ソーンがリリーバイスによって犬神家にされてから一週間後、空中空母《勝利の翼号》の会議室で集まったゴッデス部隊の面々。
いつものじゃれあいを何とか納めた指揮官はグレイ・ゴーストことソーンの話を始める。
「ソーンの事だが。彼女の許可を得た上で各企業、V.T.Cが彼女を詳しく調べた結果が来た。検査を終えた彼女は現在こちらに向かっている」
「侵食を受けたかもって話でしたよね」
「まさにそれなんだけど、結論は陰性。侵食を受けた形跡すら発見されなかったわ」
侵食を受けていると誤認された原因となった彼女の瞳が赤く輝いていた現象は彼女が独自に開発したリミッター解除システム《EXAMシステム》による仕様であることが分かった。
「結局、彼女は何者であったのですか?我々と同じフェアリーテイルモデルだったと?」
「結論から言うと分からない。と言うのが各企業の答えだ」
「なんですかそれは?」
ドロシーの不機嫌そうな言葉にリリーバイスは答える。
「彼女の体は既に原型が特定できないレベルまで改造が施されていたのよ。本人の手でね。背中の推進装置なんて脊髄に接続してあって思考だけで制御できるようにされてた。三大企業の中で最も可能性があるのはエリシオンと言う曖昧な結論しか出なかった」
「そんなことが、可能だったのですか。武器や装備を内蔵したニケは例外なく思考転換を引き起こす筈ですが」
「ってかどうやって自分を改造するんだよ。鏡でも見ながらやってんのか?」
ラプンツェルやレッドフードの疑問はもっともだ。
過去には武装やジェット推進機を内蔵したボディが開発されたがその異質さから思考転換を起こすニケが続出、それが原因でニケは武器を持って戦うと言う形に収まったのだ。
「でも指揮官を躊躇いもなく攻撃したわけですよね。それって思考転換が起きてるんじゃ…」
「イレギュラー化しているかどうか検査も行ったんだけど特に問題なし。でもニケで禁止されている人間への攻撃、ニケへの攻撃は許可なく実行可能だからこのまま処分する案も出てたんだけど」
そこは一悶着あったが自身を改造するニケであり、武器や装備を内蔵しても正気を保っている貴重な存在だ。今後のニケ開発において技術的特異点となるのではないかと期待する声も少なくない。
「上層部としては今後のニケ開発における貴重な例として監視下に置かれることになった。もし人間に対して反旗を翻すことがあるようならゴッデスが処理すると言う条件付きでね」
つまりゴッデスにソーンの監視をしろと言われたわけだが全員が特にレッドフードはあからさまに嫌そうな顔をする。
「仲間になる奴を疑えって?そんなバカな話があるかよ」
「名目上の話よ。気にしないで、私もそんなつもりはない」
「じゃあ、決まりだな。ソーンが乗ってる輸送機に酒積んでたよな。歓迎の飲み会しようぜ!」
「貴方はそればかり、先週もしたではありませんか」
「いいじゃありませんかお嬢様~」
「お嬢様ではないとこの前も申し上げた筈ですが?」
からかうレッドフードと反論するドロシーを余所目に指揮官はスノーホワイトに顔を向ける。
「頼んでおいた彼女の工房の件だが…」
「はい、隣の使っていない会議室を工房に改装しました。基本的な作りは私の工房と同じです。回収した荷物も運び込んであります。それで指揮官…」
「あぁ、返してくれるなら資料はいつ見ても構わないそうだ。使ってない武器ならバラしても構わないと言っていだぞ」
「ありがとうございます!」
指揮官の言葉に飛び上がりそうなほど喜ぶスノーホワイト。
ソーンの独創的な発想から生まれる兵器たちはスノーホワイトにとっても探求心をくすぐられるものであった。
「明日には到着するはずだ。経緯は特殊だが仲間になるのは違いない。彼女もまた、ゴッデスの新たな風となってくれるだろう。ひとまずこれで解散だ。ゆっくり休んでくれ」
ーー
「疲れたぁ…」
やってることは基本的に寝そべることだけだがあっちへ行ったりこっちへ行ったりと歩く時間の方が長かった気がする。
「やってることまんま病院やん」
でもご飯はしっかりしたもの出るし、横暴な態度とってくる奴は居なかったし、そこそこ快適だった。
でも警戒していたのか完全武装のニケが二人、常駐しているのは少し気になったが仕方ない。
1日に1回、指揮官とリリーバイスことリリスから電話が来て軽く話すぐらい。
他に楽しみがあるとすれば自分の検査結果のコピーを貰って読むことだ。
ニケに関する知識も深いソーンには自身の体を客観的な視線で検査した結果は貴重であり、今後の開発のヒントになる。
検査室で雁首揃えて集まっていた技術者が若干ひいていたのは心外だったが。
ーー
輸送機に揺られ、勝利の翼号にたどり着くと荷物をもって甲板に降り立つソーンだがその姿を見て迎えに来ていたゴッデス一同は驚く。
「ソーンである。これが私の船か!」
キリッと決めるソーンはこの前見た軍服のようなロングコートではなく半袖短パンアロハシャツと言うどこから持ってきたんだと言わんばかりの服装であった。
「服はどうしたの?」
「久しぶりだな、リリス。電話以来だな、コートも検査のために提出してたからな。その間に好きな服を着ててくれと言われたら。まぁ、半袖短パンが快適で!」
派手に笑うソーンを見て笑顔がひきつるリリス。ドロシーも同様のようで頭に手を添えてヤレヤレと言う感じで見ていた。
「良い服装じゃねぇか。ところでよ、昔の歌は好きか?」
「昔か、ジャンルによるな」
「へぇ」
そう言うとレッドフードは大音量でいつも聞いている曲を流す。
「また始まりました…」
「恒例行事ですねこれは」
「まぁ、レッドフードなりの歓迎の仕方ですし」
音楽が流れる。アメリカの故郷を連想させるような歌。と言うか英語が普通に脳内翻訳されるのはニケだからだろうか。一番好きなのはアニソンだが、こう言う歌も嫌いではない。
「知らないが悪くないな」
「分かる奴がやっときたか。こいよ、取っておきの酒を用意してるんだ」
「俺も研究所に落ちてた酒持ってきたんだ」
「わぁ…」
リリスは思わず声を漏らす。
明らかに高級そうな包装、貴重なお酒なのは明らかだ。
「これは…」
指揮官はソーンから酒を見させてもらうと手が震える。どうやらかなり貴重な酒のようだ。
「二人とも、とっておきのツマミをだそう。だから私にも分けてくれ!」
元々予定していたがソーン歓迎のための飲み会が盛大に開催されるのだった。