日本初の面会交流アプリ「raeru」、ユーザーの養育費支払い率は全国平均の約3倍:GUGEN Software・境 領太
【イベント情報】
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日本では今、子どもの10人に1人が両親の離婚を経験しています。養育費を受け取れているのはそのうちの3割弱にすぎず、このことが子どもの貧困や経験格差につながっていると言われています。
GUGEN Software株式会社の代表、境領太(さかい・りょうた)さんは、この課題を解決できる、親と子どもの面会交流のサポートアプリ「raeru(ラエル)」を開発しました。
養育費問題の解決と、子どもの面会サポートにはどのような関係があるのでしょうか。サービスの概要や事業立ち上げの経緯などとともに話を聞きました。
この記事は、神奈川県の「かながわ・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム(KSAP)」(運営事務局:GOB Incubation Partners)に採択された起業家へ取材したものです。社会課題の解決に取り組むベンチャー企業を募集・採択し、メンタリングやネットワークによる支援などを通じてビジネスモデルの磨き上げと事業拡大を支援するプログラムです。KSAPの詳細はこちら
面会交流のボランティアがきっかけで事業化を決意
「面会交流」を知っていますか? 両親の離婚によって、父母のどちらかと暮らす子どもが、もう一方の親と面会することを言います。
耳慣れないこの言葉を境さんが初めて聞いたのは、知人のシングルファーザーからある体験を打ち明けられたときでした。
「その知人は子どもから『お母さんに会いたい』と言われて、別れた奥さんとLINEでやり取りをしていました。すると、長文のLINEが返ってきて、お互い感情的になってしまい、なかなか面会交流をさせてあげることができなかったそうです」
子どものために面会交流をさせてあげたくても、それを叶えにくい状況がある。それを知った境さんは、「これは大きな社会課題なのではないか」と考え、早速、実態を調査するために面会交流を支援する団体でボランティアを開始。月に数回、実際の面会交流に付き添ったり、LINEで日程調整の仲介をしたりといったサポートを行うようになりました。
「実際に面会交流の現場に立ち会って、親との面会交流は子どもにとってすごく大切なことだと感じました。自分が両親から大切にされていることを実感できる機会ですから。面会交流は子どもの大きな力になります」
しかし、離婚した相手とのコミュニケーションにハードルを感じている人が多く、このことが面会交流の妨げとなっているのです。
そしてさらにもう一つ、境さんは子どもたちの人生に大きく影響する社会課題にも気がつきました。それは、養育費の支払い率の低さです。日本において、養育費を受け取れている子どもは決して多くはありません。例えば母子家庭の場合に、父親から養育費を「現在も受けている」と回答した人の割合はたったの28%しかいないのだそうです。
「養育費をもらえないことは、子どもの貧困や、習い事ができない、行きたい場所に行けないといった経験格差につながります。両親の離婚が子どものハンデになってはいけません」
養育費の受給率や面会交流の実施率の低さは、父母のコミュニケーションに一因があるとわかっており、境さんはこの課題に本格的に取り組むことを決意。そこで視点をシングルファーザーから子どもに移し、子どもたちのための面会交流サポートアプリ「raeru」の開発に乗り出しました。
定型文の使用で、感情的にならないやりとりが可能
「raeru」は、離婚して離れて暮らす親と子どもが面会交流をするための日程調整を行えるアプリです。
離婚にもさまざまなケースがありますが、raeruのユーザーにはどのような人が多いのか聞いてみました。
「日本における離婚の手段は、協議離婚(夫婦の話し合いで成立する離婚)が約90%で最も多く、調停離婚(家庭裁判所を通して話し合う離婚)が8%、残りが裁判離婚と言われています(参照)。そうした中、raeruのユーザーは調停離婚をした方が43.8%です(2023年11月raeruユーザーアンケート結果)。つまり、ある程度もめていたり、葛藤があったりする方が多いのです」
離婚した相手とのLINEやメールに心理的負担を感じる人が多く、なかには「連絡先を知られるのが怖い」という人もいるそう。面会交流の支援団体は各地にあるものの、自分の地域にはなかったり、あったとしても料金が高くて払えなかったりという課題もあるそうです。
「コミュニケーションが難しい元夫婦がメールアドレスやLINEアカウントを交換しなくても、アプリのみで面会交流に必要なやり取りを完結できるのがraeruです。当事者の2人以外にも、代理人、例えば祖父母や弁護士、支援団体などをアプリ内でのやり取りに招待できます」
raeruは無料で使い始めることができ、代理人が入る場合や今後追加を予定しているオプション機能を利用する場合は有料です。
「使い方としては、はじめに簡単な情報を入れてアカウントを登録したら、面会の日程候補や方法などを入力し、相手に送ります。詳細設定では面会時の条件、例えば『お小遣いはいくらまでにすること』といったような内容も入力できます」
日程候補を送ると、それが相手に通知され、確認をしてもらう仕組み。面会が確定すると、前日にはリマインド通知も届きます。
最大の特徴は、あらかじめ用意された「定型文」を使って相手にメッセージを送れること。これによって、感情的にならずスムーズな事務連絡が可能になると境さんは続けます。
「定型文は、もともと私たちがデフォルトで用意していたものもありますが、ユーザーからの要望で追加できるようになっています。今ではサービス立ち上げ当初の3倍、およそ80種類まで増えました。
最近うれしかったのは、『ありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせました』という定型文を追加してほしいという要望を別居親(離婚して、子どもと離れて暮らしている親)のユーザーからいただいたことです。このような感謝のメッセージが双方でできる世界観というのは、アプリをつくっている身としてうれしいですね」
raeruユーザーの養育費支払い率は84%、全国平均の約3倍
2022年8月にアプリをリリースしたraeruは、現在登録ユーザーが約2,500人、面会交流の実施数は1,300件を超えるまでに成長しました。
父母のコミュニケーションをraeruがサポートすることが養育費の支払いにもたらす効果を、境さんは自社で行った調査を用いて説明してくれました。
「raeruユーザーの面会交流の実施率は80%で、同じくユーザーの84%が養育費を支払っているという結果が出ました(2023年11月raeruユーザーアンケート結果)。日本全体における支払い率が28%なので、これはすごいことだと思っています。それも、支払う側となる別居親の年収は、40%が「400万円以下」で、そのうち約半分は「200万以下」というデータが出ています。
この結果から、raeruとして父母のコミュニケーションをサポートすることで、面会交流によって子どもと愛情を確認する機会が維持され、養育費も支払われているということが見て取れると思います」
もちろん、養育費の支払いと面会交流は、それぞれ独立した子どもの権利であるということも、境さんは強調します。
「面会交流をしなければ養育費を払わなくていい、ということを言っているのではありません。養育費も面会交流も、どちらも別々の子どもの権利です。養育費を払ってもらうために面会交流をさせるということではなく、あくまで子どもの気持ちを第一に考えて面会交流は行われるべきで、養育費は受け取れるものという考えです」
支援団体との連携で、包括的なサポートを目指す
ユーザーから高い評価を得ている一方で、さまざまな改善要望や相談も届くと境さんは話します。
「このアプリは離婚した両親双方が同意していないと使えないサービスなのですが、アカウントの登録時に、招待コードを相手に伝える必要があります。それを送ることに抵抗を感じるという人も多いので、今後はraeruが招待コードをお相手に送ったり、raeruのメリットをお伝えしたりなど、利用における心理的なハードルを下げる施策も行っていく予定です。
また、アプリだけではどうにもできない問題もあります。例えば、最初はアプリでやり取りできていたのに、途中から面会を拒否されてしまった、という問い合わせが来たりします。これはわれわれでは解決できないところでもあります」
一つひとつのトラブルの解決までは、raeruではできない。そこで境さんは、全国15以上の面会交流支援団体との連携を開始。アプリ上には支援団体へのリンク集を付け、何かあればそちらに相談できるような仕組みをつくりました。また、支援団体のステップアップ先としてraeruを紹介してもらうようにしています。
「支援団体とは自分が直接お話しして、raeruのことを理解してもらった上で連携を進めています」
子どもたちが親の愛情を確認できる世界を実現したい
raeruの今後の展望について、境さんに聞きました。
「将来的にはraeruがサポーターとして間に入り、見守りや連絡調整できるような機能を提供していく考えです。誰かが見ているだけでも攻撃的な言葉を使わなくなると思いますし、サポーターを挟んで日程の調整を行えば、面会交流がスムーズに実施されるでしょう。それを実現するには、弁護士や支援団体の力が必要になるので、連携しながら取り組んでいきたいと思います」
最後に、達成したいゴールについても教えてもらいました。
「両親の離婚が、貧困や経験格差といった子どものハンデにならない世界を実現したいです。養育費や面会交流を通して、子どもが親の愛情を確認できる世界を実現していきたいと思っています」
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