どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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今回短め。セスくんって滅茶苦茶体温高そう。かわいいね…


レバーの時間だ そして、温かい水の時間だ

 見渡して見ると、大勢の者が捕らえられていた。その手首の縛り方の乱雑さからして、治安局によるものではないのだろう。治安局の者も、一人捕らわれている。猫男だ。

 

 猫男はずっと起きていたようであり、なにやら怒りに顔を歪めている。

 どうせ他にすることもないので、声をかけてみることにした。

 

「暫くぶりだな。一体なにがあったのだ」

 

「お前は……」

 

 狩人は、あの後青衣を治せるかもしれないと暫く猫男に背負われていたこと、山獅子組を名乗るギャングに拉致されたこと、その二つを聞いた。ついでに、彼の名前もだ。

 

「それは大変だったな。これから宜しく頼むぞ、セス」

 

「……へっ? ああ……こちら、こそ……?」

 

 随分驚いた様子であったので理由を聞いてみると、こちらの態度の急変ぶりが原因だと教えられた。

 今は仲間だろうと返すと、一瞬怪訝な顔をした後、諦めた様に大きなため息を吐いた。

 

 少し話しただけでも分かった。この男、正義心の塊である。

 悪を許せず、善を助けずにはいられない。ヤーナムではまず見ない人種だ。

 

 ……正確に言えば一人、あるいは一体だけ見たことがあるのだが、出会った時には地下死体溜りで生きたまま「歪んで」いた。

 

 思い出を振り返っていると、鼠の女がやってきた。挑発的な格好の女は、どうやらこのギャングでかなりの地位を持つ者らしい。顔をみるなり、セスが怒りに顔をゆがめた。

 

「ジェーン……!」

 

 睨むセスに、嘲笑するジェーン。鼠と猫というのは、いつだって仲の悪いものだ。

 案の定、激しい口論へと発展した。大声を荒げるセスに対し、ジェーンはぞっとするほど静かに言葉を返していくだけであった。

 

「つまりだ、ジェーン! お前には善性がある! チャンスがあるんだ!」

 

 ……なんか説得し始めてないか? よくよく見てみれば、セスはにこやかな笑顔で女を説得している。お前は善人、やり直せるのだと。

 ジェーンの冷たい反応を見ながら、狩人は確信した。

 

 この男、馬鹿だ。それも、真性の。良く言えば真っすぐなのだが、それにしてもこれはあんまりだろう。

 敵を騙そうと嘘をついているだけだったならば、その演技に畏敬の念すら払っていただろう。

 

 だがこの男は本物だ。本気で、この女が更生出来ると思っている。己を誘拐し、現在進行系で大量の人質を取っているこの女がだ。

 

 結局、彼は説得に失敗したのはもちろんのこと、自らの指示で水を隠させていた人質を庇い、他人の三倍量の水を飲まされることとなった。

 

 正義心と腕っぷしだけは、まったく大したものである。なんとか水を飲み終え気持ち悪そうにしている彼を眺めながら、そんなことを考えていた。

 

 これで頭脳明晰だったらば、ヤーナムすらまともにできたかもしれない。

 ……流石に無理か。間抜けな考えを払拭して数時間すると、セスの異変に気が付いた。

 

「うぅっ……ふっ……ぐぅっ……!」

 

 うずくまったまま呻いている。持病でもあるのだろうか。暇つぶしがてら話しかけてみることにした。

 

「貴公、どうした」

 

「えっ? いや、なんでも……ふぅっ……ない……っ!」

 

 よく見てみると、その顔はほんのり赤みを帯びている。拘束される趣味でもあるのだろうか。

 英雄色を好むというやつか。勝手に納得していると、彼の目にほんのり涙が浮かんでいることに気が付いた。

 

 狩人が頭を悩ませるまでもなく、見張りに向かって、遂にセスが声を張り上げた。

 

「なあっ! 頼むっ! さっきから何回も言ってるだろ!? 早くトイレを──あっ……」

 

 しょわあっと、スプリンクラーのような音が膝立ちのセスから流れ始めた。尤も、流れ始めたのは音だけでは無かったが。

 

 近くに座っていた狩人は、ふと己の尻が暖まるのを感じた。視線を下ろしてみれば、黄ばみを帯びた液体が狩人のコートを濡らしているではないか。

 猛烈に嫌な予感を覚えつつも、その黄色い水の流れてくる先を視線でなぞってゆく。

 

 最悪なことに、狩人の予想はしっかりと当たっていた。

 

「What the fuck is th──OH FOR THE FUCK SAKE NAH!!」

 

 慌てて、みっともないローリングで距離を取る。確かに今まで糞だの死体だのが積み重なった様な不潔極まる場所を掻き分けてきた狩人だが、好きでやっていたわけではない。

 

 ほかほかと湯気を立てる黄色い温水の出処は、セスの股ぐらであった。彼はぞっと顔を真っ青にすると、今度は梅干しが如き真赤に染めた。リトマス試験紙みたいだな、と狩人は思った。

 

「ううっ……見るなあっ……見るなよぉっ……うぐっ、うぅっ……」

 

 うずくまる背中からさあっと距離を取る群衆を見て、哀れな彼はとうとう泣き出してしまった。

 耳には鼻水を啜る音が、鼻には嫌なアンモニア臭が、目にはいい年して汚水と共にすすり泣く大男が入り込む地獄の空間の誕生である。

 

 あんまりにもあんまりなその光景にいくらなんでもと憐れみを覚えそっと近づくと、大きく小さな背中に声をかける。そういうこともあると。私は無いが。

 

「なあ、俺も悪かったよ……今度からは行かせてやる。とりあえず、まずはそれを乾かしに行こう……」

 

 ふと、声が増えた。この男、見張りの悪党にすら同情されたのだ。

 そのまま別室に連れていかれ、出てくる頃には服は完璧に乾いていた。それでもあまり触りたくはないが。

 

 今だ落ち着きを見せない羞恥心と惨めさに、彼は部屋の隅っこへ行くと、すっかり口数を減らしてしまった。

 泣き腫らししょんぼりと口を尖らせた顔の上ではぺたんと耳が座っており、大きすぎる尻尾も力無く地面に身を任せている。

 

 体育座りで俯き壁の隅を見つめたまま動かない彼をこれ以上苦しめようとする者など、もはやこの世には存在し得なかった。

 

 おのれジェーン。狩人は心に誓った。鼠は大嫌いなのだ。特に、人間ほどの大きさがあるようなやつは。

 セス治安官の尊厳にかけて、彼女を殺す。あと子供も人質になってたし。

 

 見張りが居なくなったのを見計らい背中で縛られた両手をポッケへと突っ込むと、取り出されたのは慈悲の刃。

 結束バンドと呼ばれているそれをぷつんと切断すると、ざわつく群衆に目をやった。

 

「殺されたくなければ、大声で騒ぎ立てろ。私がドアから逃げたとな」

 

 ……静まり返っている。仕方が無いので天井へ向かってエヴェリンを一発ぶち込むと、途端に悲鳴が室内を埋め尽くした。

 

 ドタドタと聞こえてくる足音を確認するとドアを開け放ち、青い液体の入った小さなガラス瓶を慣れた手つきで取り出す。

 ごくり。一息に飲み込むと同時に、ならず者達が部屋へとなだれ込んできた。

 

「誰だ! 銃声がしたぞ!」

 

 騒ぎ立てる連中の後ろを、ゆっくりと歩いて通っていった。

 青い秘薬。医療教会の連中は全くもってろくでもない奴らばかりだが、その発明には目を見張るものがある。

 

 あの鼠の女が見当たらない。どこだどこだと探していると、部屋の出口を見つけた。このスペース自体が、一つの大きな部屋だったのか。

 

 敵陣のど真ん中を堂々と通り抜け、部屋を出る。幸いここは建物の中、ホロウ内といえど空間の歪みもマシなものであろう。

 ちまちまといる見張り達を一人づつ片付けながら、鼠を探し始めた。

 

 一方ジェーンは、治安局からの極秘スパイとしてギャングに潜入したその女は、人質の脱出経路を探した帰りであった。まったくもって成果は無かったが。

 

 何も知らない間抜けな治安官と、彼が連れて行くと言って聞かなかった明らかに厄ネタな黒ずくめの男。予期せぬトラブルに頭を悩ませ、どうしたものかと首を捻らす。

 

「けど一番の問題は……これよねえ……」

 

 大きなため息をつく彼女の額には、冷や汗が浮かんでいた。

 

 先程からもう何度も目にしている、死体。その殆どは激しく損壊しており、背中から中身を引き摺り出されるようにして死んでいる。

 

「何度見ても、気分が悪いわ……早く報告しなくっちゃ……」

 

 報告する相手がまだ生きていればの話だが。あらゆる角や隅を警戒しながら、音を立てないよう慎重に進んでゆく。それが功を奏した。

 

「売女めが!!!!!!!」

 

 耳を突き破るような、怒号。全身の肌を粟立たせながら全力で発される脳からの危険信号に従い飛び退くと、鈍い音を立てて半透明の何かがコンクリート製の床へと叩きつけられた。

 

 ゆっくりと、何かが全貌を現した。半透明なそれが、突然くっきりと輪郭を得る。

 その輪郭の中に、彼女が見たものは──。

 

「車輪……?」

 

 黄金の三角兜から下の全身を厳かな白装束で包み込んだ、左手に折りたたみ式の銃を持ち、右手で巨大な車輪を抱える変態(狩人)の姿であった。




セスくん公式で肉体も精神もリョナられてくれるのありがたすぎる。
可哀想かわいいセスくんをもっと下さい。私の右手もそう言っている。
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