東京大学・飯島勝矢教授に訊く
「今、生きがいを問う」と
いうこと。

「自分の生きがい」ってなんだろう——。日々の暮らしのなかで、そんな問いが心にふと浮かんだことはありませんか。

この素朴な疑問に、科学的なアプローチで答えを探ろうとする取り組みが始まっています。2026年秋頃、ソニー生命は東京大学高齢社会総合研究機構(Institute of Gerontology 以下、IOG)との共同研究による『生きがい白書』を発表する予定で、現代の日本社会における「生きがい」の実像を明らかにしようとしています。

共同研究を担うのは、IOG機構長であり東京大学未来ビジョン研究センター教授でもある飯島勝矢さんです。加齢により心身が老い衰えている状態である「フレイル」研究の第一人者として知られる飯島教授は、長年の研究を通じて「フレイルサポーター」という社会システムを生み出し、元気な高齢者が活躍できる場を提供することで、「生きがい」を感じる新たな高齢化社会の仕組みづくりに取り組んでいます。

全国100を超える自治体とのネットワークを持つ飯島教授が今回の大規模調査で知りたいのは「現代の生きがいとは」「今後求められる生きがいとは」。また私たちが日々の生活のなかで「生きがい」に気づくヒントとは何なのか。
東京大学本郷キャンパスを訪ね、『生きがい白書』に込めた想いとともに、幅広い視点で伺いました。

「今、生きがいを問う」

みんなが悩みがちな「生きがいってなんだろう」

今回、飯島教授と共同研究を行う大規模調査のテーマは「生きがい」です。ただ、多くの人は「あなたの生きがいはなんですか?」と尋ねられても、すぐには答えられないと思うんです。

そうですよね。「生きがい」という言葉自体は誰でも知っていますが、多くの人にとって「生きがい」は“壮大なもの”、そして”漠然としたもの”というイメージにとどまっているのではないでしょうか。そして、改めて自分ごととして考えたとき、すぐに答えられる人のほうが少ないはずです。

知っていても、自分のこととしてはつかめていないということですね。

大半の人にとって「自分なりの生きがい」は新しいテーマですし、研究テーマに「生きがい」を掲げてはいる僕自身も明確な答えを持っているわけではありません。だからこそ、みなさんと自分自身を見つめ直すことで気づく「自分なりの生きがい、自分ならではの生きがい」の実態を紐解いていくことを楽しみにしています。

飯島教授の研究テーマと「生きがい」は、どのように結びついているのでしょうか?

僕は「健康長寿と幸福長寿の両立」を研究テーマにしています。というのも現在、わが国の健康長寿戦略を振り返ってみると、食事や運動習慣の内容は全国の地域で強調されているのですが、「いかにそれらの内容が社会参加と繋げて考えるのか」、もっと言えば、「健康を維持できてきているならば、その先に何をやるのか、やりたいのか」という視点が弱いのではないか、と感じているからです。食事に関しても、運動習慣に関しても、最終的に重要な点は「継続性、そして仲間との共感」だと思うわけです。すなわち、健康で長生きするだけではなく、生きがいを感じながら長生きできるかを考えているんですね。

「幸福長寿」という考え方は、どこから生まれたのですか?

高齢者医療に長年携わるなかで、「健康を得られたとしても、それが最終ゴールなのか。むしろ、健康の先に何があるんだろう」ということを模索し始めたからです。言いかえれば、身体だけが元気である健康を体得することだけがゴールではなく、ありがたいことに健康であったならば何をやるのか、何をやれるのか、という次のステージが大切だと思うんです。実際、週1回の外来診療で高齢期の患者様を診ていると、病気の有無や病態の重症度に関係なく、自分なりの生きがいを感じている方は輝いて見えます。

どんな場面で、そのことを実感されるのでしょうか。

僕は診察のときによく患者様へ「このあとはどうするの?」と尋ねています。すると、即座に答えられる高齢の患者様が多くいらっしゃいます。せっかく受診するならばと、ほかの予定も立てられるんですね。つまり、それなりに病気を複数抱えていても、毎日は充実するし、輝いているんですよ。

生きがいを感じながら長生きすることは「健康になった先にあるもの」を持っていると同時に、それが健康を支える土台にもなっています。また一方で、それを感じるためにも、なるべく健康でいたいわけです。だから、生きがいやウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態にあること)の状態にあると、より健康的に生きられる可能性が高いのではないかと考えています。

「ウェルビーイング」という手がかりと出会って

「生きがい」と近い概念に「ウェルビーイング」がありますが、教授がお考えになる、この2つの違いについて教えてください。

ウェルビーイングおよび生きがいの両方を研究している者として、両方の概念ともにまだまだ奥深いと感じています。ウェルビーイングは、心身の健康だけでなく、社会的なつながりや満足感を含む「満たされた状態」を指しますし、一方で、生きがいは、人生を生きるうえでの喜びや、自分自身の存在意義を実感する「内面的な感覚」ですね。この2つの重なりや違いをもっとクリアにしていきたいですし、今回の調査でさらに深掘りしていきたいと願っています。

飯島教授が「生きがい」の研究を進める中で、ウェルビーイングとの関係性はどのように見えてきたのでしょうか。

研究の中心に「生きがい」を据え始めたときは、「生きがいってなんだろう」と漠然としていましたが、ウェルビーイングという概念を学ぶことで整理がしやすくなりました。少し専門的なお話にはなりますが、ウェルビーイングを高めるとされる「PERMA(パーマ)」という5つの要素(※下図参照)は「生きがい」とも重なり合う部分があると感じています。

とくに、意義(M)と達成感(A)が近い印象です。まず、「この活動が楽しい」というポジティブ感情(P)があるからこそ、「これからも続けたい」という継続への気持ちにつながり、じわりじわりと継続することで、自分の活動に大きな意義(M)を感じ始め、そして長く続けられたことで最終的に達成感(A)も得られる、このような好循環のモデルが存在すると考えられます。

ウェルビーイングを高めるための5つの指標、P - ポジティブな感情、喜び、楽しみ、希望などのポジティブな感情のこと。E - エンゲージメント、時間を忘れて何かに没頭、集中すること。R - 人間関係、他者と良好な関係を築くこと、M - 意味/意義、自分の人生に意味や意義を見出すこと。A - 達成感、目標を掲げ、何かを成し遂げること。

アメリカの心理学者マーティン・セリグマンが提唱した、ウェルビーイングを高める5つの指標。
それぞれの頭文字から「PERMA」と呼ばれる。

PERMAを知るかなり前から僕は、住民主体で行うフレイルサポーター活動(以下、フレイルサポーター活動)の全国展開基盤(プラットフォーム)を構築してきました。約10年前からになりますね。気が付いたら、僕が追い求めていたフレイルサポーター活動のデザインは、この5つの要素PERMAにかなり重複しており、結果的に同じ方向をイメージしてデザインしてきたのだなあ、と感じています。

実際のフレイルサポーター活動では、PERMAの5つの要素がどのように反映されているのでしょうか?

フレイルサポーター活動の全国展開における社会システムでは、高齢者同士で楽しく(P)、時間を忘れて活動に没頭し(E)、心身機能の元気度を手軽に調べる「フレイルチェック」を行う仕組みをつくり、そのなかで活動の意義(M)や達成感(A)を感じてもらうことが目的です。そのためには、ひとつのチームになる必要があるので、サポーターのみなさんには「同じユニフォームを着て活動する仲間だからこそ、どんな人とも良い関係性を築いていこうじゃないですか、たとえ障害をお持ちの住民でも同じサポーターになれるのだ(R)」と伝えています。

フレイルサポーターによるフレイルチェック活動の様子※

その結果、フレイルサポーターにはどのような変化が起こりましたか?

フレイルサポーターが養成・導入されている自治体では、活動レベルの多少の濃淡はあるにしても、全てのサポーター達が「“自分の健康のために”という考えと同時に、“住民のために地域貢献を”という生きがい」を感じてくれているようです。実際に、お元気な高齢者だけが頑張ってくれているのではなく、片麻痺(かたまひ)によって杖歩行である方や車椅子の方、難聴で手話を使う方など、90歳代~100歳のサポーターまで全国におります。参加した住民の笑顔が、彼らの最大のごほうびのようです。

そうした全国の活動の中で、とくに印象に残っている地域や出来事はありますか。

一例として、あるモデル地域のお話をしますね。高知県の仁淀川町や大豊町での活動では、フレイルサポーターが「自然増殖(自発的に増えること)」し、しかも「サポーター全員で楽しみ、全員で助け合い、全員で同じ価値観の下でスクラムを組んで」取り組んでくださっています。

このような現場に行くと、みなさんから教わることばかりです。あるとき、大豊町で1人の高齢女性サポーターが、「みんなでわいわい活動できて楽しかったのですが、大病もしてしまい、しかも足腰も悪くなってしまったので、もう当分参加できないと思います」とおっしゃったんですよ。すると、ご自身も体が不自由な高齢男性が「電話1本くれれば、誰かが軽トラックで迎えに行くから、全く心配ないよ!」と声をかけ、ほかの方たちも「そうだよ、仲間なんだから!」と応じました。まさに僕が全国に展開しようとしている高齢者同士が支え合う状況が主体的に生まれていることに胸が熱くなり、もう涙が出ましたね。

こうした姿からもわかるように、PERMAの要素は生きがいと相互関係があるのかもしれません。だからこそ、『生きがい白書』の大規模調査ではPERMA指標なども参考にしながら、日本社会における「生きがいとは何か」を解き明かしていければ、と思っています。

「ウェルビーイング」という手がかりと出会って

市民フレイル予防サポーター(通称:フレイルサポーター)とは、養成研修を受けた市民による自主的なボランティア制度のこと。元気なシニアが中心となり、同世代に寄り添いながら主体的にフレイル予防の方法を広めている。フレイル予防には「栄養(食事と口腔機能)」「身体活動(運動や生活活動)」「社会参加」の3つの柱(要素)が重要。とくに「社会参加」に着目して生まれたのがフレイルサポーター制度で、活動をとおして参加者とサポーターが生きがいを感じ合う関係性を目指している。

全国に生きがいを広げる活動と、
支えてくれる家族との日々が生きがい

飯島教授ご自身の「今の生きがい」を教えていただけますか?

そうですね、まっすぐ聞かれると照れますね(笑)。僕の生きがいは、全国に1,700強ある自治体すべてに、黄緑色のTシャツを着て活動するフレイルサポーターを広げていくことです。今は100を超える自治体で活動が展開されていますが、旗振り役である僕が普及を諦めてしまえば、元気に取り組んでくださるサポーターたちの士気が下がってしまうでしょう。だからこそ、「全国の自治体を黄緑色に染めていくんだ」という勢いで活動して、誰もがどこに住んでいてもフレイルチェックを行える社会を目指しています。

今はフレイルサポーター養成のために全国を飛び回る毎日ですが、心の疲労感はまったくありません。僕が狙っている全国展開に向けての普及活動を改めて振り返ってみても、ポジティブな感情(P)で取り組みながら個々の現場に入り、現場とは良い関係性(R)を築き、ともに同じ価値観の下で同じ方向を向き、このフレイルサポーター活動の意義(M)を強く感じられる、そして共に達成感(A)を分かち合っていく、というありがたい役割を任せていただいている実感があります。

その一方で、プライベートではどのような生きがいを感じていらっしゃいますか。

妻が全国を飛び回る自分の姿を応援してくれている実感、でしょうか。妻は僕にとって恩師のような存在で、35年間の医師人生および研究者人生のなかで、仕事からドロップアウトしそうになったときに救ってもらいました。

気持ちが塞ぎ込んでしまった当時、妻から「『背伸びをしながらでも、今の仕事を頑張り続ける!』と、あれだけ言ってきたじゃないか」と1時間ほど叱咤激励されたことがありました。その瞬間、頭の中にどんよりとあった気持ちがフワッと晴れた感覚があり、再び奮起することができたのです。まさに「言葉のビンタ」とも言うべきでしょうか。あの言葉で目を覚ましたからこそ、僕は今、ここにいるんだなあ、と感じます。
実現したいことをつかみに行こうとする僕の背中を、妻は微笑ましく見守ってくれていると思いますので、それに応える責任もありますね。

奥様の存在が、教授のアクティブな活動の支えになっているのですね。

でも、それぞれ人によって歩幅も目線も異なりますから、アクティブに進みたい方の生きがい、ゆっくり歩んでいきたい方の生きがいなど、「多様な人の生きがい」が世の中には存在するのだろうと思います。どれも尊重されるべきですね。それらに寄り添っていける研究者でいたいと思いますし、それに寄り添える住民サポーター達を全国に養成していきたいと願っています。

全国に生きがいを広げる活動と、支えてくれる家族との日々が生きがい

「生きがいってなんだろう」と、もがく人が
生きがいを見つめ直すきっかけに

今回の大規模調査では、研究者としてどのようなことを期待されていますか?

単に生きがいを感じているか、持っているのか、というだけではなく、状況や世代ごとの「生きがいの実態、生きがいに関係する具体的内容や感覚」に興味があります。たとえば、「どのような状況におかれると、自分自身がちょっとした生きがいを感じることができるのか」というプロセスが明らかになれば、生きがいを実感できる条件も見えてくるはずです。そこが今回の大規模調査研究に対して期待していることの一つです。

加えて、「生きがいってなんだろう」を自分ごととして見つめ直して気づいた「自分なりの生きがい」が世間一般でイメージされるものと、どの程度ギャップがあるのかも知りたいですね。

最後に、「日常のなかで生きがいを感じたいけれど、なかなか気づくことができない」という人たちに向けてメッセージをお願いします。

今、生きがいを感じていないからといって、これまでの生活やお仕事を否定的に考えるものではないのでしょう。もしかしたら、ちょっとしたものや視点に気づいていないだけなのかも知れませんね。ちょっと考え方や見方を変えるだけでも、別の景色が見えるかもしれません。
「生きがいを感じたい」と足踏みしている状況にいるのなら、新しいページをめくるために次なる一歩を踏み出すことも有効だと思います。でも、そこにはさほど気を張る必要はないと思います。そうすれば、これまでと違う感覚を得られる可能性も固まるかもしれませんね。

一方で、行動を起こしてもすぐには生きがいを感じられない場合もあると思います。そのときは、どう考えればいいのでしょうか。

生きがいを感じるまでには、もがいたり、じっくり見つめ直す時間がある程度必要かもしれませんが、そのもがきには必ず意味があり、その人のバネになります。もがくことで粘りが生まれ、地に足がしっかりとつくようになり、それがレジリエンス(困難な状況やストレスに直面したとき、しなやかに適応し立ち直る力)へとつながるはずです。

もし僕の目の前に生きがいに気づけず、もがいている人がいるのなら、「そのもがいたりする時間、そして、自分を見つめ直しゆっくりと考え直す時間は、いつか必ずあなたの力になりますよ」というアドバイスを送りたいと思います。そして、今回の大規模調査の結果を自分ごととして捉えていただき、世代を問わず、自分の生きがいを見つめ直すきっかけにしてもらえたら嬉しいですね。

日常に息づく
「生きがい」に気づくために

多くの人にとって、壮大で漠然としたものにとどまっている「生きがい」は、時代に合わせて敏感に変容していくのかもしれません。その実態を解き明かすことで、私たちの身近な営みの中に息づくさまざまな「生きがい」に気づき、愛せるようになるでしょう。その「生きがい」は健康の先にあるものとして、また健康を支える土台としても、私たちの人生において重要な役割を果たすはずです。

『生きがい白書』の完成までの約1年間を通して、飯島教授とソニー生命は世代を超えた多くの人々の声に耳を傾け、現代の日本社会における「生きがい」の実像を描き出していきます。さらに、白書の発表後も「生きがいってなんだろうラボ」を通じて継続的に研究や調査を深め、「生きがい」についての理解をさらに広げていく予定です。

これからの時代、ますます注目されていく「生きがい」。その答えは、私たち一人ひとりの中にあるのかもしれません。あなたにとっての「生きがい」は、なんですか。

飯島 勝矢(いいじま・かつや)

東京大学 高齢社会総合研究機構 教授・機構長 / 同大学未来ビジョン研究センター 教授。1990 年東京慈恵会医科大学卒業、千葉大学医学部附属病院循環器内科入局、東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座 助手・同講師、米国スタンフォード大学医学部研究員を経て、2016 年より東京大学 高齢社会総合研究機構教授、2020 年より同研究機構教授・機構長、および未来ビジョン研究センター教授。

  • ◆内閣府「高齢社会対策大綱の策定のための検討会」構成員(2024年9月13日 内閣府「高齢社会対策大綱」閣議決定)
  • ◆内閣府「一億総活躍国民会議」有識者民間議員
  • ◆厚生労働省「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」構成員
  • ◆厚生労働省「人生100年時代に向けた高齢労働者の安全と健康に関する有識者会議」構成員、「高年齢労働者の労働災害防止対策に関する検討会」構成員
  • ◆日本学術会議「老化分科会」「高齢者の健康分科会」ボードメンバー
  • ◆International Alliance of Research Universities (IARU)- Ageing, longevity and health (ALH) steering committee member, Chair