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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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即位

「メルティ女王陛下ー!」


 フォーブレイとの戦争に勝利したメルロマルクは実質、世界で一番大きな国となった。

 盾の勇者と良好な関係を築き、シルトヴェルトとの友好を育んだ女王の実績をシルトヴェルトは高く評価している。

 長年いがみ合っていたのがウソであるかのような、同盟関係だ。


 但し、両者の奴隷関係に関してはノータッチで進められている。

 いずれ、と言う名目で現状は波に備えて同盟を築いたに過ぎない。

 フォーブレイの領地を得たのだから、とんでもない大国化してしまうのは避けて通れない道であった。


 タクトは念の入ったことで、自分に逆らう王族は全て処刑済みだった。

 残った連中はタクトを推していた事で権力は失墜してしまっている。

 結果、戦勝国であるメルロマルクは大国として名を馳せる事になった。

 ま、勇者信仰が根強い世界で、その勇者を全て抱え込んでいたら、そんな国に戦争なんて出来るはずもないよな。

 波の所為で魔物のLvが急激に上昇し、自国の治安維持でさえ困難なのに。


 そうそう、シルドフリーデンなんだが、タクトと代表が敗北したと知るや手の平を返して代表を更迭したっけ。

 全責任はこいつ等が取る的な態度で擦り寄って来た。

 とんだ自由主義の国だな。風向きが悪いと察知するなり、こう言う手を取るとか。

 こんなもんかとも思う。


 本来であればそのまま戦争を吹っかけられてもおかしくはないが、今は争っている時ではないとクズが提案し、俺達もそれに乗っかった形だ。

 各地で戦力として戦っているらしい。


 ただ、信用はされないだろう。

 近い未来にシルドフリーデンの歩む道を想像するのは難しくない。

 ちなみに、たんまりとメルロマルクやシルトヴェルトに賠償する事になっており、その金銭のほとんどは現状世界平和と銘打って波との戦いに使われる予定だ。

 平和になった後もあれこれ理由を付けられて請求され続けるんだろうな。


 そんな感じで各国の動きはメルロマルク勝利で振り切ってしまった。


 民間人クラスでは、頭が変わった程度なのはご愛敬。

 フォーブレイの王族の血を引くクズは一時的とはいえ、王を辞退。

 勇者として国を支援すると発表をした。


 その結果、矢面に立つことになってしまったのが娘であり、次期女王だったメルティな訳で。


「メルティ女王様万歳!」


 大々的なメルティの戴冠式がメルロマルクで行われ、国民は元より、連合軍総出で祝っている。

 国敵であったシルトヴェルトからの使者であるゲンム種の爺さんとかも手を叩いて称賛していた。

 女王の願いとやらは成就したのかもしれないとは思うが、当のメルティ本人は……。


 広場から見える城のテラスで戴冠式は行われる事になった。

 勇者として俺も同席している。

 戴冠式の代表をクズが行い、玉座の間で王冠を持ったままメルティが来るのを待っている。


「これより、メルロマルクの女王即位式を始める」


 メルティは歩きづらそうな豪華なドレスに着替えていて、スタスタとクズの元へと歩いて行く。

 そして玉座の前に立ち、隣のクズの前で頭を垂れる。


「ではメルティ=メルロマルクよ」

「はい」


 一応、メルティとは既に話を付けていて、女王になる事は了承している。

 元から次期女王として育てられていたのだから、断る理由は無いんだけどな。


「汝はこれまで盾の勇者様が治める領地の治安を維持し、経営をしてきた。その活躍によってうち捨てられていた領地は豊かになったと聞く。並大抵のことで出来る物では無い。そのように更なる躍進を我が国メルロマルクにもたらす事を国民一同、期待している」


 国民から応援の声が聞こえてくる。


「汝は本日を持って、メルロマルクの女王としての任を、称号を授かる事になる。これからはメルティ=Q=メルロマルクと名乗るように」

「ありがたき幸せ」

「では王冠を」


 クズがメルティの頭に王冠を乗せ、一歩下がる。


「メルティ=Q=メルロマルクの即位を認めるものとする」


 瞬間、喝采が起こった。

 メルロマルクに新たな女王が生まれた瞬間なのだから当たり前か。

 そしてメルティは国民に見えるようにテラスから広場の方へ身を乗り出して手を振る。


「メルティ新女王万歳!」

「女王万歳!」

「メルロマルクは永久に不滅!」


 と、国民からの支持の声が上る。

 小さな女の子ではあるんだけど、国民の期待を一身に受けて微笑む。


「皆さま! 現メルロマルクの女王に即位したメルティ=Q=メルロマルクです。これから国の為、世界の為、共に戦っていこうではありませんか!」

「「「おー!!」」」

「世界は今や、波に備えて一丸になる時、先代の女王が願い、説いてきた事を私も支持し、受け継ぐことを、ここに宣言します!」


 再度喝采が巻き起こる。

 まあ、そんな感じで戴冠式、ぶっちゃけ、国民へのプレゼンテーションは終了した。



「ふう……」


 城内の玉座の間で玉座に腰掛け、疲れ切ったかのようにメルティはもたれ掛かる。

 勇者と国の重鎮、そして連合軍の代表が一緒になって祝う席だったのだ。

 疲れるのも頷けるな。


「メルちゃん綺麗だったよー。みんなお祝いしてた」


 フィーロがその隣で褒めたたえている。

 素直に友人を祝う親友といった感じだ。


「ありがとう、フィーロちゃん」

「偉くなったもんだな、メルティ。小国の姫が世界一の女王とは大出世じゃないか。滅茶苦茶成り上がったな」


 俺は皮肉混じりにメルティへ祝いの言葉を投げかける。


「何よ、その態度は」

「別に? 世界最大国家メルロマルクで、メルティ女王陛下はどんな活躍をするのかと思ってな」

「まったく……なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ」


 ぶつぶつとメルティは嫌そうに呟く。

 相変わらずメルティって出世欲求とか薄いよな。

 姉はあんなに偉くなりたがってたのに。

 まあ他人事だから言えるんだけどさ。


「これからは大変だな。国民の為、世界の為に色々と面倒な事をしなくちゃいけないんだから」

「それはナオフミだって同じじゃない!」

「俺は波が終わるまで、お前は一生だ。しかも戦っていれば良いだけの俺とは違って、お前は後方でも色々としなくちゃいけない。いやー勇者は楽でいいなー」

「む……言うわね。見てなさいよ!」


 メルティはキリッとした表情で一歩立ちあがって、両手を上げて宣言する。


「此度の戦乱の活躍により盾の勇者であるナオフミ・イワタニには大公の地位を贈与する!」


 な――。


「てめぇ!」

「アハハハハハ! 私に面倒事を全て押し付けようったってそうはいかないわよ!」

「死んでも御免だ! さっさと撤回しろコラ!」

「誰がするものですか! これは勅命である! って更に箔を付けてやるわ!」


 おー!

 っと連合軍の代表が拍手をする。

 なんで、だらしない態度を取ったり、子供っぽい返答をするメルティを注意しないんだ、こいつ等は!


「では今回の戦で手に入れたフォーブレイの領地の数々をイワタニ殿に贈与するとしましょうか。現在、魔物の活性化で大変でしょうが税金は徴収できるでしょう」


 クズが影から地図を受け取って、俺に与える領地を書きこんでくる。

 地位も地位だけに、相当な領土だ。

 もしもこの世界に在留したとしたら、何百年も遊んで暮らせるんじゃないかって位広い。


「話を進めんな!」

「ですが、イワタニ殿の活躍によって戦争に勝てたのも事実、褒美を与えねば国の威信に関わりますゆえ」

「クズ! それはお前とて同じだろうが!」


 むしろ一番の功労者はクズだろ。

 何勇者の称号を持つだけで指示してんだ。


「ワシは国の代表として動いたまで。今も昔も変わりませぬ」


 まあ、クズの立ち位置は実質、女王の次に偉いとかその辺りだから……総じて元締め的な地位ではあるのだろう。

 だが、なんとも納得できない。


「まだまだ大公のナオフミにはやってもらう事は沢山あるわよ!」

「うるせぇ! 俺に面倒事を押し付けるな! 大公なんて御免だ!」

「私だって本当は女王なんてなりたくないわよ!」

「あのー……二人とも出世する事を、そこまで嫌がらなくても……」


 ラフタリアが申し訳なさそうに手を上げて進言する。

 知らんがな。

 本来、俺が領地を欲したのは残ったラフタリアが死ぬまで平和に暮らせる場所を用意したかっただけなんだ。

 何が悲しくて、あんな書類の束と格闘しなきゃいけない立場にならなきゃいかんのだ。


 それはメルティだって同じなのだろう。

 既に俺の領地で戦っていたが、大国の女王ともなるとその量は果てしなく多くなっていくのは想像に容易い。

 ヴィッチは何故こんな地位になりたかったのか疑問が尽きないな。


 面倒を全て家臣に押し付けるつもりで、自分は豪遊とか?

 ありそうだな。

 だが、現実はそんなに甘くない。


「フォーブレイの豚王は国の経営とかどうしてたんだ?」


 タクトは即位してからそんなに時間は経過していないだろうから除外だ。

 大方、取り巻きの女の中で有能な奴に一任していたんだろうし。


「基本方針の指示以外は配下の者が行っておりましたね」


 クズが説明する。

 そういや昔はクズもフォーブレイの城にいたのだろうし、その辺りは知っているか。


「ですが、国の事、民の事を考える有能な王ならば率先して何事にも取り組むでしょう。妻のように……」


 遠い目をするクズにメルティは黙りこむ。

 ま、メルティは女王の事をよく見ていただろうしなぁ。


「メルちゃん大変なの?」


 フィロリアルの次期女王様の方はなんともお気楽な事で……。


「色々となー。フィーロもちゃんとメルティを支えるんだぞ」

「うん! フィーロ応援してるね」

「フィーロちゃん。ありがとう……」


 母親が亡くなり、その母親を殺した間接的原因である姉も処刑された。

 気丈に振舞っているがメルティも辛いはずなんだ。

 クズがまともになって支えてくれてはいるだろうが、なんだかんだでフィーロが近くに居ればその負担も軽くなるだろう。


「しかし、イワタニ殿に大公の爵位を授けるとは……さすがメルティ。ワシも鼻が高い」

「え? あ!」


 メルティがしまった! と言う顔をして俺を見る。

 確か大公って貴族の中では最上位のはず。

 まあ、この世界ではどの程度なのかはよくわからないけど。


「イワタニ殿がご理解しているかわかりませぬから説明しましょうかのう。この国で大公は、女王の次に偉い、次期王の位置にある爵位じゃ」


 えっとー……確かメルロマルクって女王制だろ?

 それでクズは代理だけど王様を主張していたって事は。


「うむ。過去のワシは大公の爵位を持つ、代理王じゃった」

「何?」

「まだわかりませぬか? つまりメルティ女王陛下はイワタニ殿を自身の婚約者として認めた事になりますな」

「ゲ!」


 メルティも頭を抱えて唸っている。

 何、そういえばそうだった、みたいな顔してやがる。


「盾の勇者という立場ゆえ、同盟を結んでいるからにはシルトヴェルトの方々にも了承は必要でしょうが……問題ありますまい?」


 クズの提案にシルトヴェルトの代表は頷く。


「問題ありませんな。ただ、こちらからも数名、盾の勇者様と婚姻を結ぶ者を許可して頂ければ」


 チャンス!

 ここでメルロマルクに不利な証言をすればこの話は無かった事にできるぞ。


「断る!」

「と言うでしょうから、盾の勇者様の領地に居る亜人と盾の勇者様の子供が出来た場合に養子縁組をして頂く事で了承いたしましょう」

「断る!」

「それは波を乗り越えてからに致しましょう。盾の勇者様が寛容にその後の事をお考えの様子なので」


 う……サディナとラフタリアをからかっていた時の会話をきっと聞かれていたんだ。

 その後の事を考えて、村を少しでも長く続かせるには……って奴。

 今更嫌がるつもりは無い。

 後の事を考えて、村の連中で俺の……考えたら顔が熱くなってくる。


「この話は――」


 メルティが切りあげようとしたその時。


「ワシもイワタニ殿とメルティ女王陛下との婚姻が無かった場合、勧めたい人材がいたのですじゃが」


 と、言いながらクズがフォウルを見つめる。

 なんでフォウルなんだよ。


「い!?」


 見られてフォウルは背筋が凍りつくかのように固まった後、仰け反る。

 嫌なのか。まあ、そうだろうな。

 その様子をゲンム種の爺さんは察して、頷く。


「確かに、ハクコの忘れ形見であり小手の勇者ならば釣りあいも取れるでしょうし、両国の駆け橋にもなるでしょうな」

「待て待て、ハクコはお前の国じゃ権力が低いんじゃなかったのか?」

「小手の勇者の活躍を鑑みるに、悪い手ではありますまい。人間との混血とは言え、相手が相手でありますし血筋も悪くない……何処までも盾の勇者様に従うその姿勢は支持も得られるでしょう」

「兄貴!」


 フォウルが助けて! って目で見てくる。

 そんな情けない目で見るなよ。何処のCMだ。

 と言うかフォウルが泣きそうな子猫に見えてくるじゃないか。


「ナオフミ!」


 えー……俺との婚約を断ると、強制的にくっつけられかねない二人が懇願するように見てくる。

 まあ、メルティも形だけと言う事で、関係さえ持たなければ良いんだしな。

 クズは妹の忘れ形見を大切にしたいのか、フォウルにも色々と手まわしをしようとしているみたいだ。


「ではフォウル殿、イワタニ殿と共に活躍したのですから爵位を与えねばなりませぬな。万が一、ワシに何かあった場合は、代理として国を纏める事も出来るほどの逸材であると――」

「兄貴! 本気でお願いする! どうか!」

「ナオフミ!」


 ああもう、しょうがねぇな。


「わかったから落ちつけ、な? メルティ女王陛下の年齢もあるし、子供が産める身体じゃないだろう?」

「な――」


 メルティが凄く睨んでいる。

 しょうがないだろ。こうでも言わないとなんだかんだと理由を付けられて婚姻を結ばされるんだから。


「それは安心してくだされ。メルティはもう子を成せる身体ですぞ」

「なんで父上が知っているのよ!」

「妻の手記にメルティの事も多く書かれておった……」


 おい、何良い話みたいに黄昏てんだ。

 というか、あの女王、ヴィッチの処女についても知っていたが、メルティの事も知っているのか。

 どんだけ監視されてんだよ。

 それ以前に、そんな事を手記に残しているんじゃない。

 下手をすると一生残る黒歴史だぞ。


「い、いや、メルティの身体を想ってもう少し先延ばしにしたい。まだまだ俺の基準では乳臭いガキンチョだしな」


 それこそこの話をうやむやにして元の世界に帰って無かった事にしたい。


「なんですって!? 私はもう十分大人よ!」

「バカ! 黙ってろ!」


 そこでふと、この国と言うか、その辺りの大人と認識する基準を思いだした。

 親が認めれば、大人の扱いだったか。

 クズが善意的に笑みを浮かべる。


「では問題ありますまい。此度の式でメルティ女王陛下は大人として扱われるようになったわい。なので……イワタニ殿、メルティをよろしく頼みましたぞ。早く孫の顔がみたいですな」

「誰か私をここから連れだしてー!」


 自分で盛大に地雷を踏んづけておきながら何助け求めてるんだ。


「メルちゃん逃げたいの?」


 メルティの叫びは空気を読まないフィーロ以外に届く事は無かった。

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