Sの瞳

@master_eros

第1話 浜順平という男

順平は、自分を特別な存在だと思っていた。誰よりも才能があり、誰よりも愛されるべき人間だと。けれど、現実の彼は25歳にして定職にも就かず、実家の居間で動画を撮り、ネットにアップする日々を送っていた。


「俺は有名になるんや」と繰り返しながら、動画の内容は他愛もない雑談や、家族への愚痴、自作のポエム朗読。視聴者の反応は冷ややかだったが、順平にとってはそれすらも「嫉妬」に変換された。「見下されるのは、俺が輝いてる証拠や」と。


順平の言動は、常に「自分は正しい」という信念に貫かれていた。専門学校を辞めたのも、学校の教え方が悪かったから。バイトをクビになったのも、店長が見る目なかっただけ。自分に非があるとは一度も考えたことがなかった。


ある日、ネットにアップした動画のせいで、自宅の住所が晒された。悪戯電話や謎の荷物が届くようになり、家族は騒然となったが、順平は「俺は悪くない」の一点張りだった。むしろ「俺の人気がバレた証拠やな」とニヤけていた。


父親に問い詰められても、彼は「言われてなかった」とだけ返した。言われたかどうかではなく、常識の問題であることに気づく知能はなかった。責任から逃れる言葉を並べるたび、父の眉間は険しくなり、ついに拳が飛んできた。


しかし、順平にとってそれすら「理不尽な暴力」でしかなかった。「俺が苦労して動画を作ってるのに、家族は応援もせん。むしろ邪魔ばっかりする」。そう本気で思っていた。


順平にとって家族も他人も、すべて自分の夢を支えるための存在にすぎない。誰かが反対すれば、その人間は「悪者」になり、褒めてくれる者がいれば「俺を理解してる」と思い込む。その選別に、善悪や道徳は関係なかった。


彼は今日もまた、何の企画もない動画を撮影しながら、自分がいずれ“本物”になると信じている。


傍目には滑稽だが、順平はそれを誇りに思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る