どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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昨日シーザーの左腕について知りました。エッチすぎる…


ああ、パエトーン様(、あるいはゴスム)……

 やはり、ここの紅茶は美味い。ブリンガーの死から数週間後、のんびりとしたある日のある朝、お気に入りの喫茶店にて、笑顔を浮かべる狩人は高めの紅茶を嗜んでいた。小さな皿に乗せられた、一切れのアップルパイと共に。

 

 小さなそれの先端を右手に持ったナイフで切り取ると、ぷすりと左手でフォークを突き立てる。

 (あふ)れ出た琥珀色の具をナイフで掬い、フォークに刺さった部分に乗せると、大きな一口ですぐに舌の上へと放り込まれた。

 

 唇を閉じたままフォークを口から引き抜く。数秒間の間そのサクサクとした食感を甘味と共に楽しむと、ぐい、と無糖のミルクティーで流し込む。

 

 瞬間鼻腔を突き抜けるのは、英国式紅茶の上品さそのもの。入れたのはミルクのみ、砂糖は無いが、その渋みがパイの甘味とすこぶる合うのだ。

 

「……そろそろ時間か」

 

 腕時計を見やると、もう待ち合わせの時間が迫っていた。アキラ──今回の場合、パエトーンと呼んだほうが適切であろうか──とのものである。

 

 アキラの新しい仕事仲間はどうにも信用を欲しており、アキラ側の仲間を呼んできてもらって構わないと言われたので狩人に声をかけたのだという。

 

 仕事の目的は、ブリンガー。彼の遺したノートに、「秘密」を隠している場所が記録されていたのだ。

 秘密暴きは狩人の十八番である。聞くなりすぐに了承し、今に至るというわけだ。

 

 そろそろビデオ屋へ向かわねばな。会計をすませると、出口に立つポールハンガーからトップハットとコートを掴み、店を出た。

 

 持ち帰り不可だが、いつか人形ちゃんをこちらに呼べるようになったら真っ先に来よう。上位者の力を鍛える気力を上げていると、すぐにビデオ屋に着いた。

 

 ……誰か居る。ビデオ屋の横、格子の前だ。やけに先の尖った傘を持つドレス姿の彼女に近づいてみると、その服の背中部分から胸にかけてまでだけがぽっかりと空いていることに気が付いた。

 

 なるほど、隠れ変態か。恐らく仕事仲間の一人だと考えその背中に声をかけようとすると、何やらぶつぶつと呟いているのが聞こえた。緊張している様である。

 

 よく分からないバッジを大量に付けたバッグには、よく分からないぬいぐるみが入っている。

 興味が湧いたので、そうっと、聞き耳を立ててみた。

 

「……Ah, Lord Phaethon(ああ、『パエトーン』様)……」

 

 MAJESTIC(英語とは)! 話してもいないのにもうすっかり親友になった気分で口角を上げる狩人。

 パエトーンの事を、アキラ兄妹のことを尊敬しているのだろうか。気持ちは分かる、と腕を組み無言で頷く狩人。

 

「あるいはゴスム……」

 

 ……うむ? とんでもない言葉が飛んできた気がした。啓蒙の上げ過ぎであろうか。

 

「私の祈りが聞こえませんか……」

 

 うむ?? 先程から、何だか凄く聞き馴染みのあるフレーズである。

 

「けれど、私は夢を諦めません!」

 

 うむ??? 全身を粟立たせる狩人へ、ぎょろり、と不気味な笑顔を浮かべて女が振り向く。

 女はゆっくりと両の腕を広げながら、高らかに宣言し始めた。

 

「何者も、私を捕らえ、止められぬのです!」

 

 間違いない、こいつメンシス野郎だ! 狩人が構えるのに目もくれず、女は恍惚とした顔を空へと向ける。その瞳は蕩けきっていた。

 

「ウアァァァァアアアアアアアン……! アオォォォォオォオオォン……アォン……♡」

 

 咆哮まで完璧である。遂に狩人がノコギリ鉈を展開したそのとき、ドアが勢いよく開かれ鈴が鳴り、アキラの怒鳴り声が二人の鼓膜に響いた。

 

「狩人! ビビアンに一体何をしているんだ!」

 

「アキラ、聞けっ。この女はメンシス学派の回し者だ。早く殺さないと取り返しのつかないことに──」

 

「プロキシ様!」

 

 全体的に紫色、アメジスト色の身なりをしたその女がアキラに駆け寄っていく。

 咄嗟に散弾銃を放ちかけたが、どうも彼女が彼に危害を加える様子はない。

 

「……そのビビアンという女は、本当に信頼の置ける者なのだな?」

 

 アキラが頷くと、今度は顔を険しくして口を開いた。

 

「それで、仲間に銃を向けたことについてはどう釈明するつもりなんだい?」

 

 街中で散弾銃を放ってはいけないのだぞとかなりキツめの説教を受けたあと、皆で待ち合わせ場所へ移動した。バレエツインズ前である。

 

 衣装をいつものそれに戻していると、アンビーが来た。随分と服装が変わっているが。

 特に得物は全く違うものとなっていた。一言で言うのならば、「どっちも大きい落葉」である。変形機構も大体同じだ。

 

「久しぶりね、狩人」

 

「ああ、久しぶりだな。一瞬分からなかったぞ」

 

 来るのが少し早すぎたな、などと考えていると、突然ビビアンが涙を流し始めた。しかも、狩人の顔を見てのことである。

 

「どうした。瞳に宇宙は展開していない筈だが」

 

「ああ、いえ、なんでもありません……」

 

 瞳……宇宙……? 首を傾げるビビアンの後ろで、何かを察した様に頷くアキラ。一体何なのだ。

 そうこうしていると、アキラの友人、そしてもう一人の仕事仲間がやってきた。

 

 ライカンを連れた、スーツ姿の男。その瞳の色は両目で異なるものとなっており、血相の悪い顔は狩人の脳に「吸血鬼」の三文字を連想させた。

 

 まさか、()()()()()()であろうか。狩人は勝手に親近感を覚えた。この男、一応とは言え血の狩人なのである。この辺りの人間にはどうも血の穢れがないようなので殆ど活動はしていないが。

 

「「貴公が──」」

 

 思わず、お互いに仰け反った。ヤーナム以外でこの二人称が被ったのは初めてなのだ。

 対する男、ヒューゴも似た気持ちであった。勿論、彼はヤーナムのヤの字も知らない人間ではあるが。

 

 ぷっ、とヒューゴの口から息が漏れる。そのまま軽く高笑いを上げると、やっと自己紹介を始めた。

 

「すまない。俺以外にこの二人称を使っている者は初めて見たものでね……ヒューゴ、という。どうか、以後お見知り置きを」

 

「全く偶然とは起こるものだな。狩人だ。それ以上の名はない」

 

 二人が笑顔を浮かべ握手を交わすと、隣りに居たライカンの顔が顰められるのを感じた。

 

「ああ、気にしないでくれたまえ、狩人くん。彼とは少し……仲が悪くてね」

 

「『くん』は不要なのだが……構わんよ。いきなり殺し合いでもしない限り、私も人の交友関係に口を挟むつもりはないさ」

 

「はは……なんというか、随分と仲が良いな……」

 

 苦笑するアキラ。十秒前に会ったばかりとは思えない仲睦まじさである。

 

 すぐに行動を開始した。どういうわけか、アキラは直接ホロウの中へ潜れるようになっていた。

 

 本人に問うと、露骨に慌てふためいた様子を見せたあと、自分がボンプと感覚を共有できる伝説のプロキシ、「パエトーン」であることはビビアンには秘密にしておいて欲しいと頼まれた。

 

 当然だ。二つ返事であった。あんな狂人に正体を明かしたら何をされるか分かったものではない。きっと脳に瞳を宿される。それも、物理的に。

 

 アンビーはかなり雰囲気が変わっていた。身なりだけでなく、戦法もだ。

 

 二本の刀による、流れるような連撃。そのあまりの速度に、狩人の目には雷光そのものがステップを踏んでいる様にすら見えた。

 

 変形させてはまた変形させ、空中に飛び上がっては縦回転であらゆるものを切り刻む。ひたすらに激しい動きであった。もしも狩人があんな真似をすれば一瞬で全身の筋肉がつるだろう。

 

 時計塔に居たのがこの女だったら秘密は暴けなかったかも知れないな。ぞっとする感覚を抑え、狩人はヒューゴの方を見やった。

 

 その仕掛けを見るなり、狩人の脳は震えてしまった。武器のセンスに魅せられたのだ。

 

 一見するとただのスーツケースにしか見えないそれが、しかし一瞬にして冷気を纏う大鎌へと変貌するのだ。

 スーツケースの様式美に、鎌での葬送。両方とも、狩人の好む所であった。それも非常に。

 

 たまらず、葬送の刃を取り出す狩人。大きな変形音を鳴らすと、曲刀は瞬く間に大鎌へと姿を変えた。その刃は、微かながらも神秘を纏っている。

 

 前の(周回)では世話になったものだ。一匹突っ込んでくれば、前方ステップからの斬り上げ。三匹程度までなら、ちょうど全員が間合いに入る頃合いを読んだ渾身の横薙ぎで対処ができた。

 

「貴公、良い狩人だな。狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている……良い狩人だ……」

 

 ……本当に、この男はヤーナムを知らないのだろうか。ともかく、ヒューゴにも気に入ってもらえた様である。小気味のいい風切り音を立てながら、大鎌を振り回す。

 

 狩人がビビアンとアンビー、そしてアキラ達と行動を共にしているのに対し、ヒューゴとライカンはお互いに付きっきりであった。

 

 ……お互いに、信頼し合えているわけではないようだが。

 特にライカンなど、あからさまに背中を警戒している。尤も、ヒューゴが身を任せているかと問われれば答えは否だが。

 

 辿り着いた大きな機械に、アキラが手を伸ばす。

 

「うーん、設計図があれば良いんだが……リン。どうにかできるかい?」

 

 任せて、と励むリン。すぐに設計図を入手し、彼のスマホに送る。

 

「ホロウ内外を結んで、通信を……!?」

 

 ビビアンが目を見開く。不味いことになったかも知れない。はっ、とアキラが気付いたが、遅かった。

 

「この様な芸当が可能なお方は、私の知る限りではただ一人……!」

 

 呼吸の乱れはじめたビビアンから、ヒューゴの顔へと視線を移す。俯いたまま口に手をあて、笑いを堪えている様子であった。

 

「もしかして、あなたの名前って、『パ』で始まって『ン』で終わったり……!?」

 

「ああ、そうだ。僕が『パエトーン』だよ。今まで言えていなくてすまない……」

 

 観念した、といった様子でアキラが告げると、ビビアンの下瞼にたっぷりと涙が浮かび上がる。

 

「信じられない……! 『パエトーン』様、わたし、もうずっと前からあなたのファンでした!」

 

 ぶわり、と涙が溢れ出す。その顔は、驚きと歓喜の爆発によってぐちゃぐちゃに崩壊していた。

 

「まさか、『パエトーン』様がずっと側にいてくれたのに、まったく気づかなかったなんて……! 夢みたい……なのです……!」

 

 サインや写真を求められ、快諾するアキラ。尤も、ホロウを出てから、という条件つきではあるが。

 

「ああっ、『パエトーン』様っ、『パエトーン様』っ……ああっ……はっ、ひぎっ……!」

 

 突然、ビビアンは下腹部を抑えて俯いた。足ががくがくと痙攣を起こしている。最も近くにいたアキラと狩人が倒れそうになる身体を支えた。

 

 ぴちょん。音が聞こえた。何かの滴るような音だ。脳に海水を入れた覚えはないのだが。狩人の視線が音の正体を探り、それは床、ビビアンの股下へと辿り着く。

 

「What the……!」

 

 狩人は恐怖に震えた。言葉を発することすら難しくなる程に。

 

 狩人の視線。その先に滴る、ねっとりと粘り気を帯びた透明な液体。ほかほかと湯気を立てている。

 

 彼女のタイツの内太もも部分をびっしょりと濡らしながら、それは悍ましい、小さな水たまりを作り上げていた。

 

 この女、正気か。冷や汗を浮かべてアキラへと目配せをする。怪訝な顔をしていたが、狩人の目の動きでの誘導で床へと視線を向けると、途端にさあっと顔を青くして口をぱくぱくと震わせ始めた。

 

 背中を支えられ、ビビアンが上を向く。その目線の先には、ちょうどアキラの横顔があった。

 

「あ……え……『パエトーン』、様……? っは!」

 

 己の状況を理解するや否や、一瞬で顎の先からつむじまできゅうっと真っ赤に染め上がるビビアン。

 

「ギャアアアアアアアアッ!」

 

 ビビアンの全身から、あらん限りの血が噴き出した。血相を変えて駆け寄り応急処置を行うヒューゴ。ぼうっと意識を朦朧とさせながら、ビビアンが大声で嘆く。

 

「ああ、これが目覚め、全て忘れてしまうのですね……!」

 

 瞼を閉じるビビアンに、アキラが叫ぶ。

 

「ビビアン、起きてくれっ!」

 

 仰せのままにっ。そう叫んで、ビビアンは起き上がった。膝も曲げず、鉛筆を立てるように、である。

 応急処置をしていたヒューゴは思い切り顔面からふっ飛ばされ、鼻血を流す羽目となった。

 

 鼻を押さえながら、ビビアンの安否を確認するヒューゴ。服は血だらけになっているが、身体には一切の傷が見られない。失血症状もないようだ。

 

 ある程度ではあるが正気を取り戻したビビアンに、狩人はビルゲンワースやメンシス学派、もといゴースを筆頭とした上位者について聞いてみた。

 

 何も知らない。言葉を発する前から、顔つきで答えが読めた。彼女の言葉によれば、ゴースだのゴスムだのと言った名前は聞いたことも無いのだという。

 

 数刻ほど前に聞いたのは幻聴だったのだろうか。狩人が自分の思考を疑い始めたそのとき、突然皆が叫ぶ。その内容はどれも「危ない」か「避けろ」のどちらかであった。

 

 背後の気配に身体が反応すると同時に、腹から刃が飛び出した。動けなくなった所に、もう一本。エーテリアスの両腕が飛び出す。

 

「狩人っ!」

 

 アキラの叫びも虚しく、狩人は力任せに裂かれてしまった。地面へ投げ飛ばされる右半身と左半身。真っ二つである。

 

 即座に片付けられるエーテリアスを前に、ビビアンは悲しみに唇を噛んでいた。まただ。また、予知で見た通りに、と。

 

 彼女の目には、ずっと他者の不幸を予見する力があった。問題は、その不幸を止める事が出来ないことだ。

 

 社会から、家族から、世界から。全てに拒絶された、忌まわしき呪い。『パエトーン』様は、唯一人それを祝福だと言ってくれたが。ビビアンが、アキラの方を見やる。

 

「『パエトーン』、様……?」

 

 仲間の死を前にして、彼の反応は余りに冷淡であった。ぱしんと顔に右手をあてて、それだけだ。

 

 彼の他の仲間、ライカンやアンビーへと視線を向けるも、皆同じような反応であった。目を揉みながら溜め息をつくライカンに、ヒューゴが怒りを込めた口調で話す。

 

「ライカン。仲間の死にはもう少し敬意を見せるべきだと思うがね? 俺ですら、悲しみは感じているんだぞ」

 

「ヒューゴ、お前……何も聞かされてないのか……?」

 

 ライカンは既に狩人の特性についてアキラから説明を受けていた。なんならリンには実例をビデオで見せられたのだ。ビビアンとヒューゴには知る由もない事であったが。

 

「貴様、何を言って──」

 

「すまない、遅れてしまった。つい気を抜いてしまったものでな」

 

「おかえりなさい、狩人。早かったわね」

 

 ビビアンは己の目を疑った。アンビーが声をかけた先に居たのは、遅れてアキラがおかえりと言ったのは──。

 

 狩人。先程、目の前でバラバラになって死んだ筈の男が、平然として立っている。だというのに、己とヒューゴ以外は当たり前の様にそれを受け入れている。

 

 気づけば、床に撒き散らされていた血液も、そこら中にへばりついていた臓物も、いつの間にかすっかりと消え去ってしまっていた。まるで、全てが悪い夢であったかの様に。

 

「アキラくん。一体何が起こっているのか、説明してもらえるか。俺としたことが、目の前の光景を信じられないものでな……」

 

 言葉を失うビビアンに代わり、ヒューゴが口を開く。振り返ったアキラは二人の様子を見るなり、そうだ忘れていた、と謝った。

 

 アキラの申し訳なさそうに説明する声を聞きながら、ホロウ内の探索を続ける二人であった。




ビビアンはある日突然めちゃめちゃ愛おしく思えるようになった。ほんとにかわいい。

アンビーの描写雑で申し訳ない。あの辺よく知らないんだ…トリガーって誰…?何…?
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