。
バレンタイン限定の魔物が沈静化したことで余裕が生まれた錬を、奴隷狩りをしている奴らを捕まえる仕事をしていた樹達の方へ回した。
そういや樹はバレンタインに関してあんまり興味なさそうにしていた。
まあ、リーシアからは確実にもらえるだろうけど。
チョコよりも世界の為、悪事をする連中を止めるのを優先しているんだろう。
ゲームで言うなら正義EDか? まあリーシアがいるからマシか。
元康はー……相変わらずフィーロの追っかけをしているらしい。
キング&クイーン杯はホワイトデー近くに催されるから若干暇を持て余しているのだろう。
錬達の手伝いに行かせたが……うまく機能するか怪しいな。
元々はリア充イケメン野郎だったのに、嘆かわしい限りだ。
そんな時、フォウルが何故か洋裁屋と話している光景に遭遇してしまった。
「ですからアトラさんに想ってもらうには――」
何を語り合っているんだろう?
フォウルの奴、物凄く真剣な目で頷いている。
隣にはガエリオン? 最近コイツは神出鬼没だな。
「で、私の考えなのですが――」
遠くて聞き取れない。
何を話しているのか……とは思うが俺も忙しいから足早に立ち去るか?
「尚文様。何をしているのですか?」
……フォウルがあそこにいてアトラがいないとなると俺の所にアトラがやってくる訳で。
「アトラ、何故フォウルに捕まっていない」
「私はいつもナオフミ様と共にいますわ」
「ああ、はいはい」
最近はフォウルと一緒にいる……いさせている事の方が多かったからな。
村でゆっくりしている時くらいは相手してやってるけど。
ラフタリアが会場の視察に行っている時で良かったな。
いたら騒がしかった所だ。
「で? フォウルは何をしているんだ?」
「お兄様が何をしているか常に監視している訳ではありませんわ」
「むしろお前の方が監視されてるもんな」
クリスマス以降は割と大人しくしていた。
身代わり人形の効果が薄れてきたのだろうか?
今度イミアにもう一体の作成を依頼するか悩むな。
「おや?」
アトラが木の影に隠れてこっちを見ていたチョコレートモンスターのボスに気付いた。
ふよふよと近づいて行く。
「あら……」
それからアトラはチョコレートモンスターと、目で……って目が見えないのに何か交流を始めたようだった。
うー……ん。
なんか不安な気配があるが、両者共に俺が近づくと解散する。
何もなければ良いけど……。
そんな感じでバレンタインまで日は進んで行った。
バレンタイン当日。
「おはようございます、ナオフミ様」
「ラフー」
「おはようラフタリア。ラフちゃん」
「その……はい。チョコです」
「ラフー!」
自宅の部屋で目が覚めた俺にラフタリアとラフちゃんがそれぞれ包装された箱を手渡してくる。
俺は素直に受け取った。
ラフちゃんも俺にくれるのか。
素直にうれしいな。
日本にいた頃、チョコ魔及びチョコ作りの件でバレンタインは義理チョコならもらったけど、ラフタリアとラフちゃんからもらえるのと比べたらやっぱり心に響く物が違う気がした。
「さーて、今日はフィーロのバレンタインイベントだ。忙しい日になるぞ」
「がんばってくださいね」
「ラフー」
「ラフタリアも手伝いで忙しいだろうが、がんばってくれ」
「はい」
と、その日の予定をラフタリアと雑談しながら食堂へ向かった。
すると村の連中が俺にチョコを渡しに来てくれた。
ただ……数が多いから持ち切れなくなる。
「モテモテですね、ナオフミ様」
「義理チョコだろうが」
大量のチョコを袋に入れて運ぶ。
悪いが、家に届けておいてくれよ。
と思ったら、家の脇に山積みになりつつある。
フィロリアル共とかラフ種の連中とか思い思いにチョコを作って置いて行っているようだ。
ラフタリアに家に届けるように頼んでから厨房で料理を作って出す。
そしてみんな朝食を終えて一日が始まった。
で……錬が自宅の前のポストを開け締めしている光景を目撃した。
10秒おきに開けたり閉めたりして、ポストにもたれ掛かっている。
……お前はチョコがもらえない男子かっての!
そういうのは放課後とかにやれよ!
いや、まあ……ここは学校じゃないけどさ。
しかも谷子と女騎士をキョロキョロと探し回っているようだった。
「どうした? レン」
「えっと……」
「何やってんの?」
本人達は錬の様子がおかしいのに首を傾げている。
これは……もらえなさそうだな。
「行くぞ」
「今日は奴隷狩りをしている連中の中継基地を潰すんでしょ?」
「そ、そうだったな」
なんて言いながら錬はどこか別の方向を眺めた。
視線の方角を追うとリーシアが樹にチョコを渡している瞬間だった。
錬……リーシアが恥ずかしそうに樹にチョコを渡す瞬間を物凄く羨ましそうな目で見つめている。
クリスマスの時といい、どうして錬はこんな役目を背負ってしまったんだろうな。
ちなみにチョコがもらえない訳じゃない。
錬の家の前にも何個かチョコは届けられている。
村の連中の中には錬のことを尊敬している奴もいるからな。
勇者全員にプレゼントって作ってる奴隷共もいるし。
ただ、本命二人のチョコがもらえなさそうって感じなんだろう。