オールド・テイルズ武装強化計画だが基本的にソーンが手を出すのはシンデレラのガラスの靴とレッドシューズのレッドシューズだ。
リトルマーメイドの《水泡》とヘンゼルとグレーテルの《魔女のかまど》はちょっと専門分野が違ってやめた。
まずは高機動近接戦闘兵装《レッドシューズ》だが靴に仕込まれた各部スラスターによる加速で自由度が高い格闘戦を展開でき、威力を底上げすると言う単純だが中々に厄介な武装だ。
高い打撃力と言うのはシンプルゆえに防ぎにくい面もはらんでいる。
レッドシューズの打撃部分をPS装甲《フェイズシフト装甲》に換装し、強い打撃に耐えれる靴に仕上げた。各部スラスターの制御システムもレッドシューズの動き合わせて改良して腿部にギャプランで培った大出力スラスターを搭載。
これにより耐久度の大幅上昇と威力強化に至る。
そしてシンデレラ自身に阿頼耶識システムを拒否反応が出ないか慎重に検査しつつ装備させ、問題なく稼働するのを確認するとガラスの靴とのリンクを行う。
脊髄から直接命令を送れるようになり、かなり過敏になってしまったガラスの靴は当初、大袈裟な挙動ばかりで壁に激突しまくっていたがこれに関してはシンデレラの不屈の努力精神でカバーしつつ調整した。
最初は阿頼耶識の感度を下げる案も検討したがシンデレラ本人の希望により自己研鑽による調整に至る。
ここまでで不眠1ヶ月、寝ないと怒る仲間たちが居ないせいで不眠で働いていたが流石に寝ろと他の研究員たちに促されエイブとソーンは眠ることになるがラプチャーのコーリングシグナル顔負けの騒音いびきのせいで眠れず、即席で作ったノイキャンヘッドホンを使ってやっと寝れた。
ちなみにノイキャンヘッドホンを作っている時に可愛そうにと全員から哀れみの目で見られたのは忘れられない。
「となりの部屋なら分かる。だけどなんで一部屋挟んでもあんだけいびきが届くんだ!」
「ごめんなさい。エイブはとても美しいけどあのいびきだけは美しくないわ…」
ーー
そんなこんながあって、シンデレラの最大の弱点が出てくる。
それが燃費が悪いに尽きる。
短時間における飛行能力、エネルギー兵器主体の武装構成、ガラスの靴自体が常に浮遊してるため燃費が悪すぎる点だ。
そこでエイブとソーンは腰を据えて話し合うことになる。
1.燃費を悪化させてでも高威力武装を配置して瞬間火力を高めるか
これならシンデレラのガラスの靴の御題目でおる《殲滅戦特化》と言う名に恥じぬ超攻撃特化に仕上げられるが補給頻度が多くなるのが弱点だ。前線では満足に補給を得られる機会は限られると言う懸念点がある。
2.各武装の出力を下げて燃費を少しでも良くするか
言葉の通り、上記に挙げた補給頻度を抑えられ、有事の際にエネルギー不足で困る可能性を減らせるがそれによって攻撃力低下は避けられない。
小型なら大丈夫だが中型の防御特化ラプチャー相手なら防がれる可能性がある。
「1にしよう」
エイブの言葉にソーンも頷く。
出力を下げて中途半端な性能にするより、燃費の悪さは仕方ないと割りきって超攻撃特化に仕上げてやればシンデレラも満足だろう。
改良の過程でソーンはガラスの靴にトランスフェイズ装甲を組み込めないか試したが重量が増加するのと、燃費の悪さに拍車をかけるだけだとして諦めた。
その他、ガラスの靴のエネルギー効率最適化や、各部エネルギー出力強化などを行っていればまた1ヶ月という日が経っていた。
「コーヒーを持ってきましょうか?」
「あぁ、砂糖はスプーンに半分、ミルクはいらない。すこし薄めに…」
レッドシューズの厚意に甘えながらコーヒーを受けとると飲む。完璧な配分に満足しながらもオールド・テイルズを見渡す。
全員が同期ゆえか仲良く和気藹々としているがレッドシューズだけ違和感を感じるのは自分だけだろうか?
別に何があるわけではないがなんか取り繕っているような感じを受ける。
ラプンツェルが「優秀な人物だが掴み所のない人間であった」と言っていたからそう思っているだけなのか。
最初の頃はシンデレラを筆頭にゴッデスのソーンと言う事もあって皆からチヤホヤされていた。
特にシンデレラはそうだったが最近では、一技術者と被験者として対等な関係を築いていた。
そんな中、オールド・テイルズたちと食事を取っている時にラプチャーの話になる。
「ヘンゼルとグレーテルはソーンの意見が聞きたいわ」
話題はラプチャーはなぜ現れた、どうして現れたのかだ。
「一般的には異星起源説が有名だな」
「あう、あう!」
ラプチャーは人間とは異なる生命体によって産み出された機械の軍隊かそれともラプチャーという一つの機械の種が宇宙放浪の末に地球に辿り着いたと言うのが通説だ。
「だが俺は他の可能性も中々にアリだと思ってる。厄災戦説とデビルガンダム説なんだがな」
ソーンの言葉に全員が訳が分からないと首をかしげる。
「2つともラプチャーは人類が起源という説だ」
ソーンが言う厄災戦説とは
鉄血のオルフェンズの厄災戦を考えの軸にした説で戦争で使うための無人兵器が暴走、自己増殖や本能に従った殺戮を行っているのではないかと言うものだ。
デビルガンダム説も似たようなもので
自己再生・自己増殖・自己進化の能力を生かした地球環境再生マシンがアクシデントにより暴走、人間こそが地球環境を汚染する原因として人類を攻撃しているのではないかと言うものだ。
「まぁ、根拠は何もない。もしかしたら人間なんて滅びてしまえば良いって思った科学者が産み出した殺戮兵器かもな」
「人類起源であれば共存と言う可能性も出てくるのではないですか?」
「あり得ない話じゃない。人類言語を理解する個体が居れば可能性はある」
レッドシューズの言葉にソーンは呟く。
「ただ、対話が出来たとして戦況的にもかなり不利だ。ラプチャーの元で人類は奴隷のように扱われるかもな、中世みたいに」
「それは美しくないわ」
「そうだな…っ!?」
笑うソーンは突然、椅子を蹴り飛ばして立ち上がるといつの間にか取り出していたビームサーベルを構えながら周囲を見渡す。
「あう!?」
「ヘンゼルとグレーテルは驚いているわ」
「ど、どうされたのですか?」
「ソーン?」
突然の戦闘態勢にオールド・テイルズの面々は驚きを隠せないままソーンを見つめる。今までで初めて見るソーンの表情に戸惑いを覚えながらも元の顔に戻った彼女は笑いながら椅子を戻す。
「いや、変な気配を感じて。勘違いだったみたいだが戦場が懐かしいタチではないはずだが」
必死に謝るソーンを見て全員が逆に気にしないでと宥めることになるがただ一人だけ心中穏やかではなかっただろう。
ーー
その後、装備の開発は最終段階まで到達した。
シンデレラ自身もガラスの靴について理解を深めようと色々と質問をしてきたり、簡単な修理なら自力で出来るように直接指導をおこなったり、エイブから第二世代について教えて貰ったりと忙しく活動することが増えた。
トウカが生きてたらこうやって物を教えれたのだろうかと心の片隅で思いながらしっかりシンデレラと向き合う。
彼女はオールド・テイルズとして前線投入されるのか、それともゴッデスの新たな一員として加わるのか分からないが。
ゴッデスに来るなら今度こそ、必ず彼女を護ってやろうという感情も芽生えてきていた。
(元は幼子だったのだろうか?)
無性に保護欲がそそられるシンデレラの頭を撫でながらガラスの靴の整備のやり方を教えるソーンであった。
ーー
「エイブ、世話になった」
「あぁ、達者でな」
長いようで短い派遣も最終日を迎え、エイブと握手を交わす。
「寂しくなるわ…」
「また会えるさ今度は頼もしい戦友として歓迎するよシンデレラ」
「えぇ、頑張るわ」
シンデレラを優しく抱きしめてやると優しく頭を撫でてあげる。
「次会うときはエイブ用のいびきフィルターマスクを作ってくる」
「ヘンゼルとグレーテルは一刻も早い開発を望むわ」
「あうあう!」
賛同するヘンゼルとグレーテル、力強く頷くリトルマーメイドを見て微笑む。
「ラプンツェルにお伝えください。近いうちにまた会いましょうと」
「あぁ、伝える」
レッドシューズの伝言を聞き、握手を交わそうとするが輸送機の乗員が早く乗るように急かし交わしそびれる。
指示に従って席に座るとこちらをずっと見つめるオールド・テイルズとエイブたちが見えなくなるまで手を振る。
正直最初は不本意だったが中々に楽しい日々であった。前線で苦労しているであろう、仲間たちを思い浮かべながらソーンは座席で眠りにつくのだった。