どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
「義のあるフリをして、平気で仲間を手に掛ける悪党め!」
怒鳴り声にも怯まず、セスを睨みつけるレイザーと、レイザーの睨みにも怯まず怒鳴るセス。お互いにその腹は煮え滾っていた。
「分かっただろ、ジェーン! これが奴らの本性だ! 俺の提案を呑んでれば、こんなことには──」
「今から呑むわ」
「なのにお前は──へ?」
思わず振り向くセス。レイザーですら呆気にとられていた。
目を丸くする狩人を意にも介さず、ジェーンが続ける。
「アンタの提案を呑むって言ったのよ。足を洗って、人生をやりなおすわ」
「え……はあ?」
片眉を上げて困惑するセスの顔は、狩人には見えなかった。
もし本当にジェーンがそのつもりで、彼が彼女を許したならば、狩人は彼女を殺す大義名分を得られなくなってしまう。せっかく車輪を強化したのに。
「本気よ、坊や。腕に力を入れてご覧なさい」
「はあ? そんなこと言ったって、筋弛緩剤が……えっ?」
ぷちん、と軽い音を立てて、セスの両手を縛っていた結束バンドは引きちぎられた。なんて膂力だ。流石は獣かと狩人は戦慄した。
「水を飲んだ分、汗を沢山掻いて、トイレにも行ったんでしょう? 代謝が良くなって、薬が切れたのよ」
「トイレは余計だろが!」
そっぽを向いたセスの頬は少し赤らめられていた。哀れな男、尊厳を大切にな。
……敵の目の前なことを忘れてはいないだろうか。随分と呑気にお話をしている。
我に返ったレイザーが、声を張り上げる。
「ジェーン! 貴様、裏切るのか!」
「話を聞いてたでしょう? アンタのおままごとにはもうウンザリ」
ならば良い。二人とも潰すだけだとレイザーが告げる。同時に、二人が構える。
早く抜け出さねば。戦場にて相手が一人、されど動けぬなど狩人の恥ではないか。
極限まで鍛え上げられた筋力の全てを右腕に込めながら、セス達の戦いを眺める。
……やけに相性が良いな。まさに一心同体というやつだ。
セスの防御を頼りに、ジェーンが攻撃を差し込んでいく。自分がされる側になったら冷静さを保てる自信がないな。狩人は思わず笑ってしまった。
レイザーの鈍重な攻撃の合間合間を縫うように、ちくりすぱりと細かい一撃を入れていく。蓄積されていくそれは、最後には致命的な出血を齎すのだ。
瞬間、レイザーの全身、パワードアーマー越しに満遍なくつけられた傷口から、一斉に血が噴き出した。その光景は、人間が発狂した時のそれに似ていた。
思わず膝をつくレイザーを、驚愕に目を見開いた狩人が見つめていた。
見たことのない
冷気といいこれといい、この街には色々な搦め手があるな。磔にされ藻掻く身体の中に、子供のようにわくわくとする好奇心が湧くのを感じた。
レイザーが起き上がる前に、セスが攻勢に出る。警棒を盾に突き刺し、聖剣擬きの要領で雷光を纏う大剣へと変貌させた。
それは、剣というにはあまりにも大きすぎた。大きく、ぶ厚く、重く、そして──警官の武器故不殺を狙ってのことであろうが──
迷いの無い一文字、真っすぐに大剣が振り下ろされる。それがレイザーの右肩の骨を軽々と粉砕すると、続けてジェーンが流れるように彼の脇腹を切りつけていった。
翻弄とはまさにこのことであろう。遂に拘束を破った狩人は、慎重に地面に降りながら感心していた。恐ろしい程の連携である。
ここまでの連携ができる仲間など……居たな。脳内に響く丸ノコの音を振り払うように、車輪を回した。いつの間にか服も変わっている。
……既に戦闘が終わっている。折角抜け出したのに。狩人は三角頭をしなしなにして体育座りで落ち込んでしまった。折角血晶マラソンしたのに。
声を掛けようか迷うセスの手を、バカと小さく怒鳴るジェーンが思い切り引っ張った。あんなものと関わるな、と続きを添えて。
すぐに狩人も足音を聞いた。騒ぎを聞きつけた大勢のギャングどもが押し寄せる音だ。
これは不味い、と急ぐ脳に反してのっそりと立ち上がる身体。ジェスチャーの後はいつもこうである。思わず悪態をつく狩人。
三角兜を外すと逃げるセス達の背中が見えた。どうせ一人ではどうしようもないのでついて行くことにした。
走りながら、狩人は考えた。あのジェーンとかいう女、本当に殺すべきなのだろうか。このまま逃げれば後は治安局が人質を助けるであろうし、セスの尊厳に至っては本人からの許しが出ている。
そもそも、恐らくだが彼女はこのまま自首するつもりである。法が彼女を裁くのならば、自分に出る幕は無い。
……後はセスに任せるか。どうせあの二人を相手に勝てるわけもない。
「お前はっ……狩人!」
顔を明るくするセスとは対照的に、ジェーンはぎょっとした顔でびくりと肩を震わせた。
数秒経って危害を加えてこない事を確認すると、ようやく安心した様であった。
「それにしても、あいつらどこまでついてくるんだ……!? きりがない……!」
「もうすぐそこよ、頑張って……!」
息を切らし始める二人。ぽいぽいと紐付きの火炎瓶や時限爆発瓶を後方へ投げていると、遂に裂け目を見つけた。
が、山獅子組が狩人達を包囲するのが先であった。一際大きな身体をした男が憎しみを込めた言葉を放つと、ジェーンは皮肉を込めた嘲笑を返した。
「ジェーン……! まさかお前が、山獅子組を裏切ろうとしていたとはな……」
「どうしたのよ、そんなにカッカして……あの大男に怒鳴られるのがそんなに快感だった?」
……ちょっと言い過ぎじゃないか? 狩人がジェーンを見やると、セスと目が合った。狩人と同じ「こいつもしかして止めた方が良いのか?」の目をしている。
「てめえ……口を縫い付けてやる!」
「だって事実でしょ? レイザーがアンタにいい顔してるのなんて見たことないもの」
言葉の代わりに目配せのみで、セスと語り合う。「こいつは止めないとダメだ」で合意ができた。
さあ止めようと狩人達が口を開いた時、ジェーンがトドメを刺した。
「それでもイイって言うんだから……あの男に、パパの面影でも見てた?」
気でも触れたかこの女。恐怖と怒りに引き攣った顔でジェーンを揺さぶる二人。ヤーナムですらここまでのことはそうそう言われないぞ。千景もびっくりの切れ味である。
言われた側の大男を見やる。怒るどころかうずくまって泣いている。子分達が寄ってたかって彼を慰めるその光景を不思議だとは微塵も思わなかった。
不味い、不味いぞ。このままではヤーナム
ヤーナム野郎、冒涜アメン、ミコラーシュ、HPマイ血晶。思いつく限りの暴言を脳内に浮かべるが、どれも彼らには伝わりそうにない。というかさっきのあれを超えられる気がしない。
畏敬の念すら籠もった瞳をジェーンに向ける。この女にだけは一生口喧嘩を売らないでおこう。心に誓っていると、裂け目から銃弾が飛び出してきた。
「全員直ちに抵抗を止めなさい! 貴方がたには黙秘権があります!」
裂け目の中から飛び出してきたのは、治安局の連中であった。見覚えのあるピチピチのラバースーツに、恐らく正気を取り戻しているであろう三節棍の小女。セスが駆け寄っていく。
「朱鳶班長! 聞いてください! どうか! この俺に免じて彼らに猶予を与えて下さい!」
セスが必死の説得をしている。朱鳶というのか。なぜ笑いを堪えているのか、狩人には分からなかった。朱鳶が説明を始めた。
なんとあの女、治安局の回し者だったらしい。盗み聞きをしていて知った、衝撃の真実である。
……この街の治安官というのは、強くなるほど変態性が露わになる生き物なのだろうか。ジェーンとセスの服を今一度眺め、狩人は頭痛を覚えた。
真実を伝えられたセスの表情が切り替わる様はまるで信号機のようであった。暫くは笑いの種に困らんな、と口角を上げる狩人であった。
打って変わって場所は取り調べ室。狩人は今までの出来事を語らされていたのだ。
「……分かりました。今日の所は、もう帰っていただいて結構です」
「そうか。では良い夜を」
証拠不十分。手袋の為指紋は残っておらず、狩人の血液も新エリー都に来てから二度目の死を迎えた際に消え去った。
おかげで狩人は、どうにかこうにか下手な嘘で乗り切ることができたのだ。嘘だとはバレているだろうが。
GPSとやらを頭皮に埋め込まれることすらなかった。今回の事件の証人として、今度連絡を行うとは伝えられたが。
出口にて、彼らにもう一度別れを告げる。時計で気づいてはいたが、もうすっかり夜であった。まったく随分長い取り調べである。捕らえたらその場で焼き殺すヤーナム式の方が楽だ。
早く人形ちゃんに会いたい。人気の無い裏路地に着くなり徴を使う狩人であった。
黄金時代篇とロスト・チルドレンの章大好き。
出血のフォントはダクソ無印の英語版を真似しました。調べてみたら3は白文字だった……記憶が……
そろそろビビアン編やるかも。パエキチにドン引きする狩人を見たいし書きたいので。