「……」
水風呂に浸かりながら考える。
(最近、敵が増えてきたな)
大都市での戦闘もそうだが待ち伏せされている気がする。ここら一帯で暴れているから敵もこちらを潰そうと戦力を送り込んできているのかもしれない。
(自分の装備もあらかた固まってきたし、引っ越しもありだな)
この部屋を失うのはデカイが地下の頑丈な設備だ。多少放置したところで問題ないだろう。
水風呂から揚がるとタオルで体を拭きながら見つけた地図を見つめる。服の上から分からない豊満な体にはすっかりなれてしまいなにも思わない。
顔の隈は相変わらずでこれは標準らしい。
「適当でいいかぁ」
趣味で作った乗り物、かの有名なタイヤ兵器ツインラッドさんだ。攻防一体の移動兵器としてはこれが一番だと思ってる。
今ある物を作ったら工具やら武器やらツインラッドに、詰め込んで移動しようかと考えながら眠りにつく。
ーー
拠点を得てからと言うもの、快適な睡眠を手に入れていたが突然、巨大な振動で目が覚める。
「え!なになに!?」
ベットから滑り落ちて目を覚ますと急いで服を着替えて装備を身につける。振動は明らかにこちらに近づきつつあり、敵がこちらを見つけて襲ってきたのかといつも使っている下水道から出て移動する。
施設に向かっているならそこから出るのは愚策、少し遠くにある地下駐車場まで来る。
「人の睡眠を邪魔しやがって!」
バイザーを下げて壁に爆弾を設置すると少し離れて起爆。ホバーを起動させて勢いよく出ると目の前に影が、ガトリングを構えて見ればそこには軍服を着た人の姿があった。
(え、人間?)
驚きのあまりフリーズ。
ここら一帯には人間はいなかった筈だが、人類軍が来てくれたのかと喜んだ瞬間。
「撃て!撃てぇぇ!」
「ちょっ!?」
便を漏らしそうな勢いで叫ぶ青年軍人(たぶん漏らしてた)の絶叫と共に奥から走ってきていた、おそらくニケたちに銃撃を受ける。
銃弾をシールドで受けながら慌てて後退するが右側にバズーカを構えたニケ。
「やば…」
シールドから素早くヒートサーベルを抜刀しロケット弾を両断、爆風をいなしながら地下駐車場出入口に向かう。
「マジかよ。人間も敵かこれ!?」
もしや味方なき悲しきモンスター状態。
頑張って戦ったのに地球に幽閉されたアムロ・レイの気持ちが少し分かる気がする。
「っ!?」
爆煙から姿を表したのはショットガンを構えたニケ。咄嗟にガトリングの銃身で殴りつけ、壁に激突させる。
「気分よくないが!」
ザクマシンガンを構え後ろから追撃してきたニケを2機、胴体を撃ち抜く。
ニケを研究していた身だ、頭さえ残れば死なないことは分かっている。
一瞬の攻防だった。ニケを無力化すると腰を抜かしている人間に近づく。
「来るな化物!」
拳銃を向けられ咄嗟にそれを掴み、粉砕する。急ぎだったので手の骨を粉々にしてしまったが許してほしい。
いきなり出てきたのは謝るけど即座に射撃命令はやりすぎだろう。
「痛い!痛い!」
「なんのために来た」
「お前を殺すためだ、亡霊め!役立たずどもが!!」
「それはあの子達の事を言っているのか?」
壁に叩きつけられた子はまだ武器を持って戦おうとしている。そんな健気な子を横目にコイツは何て言ったか?
「は?」
「痛い!痛い!」
砕けた手を押さえながら泣く青年を静かに見下ろす。
中に脳が入ってたんだぞ、人間だった志願者が人類のために戦うと体まで捨てて戦火に身を投じるのは容易に想像できる。
「な、なにをぉぉ!」
叫ぶ人間を踏んでやると苦しむ。ただでさえ重いニケが全身に装備を着けているのだ。自重だけでかなりの重さだろう。
「こいつは死んで良いやつだからな…」
「あぁ!」
色んなアニメや漫画で人類に絶望するシーンをよく見るがこの世界も例外なくそうらしい。
ちょっと脅かそうと強めに押してやるとそのまま気絶する青年、倒れているニケを見ると動かない体を必死に丸めて恐怖に怯えている。
(やりすぎちゃった……)
なんか一気に怒りのボルテージ上がっちゃってそのままやってしまった。でもなんかコイツは価値観終わってたし。
(ってか思ったより早めに逃げ支度しなきゃならんかな)
駐車場に出た出入口に戻るのだった。
ーー
「ルロイ分隊の連絡途絶」
「グレイ・ゴースト発見の報告後、通信が」
「経験の浅いルロイが先に見つけるとはな」
彼は能力は高いが精神的に不安定な面もある。実戦経験を積めば良い指揮官になると思うのだが。
第七方面軍精鋭のグレイブ小隊と組ませれば大丈夫だと思っていたが援軍も待たずにやられるとは。
「ルロイ小隊所属ニケから、指揮官がグレイ・ゴーストにやられたと」
「…」
前線指揮所となっている装甲列車で報告を受けた司令官は決定を下す。
「これよりグレイ・ゴーストをエネミーに変更。手段は問わん、撃破し破片だけでも持ち帰れ!」
「指揮所より前線部隊、グレイ・ゴーストを撃破せよ。繰り返す、グレイ・ゴーストを撃破せよ」
「同エリアに展開しているのは?」
「グレイル分隊とトルタル分隊だけです」
「グレイルなら大丈夫だろう」
ーー
「既に救助班がルロイ指揮官を保護、重傷とのことです。所属のニケも1人を除いて大破、頭部は残っていましたので復帰可能です」
「そうか。ルロイがむやみに攻撃命令を出したのではないのか?」
「状況不明です。無事だったニケも混乱しており状況を聴取できていません」
「グレイル、そちらの援護に回るか?」
施設に突入しようとしていたトルタルからの通信にグレイルは止める。
「いや、君は施設の状況確認を先に済ませてくれ。この地域のラプチャーの数が少なすぎる。グレイ・ゴーストが拠点にするならそこのはずだ」
「分かった。そちらの状況を常にトレースしておく。無理するなよ」
トルタルの懸念はグレイルも理解できる。ニケは指揮官の命令なしではニケを攻撃できない。人間に危害を加えるなどあり得ない。
「指揮官どうされますか?」
横に立つ分隊長のソルジャーO.Wの言葉にグレイ・ゴーストに関する思案をやめる。
施設を中心とするエリアにはエブラ粒子によるジャミングが行われている。濃度は低いが通信に支障をきたしている。
通信設備を搭載した装甲車に現場総指揮のグレイルはおり、大型輸送ヘリ、ニケの装備コンテナの3ヵ所に配置し護っている。
トルタル分隊は施設で捜索任務、ルロイ分隊はラプチャー迎撃、グレイ・ゴースト捜索の任についていたが一瞬でやられた。
「周囲を警戒、トルタル分隊の報告を待つ」
ーー
「これより地下に入ります」
トルタル分隊のソルジャーF.Aが盾を持ちながら先に進む。施設はほとんど破壊されておらず、むしろ綺麗な状態を維持していた。そのわりには物資がない。原因がラプチャーでないとしたらグレイ・ゴーストが持っていったのだろう。
「さっさと行こう」
「エブラ粒子に溺れそうだ!」
カチッ!
「センサー式のブービートラップ!」
ソルジャーF.Aの叫びと共に他のニケたちはトルタルを護るために覆い被さるのだった。
ーー
ドォン!
「トルタル分隊は?」
「不明、通信途絶」
グレイルは爆煙を上げる施設を目視で確認するが状況が分からない。
「各員、警戒を厳とせよ。接敵した場合は交戦を許可する」
グレイルの指示と共に街の中央部で大きな爆発、粉塵が舞い全員の視線が集まる。
「グレイ・ゴースト確認!」
ビルの上に堂々と降り立ったグレイ・ゴーストはバイザー越しにこちらを観察しているように見える。
ーー
「指揮車、武装コンテナ1、航空機3、ニケ3。コンテナは真下か」
こっちは偶然とはいえ攻撃され、家の手前まで殴り込みをかけられた。人間の質もクソみたいなやつだったのなら話し合えない。
逃げ支度は整っていない現状、現在展開している部隊を退かせるしかない。
だけど気分は完全にノリス気分、武装コンテナと指揮車、ニケを破壊して敵の戦意を喪失させる。
ー
「近すぎて死角だ。ヤオ、頼めるか」
「任せな!」
ヤオと呼ばれたプロダクト08は狙撃銃を構えグレイ・ゴーストに向け、射撃。
正確かつ即座に放たれた弾丸はグレイ・ゴーストの頭部を付近を通り抜ける。
「避けられた!」
グレイ・ゴーストはそのまま不安定なビルの床を突き破りビルの中へと消えていく。
「ニア!行ったぞ!」
「エンカウンター!」
ニアと呼ばれたプロダクト12はマシンガンを天井に向け、放つが外れる。天井を突き破ってきたグレイ・ゴーストは自由落下することなく滞空するとシールドに懸架されたガトリングが火を吹く。
「しまっ!」
3個分隊分の弾薬が詰まったコンテナが誘爆しニアは巻き込まれる。
「…っ!」
「ニア!」
爆炎が空高く立ち昇るのを見つめるグレイルは静かに息を飲むのだった。