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ガッツリ振り返る"The Backrooms の例の画像"の歴史(出処判明・パブリックドメイン化記念!)

まえがき

お久しぶりです、さめにかと申します。

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タイトル: DSC00161.jpg 著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024
ソース: ここ ライセンス: CC0 1.0

みなさんの中には、この画像に見覚えを感じる方が少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

この画像は "Level 0""The Lobby" という通称、また "The Backrooms"  "Liminal Space" なる概念の代表として知られ、異様な不気味さと既視感をもたらすことでインターネットの一部コミュニティにて非常に有名な画像です。この画像については話題になった2018年当初から長らく出所不明とされてきましたが、今年2024年になって出所が判明、そのまま勢い留まらずに撮影者がインターネットに降臨し、遂にはこの画像がパブリックドメインで公開されるところまで漕ぎつけるとんでもない進展があったのです。

そして、先に明言してしまいますが、これはアメリカのとあるおもちゃ屋チェーン "HobbyTown" が空きテナントを改装する際に撮影された画像になります。そして現在、この画像は以下のサイトで公開されています。

そしてそして、HobbyTown の当該店舗では、昨年(2023)の嵐で屋根に大きなヒビが入ってしまったらしく、現在クラウドファンディングをやっています。ですので、本文に入らず概要の段階でまずそちらのリンクの紹介だけしておきたいと考え、説明を挟んだのです。以下のページになります。

当記事では、この画像がなぜインターネットで注目されるようになったのか、この一枚の画像が各方面にどのような影響を及ぼしていたのか、出所はどのようにして判明したのか、自分なりにまとめてみました。ときどき主観的な考察も挟んでしまいますし、長くなりますが、よろしくお願いします。





4chan での出会いと The Backrooms の誕生

あの画像がインターネット上ではじめて注目を浴びた場所は、ナンセンスな数々のミームと熱心な議論で知られる英語圏最大の匿名掲示板 4chan でした。

4chan には、超常現象や陰謀論について語るスレである /x/ と呼ばれる場所があります。あの SCP財団 の発祥としても知られるこの場所において、かつて何度か例の画像が投稿されたことがあったようです。後述しますが、ここでの初出は2011年ごろという説が有力です。コミュニティでは2011 ~ 2018年にかけて数回話題になっていますが、特に名の知れた画像だったわけではなさそうです。


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2019年5月12日、「post disquieting images that just feel "off"」(ただ"おかしい"と感じる画像)というキャプション付きで投稿されたもの(ウェブアーカイブのリンク

2019年5月12日、上記のように「post disquieting images that just feel "off"(ただ"おかしい"と感じる画像)」という説明文で 4chan の /x/ にこの画像が投稿されたとき、この画像はネットミームとしてのシンデレラストーリーを辿り始めます。5月13日、上記投稿への返信として、まさに "The Backrooms" の起源である秀逸なキャプションが付けられました。原文と日本語訳を以下に貼り付けておきます。

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例の原文

あなたがこの現実の不完全な床をうっかりすり抜けてしまったのなら、古くじわりと湿ったカーペットの匂いに満たされ、代わり映えのない黄色い壁紙が病的なまでに張り巡らされ、羽音のように増幅する蛍光灯のノイズに耳を焼かれるだけの、不規則な壁で区切られたおよそ600億マイルにもわたる空虚で宛もない部屋の集合体、The Backrooms へ落下し行き着いてしまうのです。

あたりを彷徨いうごめいている何らかの音が聞こえたのなら、"それ"もまた確実にあなたがいることに気付いていることでしょう。あなたに神の救いがあらんことを。

筆者による私訳

つまり、この場所は現実から一歩間違えれば入ってしまう超常空間である "The Backrooms" なる場所なのだと説明されているのです。この概念は爆発的にキャッチーで、ミームとして、コンセプトとして、そして怪奇創作として非常に人気を博します。この画像の場所は、現実から "The Backrooms" への入口という意味で "Level 0" "The Lobby" "Tutorial Level" などという作品名で呼ばれるようになりました。

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ほかに著名な The Backrooms の関連作品で用いられる画像の例。
一枚目は Level 4 - "The Abandoned Office"、二枚目は Level Fun と呼ばれる作品で知られている。

(1枚目の出典)タイトル: Empty Office 著作権者: Ged Caroll 公開年: 2011 
ソース: ここ ライセンス: CC BY 2.0

(2枚目の出典)タイトル: Birthday party room 著作権者: Leigh Caldwell 公開年: 2010
ソース: ここ ライセンス: CC BY 2.0

今日さまざまなところで聴くものである The Backrooms の概念はこうして生まれたのだと考えるとなかなか感慨深いものがあります。2019年5月生まれだと聴くとつい最近であるかのように思いますが、すでに5周年を迎えているのです。


Liminal Space の象徴としての画像の意味

さらに、この画像に代表される概念として "Liminal Space(リミナルスペース、際の空間)" なるものがどこからともなく提唱されました。現実と非現実の境目にあるかのような超現実感、微妙に見覚えのない場所がもたらす不気味さ、けれどもいつかこの場所に行ったことがあるような、子どものころだろうか、と色々記憶をかき乱させるような郷愁・既視感。そのような見慣れた景色から忽然と誰もいなくなってしまったかのような孤独感。そういったものがこの画像の特徴として挙げられ、類似の画像がインターネット上にたくさん集められるようになりました。"The Backrooms " とは、Liminal Space 的である画像に脚色を付けてその雰囲気を味わう創作であるとも説明できるので、このような創作のことを "Liminal Fiction(LimFic)" と呼んだりもします。

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具体的には、こういう類の画像が脚光を浴びた。

(1枚目の出典)タイトル: Washington Square Mall 著作権者: Miles Millhouse 公開年: 2011
ソース: ここ ライセンス: CC BY 2.0

(2枚目の出典)タイトル: 061208 著作権者: Tamaki Sono 公開年: 2007
ソース: ここ ライセンス: CC BY 2.0

Liminal Space の概念自体は、実は2016年ごろに reddit のこちらのポストにて細々と提唱されており、既出のものではあるそうです。それでもたった一枚の画像をきっかけに二つのムーブメントが大きく盛り上がっているのですからとんでもないことです。

ここで私が気になるのは、 "The Backrooms や Liminal Space の先駆としてこの画像が選ばれる必然性があったのか" ということです。この画像よりも強い孤独や違和感を煽るような作品も世に蔓延している中で、なぜこの画像がこれら概念を代表する画像になったのでしょうか?この画像はただ、偶然最初に注目されただけではないでしょうか?否、私はこの画像はなるべくしてこれら概念の先駆者となった、特別ですごい画像なのだと結論づけました。途方もない疑問ですが、この画像がなぜ特別ですごいのか自分なりに考察してみます。

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この画像

思うに、この画像の真にすごいところは "何者でもないところ" なのではないでしょうか。ほかにインターネットで知られている有名な Liminal Space は、少なくともなんらかの形でほかの特徴を持っているものが多いです。ここで言う特徴というのは、例えば廃れたオフィスだったり、誰もいないバースデーパーティーだったり、タイル張りの温水プール、バルーンハウス、連絡通路………といった、その写真の撮影場所を決定づける情報のことです。

しかし、この画像は Liminal Space でありながら、全くの特徴を欠いているのです。黄色くのっぺりとした不均一な壁・通路とも部屋ともとれない異常な間取り、バラバラの壁紙など、この部屋は明らかに変です。こんな場所なんぞ誰も一度も入ったことがないですし、名前を付けられなくて当然なのです。なのにどこか既視感があるのもすごいところで、まるで脳を直接いじられて懐かしさに関する神経に電気を流されているかのようです。

特徴を欠いていて見たことのない場所、懐かしさをもたらす見たことのある場所、そのどちらかの画像を用意するのなら比較的簡単です。しかし、その両方を兼ね備えていると聞けばこの画像は稀代の一枚ですし、The Backrooms の名を冠するにふさわしいのではないでしょうか。現実と非現実のはざま、それはまさしく超現実であり、Liminal Space のコンセプトをこれでもかと体現しているもの……少なくとも私は、そう思っています。



Liminal Fiction の発展、そして細分化

例の画像から発展していったコミュニティについて一通り説明したのち、歴史の話をしていきます。ここから数か月後には海外のSNSである Reddit に "r/backrooms" なるカテゴリが作成されたり、英語版 FANDOM The Backrooms Wiki(FANDOM-EN)が設立されたりして、どんどん LimFic ができる環境が整っていきました。

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左: 英語版 FANDOM The Backrooms Wiki のトップページ
公開年: 2019 ソース: ここ ライセンス: CC BY-SA 3.0

右: 英語版 Wikidot The Backrooms Wiki のトップページ 
公開年: 2020 ソース: ここ ライセンス: CC BY-SA 3.0

そして、こうして作成されたコミュニティはほどなくして、避けることのできないさまざまな理由で細分化されていきます。2020年には FANDOM-EN のコミュニティの中でさらなる良質な作品とコミュニティを求めたメンバーが、記事の評価制度を導入できるプラットフォームである Wikidot へ移行し、英語版 Wikidot The Backrooms Wiki(Wikidot-EN)を設立します。今後、FANDOM-EN においては、コミュニティが抱える問題や不和の元に数えきれないほどの分派が成立していきます。

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左: Liminal Archives のトップページ
公開年: 2020 ソース: ここ ライセンス: CC BY-SA 4.0

右: Timeless Places のトップページ
公開年: 2022 ソース: ここ ライセンス: CC BY-SA 4.0

先ほど成立した Wikidot-EN のコミュニティについても、その年のうちに Liminal Archives なる派生コミュニティが、さらに2022年には Timeless Places なる分派が成立、いずれも創作コミュニティとして現在まで活動しています。Liminal Archives や Timeless Places の成立理由は表向きには創作に関する方向性の違いとされていますが、実際にはコミュニティ間の不和がはっきりあったそうです。(このへんは本筋じゃないし議論が難しいので省略します)代表的なのはこんなところで、まだまだたくさんの分派が存在しています。さらに言語の壁を理由にさまざまな言語圏で同じくらいのコミュニティが発生しており、こうなればもう数えきれません。

これらのコミュニティのほとんどは、その名前こそ異なれどあの画像をモチーフとした記事を有しています。例えば、FANDOM-EN なら Level 0 - "The Lobby"、Wikidot-EN なら Level 0 - "Tutorial Level"、Liminal Archives なら The Halls だし Timeless Place なら Static Yellow です。多くのコミュニティにおいての基幹となる設定において、あの画像は数ある異常な場所の一つを示しており、それは作中ではじめて見つかったか、あるいはあなたが最初に辿り着くという点で特別な場所であるのだとされています。それほどまでに、LimFic コミュニティにとってあの画像のコンセプトは重要なものであり、根本的なものなのだろうと思います。これら多くの分化した LimFic コミュニティを LimFic たらしめているものは、例の画像これ一枚であると言っても過言ではないのかもしれません。


代替画像の出現

しかし、これらの多くの LimFic コミュニティは慢性的にある問題を抱えていました。

それは、"あの画像"の出所が不明で著作権的に曖昧なことです。先述したとおり今ではその著作権者が判明していますが、当時は 4chan のコミュニティに突然アップロードされた素性不明の画像という扱いでした。特に自らの作品に CC BY-SA ライセンスを付与するなどして著作権的にクリーンで強固な作品を構成することを目指していた Liminal Fiction コミュニティ は、この画像の扱いに大変苦労します。それは著作権法上コミュニティにあってはならないものなのに、コミュニティの根幹を成しているからです。

結果的に、LimFic コミュニティはあの画像に類似したコンセプトの作品を1から作り上げることを選び、その結果出現したものが "代替画像" でした。

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日本のコミュニティ The Backrooms JP Wiki にて用いられている Level 0 の画像

タイトル: Level 0 著作権者: Huuxloc, SOYA-001(撮影と加工) 公開年: 2023
ソース: ここ ライセンス: CC BY 4.0
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タイトル: cc_lvl0.jpg 著作権者: Alfarex on the TS Discord 公開年: 2023
ソース: ここ ライセンス: CC BY-SA 3.0
補足: Made in Blender

特に、かつて Wikidot-EN で用いられていたこちらの "Level 0" の代替画像は細部まで非常に似ています。ここまで似せて本当に大丈夫なのかと思うぐらいに似ています。同じように、ほとんどの代替画像はBlenderなどの3DCGから作成され、こちらの作品ほどではないですが概ね "あの画像" のコンセプトを想起させるものでした。

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日本のコミュニティ The Backrooms JP Wiki にてかつて用いられていた Level 0 の AI生成画像

タイトル: tmp5o8s3bew.png 著作権者: SOYA-001 公開年: 2022
ソース: ここ(Wayback Machine) ライセンス: CC BY-SA 3.0
補足: この画像はStable Diffusion Web UIを用いて SOYA-001 が作成したものです。
プロンプト: liminalspaces, (((yerrow room))), backrooms, (((yerrow overlay))), wall, narrow, ((labyrinth)) ネガティブプロンプト: blue wall, green wall, red wall, purple wall, blue floor, green floor, purple floor, red floor, brown wall, brown floor, Furniture, Chairs, Desks, Shelves, labyrinth floor,

ほかにも、このような需要に対して当時急進的に頭角を現していたAI生成画像がLevel 0 の代替として受け入れられることがありました。これらがライセンス的に問題ないのかどうかはこの記事では議論しないこととします。

さらに、"あの画像" のように Liminal Space っぽい画像を求めて、さらなるインスピレーションのために生成AIが用いられることもありました。LimFic 関連作品で使用しても問題なくクオリティの高い Liminal Space の画像は相当に珍しく、FlickrWikimedia Commons のようなライセンスがある程度明確な画像投稿サイトから集めるのも大変ですから、生成AIの威力はとても強いものでした。



Liminal Space の視覚・聴覚への拡張と、数々の美学の確立

さて、ここまで LimFic の変遷の話を長々としていた一方で、あの画像がもたらした衝撃から発展していった人々の創作活動は LimFic だけに留まりません。The Backrooms および Liminal Space がもたらした影響は多岐にわたり、次第に写真や文章の枠をも飛び越えていきました。

まずは Liminal Space がもたらす特有の感覚を音楽に求めて種々のプラットフォームにさまざまなプレイリストが作成されました。YouTube で「liminal」と検索すれば奇妙な楽曲と画像を垂れ流すだけのプレイリスト的な動画が溢れていますし、Spotify ではなんと "liminal" の名を冠するオフィシャルプレイリストまで作成されていました。プレイリストの配色やカバーはどう見てもあの画像のモチーフです。

このあたりの詳細については、Water Walk さんの以下の Note 記事がより詳しく研究されているように思いますので、ぜひご参照ください。

そして、The Backrooms や Liminal Space の影響を直球に受けて新たに作られた音楽も、もちろんたくさんあります。テレビ東京系列で放映されたアニメ『チェンソーマン』第5話のエンディングテーマである syudou さんの『インザバックルーム』が特に大きな話題となり、ほかにバンド Klang Ruler の『Set Me Free』や ■37 さんの楽曲『ふぁうんどふってーじ』などの作品が知られています。

syudou - 『インザバックルーム』

Klang Ruler - 『Set Me Free』

■37 - 『ふぁうんどふってーじ』

前項でも代替画像として使われていたとおり 3DCG と Liminal Space の相性は大変良く、ほかにも Liminal Space 探索を強くモチーフとしたさまざまな映像作品やゲームが生み出されていきました。ここではどうしても挙げられる作品が多くなってしまいますので、それぞれの分野で一つずつ作品を挙げていきます。

この分野では Kane Parsons(Kane Pixels)さんによる『The Backrooms (Found Footage)』がとりわけ大きな話題になりました。近年では Kane Parsons さん手動でこのコンセプトを映画化するという話題すらも挙がっています。The Backrooms や Liminal Space を探索する雰囲気と緊張感のあるゲーム性を巧みに融合させた KOTAKE CREATE さんによるゲーム『8番出口』はストリーマーを中心に、 Liminal Space 文脈を飛び越えて純粋にゲームとしてのクオリティの高さでも非常に好評を博しました。

Kane Pixels - 『The Backrooms (Found Footage)』

KOTAKE CREATE -『8番出口』

Liminal Space の概念は一枚の写真から文章やほかの写真へと、文章と写真のあつまりからさらに視覚的・聴覚的文脈へと拡張されていきました。このようにしてインターネットで様式化された様々なメディアのひとかたまりを Internet aesthetic あるいは単に Aesthetic(美学)と呼ぶことがあります。ほかのこうした試みとしては Vaporwave あたりが日本でも有名です。さらにLiminal Space の台頭以来、Dreamcore や Weirdcore 、Frutiger Aero といったほかのさまざまな美学がより一層有名になり、さらに新たな Aesthetic も生まれていったように感じます。Liminal Space のムーブメントはほかのさまざまな概念を言語化・顕在化する助けとなったのではないかと私は思っています。



ウェブアーカイブの網羅的捜索と、奇跡の再発見


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あの画像

ここで改めて、"あの画像"へと話題の焦点を戻します。

ここまで、The Backrooms の概念が誕生した 2019年から現在に至るまでに"あの画像"がもたらしたさまざまな影響や変遷について説明していきましたが、"あの画像"がどのようにして撮影されたのかについてはコミュニティではよくわかっていませんでした。

しかし、Xのユーザーである@rkfg_me さんは、2019年5月・The Backrooms ミームの黎明期にすでにこの画像のソースを把握した旨のポストをしていたとのことです。この時期にはGoogle画像検索から画像の掲載元を辿れていたようですが、当時は The Backrooms の起源となる文章が 4chan に投稿されてからわずか6日後、この画像がXなどのソーシャルメディアで大いに話題になる前であり、特に注目を浴びることはなかったようでした。

このポストは、当時のあの画像のような出所不明の画像や動画・音声ファイルなど(ロストメディア)を捜索している方である Vitrual Carbon さん(YouTube チャンネル)が中心となって運営している Discord サーバー『Virtual World』にて再発見されました。その発見経緯はコミュニティの尽力と血のにじむような捜索によるものでした。以下、その具体的な経緯を記していきます。

2024年4月ごろから、コミュニティに参加した Semliot さんは、"あの画像"のファイル名の特徴から「この画像は話題になったポストより前、具体的には 2012年以前に 4chan に投稿されたことがあるはずだ」と考え、膨大なウェブアーカイブから当時の 4chan のログを網羅的に調べ上げました。優れたグラフィックデザインの技術でも知られている Liam さんは "あの画像" が見つかる可能性を秘めたアーカイブのリンクをまとめ上げ、この作業を最大限補助していました。当時の 4chan のアーカイブに画像は保存されていませんでしたが、そのファイル容量や画像の縦横サイズ、ファイル名などは記録されていたため、これらを元に"あの画像"の可能性がある画像かどうかを一つ一つチェックしていたようです。結果的に、2011年4月28日に投稿された、"あの画像"が添付された可能性の高い一件のポストが見つかりました。

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2011年4月28日に投稿されたポスト。画像消滅済(ウェブアーカイブのリンク

上述の捜索作業の情報は Serrara さんに引き継がれました。Serrara さんはこのポストに残存する画像のハッシュ値から様々な手がかりを得てウェブアーカイブを洗い出し、2024年5月28日、ついに 2011年に投稿された一つのポストを発見します。そのポストには"あの画像"が添付され、コミュニティで以前から知られていたものとは異なるそのファイル名「Dsc00161.jpg」が載っていました。「Dsc00161.jpg」というファイル名の命名規則は、この画像がソニーのデジタルカメラで撮影されたことを示します。

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2011年5月9日に投稿されたポスト(ウェブアーカイブのリンク

このファイル名を手掛かりに、再びさまざまなウェブアーカイブが捜索されましたが、すぐに手がかりを得られることはありませんでした。しかしPerditusRedux さんが X にて当該ファイル名で検索すると上述の @rkfg_me さんのポストがヒットし、掲載元が "http://hobbytownoshkosh.com" であることがわかります。"あの画像"の出典が明確に判明した瞬間でした。このページはすでに削除されていましたが、著名なウェブアーカイブである Wayback Machine に掲載されており、現在も参照可能でした。アーカイブから "あの画像" が確かにこのページに掲載されていることが確かめられます。

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ウェブアーカイブに記録された "Dsc00161.jpg"(ウェブアーカイブのリンク

Liam さんと Serrara さんは "http://hobbytownoshkosh.com" のウェブアーカイブをより詳しく捜索、この画像の撮影された場所がアメリカのウィスコンシン州に建てられたおもちゃ屋チェーン "HobbyTown" に関係することを確認し、その地点の住所 "807 Oregon St Oshkosh, WI" を入手します。この懸命な調査は Xaft さんによってさらに続けられ、当該サイトにて "あの画像" が掲載されていた、以下のページのアーカイブが得られました。このページのURLからこの画像が 2002年9月3日に投稿されたこともわかります。

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当時 "Dsc00161.jpg" が用いられていたページ(ウェブアーカイブのリンク

そして 2024年5月30日に@tjxz_z さんによって投稿された、"あの画像"の別アングルの写真を載せた衝撃的なポストは大きな反響を呼びました。この発見が全世界に拡散された瞬間でした。

この投稿には "MY FRIEND FOUND" とすべて誰か一人でこのウェブアーカイブを発見したような記述がなされていますが、ここまで書いた通り実際にはコミュニティに所属するさまざまな人々の尽力により発見されています。Semliot さんによって r/backrooms に投稿されたこの顛末をまとめたポストには Serrara さんと PerditusRedux さんの貢献が詳細に記されており、さらに特別なクレジットとして「xaft、Pedrocultas、Liam、Farrell McGuire、Kauffman、RegularlyBlue、EvanIsHere、CatchFirez、GlipJip、Binchster、calcetinitosdetungsteno、 および Virtual Carbon Discord サーバーのすべてのメンバー」とコミュニティに参画した多くの方々の名前が挙げられています。

これらの詳細な経緯は こちら のページにて掲載されており、参照することが可能です。私は上記リンクの内容および Discord サーバー『Virtual World』の過去ログから以上の内容を編集しました。


前史・画像の撮影経緯

当該画像が撮影された住所を改めて日本語で記すと、"アメリカ合衆国 ウィスコンシン州 オシュコシュ オレゴン・ストリート 807番地" となります。これ以降、ウェブアーカイブからあの画像が撮影された当時の歴史を参照していきます。

◆ ◆ ◆

1977年、この土地には Rohner's Furniture Store という家具屋が建っていました。この店舗は 1994年には閉店し、しばらくの間空きテナントとなっていました。

ここで何気に奇妙な間取りとバラバラな壁紙の謎が解けます。当時の Rohner's Furniture Store は売り物の家具や壁紙でさまざまなモデルルームを作成して一本の通路で接続したような、よく知られている例だと IKEA のような展示スタイルになっていたみたいで、そのために通路とも部屋ともとれないような不思議な仕切り方の壁が施工され、区画ごとに異なる壁紙が貼られていたそうです。

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参考: IKEAの間取り

(出典)タイトル: Only for Show 著作権者: Dennis Sylvester Hurd 公開年: 2020
ソース: ここ ライセンス: CC0 1.0

2002年になると、ラジコンカーのレーストラックとして活用できる土地を探していたアメリカのおもちゃ屋チェーン HobbyTown USA オシュコシュ支店のオーナーである Robert Mazza さんは、人々がラジコンカーでいつでも遊べて楽しめるような施設を新たに建てたいという大きな夢の元に、上述の空きテナントの半分を買い取りました。このときの改装工事の様子を記した記事が記されていたのが、かつて"あの画像"が掲載された上記のウェブアーカイブでした。これは "あの画像" に直接関係ない別の部屋の画像(記事中では"西側の部屋")ですが、古い展示用の壁が剥がされ、補修・再塗装がなされていく様子がアーカイブに残されています。

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展示物がある程度残っている状態

著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
タイトル: DSC00163.jpg ソース: ここ
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左: 展示物をすべて撤去した状態  右: 壁を張り替えた後

著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
(一枚目の出典)タイトル: DSC00164.jpg ソース: ここ
(二枚目の出典)タイトル: DSC00363.jpg ソース: ここ
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左: 天井張り替えの様子  右: 改装後

著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
(一枚目の出典)タイトル: DSC00355.jpg ソース: ここ
(二枚目の出典)タイトル: DSC00487.jpg ソース: ここ

肝心の "あの画像" の出所であるこちらの部屋については、記事中では"東側(楕円形)の部屋" と述べられていました。この部屋がどうなったのかは、アーカイブをある程度読んでもあまりよくわかりませんでした。さらにこの記事には「水害の影響で、この部屋の建材をすべて清掃しないといけなかった」みたいなことが書いてあります。

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どちらも、東側の部屋の改装前の写真。右側はさまざまな美学を生んだ"あの画像"

著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
(一枚目の出典)タイトル: DSC00159.jpg ソース: ここ
(二枚目の出典)タイトル: DSC00161.jpg ソース: ここ

結果として、オフロード・カーペット製の2つの大きなトラックが建設された、ラジコンカーのための大きな施設に改装されたとみられます。一連の写真群の様子から、"あの画像" がかつて撮影された部屋はオフロードの巨大トラックになってしまったとコミュニティでは予想されており、だとしたら元のレイアウトはほぼ残存していないこととなります。

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左: カーペットのトラック  右: オフロードのトラック
著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
(一枚目の出典)タイトル: DSC00774.jpg ソース: ここ
(二枚目の出典)タイトル: DSC00683.jpg ソース: ここ

現在では、この写真が撮影された時点からさらに何度か改装がなされているようで、改装以前の異質で不気味な空間だったころの面影はほとんど残っていません。しかし、この建物は町のおもちゃ屋さんとして、さまざまな営みの中心地として、また別の方法で多くの人々を楽しませているのです。


そして、パブリックドメインに

この旨がコミュニティに知れ渡ったあと、すぐに 公式 Facebookアカウント や電話などさまざまな手段から HobbyTown オシュコシュ支店に対して確認を取った者がいたようで、この店のオーナーである Robert Mazza さんはすぐに自分の店の画像が5年間にわたりインターネットで持ちきりの話題になっていた事実を知ります。

やはり、The Backrooms コミュニティの中では、この店に出向いて記念写真を撮ったりするような動きもあったそうで、Robert Mazza さんも初めは困惑したものの、そのような形でのご来店も快く受け入れているそうです。

地元ウィスコンシン州のラジオ会社である Midwest Communications, Inc. は Robert Mazza さんへこの画像が撮影された顛末や現在の店頭の様子に関するインタビューをしており、ここからもインターネットの話題に対する Robert Mazza さんの柔軟な受け取り方が見て取れます。インタビューにて、誰がこの画像を撮影したかという質問については「わからない。私か、私の親友のどちらかだと思う。」のような解答をしていました。

Midwest Communications, Inc. - 『Into the Backrooms: Behind an Internet Mystery』

そして2024年8月4日、なんと The Backrooms の起源となった"あの画像"やその他当時に撮影された百数枚の画像が Robert Mazza さんにより CC0 1.0(パブリックドメイン相当のライセンス)で公開され、数多のコミュニティが歓喜しました。同時になされたものは HobbyTown オシュコシュ支店によるクラウドファンディングのお願いです。かねてから家具屋として、町のおもちゃ屋さんとして相当に長い間稼働してきた築100年の店舗は今や激しい老朽化に見舞われており、昨年の嵐により建物の屋根やレンガ造りの壁が修理を必要としているようです。クラウドファンディングを達成できたら返礼として、定期的に当時の壁紙やレイアウトを再現する"Backrooms Day"なるイベントが開催されるとのことで、地域コミュニティに根付いたおもちゃ屋さんとしてのあたたかみと The Backrooms としての冷酷さが混在してすごい雰囲気になることが予感されます。

"Original Backrooms Full Photo Set" として投稿された上述の写真群ですが、"あの画像"はもちろんのこと、強い熱気と好奇心を感じさせられて店舗の宣伝にすらなるようなレーシングの写真、さらには"あの画像"に負けず劣らず Liminal Space の美学を呼び起こさせるような空虚で奇妙な写真まで盤石のラインナップが揃っていて、とても良かったです。そのうちのいくつかはすでにこのページに掲載しましたが、ほかに気になったものをこの下に載せてみます。

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著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
(一枚目の出典)タイトル: DSC00175.jpg ソース: ここ
(二枚目の出典)タイトル: DSC00160.jpg ソース: ここ

かなり高水準に Liminal Space な画像が並んでいて、この美学はこの方の写真から生まれるべくして生まれたのではないかと私はちょっとだけ思っています。






おわりに

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最後にもう一度だけ、振り返りとしてこの画像を添付します

長い記事になりましたが、ここまで付き合ってくださり誠にありがとうございました。

いろいろ調べてみて、HobbyTown の改装工事・さまざまなコミュニティの隆盛・画像捜索班の熱心な協力体制……など、人と人との関わりの中での熱意がひしひしと湧き上がってくるような印象を受け、どこまでも孤独で宛もないように感じていたあの画像のイメージと自分の中で真逆な雰囲気のことがらが多いように感じたのが面白かったです。

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著作権者: HobbyTown USA of Oshkosh, Wisconsin 公開年: 2024 ライセンス: CC0 1.0
タイトル: DSC00495.jpg ソース: ここ

Robert Mazza さんが最近公開した数百枚の画像群の中で、この記事では Liminal Space 的だったり参考文献として重要だったりするものを優先的に紹介しましたが、私はこちらのありえないほど暗い食事会の画像が一番好きです。世界一暗い食事会の画像だと思います。

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タイトル: Return to Our Roots Writing Blitz 著作者: Backrooms Wiki
公開年: 2024 ソース: ここ ライセンス: CC BY-SA 3.0

余談ですが、CC0 1.0 で"あの画像"が公開されたのち、LimFic コミュニティの Wikidot-EN が即日で Return to Our Roots '24 という記念のキャンペーンを開催していました。コミュニティで話題になってから公式にキャンペーンを打ち立てるまでがめちゃくちゃ早くて、あらためてその熱意の強さにびっくりします。




スペシャルサンクス

_XLIさん、Ryu JPさん、Hexirpさん、Matcha_tiramisuさん、わなざわさん、zoni999さん、アウトオブ眼中さん、ありがとうございます!!

この記事のライセンスについて

私はこのページの内容についていかなる使用規定・ライセンスも宣言せず、一切の著作権を放棄します。この記事の一部では CC BY-SA 3.0 あるいは CC BY-SA 4.0 ライセンス で公開されているメディアを引用しておりますが、私はそのライセンスを継承することを意図しておりません。この記事におけるこれらのメディアの掲載の目的は日本法における著作権法第32条の"引用"に基づきます。

 このページにおいて CC BY-SA ライセンスを継承しない理由は、 ウェブアーカイブのスクリーンショットや AI生成画像、および YouTube や Spotify など各種SNSのコンテンツの埋め込み を含むページを CC BY-SA ライセンスで公開することはできないと個人的に判断したためです。CC BY-SA ライセンス を継承することは実質的にこの記事のコンテンツすべての再配布・商用利用を許可することであり、上記のようなメディアを含むページをそのように扱うべきでないと考えました。

この記事の内容について権利者およびクリエイティブ・コモンズ財団からの訴えがなされれば、直ちに当該箇所の削除が行われるか、あるいは記事全体が削除されます。


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