どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
「あれはっ……! エーテルを取り込んで……!」
「どういうこと? ゴハン食べてるの?」
焦燥を顔に浮かべ柳に問う蒼角。再びブリンガーに追いついてみれば、大量のエーテルを積んだコンテナを吸収している真っ最中だったのだ。
ふと、悠真の瞳に小さな何かが映る。遥か上空に浮かぶエーテルの塊の中に一つだけ混じる、ガソリンの詰まった赤いドラム缶であった。
「早く、止めないと……ゴホッ」
当てる。心に誓い、弓を構えた。こんな時に限って起きた発作を憎みながら、震える腕で弓を持ち上げる。普段は軽いそれが、岩のように重く感じた。
「浅羽隊員、身体が……!」
「平気です……カ、ハッ……」
掠れる声で弓を番える。震えて狙いが定まらない。身体を足で支えるのも難しくなったその時。
すうっと、息を吸い込んだ。静かに目を閉じ、ゆっくりと神経を集中させる。
目を、見開いた。もう、震えはない。躊躇いもなく、弦から指を離した。
瞬く暇もなく、命中。爆発はエーテルの流れを伝い、吸収していたブリンガーをも吹き飛ばした。
「ハルマサ! スゴい!」
その場で飛び跳ねる蒼角。しかし、悠真の警戒はまだ解けていなかった。じっと、下方に立ち込める粉塵を眺める。
案の定、ブリンガーはもう一度起き上がってきた。その身体の周りには、三つの目玉が浮いていた。
虚空から召喚された巨大な腕に、またもや突き飛ばされた。
「またかよっ……!」
悪態をつきながら落下する悠真。なんとか着地を決めると、続いて蒼角と柳も着地した。
「貴公ら、待ってくれ。ああ、良かった。無事だったか」
背後から聞こえた声に振り向くと、狩人。数十分ぶりの再会に、皆が目を丸くした。
「あれ、狩人じゃん。いつの間にか居なくなったと思ったら……もしかして、死んでた?」
「あの高さから落ちて生きていられる筈も無いからな。待たせてしまい申し訳無い」
笑顔の悠真に答える狩人。……そういえば、彼らはどうやってあの落下を生き延びたのだろうか。
狩人が首を傾げていると、6課の面々の後ろに立ち込める暗雲から、一閃の光が瞬いた。
「伏せろっ」
狩人の声に全員が身を屈めると同時に、真っ黒な光線が頭上を通り抜けていった。顔を上げてみれば、ブリンガー。
「逃げろ!」
「了解した」
アキラが叫ぶや否や、韋駄天、狩人は走り出した。全く逃げ足だけは速いものである。追う様に、6課の皆もついてきた。
遂に広場が見え始めた。が、その瞬間、光線の爆風が全員を吹き飛ばした。倒れ込む一行に、ゆっくりと照準を定めるブリンガー。
不味い。柳と狩人、そして悠真が咄嗟に蒼角を庇うよう身を被せる。
その時。飛ばされた光線を、一本の刀が切り払った。
「皆、待たせた」
「雅……っ!」
最も早く反応したのは柳であった。続いて、他の皆も目を見開いた。
「猪突猛進、お届けだぜ!」
「さっすが走り屋、仕事が早いわね!」
雅の隣では、バイクに乗ったシーザーが親指を立てていた。その周りには、シーザーを褒め称えるニコを始めとした邪兎屋の一同。
「貴公ら……皆、来てくれていたのか」
ぶわり。感動の再会を邪魔する様に、ブリンガーの瘴気が空を覆った。真っ赤な雲に包まれたそれは、秘匿を破ったヤーナムのそれと似ていた。青ざめた血の色、というやつである。
釣られて、通路からうじゃうじゃと敵が湧いてきた。ブリンガーと敵の大群で挟み撃ちになる形である。
ガトリングでどうにかなろうかと考えていると、怪物共の前にニコ達が立ちはだかった。
「ただのザコでしょ? やったるわ!」
助かった。如何せん群れは苦手なのだ。
「っしゃあ! デカいのは俺様が……」
「いや……」
意気揚々と剣をかざすシーザーに、雅が告げた。
「あれは、私の敵だ……」
きょとんとするシーザーを置いて、6課の皆が続いていった。
「ここまで有難うございます……」
「あ~あ、もうひと残業かぁ……」
「終わったらゴハンだぁ〜!」
ぞろぞろと、皆がシーザーの横を通り過ぎていく。……自分も何か言った方が良いのだろうか。結局無言でノコギリ鉈を展開した。ついでに近くにあったランタンを灯した。
狩人の参戦に異を唱えるものは居なかった。当然といえば当然であるが。彼もブリンガーとは直接決着をつけなければならない立場にあるのだから。
……尤も、実際に6課が異論を唱えなかった理由は「どうせ言っても聞かないだろうから」というものであるが。
「貴様が元凶か」
「だったらどうす──」
雅とブリンガーの会話を遮った爆音に思わず一同が振り返ってみれば、左手に携えた馬鹿げた大きさの大砲から煙をくゆらせる狩人が居た。
「なんだ。私は世間話をしにきたわけではないぞ」
言い訳をするように狩人が発した言葉に、それもそうか、と皆がブリンガーへ突っ込んだ。柳の薙刀、悠真の弓に雷光が迸る。
雅と蒼角がブリンガーの身体を冷気で蝕んでいる間に残り少ない水銀弾をガトリングで消費していると、ブリンガーが狩人へ向かって一直線に突っ込んできた。
「遠くからチマチマと……小賢しいっ!」
「狩人っ!」
一瞬にして距離を詰められた。追い払おうと目を見開き汗だくでパニックに陥る狩人。
「
ヤケクソに松明を振り回すと、そのやけに高い火力にブリンガーが仰け反った。同時に、その背中に雅が一太刀。エーテルが噴き出した。
この辺にしておくか、と狩人は散弾銃を取り出し最後の一発を浴びせると、全速力でステップを踏んだ。
展開したノコギリ鉈を振り下ろす。縦方向に遠心力を乗せて繰り出された鉈の刃は、半ば鈍器の様にブリンガーの身体に突き刺さった。
そのまま力任せに振り抜くと、ブリンガーの腹は蛸を模したウインナーの様に裂かれてしまった。だがその高い生命力は、その傷をいとも容易く塞いでしまった。
右腕での反撃。狩人を叩きつぶすべく振り下ろされたそれをコートをはためかせながら左へ躱すと、その腕が地面から離れるより先に変形攻撃を繰り出した。
そのまま二、三発程連撃を繰り出す。悪意のままに並べられた歯は、その太く頑強な筋繊維を絡め取り、ぶちぶちと音を立てながら引きちぎっていった。
残虐極まりない激痛にブリンガーが堪らず叫ぶと、その背中に何本もの矢が突き刺さる。悠真だ。
今度は狩人の後ろから、柳の援護。雷光で動きを止める。
その隙をみすみす逃す雅ではなかった。蒼角の冷気がブリンガーの右腕を地面ごと凍てつかせると、雅が一振り。すっぱりと切断してしまった。
クソ、と悪態をつき、ブリンガーが遥か空中へと飛び上がる。
あんな高所から何を、と考える暇もなく虚空から飛び出したのは、時計塔程はあろうかという巨大な腕。その手には、これまた巨大な刀が握られていた。
「妖刀の力、思い知るがいい!」
そのまま、横に薙がれる刀。一度は身を低くして躱せたが、その腕はすでに二撃目を繰り出そうとしていた。
「根元だっ。懐に潜れっ」
狩人の叫びに反応し、咄嗟に皆腕の根元へ潜り込む。すると、巨大な腕はこちらへ何の手出しも出来なくなってしまった。やはりな。
力を使い切ったのだろう。巨大な腕は虚空へと還り、再び本体が降り立ってきた。
懐へ潜る。狩人がやたら前に出る理由の最たるものだ。
浮かべた目玉を円の軌道で回転させ全方位に光線を放つ攻撃も、ブリンガー本体の真下だけはがら空きになっていた。
攻撃の為地面へ近づく度に、ノコギリ鉈を振った。必死の連撃を嘲笑するように躱してはちまちまと身体を抉り取る狩人に、ブリンガーの腸は煮えくり返った。
再び、空中へ飛び上がるブリンガー。巨大な腕は、今度は地面から飛び出した。大技を繰り出すべく力を溜めているのだろう。
その時、獲物の弱点を探り出すために発達した狩人の観察眼が、新しいそれを見つけ出した。
巨大な腕の、その根元。地面に触れるか触れないかの場所に、巨大な瞳があったのだ。
本来大技が来ると分かればひたすら回避に徹する狩人だが、近くでランタンを見つけ死ぬ事のリスクが消えた今、この好機を逃す理由はない。
「あの目玉を潰すぞ」
「えっ?」
悠真と彼を始めとした皆が呆気にとられている間に、目玉へ向かって全力で地を蹴った。一瞬遅れて意味を理解し、全員が駆け出すと、狩人はあっという間に抜かされてしまった。
全く凄まじい速度だと半ば呆れながら目玉の前へ立つと、既に各々これでもかと言う程グサグサと武器を突き刺していた。狩人ですら少し哀れみを感じたほどである。
「少し空けてもらってもよいかな」
狩人の言葉に従い皆が目玉から少し離れると、狩人は瞳に向かって油の詰まった壺を投げつけた。困惑する一行。
やっとこの時が来た。家政一行とレインとの一件の後、地底で手に入れた血晶石を取り付けて以来、使う機会を今か今かと心待ちにしていたのだ。
目玉へ近づきながら、狩人が武器を取り出す。杭のようなそれは、複雑怪奇な機構に覆われていた。
雅の方を見やり、一言。
「雅、良く見ていろ。きっと気に入るぞ」
言い終えるやいなや、その場で思い切り仰け反り力を溜め始める狩人。遂にブリンガーの力が復活しかけたその時。
ホロウ中に響き渡りそうな程の、爆音。狩人以外の全員が思わず耳を塞いだ。
限界まで溜め込んだ物理エネルギーを一気に爆発させ、杭を打ち出す。その破壊的という他無い絶対的かつ圧倒的な火力に、巨大な瞳は哀れにも爆裂四散した。
もう一度、雅へ視線を向ける。真顔のまま、とろりと鼻血を垂らしていた。どうやら相当気に入ってもらえたようである。
間髪入れずに、内臓攻撃。巨人のスプーンで抉られた様なその瞳に、ぶちゅんと音を立て勢い良く右腕を突き刺す。
勢いを殺すことなく根元まで腕をぶち込むと、瞳の奥に存在する繊維や良くわからないゼリー状のなにかをがっちりと握りしめ、渾身の力を込めて思い切り引き摺り出した。
あまりに惨たらしい光景に、蒼角の目を覆う柳。雅ですら顔を顰めた。
悠真は悠真で、散弾銃で体勢を崩されたあの時狩人が自分に行おうとしていたことの正体を知り、顔を青くしながらシャツ越しに細い腹部をさすっていた。
「かくなる上は……妖刀の力っ!!」
狩人が嗜虐の悦楽に包まれ脳を蕩けさせたのも束の間、突然の衝撃波に全員広場の入り口近くまで吹き飛ばされた。
見上げれば、更に大きな腕が更に大きな刀を握っているではないか。もう一度根元へ潜り込もうと立ち上がったその時。
雅が、自身の刀を軽く横に薙ぐ。すると、その刀身が青い焔を纏ったではないか。思わず目を見開く狩人。
初めて見る代物だったが、それでも分かった。あれは
だが、雅の背中に絶望は宿っていなかった。静かに溢れ出る雪崩の様な怒りの中心に感じるのは、覚悟、決意、そして──けして曲がることのない、固い意志であった。
まさか。そんな筈はないと狩人は目を疑った。まさか、従えているのか。忌まわしい精霊、恐らくはその類に当たるそれを、頑強な意思で我が物としているのか。
瞳を震わせる狩人を意にも介さず、巨大な腕が振り下ろされる。同時に、雅の一閃。
全身の力。それに仲間への思い、己が信念、そして家族、母への想いを乗せた全力の一太刀は、ブリンガーの操るその悍ましい力を打ち砕くに叶った。
雅の刀から放たれた、青く光る巨大な斬撃。それは妖刀をブリンガーごと両断するにとどまらず、遥か遠く、ホロウの端まで飛んでゆき、その真っ黒な球体に大きな裂け目を入れるにまで至った。
「バカな……この、私がぁっ……」
薄れゆく意識と勢いを増す激痛の中、ふとブリンガーの目玉の一つが、狩人の瞳を覗き込む。
「なっ──」
圧倒的な視力が、狩人の瞳孔、その中に潜む「それ」を捉えた。捉えてしまった。
それは、深紅の空に浮かぶ、深紅の月。そして、その”青ざめた血の様に赤い月”に君臨せしめる、”
「ああ……あ……あ……」
上位者。大いなる者。名状し難きそれの、その冒涜的な輪郭であった。
宇宙的恐怖。秘匿された狂気。悍ましい神秘の片鱗を目の当たりにし、堪らず、発狂。正気を保つ事すら許されぬまま、ブリンガーの身体は木っ端微塵に吹き飛んだ。
……散ったか。こちらを見ていたので、最期に一つちょっとした
爽やかな気分で振り返る。丁度ニコ達もエーテリアス達を片付け終わった所の様だ。
数十分かけてホロウを脱出し港に到着すると、既に皆ブリンガー討伐を祝して宴会を開いていた。
お誘いか。少し、顎に手を当てて考えてみる。自分には当然、幾らでも時間がある。人形ちゃんの事が脳裏によぎったが、映画もたっぷりあることだ、退屈はするまい。
それに、彼女にも一人の時間というやつは必要であろう。どうせこの後、雅に渡す武器を確保する為すぐに夢へと戻る事になるのだが。
下らない話をしながら、屋台のテーブルを囲む。そこら中に灯された光が、月明かりと共に暗闇を照らしていた。
いつにも増して、美しい夜空であった。
最近プレステの調子が悪くてゼンゼロ開いて5分で熱暴走するので6章以降殆どストーリー進められて無いんですよね。
なのでとりあえずこの次エピローグ回的なのやった後は飛ばしたストーリー回収していこうと思ってます。どれからやるかは決めてないです。