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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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番外編 盾の勇者のバレンタイン【12】

「そう、コイツがチョコレートモンスターのボスだ!」


 試験管の中で蠢くチョコレートモンスター。

 コイツが、ボス?


「数時間前、山に設置していたワシの発明品泥棒用の罠に掛っていたのを捕まえたのだ!」


 ……どんだけだよ。

 罠に掛かったチョコレートモンスターのボスもそうだが、都合良く捕まえたコイツも大概だ。

 そもそもなんで、チョコ農家が山に罠仕掛けてるんだよ。

 お前の発明品なんて誰も欲しがる訳ねぇだろ。

 せめてチョコ泥棒用の罠にしとけよ。


「ああ、そう。それで? そのチョコレートモンスターをどうやって馬糞チョコの完成品の材料にするんだ?」

「ふん。だから貴様は愚かなのだ。これを見るだけで結果を理解できないとはな」


 俺はそんな超能力者じゃねーよ。

 ……考えられる可能性は複数ある。

 この魔物の生態に関して詳しくは知らないが、チョコレートモンスターから採取するとか考えない訳じゃない。

 だが……このクソ親父の事だ。もっと悪い方向性で考えているだろう。

 それこそ、俺の気分が尚の事悪くなるような事をな。


「はいはい。で?」


 ここは一歩引いて聞きだしてから対処を考えよう。

 万が一にも素晴らしい発明になるかもしれないし、最初から否定するのはやめておこう。

 だって最初から否定していた勇者共は痛い目にあった事実があるんだからな。

 聞くだけは聞いてやる。

 その後、ゆっくりと後始末をするだけだ。


「では聞くが良い。このチョコレートモンスターとホース(馬型の魔物名)やフィロリアルを合成し、何を食べても馬糞チョコを生産する魔物として改造するのだ! 丁度良い! 貴様のフィロリアルを実験に使ってくれる!」

「やだー!」


 ヒヨちゃんがしゃべった!?

 相当嫌らしく、ヒヨちゃんが演技をやめて逃げ出した。

 そんなにも嫌か……嫌だろ!

 俺が同じ立場でも嫌だ。死んだってそんな風にはなりたくない。


 しかし、やはりというか最低な発明品だったな。

 チョコレートモンスターを魔物と合成して馬糞チョコを作らせるって……それはチョコじゃなくて糞だろ。

 あの試作品を生身の魔物で作らせるつもりなのかよ!

 まだ製作工程を見なければ食っても平気!

 って人がいるかもしれないキワモノ商品が絶対に食えない代物へと昇華するぞ。


 このクソ親父、発明品が完全に迷走してやがる。

 新しい物を作れば作る程、悪い方へ進む典型だ。


「逃げるなら剣の勇者……錬と谷子を呼んでこーい!」


 逃げるヒヨちゃんに俺は大きく声を掛ける。

 こんなクレイジーでくだらない発明品の犠牲になるチョコレートモンスターの方が哀れだ。

 まだ谷子達に保護された方がマシな一生を歩めるはずだ。

 色々な意味で犠牲を出す前に対処したい。


「逃げるなぁああああ!」


 怒鳴ってのしのしとヒヨちゃんを追い掛けようとするクソ親父は、俺が一歩足を踏み出したことで工房に急いで戻る。


「何をするつもりだ?」

「知れた事、他人の迷惑を顧みない狂った自称発明家を処分するつもりだよ」

「ワシの発明の邪魔をするつもりじゃな! 死ね!」


 クソ親父がポイポイと工房内にあるゴミを俺に投げつける。

 だが、俺は盾の勇者だ。

 一般人程度の投擲攻撃など痛くも痒くも無い。


「侵入者は排除する!」


 工房内に足を踏み入れると同時に俺のいた足場に穴が開く。

 どんなトラップだよ。

 この施設を作る為に使った金、まさか俺の金じゃねぇだろうな。


 まあ、俺にこの手の罠は通用しない。

 蛮族の鎧にある飛翔能力で高さを維持して一歩踏み出す。


「ぬ! 化け物め! これでも喰らえ!」


 次は横から棘の付いた壁が勢いよく俺に伸びてくる。

 俺は壁に手を向け、ガツンと受け止めた。

 こんな物、掠り傷にもならん。


「いい加減諦めろ。お前のくだらない発明は今日で終わりなんだよ」

「まだじゃ! ワシの侵入者撲滅用の罠を甘く見るな!」


 ガタンと上のダクトから俺目掛けて熱せられたチョコレートが降り注ぐ。

 普通だったら火傷じゃ済まないな。

 しかも固まってシャレにならない。

 ま、盾の勇者である俺にはこの程度、痛くも痒くも無いだろうがな。


「流星盾」


 念の為そっとスキルを唱える。


「「盾の勇者様!」」


 義賊の母親と妹が声を上げる。


「ふ、ふはははははは!」


 クソ親父が高笑いをしている。

 俺を仕留めたとか本気で思ってんのか?

 世界を救った勇者をこの程度の罠で殺せると、本気で?


「ふは――何!」


 流星盾によって熱せられたチョコレートは遮られ、流れ落ちていく。

 そして俺は悠々とクソ親父の前に立った。


「馬鹿じゃないのか? こんな罠作って……お前のくっだらない発明品を盗もうなんて奴が来る訳ないだろ」

「お前がワシの発明品を盗む泥棒だ!」

「泥棒? 違うな。狂った発明家志望の馬鹿に苦い現実と罰を与える使者だよ。勇者とか、もう関係ない!」


 俺を指差しで怒鳴るクソ親父に、冷たく言い放った後、ハンマーを構えたラフタリアに目を向ける。

 武器は……この前作らせてコピーさせたピコピコハンマーだ。

 殺傷力は無いが、状態異常である失神効果があるそうだ。

 庇う余地も何もないもんな。

 コイツはホント碌な事をしない。


「少々大人しくしていてください」


 一瞬で俺の隣まで跳躍したラフタリアはクソ親父の脳天にピコピコハンマーを振り下ろした。


「ぬおおおおおおおお! ワシは――ぐが!?」


 クソ親父は抵抗しようとした直後にラフタリアのピコピコハンマーが頭に当たって失神した。

 仰向けに倒れるクソ親父を乱暴に抱えて義賊の母親と妹の足元に転がせる。


「ラフタリア、意識が戻った時に暴れられると迷惑だ。そいつを縛り上げておけ」

「はい……久しぶりに変わった方に出会いましたね」


 変わった方、ね。

 随分とやんわりと言ったもんだ。


「まったくだ。本当にくだらない。これならまだ過去のクズの方がマシかもしれない」

「あの頃のクズさんと比べられるのはどうなんでしょうか……」


 そうだな。

 どうしてこんなクズが波を乗り越えた世界に存在できるのかの方が不思議だな。

 俺は捕えられたチョコレートモンスターを見る。

 うーん……何か違う気がする。


 額に星が付いてて……ヘドロみたいな感じで、前に出会った奴よりも大きい。

 ボスと言われればボスな様な気がするけど、普通のチョコレートモンスターと大差無い様にも見える。

 まあフィロリアルのボスであるフィトリアは普段、普通のフィロリアルの姿をしているから、外見ではわからないのかもしれないけどさ。


「なんだ? 尚文の馬車を引いてたフィロリアルが急いで来てほしいって頼んで来たけど何があった?」


 そこへ錬達が駆けつけてきた。

 辺りの状況を理解できずに困惑している。

 そりゃそうだ。こんな所にチョコレートモンスターのボスがいるとか、俺だったら思わない。


「ああ、クレイジーな馬鹿を一人処分した。そこで捕えられた魔物がいてな。錬と谷子に見てもらおうと思ってたんだ」

「いい加減ウィンディアの名前を呼んでやってくれよ」

「……この子?」


 谷子の方は諦めたように溜息を吐いて、俺が指差す捕まったチョコレートモンスターを見る。

 興味津々だ。

 本当にボスかどうかは俺には判断がつかない。

 このクソ親父の事だ。適当な事を言っている可能性だって十分ありえる。


「ああ」

「多分、探してたボスだと思う……他の子と違うみたい」

「錬、お前は?」

「ゲームだった頃の知識と外見が合わないけど……星に名残がある」


 やはりか……錬達が探していたボスで正解らしい。

 何か理由があると思って呼んでみて正解だったな。


「どうする? 仕留めた方が良いのか?」

「バレンタインの魔物が暴れているんだろ? コイツを倒せば落ちつくのか?」

「そうだけど……」


 谷子が近づいて捕まったチョコレートモンスターのボスに語りかける。


「うん……うん。わかった」


 そして俺達の方へやってくる。


「話が通じたのか?」

「うん。この子が本体だったみたいだから」

「で? 何を話してたんだ?」

「この辺りの連中がチョコを蔑ろにするから怒ってたみたい。定期的に催されてた祭りごとがあるんじゃないかな?」

「むしろコイツが原因じゃないのか? 逃げたんじゃなくて怒りの矛先を探してた感じで」


 クソ親父を踏みつけて俺は谷子に尋ねる。


「それもあるみたい。だから猶予を用意してもらったの……」


 祭り事ねー……一体何をするんだ?


「とりあえずコイツは倒しても死なないのか?」

「死なない訳じゃないけど、この地に根付いてて、時期が来ると復活するみたい」


 土地に寄生してるとかそんなタイプ? このチョコレート地帯のボスとかかな?


「それにこの子だけが本体じゃないし……」

「そうなのか?」

「ああ、これまでに何体か倒してる。一応倒せば地域単位で沈静化するけど、抜本的な解決にならないだろ?」

「そうだな。毎年湧くんじゃ大変だ」


 冒険者に討伐を要請するとか何だろうけど、こういう厄介な事は根本的に潰した方が良いな。

 どうやら大本は祭り事……こいつ等を祭って何かするのを怠ったとかみたいだし。

 元々が勇者が広めた事なのに、チョコレート自体が意識を持って暴れてるとか……何か神様的な意志でもあるのか?


 神を殺すのは俺やラフタリアの役割だがな。

 荒神って奴? 妖怪とか。

 カテゴリーは同じか。


「とりあえずは保護で問題があったら殺処分で良いか」

「うん。それで良い。私が祭り事に関して聞くから魔物の湧く地域では守ってほしい」

「それで騒ぎが収まるなら良いんじゃないか?」

「うん。その為に着いて来てくれるって」

「村に連れてくるのか……」


 面倒だな……まあ、チョコレートモンスターの研究が上手く行けば金になりそうだから良いか。

 しかし、あの生物が俺の所で生活しているのは、どうなんだ?

 いや、この時期ならいいかもしれないが、それはいつまでかにもよる。

 一年中いられると困るぞ。

 そこ等辺も含めて谷子とラトに任せるとしよう。


「さて、このクソ親父はどうしたもんかな」

「イワタニ殿を怒らせるって何をしたんだ?」

「まず馬糞チョコとかいう下品な発明品を見せつけ、このチョコレートモンスターのボスを馬とかフィロリアルに合成して生み出す様にしたかったらしい」

「そんな品の無い食べ物、誰が食べるのだ?」


 女騎士の言葉はもっともだな。

 俺の世界を思うに、具体的な製造過程さえ知らなければ食う奴はいるだろうけどさ。

 ほら、着色料とか原材料を見るとやばいのが多いからな。

 だとしても、チョコレートを生み出すフィロリアルや馬は嫌だ。


「コイツの理屈だとみんなが欲するものになる予定だったそうだぞ? 売れると思うか?」

「……イワタニ殿には悪いが無いと思う」

「俺が売れると言ったか?」

「いや……」


 ネタにしても限度があるだろ。

 しかもその過程をみたら誰も食わないっての。

 ……そういや、ゾウの糞をお茶にするなんて話を聞いた覚えがあるような。

 なんて考えが過るが無視しよう。


 谷子がムッとしてクソ親父を睨みつける。

 魔物を玩具にされそうになったんだもんな。そりゃあ怒るか。

 一応、義賊の母親と妹が心配そうにみてる。

 家族の情はまだありそうだな。

 だけど出す所には突き出した方が良いだろ。


「とりあえずコイツは犯罪者になりかねない事を仕出かした訳だから出す所には出す」

「は、はい」

「経営権は勇者権限で仮譲渡をお前等に委託すると思う……この辺りはチョコ農家を仕切っている奴に詳しく聞いてからになるがな。人手が足りないのなら言え、俺の所にいる奴等が手伝いに来るだろう」


 その分、割り引くがな。

 と、付け加えて俺達はクソ親父を自警団に突き出して留置場にぶち込んだ。


 するとは思わないが、反省しているのなら大人しくなるだろ。

 下手に暴れたらそれこそチョコ農家の権限は義賊の母親と妹に移ってコイツは完全に権利を失う。

 その後は知らない。

 周りの迷惑を顧みないクズには良い末路だ。


 こうして俺達は義賊の親が経営していたチョコ農家からチョコを買いつけ、チョコレートモンスターのボスを村に輸送したのだった。



 それから……。


「おや? どうしたのですかなイワタニ殿?」


 城で公務をしている英知の賢王、杖の勇者である方のクズにポータルで会いに行った。


「クズ、俺に頭を下げろ」

「イワタニ殿が望むのなら下げましょう。それでイワタニ殿がメルティと仲良くできるのでしたら」

「はぁぁぁぁ……」


 すっげー深いため息を俺は無自覚に吐いた。


「やっぱいい」


 ここで下げさせようものならクズにある事無いこと、事実として約束されそうだ。

 今のやり取りだって、頭を下げさせたらメルティとの婚姻とかを進められそうだったし。

 すげーな……クソ親父とは次元の異なる領域にいるよクズ。

 お前は、まさしくタダじゃ転ばない。


「???」


 クズが首を傾げている。

 さすがに察しきれないか。


「何かあったのでしょう。ワシがイワタニ殿の怒りを下げるよう尽力しましょう」


 それでも何か理由を見つけて理解してくれている。


「いや、良いから。仕事に戻ってくれ」

「は、はぁ……」

「ところでクズ」

「なんですかな?」

「発明とかはしないのか?」

「メルティが主催で行おうとしている会場の照明に使われる魔力水晶や音声水晶のコスト削減を研究しておる。資料はここに」


 ビッシリと魔力水晶を誰でも使えるようにする理論と、その発光を維持するための最適確を導く論理を見させられる。

 うわ……こんな些細な物にこんな技術が注ぎ込まれてるのかよ。

 発光ダイオードみたいな技術だな。


「イワタニ殿も試作品を使って見て欲しいと思っていた所ですじゃ」


 俺はクズから試作品を受け取る。

 これに魔力付与をすればいいのか?

 かるーく魔力を注ぎ込む。すると水晶が物凄く光って目が眩む。

 あれ? 明るいのに眩しくない。


 すげー……なんか色々と工夫が凝らしてある。

 これなら僅かな魔力で長時間照明として機能するだろ。

 どっかの馬糞チョコを作った馬鹿とは雲泥の差だ。

 自分をワシと呼んでいるのに……英知の賢王は平和な時代でも健在だな。


「うん。これなら次の催しは上手く行きそうだな」

「イワタニ殿の仰せのままに……」


 まあ、こんな感じで日々は過ぎて行っている。

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[良い点] クズが有能
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