「疲れたぁ…」
勝利の翼号に帰投したソーンは装備を外すと体が溶けたようにフニャフニャ具合で椅子に座る。
ギャプラン装備の加速力は想定通りの数値であったが装備者にかかるGは凄まじいものであり。
完全に短期決戦仕様と化してしまった。
「単機戦闘には向いてるけど、やはり連携に欠くな」
「推力頼みで飛行してるんで落とすわけにはいきませんもんね」
倉庫に置かれたギャプラン装備を実際に見ながらソーンとスノーホワイトは戦闘データを見ていた。
ギャプラン装備は短期決戦用に調整し直すとして普段使いする空戦装備はまた考え直さなければならない。
「うーん。ミノフスキーフライトは使えないし、GNドライブもないし…」
変形することなく人形で自由に空戦が出来る装備案を考えないと。
バエル、ウィンダム、エアリーズ、バイアランとかが思い付くが。
「ひとまずビームライフルとビームサーベルの小型化に集中するか」
「はい!」
ーー
「やっぱりエネルギー源だよなぁ」
「柄にエネルギーパックを埋め込むと大型化して取り回しが悪くなります。小型化すると戦闘中にエネルギー切れを起こす可能性が…」
柄を格納するブロックを充電器にして未使用時に充電する案も出たが空戦装備にそんなスペースはないし、重量を抑えたい。
ギャプランの時も非常時用にヒートランサーを積んでいたが、あれはギャプランの化物推力あってこそなので。
「ビームライフルならともかく。ビームサーベルなんているんですか?」
「ロマン…だけじゃないが。夢なんだよ」
「夢?」
しばらく寝ていなかった二人はコーヒーを飲みながら一服する。ニケは寝なくても良いが気分の問題だ。
「私はニケになる前は何もなかった。大人になってもアニメや漫画を見るのが楽しみで仕事ではなにも誇るものがないクソみたいな人生だった」
なぜかそんな言葉が出てきた。前世の事なんてなにも覚えていなかったのに、スラスラと言葉が出てくる。
「もちろん、キャラも好きだったけど一番好きなのはロボットだ。宇宙や空を自由に飛んだり、大地を力強く駆ける姿を見てるだけでワクワクした。カッコいいモビルスーツになりたいなって」
「モビルスーツになりたい?」
「普通操縦したいとかだと思うけどな」
楽しそうにコーヒーを飲むソーンの姿をスノーホワイトは静かに見つめる。
「なんの因果か俺はこうして鋼鉄の体を手に入れて、死体だらけの街を見て俺も明日死ぬかもしれないって思った」
諦めや虚無のような感情はずっと感じていた。
「なら全力で生きたいって思った。二度目の人生、泣いて震えてるだけで良いのかって?そして学んで、気づいた。科学は、研究は俺に答えを返してくれるって」
「答えを返してくれる?」
失敗も成功もソーンにとっては研究と言う生き物への対話であった。ニケになり、誰とも出会わずに孤独に生きていた彼女の唯一の会話相手だった。
だから、寝食を忘れるほどに熱中して様々な装備や独自理論を組み立ててきた。
「凄いですね。わたしはその境地はまだまだです」
「答えなどあるものか。道が一つではないようにゴールもまた一つではない。白ちゃんは俺じゃない、白ちゃんは白ちゃんのゴールがある。単純な話さ」
スノーホワイトの謙虚さは劣等感から来ているのであろうと薄々、感じていた。前世で似たような経験をしていたからよく分かる。だけど前世の俺とは違いスノーホワイトには才能があるし、それを向上させようとする意志がある。
「まだ会って間もないですけど。ソーンは凄いと思います。技師としても、ニケとしても」
自分が言っても逆効果かなと思いつつ話を進める。
「私はゴッデスたちの武器をスキャンして構造解析した時に感じた。優しい人間が作った武器だとな」
ゴッデス部隊の武器は俗に言う堅実な設計だ。兵器としては当たり前だがソーンには作れない。
使い手の癖や好みをよく把握して、使い手と武器が一心同体となるように細やかな気遣いに溢れていた。
「私には作れない。無事に戻ってきて欲しいと言う気持ちが伝わってくる良い武器たちだった…俺は白ちゃんを尊敬しているんだよ…ん?」
ふとスノーホワイトの方に視線を向ければ彼女はコーヒーカップを持ったまま机に突っ伏していた。
無理もない、装甲列車の任務の後ずっと一緒に開発に勤しんでいたのだ。ニケと言えど疲弊して眠るだろう。
「俺も寝るかね」
散らかっていた資料を集め始めるソーン。そして突っ伏して顔が見えないスノーホワイトの顔は嬉しさで真っ赤に染まっていたのを彼女が知ることはなかった。
ーー
その後、ラプチャーの進攻は強まり。ゴッデス部隊も出撃頻度が増えつつあった。その間にもソーンは武器や装備に関わらずありとあらゆる物を開発していった。
「補給コンテナ?」
「コンテナにスラスターと自律制御AIを搭載した。指定座標に飛んでいって補給を終えたら元の場所に戻ってくる。危険地帯にいる部隊に補給を迅速に行える」
ーー
「甲板に知らない砲が増えてるんだが…」
「メガ粒子砲の事か?試しに一つ作ってみた」
勝利の翼号に二連装メガ粒子をつけてみたり。
ーー
「ベースジャバー?」
「2人乗りのサブフライトシステム。これならどんなニケも空を飛べる。まぁ、戦闘用と言うより広域展開を目的とした輸送用だが」
「君は天才か?」
サブフライトシステムによる戦略の幅の向上に指揮官は驚きを隠せない。ブラックボックスだらけでソーンにしか整備出来ないがそれでも充分なものだ。
そんなものを開発しつつ、何度も空戦をしていくなかで空戦装備も固まりつつあった。
ーー
「ところでソーンが寝ているのを見た者は?」
「「「……」」」
「確かに博士って寝てるとこ見ないな。おちびゃんなら、あるだろ。流石に」
「いえ…寝たという話は聞いたことがありますが」
指揮官の問いに誰も答えられない。ずっと一緒にいるスノーホワイトでさえも自分が寝ている間に寝て、起きているらしく彼女が睡眠を取るところは見たことがなかった。
「それは…困りましたね」
ラプンツェルの心配はもっともだ。
ソーンがゴッデスに加入してからそこそこの期間が経ち、ものすごい速度で開発、生産、実験を繰り返している。おそらく寝られると言ってもかなり短い時間だ。
「こんな時にまで調査団が来るなんて思いませんでしたわ」
資材調達部が横領を疑うレベルの速度で消費される素材、工房に調査団が入る事態にまで発展した。
まぁ、リリーバイスが詳細な記録をソーンに付けさせていたおかげですぐ終わったが。
「あれは横領の調査と言うよりかはソーンの作った武器が欲しくて文句を言ってきただけ。ソーンは報告書をしっかりあげてくれるし、私と指揮官がそれをチェックしてる」
「この船もいつの間にか魔改造されてますし…。ソーンさんのインスピレーションは桁外れです」
ソーンは一個人として突出している存在だということはゴッデス総員の共通認識であった。
「あのバイタリティには感心せざる得ません」
「珍しい、お嬢様が褒めてる」
「本当ですね」
「レッドフード、ラプンツェル…」
ドロシーが顔をしかめる。
「まぁ、理論上は寝なくても大丈夫だけど。精神衛生上、睡眠は大切だからね」
リリーバイスの言葉に一同が同意する。
「私が行こう」
名乗りあげる指揮官に全員の視線が集まる。
「私が行っても良いですが…」
「いや、指揮官としてゴッデスの一員である彼女も守らねばならないからな」
代わりに行こうとするリリーバイスを諌めて指揮官は早速向かい部屋を出る。
指揮官を見送った一同は一息つく、全員、指揮官が行くだろうという認識はあった。こう言うときにしっかりとやってくれるのが指揮官だ。
「すまん、ソーンは今どこにいるんだ?」
すぐに戻ってきた指揮官の言葉に全員が心のなかでズッコケるのだった。