「税金の無駄遣い」24年度540億円 医療福祉など不正、会計検査院調査
国の2024年度決算について、会計検査院が官庁や政府出資法人の支出状況を調べたところ、税金の無駄遣いや改善が必要とみられる事業は計319件、総額540億円に上ることが、5日分かった。医療福祉分野や中小企業向け補助金の不正受給が目立ったほか、道路などインフラの防災対策に遅れが出ている状況が浮かび上がった。
指摘、厚労省が全体の3割占める
検査院は同日、24年度決算検査報告を高市早苗首相に提出した。報告を受け、高市首相は「しっかりと受け止めさせていただく」と述べた。
前年度までは新型コロナウイルス関連事業の検査に重点が置かれたが、24年度は社会保障やインフラ、防衛、デジタルといった幅広い分野を対象にした。指摘件数は23年度(345件)を下回り、総額は2割減った。
省庁別にみると、厚生労働省が最多の91件で全体の3割を占めた。総務省(35件)や国土交通省(31件)が続いた。
1件あたりの指摘額が最も大きかったのは、東日本大震災で被災した中小企業向けの債務保証に充てる基金の余剰分約203億円だった。
拠出した中小企業庁に対し「使用見込みが極めて低い資金が有効活用されないままとなっている事態は適切でない」として国庫への返納を求めた。
「不当事項」271件86億円、医療福祉や中小支援で目立つ
法令違反や不適切な予算執行と認定した「不当事項」は271件(計約86億円)だった。医療福祉分野で自治体や利用者の制度理解が不十分な事例が目立ったほか、虚偽の申請で過大に財政支援を受けた事業者もいた。
例えば、障害者や高齢者の就労を支える職業訓練機関は19〜24年度にかけて厚労省の奨励金計約5億2000万円を不正受給していた。実務経験5年以上とする要件を満たさない計45人の経歴を偽って申請。約4億9000万円は国庫に戻される手続きをしたが、残りは返還請求できなかった。
指摘の対象には、コロナ禍の中小企業向け支援策もあがった。
生活様式の変化に伴うビジネスモデルの転換や新規事業の創出を後押しする「事業再構築補助金」について、20事業者の計約3億4000万円を不正受給と認定した。事業者側が架空の経費を計上するなどして過大に請求していた。
このほかにも108事業者の約24億7000万円分が対象外の事業に使われるなどしていた。所管する中小企業基盤整備機構では別の補助金でも過大支給が見つかった。
報告書は、チェック体制の甘さや事業者側の理解不足を問題視する指摘が目立った。
防災対策の不備、老朽化も背景に
インフラの安全上の不備や防災対策の遅れに対する指摘も相次いだ。
構造物の耐震性を巡っては、群馬県内を走る国道上の橋梁の一部や、福岡、広島の両県の水路などの擁壁が安全基準を下回る状態だった。委託業者の設計が不適切で、自治体側の検査も十分でなかった。
災害時に救助車両などが通る緊急輸送道路に指定されている高速道路の被災リスクも浮上した。
高速道路3社(NEXCO東日本、中日本、西日本)が管理する計約1万キロのうち、土石流や地滑りが発生する恐れのある「危険箇所」が457カ所見つかった。このうち290カ所について3社は危険性を把握していなかった。
各地の農業用ため池の氾濫リスクも明らかになった。老朽化や利用減で不要になったとして廃止工事を実施した福島など5県23カ所で、雨水を下流へ安全に排水できない設計になっていた。
検査院の原田祐平院長は「近年、気象災害は激甚・頻発化しており、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生も切迫するなか、適時適切な災害対策を講じないとインフラが機能せず、国民生活や経済活動に影響を及ぼす恐れがある」と指摘した。