どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
有難いことに、30話目まで書かせて頂けました。これからもどうか宜しくお願い致します。
「まったく神秘とは、いつでも人を苦しめるものだな」
ビビアンの生まれ持った特性を聞き、狩人が独り言のように呟いた言葉である。神秘とは、とビビアンが首を傾げる。
不幸の、予見。彼女の力、呪いと呼ばれたそれの内容である。
彼女が不幸を間近とする人間を見ると、その不幸、特に死の内容が曖昧なイメージとしてその視界を覆う。
そうして彼女は、涙を流すのだ。ほんの数瞬の、おぼろげな死。ぼんやりとした災いを前に。
「なぜ、自分を責めるような顔をするのだ。泣いたのが原因で死ぬわけでもあるまい」
ふと、俯くビビアンに狩人が聞いた。口振りの一つ一つから──『パエトーン』について話す時は別だが──知性を溢れ出させている彼女が、しかし他人の責任を自身に押し付けている理由が、ただ分からなかったのだ。
「そうと決まった訳ではないのです。むしろ、不幸を齎していると言われることの方が──」
「そんなもの、泣かれた程度で死ぬほうが悪かろう」
ノータイムで返された吐き捨てるような声に、ビビアンは思わず目を丸くした。口は開いたままで、閉じようとする気配は無い。
己を肯定されたと喜ぶべきか、死者を愚弄されたと悲しむべきか、彼女には分からなかった。
「とにかくだ。私は特段死ぬことに忌避感があるわけではない。私に『視』えたら是非とも教えてくれたまえよ」
狩人がほんのり浮かべた笑みは、マスクの下に隠れてビビアンには見えなかった。
了解すると今度は言葉を発するタイミングを失ったビビアンは、先程アキラのあと狩人によってもう一度説明された狩人の特性について考えを巡らせていた。
「死んで覚えていつかは殺す」。聞いてから理解に数分を要した言葉を思い出す。
一度死ねば、人は終わり。その事実をまざまざと突きつけられ続けてきた彼女にとって、それはどうにも受け入れ難いものであったのだ。
「それにしても、未だに信じきれないのです。死んでも蘇る人間、なんて……」
「人間ではないぞ」
……? 目をぱちくりとさせるビビアンの後ろで、アキラとアンビーはやはりなと少し笑っていた。皆して同じ反応をするのだ。ヒューゴも目を丸くして聞き入り始めた。
「それは、どういった……人では、ないのですか?」
「ああ、違うとも。訳あって人を辞めている身でな。アキラも言ってくれていた筈だが」
『パエトーン』の本名を聞き、やっとビビアンは思い出した。何かの役職名の類だと思い、特段深く質問をするでもなく流した、その語句を。
上位者。アキラが狩人をそう紹介し彼がそれを認めた時、「パエトーン」様を相手に「上位」とは何事かと激怒し片手剣を抜きかけたことを、ビビアンは確かに思い出したのだ。というか実際殺した。
理由は単純明快、狩人がその後のやけに難解な言い回しと誤解を伴う発言によってあれやこれやと無自覚にも火に油を注ぎ続けた為である。
鋭すぎる傘に腹部を貫かれ情けなさすぎる悲鳴を上げながら倒れる様は、とても人を越えたものには見えなかったが。ライカンと並んで真っ青になったヒューゴの顔を思い出しちくりと胸が痛むのを感じながらも、彼女は首を傾げた。
そもそもこの男、先程から今まで、ものの1時間にも満たない間に7回は死んでいるのだ。ホロウとはいえ屋内、空間の歪みが少ないおかげで皆離れ離れにはなっていないが。
ビビアンに傘で串刺しにされたまでは序の口、エーテリアスに囲まれてはバラバラにされ、たかだか6、7メートルの段差で全身の骨を折り、挙句の果てには噴水の水たまりで溺死する始末である。
……落下に関してはあの高さを耐えられるそちらのほうがおかしいだろうと狩人は不平を唱えていたが。アキラも珍しく彼に共感したのである。
とにかく、毎度毎度その前に泣くものであるから4回目辺りでビビアンの涙はからっからに干からびてしまい、現在久しぶりにドライアイを経験することとなったのだ。
ぱちぱちとしきりに瞼を閉じるビビアンを見かねたヒューゴが目薬を渡す一方で、狩人の方はヒューゴとライカンが元は友人だったという事実に驚いていた。
かつては「モッキンバード」と言う怪盗団として活躍していたが、訳あって対立し解散、現在は偶然利害が一致しているのみなのだという。
……それ私に言って大丈夫なのか? あくまで部外者である狩人は唐突な犯罪歴の開示に狼狽した。口の堅さには一定の自信はあったが。文字通り、死んでも秘密は漏らさないつもりである。
そうしている内に、目的の部屋、その扉の前へと辿り着いた一行。
「気をつけろ。こういった場所には決まって強者がいるのだ」
皆がそろそろ慣れ始めてきた狩人の戯言が垂れ流される。いざ
「どうした。ヤスリでも欲しいのか。雷光か火炎しかないが」
「なに、そんな大したことでは──ヤスリ……? まあ良い。ただ新しい友人の、その信条について少し聞きたいことがあってな……」
少しの間目を細めるとすぐ、試すような、神妙な顔を浮かべるヒューゴが続けた言葉は、一つの質問であった。
「貴公は、法で裁けぬ悪党、更生の余地がない外道どもを殺すことを、良しと思うかね?」
ビビアンが驚きから口に左手をあて目を見開いたが、ヒューゴは依然として真っすぐ狩人の両の目を見つめていた。
「知らん。好きにすれば良かろう」
アキラとライカンまでもが静まり返り静寂が廊下を包むより先に、狩人はぶっきらぼうに片手を振って扉へ向き直りながら、そう言い放った。どういうことかとヒューゴが返す。
「だから、好きにすれば良いではないか。殺したいのなら殺せば良かろう。私にもそういった経験はある。頻繁にではないがね」
一々そんな事を考えて殺しをしていると今に気を病むぞ、と狩人が呆れ混じりの心配をヒューゴへ向けながら扉へ手をかけると、重たいそれに体重を乗せ始めた。
鈍い音を立てながら開いた扉の先にあったのは、黄色い結晶体であった。人間2人分程の高さをしたそれに包まれていたものを見て、アキラが息を呑む。
「これは……小さいけれど、間違い無い……」
「『サクリファイス』……確かに、これはその休眠体なのです」
続けたのはビビアンであった。平静を装っていたが、その頬には一筋の冷や汗が伝っていた。
彼女は思い出したのだ。ブリンガーの遺した地図には、ここを指していたのと同じ印が至る所に刻まれていたことに。
サクリファイス。ブリンガーの成れ果てた上位者擬きである。恐ろしく強いエーテリアス、というだけならばまだ良かったのだが、問題はそれがホロウの外でも活動できる所にある。
目の前のそれが「
人間という弱者であることを辞め上位者へと至る為、孤児などの身寄りのない者を引き取っては日々人体実験に明け暮れているというとても見覚えのあるタイプの気狂い集団である。さながら「医療教会2」とでも言ったところであろうか。
ビビアン達が考察を始めた。言うには、彼らは
讃頌会がこれらを人のいる街中で暴れさせ、TOPSはそれに対応することでマッチポンプ式に民意を獲得。その見返りとして讃頌会も地位を貰うのだと、そんな説を語り始めた。
ライカンにとっても、これは聞き捨てならない話であった。TOPSは彼の仕える者と敵対関係にあるのだ。尤も、狩人のそれと比べ物にならない程に冷静な反応であったが。危うくノコギリ鉈を握り潰すところであったのだ。
どれだけヤーナムと同じ轍を踏めば気が済むのだと狩人は腸の煮えくり返る思いであったが、行動としては、ただ静かに讃頌会への感情を吐き捨てるにとどまった。
「糞っ垂れの医療狂いどもが。ヌメヌメの神様擬きがそんなに羨ましいか」
なんとか怒りを皮肉へ昇華させ興奮を抑えると、狩人はヒューゴが居ないことに気が付いた。慌てて振り向いた狩人より先に、ビビアンが声を引きつらせる。
「ヒュー、ゴ……?」
視線を翻した狩人が見たものは、いつの間にか取り囲んでいたのは、黒い装備に身を包んだ兵士たちと、知らない男。
──そして、裏切りを告げるヒューゴの姿であった。
「だまして悪いが、仕事なんでな。その結晶はこちらに寄越してもらうとしよう」
「ヒューゴ……貴方、一体その男に何をあげたのです……?」
「サクリファイスについて我々の知っている全て。そしてその『コア』のひとつもだ」
はっと悲しみに口を覆うビビアンを置いて、ヒューゴは語り始めた。
曰く、隣にいる男ハルトマンはレイヴンロックなる名家、讃頌会の仲間であり、彼に協力する見返りとして己も遥か上の地位へと上り詰める予定なのだという。
あの時言ったこと、弱きを助け強きを挫くというあの信念は嘘だったのか。ビビアンが震える声で問うが、お前は簡単に人を信じすぎる、と嘲りが返ってくるのみであった。
ライカンが元相棒を睨む中、悪趣味なほどに煌びやかな佇まいの男、ハルトマンが口を開いた。
「君たちの諍いに茶々を入れるつもりはないが、そこを退いてもらえるかね? その結晶体を取り出すのに、細心の注意を払いたいのだよ!」
「そうはさせないわ」
唸るような怒鳴り声は、狩人の散弾銃から放たれたものであった。アンビーが静かに呟き刀を変形させるのを見てのことである。
ハルトマンを抱えたヒューゴが飛び退き射線から外れるも、その極端に射程の短い弾丸は彼らの後ろにいた兵士達になんとか届き、真っ黒な装備に何十もの風穴を開けた。
つづいて、単身アンビーが突っ込んだ。みちみちに密集した敵の中で、しかし不自由なく両の刀を滑らす姿は、兵士らさえ居なければ踊り子の舞踏にすら見えたであろう。
負けじとライカンの足が冷気を纏うが、「殺さないこと」を美学とする彼は不殺を徹底させながらも足技のみで迫りくる彼らを地に伏せていた。
バグシャァッッ!!!!
その音は多分死んでるのでは? 体勢を崩した兵士の頭にとんでもない威力の踵落としを決めるライカンをよそ目にビビアンが己のスカートに仕込んだブースターで数十センチ程浮かぶと、そのまま敵陣へと急加速していった。
たどり着くなり地に足をつけ、繰り出されるは華麗の二文字。左手で柄のない小型の片手剣を指揮棒のように振るったかと思えば、閉じられた傘、右手に握られた恐ろしく鋭いそれによる容赦の無い突きの嵐が兵士達を襲った。
一方狩人は集団リンチにされていた……のを散弾銃でなんとか切り抜けたところであった。輸血液を2,3本程太ももに打ち込むと、己が孤立していることに気が付いた。
敵は皆、自分以外の仲間に夢中になっている。隙だらけである。
……今なら。今なら
「しゃがめっ」
狩人の出した大声に理由も分からずアキラ達が身を伏せる。好機と踏み警棒を振り下ろした兵士達の腕は──その黒い胴体ごと、下半身と別れを告げた。
一瞬にして生まれた臓物と血の海からなんだなんだと皆が顔を上げてみれば、そこに居たのは早着替えを決め込んだ狩人であった。
やけにつばの広い帽子を被りこみ、そのマントは焼かれたようにずたずたとなっていた。それが古狩人の装束と呼ばれるものであることは、狩人以外は知らなかった。
その左手には短銃が、その右手にはこの惨状の元凶が握られていた。
べっとりと血を滴らせる、見るからに重たそうな分厚いノコギリ。幾つかの分かれたパーツは伸縮自在のワイヤーか何かで繋がれており、その間に臓物の類を噛んでいた。
少し離れた場所で幾つかの生き残っている兵士達が銃を握るが、狩人は距離を詰めることすらなく、ただもう一度、その右手を振るっただけであった。
凄まじい筋力によって地面と水平に振るわれたそれは、遠心力とワイヤーによって信じられない程のリーチを生み出し、銃を放つ彼らの身体を、切れ味でなく、ただその質量と運動エネルギーによって「ちぎり飛ばした」のだ。
ふう、と狩人が興奮に沸き立つ血を鎮めようと深呼吸を行うと、空気に押されて胸元から幾つかの細い血流が飛び出した。兵士達の放った弾丸は、全て命中していたのである。
相変わらず、この武器を使うと隙だらけになるな。怯まなかっただけ偉いかと自分を心中で褒めながらも、狩人はいつもの装束、いつもの武器へと装いを戻した。
「えっと、ライカンさん……? 手を離してもらえたりは……」
「お言葉ですが、御気分を害される可能性があります故、あまりご覧になられないほうが宜しいかと」
手のひらで視界を、もふもふの毛で嗅覚を塞がれたアキラに、ライカンはそう返していた。私もあの紳士ぶりを見習わなければな、と狩人は感心していた。
帰ったら真っ先に身体と服を洗おう。狩人以外の全員が確信したことである。赤黒くなったドレスのスカートから血液を絞り出していたその時、ビビアンが気づいた。
「サクリファイスが……!」
いつの間にか、黄色い結晶体は持ち去られていた。あの大きさをどうやって、と狩人が聞く前に、ホロウの裂け目を使ったのだろうとアンビーが唱えた。
見れば、そこには確かに巨大な裂け目があった。狩人が決死の覚悟で──彼の場合、そこまで重たいものでもないのだが──飛び込んだのにアンビー達が続くと、皆纏めて建物の屋上へと飛ばされた。
「止めろっ、ヒューゴっ!」
屋上にてハルトマンへと刃を向けるヒューゴを前に、ライカンの口をついて出た叫びであった。
数メートルの段差で落下死するのはどちらかと言うとウィッチャーなことに書いたあとで気が付いた。
とりあえずモッキンバード編までは終わらせて来ました。
……重くね?話。ギャグ挟み込む余裕がねえ……シリアス書くの苦手なのに……
あとビビアンちゃん意外にエミュがむずい。なのです以外の口調覚えてねえよ……