元SRT学園のNo2の転生者がヴァルキューレで閑職をやる話   作:宵越しのモルス

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キヴォトスではオリ主は犯罪ではないらしいので初投稿です。


第1話

 

 ──●月×日 晴れときどき砂嵐。 

 

 本日も晴天なり。12時前に小規模な砂嵐が発生し、派出所の内外の掃除を要す。

 今期に入り12回目の砂嵐であり、被害は無し。また──

 

 特記事項

 

 ・派出所前にて迷子一名。

  アビドス高等学校への道筋を聞かれたため案内を行った。

  特徴……職業 シャーレ捜査部 先生。

 

 所属

 常勤 1名

 

 記入者 

 生活安全局 アビドス派出所所属 近藤 アキ

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 空気が振動し、爆発音が鈍く肌に伝わってくる。建物が揺れ、パラパラと古くなった建物から塵が落ちてきた。

 階下でブリーチングの音がした。正面から来るとは……こちらを舐めているのか、それとも別れを惜しんで長引かせようとしているのか。

 いや、と考えを振り払い、すぐさまにマイクを入れる。

 

 『ドギー1から各隊員へ、狐が潜り込んだ。繰り返す、狐が潜り込んだよ』

 『ドギー2、すでに確認済み。ポイントフォックストロットより狙撃準備完了。……隊長の合図を待つ』

 『ドギー3、歓迎の準備は終わってるよ。今回は最後だから派手にね』

 『あらあら、ドギー3。作戦中は真面目に。ね? こちらドギー4より各隊員へ、振動は二パターン、ハッキングした監視カメラは既に半分が制圧済み。ポイントチャーリーからデルタへと移動中と予想』

 

 居場所を感知されにくいようなルート取り、的確に罠を潰す手腕に舌を巻く。FOX3の的確さには毎回関心するばかり。

 何度も何度も行ってきた演習相手であるが故に、お互いの手の内はほぼ知り尽している。そうなってくると、あの策略家のFOX2が何もしないという訳がなく。現状、FOX1とFOX4の姿も確定していない現状でセオリー通りに来るかも予想がつかない。

 

 「いやはや、困ったもんだねぇ」

 

 商業施設を模した演習所にて一人ごちる。とはいえ、SRT学園のナンバー2の小隊の位置に甘んじているつもりもない。

 手に馴染んだ小銃を持ち、移動を開始する。

 

 『ドギー1より各員へ、さぁ、狐たちを捕まえるよ』

 『作戦名 フォックスハウンド──開始』

 

 戦端が開かれ、罠が起動する。火線が飛び交い、そして散発的になっていく。

 それは花火のように一瞬で、けれど当人たちにおいては一つの青春のように永遠の時間だった。

 

 

 連邦生徒会長が失踪し、閉鎖が決定したSRT学園。そこで行われた最後のフラッグ戦。

 FOX小隊とDOGGY小隊の交戦実演。学園ナンバー1とナンバー2の小隊の演習をもって壮行会としていた。

 

 そのことを私は、自分の視点とも他人の視点ともつかない視座で見ている。

 夢だ。ということに気づくのにそこまで時間は掛からなかった。

 

 だんたんと声とはっきりとしていた姿があやふやになっていき、遠くなのか近くなのかが分からなくなっていく。水辺に浮かんだ木の葉のように、ゆらゆら、ゆらゆらと意識が揺蕩っていく。

 そして暗闇に意識が落ちていった。伸ばそうとした腕だけを残して。

 

 

 ぱちり、と目が覚める。

 つい、うたた寝をしていたみたいだ。硬い事務机を枕にしていたようで、身体がこわばっている。

 

 「うーん、しょっ、と」

 

 背伸びをすると、ぽきぽきと背骨がなる音がする。ぎぃ、と安っぽいオフィスチェアがセッションを奏で、古い扇風機がガーガーという音がアンサンブルした。 

 しかしもう慣れてきたが凄い汗をかいた。と犬耳をぱたぱたと動かし、汗が滲んだ耳を乾かそうとする。こんな動作も慣れれば習慣の一つだ。

 やっぱり扇風機だけではかなり無理がある気がするので、そろそろエアコンの修理でも頼もうかと思いながら、椅子から立ち上がった。

 

 「やっぱり、今日もあっついなぁ……」

 

 ふと鏡を見ると、短い茶髪が乱れている。365日付き合わせる顔ではあるが、そこそこにひどい顔だ。いつも以上に目が死んでいる。

 まぁ、敵地潜入想定からエスケープ想定の連続行程、不眠不休、地獄の7日間終えた時のゾンビみたいな顔よりは遥かにマシな筈だけど。

 これでも年頃の乙女であるという自覚をもって身だしなみを整える。しかし、氷原での想定訓練って何を想定していたのだろう。

 それに比べれば、砂に埋もれているアビドスはまだ、マシだ。昼が暑く、夜は季節が変わったように寒い。だけ、遭難でもしない限りは死ぬことはない。風除けがない氷原の上で低体温症で叫んだり、いきなり裸になる生徒もいないのだ。

 さて、入り込んで来た砂の掃除でもするかぁ、と腕まくりをしていると訪問者があった。

 

 「ごめんくださーい」

 

 男の声が響く。

 アビドス地域の端の端、民間人どころか不良すらもいなくなってしまった場所で何をと思って訪問者を眺めると、キヴォトスでは珍しい『大人』の男性であった。

 一瞬眉に皺がいくが、すぐに笑顔を作る。

 

 「どうも、こちらヴァルキューレ、アビドス派出所ですよ」

 「って、うわ、ここエアコン無いの!?」

 「あー、すいませんね。どうにもこうにもここまで僻地だとお金無くって」

 

 驚く男性に扇風機を持っていってあげつつ、話を聞くと、連邦生徒会長肝いりの組織『シャーレ』の先生だと名乗っていた。

 

 「……あぁ、連邦生徒会長のね」

 「どうかしたの?」

 「いえ、なーんにも」

 

 それよりもこんな僻地に何の用です? と聞いてみると。アビドス高等学校に向かうという。

 アビドス高等学校。この地域が砂漠化してしまって、街が衰退しはじめその煽りと紆余曲折あってその砂漠化と共に衰退してしまった元三大校の一角。今は小規模な集団を残し、在校生は学校を去ってしまったという。

 まぁ、そんな場所付近に飛ばされている私も私かとぼんやりと思考を止める。

 

 「ここから……うーん、そうですねぇ、車なら1時間もかからないんじゃないですか?」

 「ちなみに徒歩は?」

 

 ──ひょっとして、この『大人』は私をからかっているのだろうか?

 こんな砂漠の端にある派出所ですら、砂の被害と生活に難儀しているというのに、ここから徒歩で歩けるとほんとうに思っているのだろうか。少なくともゴーストタウン化した街の一端ぐらいはここを通るときに見たと思う。

パトロール中に、ならず者に会うのだって少なくない。

 そんな中で見たところ大した装備もない大人が歩けば、誰だって想像には難くない……はず。うん。そうだ。たぶん冗談だ。

 流石に『大人』なのだから何にも考えなしで砂漠を渡ろうなんて思わないはずだ。きっと私の考え及ばない何かを持っていることだろう。

 そんなことを思い浮かべるのに0.1秒。シャーレの先生ともなると、冗談のセンスも独特だなと思い調子を合わせる。

 

 「いやぁ、頑張れば1時間半ですかね。あ、タクシーならまともな運転手の見分け方を……」

 

 じゃあ、ありがとう、と先生は席を立つ。引き留めはしたが、どうにも待っている生徒がいるとのことでこれ以上は固辞される。まぁ、曲がりなりにも大人だろうし、砂漠の怖さは知っているだろうとそのまま見送った。おそらく何処かでタクシーを拾う算段をつけているのかもしれない。

 ともかく変な人だ、というのが素直な感想だった。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 入り込んでいた砂を掃き出し、動かないエアコンを一旦分解してみて様子を見たり、配給された『第3号ヴァルキューレ制式拳銃』を分解清掃していたら、いつの間にか時計が一回りしていた。

 

 「そろそろついた頃かな……」

 

 途中砂嵐も起きたことだし、念の為確認はしておこうと思い、アビドスの生徒に電話を掛ける。

 5~6回コールをして、そろそろ諦めるか、と思った頃に眠そうな声が応答した。

 

 「あーもしもし、小鳥遊ホシノさん? あー違います違います。またシロコちゃんがやらかしたとかではなく……」

 「────」

 「そっちに大人が行かなかった? え? 来てない? 嘘? え、まさか本当に徒歩で行ったの!?」

 

 

 派出所を飛び出し、バイクに跨ったところで追加で連絡がきた。どうやらアビドス校に所属する銀行強盗ちゃんこと砂狼シロコちゃんが見つけてくれたらしい。

 電話口のホシノさんに礼を言う。

 

 「ありがとう、小鳥遊ホシノさん」

 「うへ〜、夜間パトロール同盟だからねぇ。これくらいなら当たり前だよぉ」

 「はいはい、では、今夜も会えたら」

 「うん、よろしくぅ」

 

 ほっとした同時に、初めて『大人』に呆れというものを抱いていた事を思い出す。

 徒歩でこの砂漠を渡ろうとするって、やっぱり変な人なのではないだろうか、シャーレの先生。

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 「ってことがあってさぁ」

 「へぇ〜、ヘルメット団の前哨基地を壊滅ねぇ。私の仕事一個無くなっちゃったじゃない」

 「うへ? 元々仕事なんてしてなかったでしょ?」

 「ひどいっ!!?」

 

 その日の夜、ホシノさんと合流して、パトロールを話しながら行う。

 ゴーストタウンと化した廃墟群に不審者が住み着いていないか、まだ栄えている都心部で暴れるものは居ないか。そんなことを歩いて回りながら目視で確認していく。

 

 そんな中で、先生が到着した当日にヘルメット団の襲撃が発生し、押し返した勢いのままにアジトへと乗り込んだというのだから肝っ玉が据わっている。

 まぁ、そうでもなければキヴォトスでは生きられないわけだけど。と、思いつつ、横を歩くホシノさんを見る。

 着任した当時のことを思えば、随分と仲良くなったものだと思う。最初にこのアビドスの暴力装置と出会った日は散々だった。問答無用で銃を向けられ、ヴァルキューレと名乗っても、こんな場所に来るわけないでしょと切り捨てられた。

 まぁ、その通りかもしれないが実際辞令を貰ってここにいるのだから、少しはこっちの気持ちも汲んで欲しいと叫んでやりたかった。

 結局そこから撃ち合いになり、所持する豆鉄砲ではあの分厚い盾が貫通出来ないことを悟り、泥沼のゲリラを覚悟したところで痛み分けとなった。いや、嘘をついた。向こうはほとんど痛くなってないので、私が痛いだけだ。向こうはなんも効いてないし、聞いてなかった。

 

 ともかくとして、交戦を交え、最初は無言でお互いにいる。という意識をもって持ち回りを歩き回っていたりしたりしているうちに、だんだんと会釈が増え、会話がポツリポツリと増え、今に至るという訳である。

 

 「ねぇ、アキちゃん」

 「なぁに、ホシノさん」

 「……うへ~、やっぱりおじさんには、若い女の子と話すのは難しいかもだ」

 「はいはい、同い年同い年」

 

 アビドスの夜は日によっては、白い息が出るほどに寒いことがある。今日がまさしくその日であった。昼間の暑さも、日光の厳しさも、そんなもの知らんと、わがままな夜の女王に打ち消され、白く白く塗りつぶされている。

 

 そんな夜を二人で歩く。特にあてもなく、かといって投げ出せるわけでもない夜のパトロール。

 

 少し溜めて、ホシノさんは言う。

 

 「シャーレの先生ね……うへ~」

 「『大人』、でしたねぇ」

 「あぁ、そうだよね。うん、そうだねぇ」 

 

 大人、という単語が私の口から吐き出すように飛び出た。思わず強めてしまった語勢にびっくりしてしてしまって首を竦める。そんな私を彼女はちら、と見て、それ以上何も言うことは無かった。

 

 ──静かで、寒々しい夜の水底に人がいなくなってしまった廃墟が沈んでいる。

 

 忘れてしまったもの、置いて来てしまったものが、まだそこにあるというのに誰も取りに来ない。まだ、残っているのに。頑張れば取り戻すことだって可能かもしれないのに。

 でも、その感傷はきっと鏡を見ているようなもので、肉を咥えた犬が水辺に映った自分を見て、吠えるのと一緒だ。

 結局、同じ場所で同じことをする。それを繰り返す日々。

 大人に言われるままに、大人の思惑のままに。

 

 息苦しさを感じて水面へと視線を向けると、ゆらゆらと揺れた月がぼんやりと浮かんでいた。

 

 

 パトロールはそれ以上に言葉が弾むことも無かった。

 月が沈んで太陽が顔を出すまで、夜の水底を溺れたまま歩き回った。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 朝日が昇りはじめ、世界が暁に染まる頃に派出所に帰ってきた。

 机に座ると、一気に疲れがやってきてしまって仮眠をとることに決めた。

 SRTにいた頃は、こんな徹夜なんて問題なかったのに、とか、鈍ったかなとか考えている内にゆらゆらと思考が揺れ始めた。

 

 ──意識が揺蕩っている。

 外の音が遠くに聞こえる。思考が水面に墨を落としたように、ゆっくりと黒く、薄く、広がって、元の形が分からない程に変化した。元の形、元々あった場所が遠くに感じる。

 

 急に砂漠の夜の寒さが増したように思えて、身じろぎした。

 

 

 『アキ、私の勝ちだ』

 『うん、ユキノ、君の勝ちだ』

 武器を捨て、ホールドアップした私は一年からの付き合いのあるキツネ耳の少女を見て頷く。

 SRT学園で行われた最後のフラッグ戦。当時最強の小隊と称されたFOX小隊との戦闘。

 最後は私とFOX小隊のリーダー、ユキノとの一騎打ち。 

 

 結果は、僅差でFOX小隊の勝ちだった。

 

 『これからどうするんだ。アキ』

 『私? 私はね』

 

 一緒に来てはくれないのか? と暗に聞いてきている。

 そんな影が差した表情のユキノを見返して、口を開いた。

 

 『うん、転校しても……今までと変わらないよ』

 

 変われなかった。変わっても、何となく昨日と同じ日々が続いていくものだと思っていた。

 

 

 ──のんびりと、いぬのおまわりさんでもやるよ。

 

 

 あぁ、と声にならない声が黒くて真っ白な空間に吸い込まれていく。

 夢はよく見る方だ。パトロールの後、哨戒訓練のあとに、非番の日ですらも。

 背景に、楽しかった学園の記憶が流れていく。青春の一ページがパラパラとめくれては過ぎ去って、また前のページへと戻っていく。

 

 ふと、背中に寒気がして振り返ると、黒くて真っ白な空間のなかにボロボロで今にも壊れそうなドアがあった。

 その扉は、頼んでもいないのに今にも壊れそうな音と共に勝手に開いていく。中から汚泥のような水があふれ出し、私を吞み込んでいく。

 これから更に深いところに落ちていくのだと、他人事のように思っていた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 真っ暗な海にどんどんと潜っていくような感覚が体を包む。

 飛び込んだ時の泡も、下から登ってくる生き物の気配も、もう随分と遠くなってしまった。

 深く、深く、もっと深く。意識が深く沈んで、キヴォトスの『外』に居た時を思い出してしまう。

 

 死ぬ前の記憶。もっと言うなら、前世の記憶。

 真っ暗で、何も見えないような生活。学校にも、遊び場にも、何処にも居場所なんてなかった。もちろん、自分の家にも居場所なんて無くて、毎日が息苦しくて溺れているような日々。

 

 『何で言うことを聞いてくれないの!!』

 『どうして新しいパパを嫌がるの!!』

 

 『もう、いい。疲れた……』

 

 最後に覚えているのは、家具よりも多くなっていたゴミ袋。そして何処かに行ってしまった、そんな親を名乗っていた誰かの姿だった。

 

 何度も見た夢の中。

 真っ暗で臭い部屋を、俯瞰で見ている。俯瞰で私は見つめている。

 

 何処か遠くの場所で楽しい学校生活を送ってみたい。と目を閉じるときに思った気がする。

 誰にも嫌われずに、好かれる姿だけを見せて、楽をしたい。と思った気がする。

 

 ──今度は上手くやれるだろうか。

 もう、一人で生ごみを漁るような日はイヤだ。

 

 『大人』は噓つきだ。

 『大人』は助けてなんてくれない。

 

 だから、『大人』は嫌いだ。

 

 意識の深海、海底の中に厳重に保管していた記憶。

 それらを、もう一度鎖と錨でがんじがらめにして、意識を浮上させた。

 

 ◇◇◇◇◇◇◇

 

 遡ること、数週間前。

 連邦生徒会長が突如として失踪し、キヴォトスには混乱と治安の悪化が訪れた。

 

 また、ここで問題となったのが、連邦生徒会長の手によって設立された特殊部隊の育成校であるSRT学園(Special Response Team)であり、その存在意義を問われることとなった。

 

 中枢部ががらんどうになってしまった連邦生徒会の面々は存続の採決を行い、閉鎖派がリードしていた。

 

 そういった学園閉鎖の噂は、既に情報統制で隠しきれるものではなくSRT学園内部は揺れることになる。

 

 突如として降って湧いた濁流のような流れの中。閉鎖に伴って受け入れ先のヴァルキューレに先行して転校する生徒を募る告知が発布された。もちろん受け入れがたい生徒も多数おり、学園一の実力を持つFOX小隊もまた閉鎖反対の急先鋒だった。

 故に、転校というある種の背信行為に立候補者など居るわけもなく、閉鎖反対の流れで学園は一つにまとまりつつあった。

 しかし、そこに冷や水を浴びせた人物が現れたのだ。

 

 

 ──ヴァルキューレ転校生第一号 近藤 アキ。

 

 学園ナンバー2の隊長がヴァルキューレへと転校する。学園は大きな衝撃を受けることになった。

 結局、この事が契機となり学園は二つに割れたままに、一応の収まりを見せるのであった。

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