どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
最近シリアスばっかですまない
数時間後、6課はバレエツインズ内部に居た。イアスに先導されながら。
新エリー都の医学とは凄まじいもので、あの程度の外傷なら完治とまではいかずとも、全くもって身体を動かす上で差支えがない程度にまで回復していた。
バレエツインズに居る理由はただ一つ。パールマン奪還の為。
そして、パールマンの居る所には、あの男がつきものであった。
「……もう知っているだろうが、狩人だ。改めて、宜しく頼む」
「……っ!」
枯れた羽根の帽子を見るなり体内に溢れる恐怖を押し殺し、蒼角の視界を塞ぐ様に立つ柳。あんなことをされてからでは当然の反応であろう。
雅以外の6課全員が、狩人に対して敵意を剥き出しにしていた。
「まあまあ、一旦落ち着いて。この調子じゃ、案内どころじゃないよ……」
「気持ちは分かるが、落ち着け。子供に手を出した事には、私も心を痛めているんだぞ」
アキラの窘めも虚しく、勢いを強める敵意。狩人も、わざわざ驚かせに来たわけではない。
パールマンが居ると6課が言うのを聞き、土下座までしてアキラに案内を頼んだのだ。
6課と再会させる事になると気付いた時のアキラの表情は凄まじいものだった。今思い出しても心が痛む。
「プロキシ様、この方は本当に味方なんですね?」
「もちろん。ただ……怒るのは至極当然の権利だと思うよ」
イアスにすら睨まれた。ごめんて。子供を殺そうとしたのには、確かに申し訳ないと思っている。
だが、あの時は敵同士だったではないか。つまりあれはノーカウント、ノーカウントな事象というものなのだ。
……本当に言ったらその場で殺される確信があったので口には出さなかったが。
「……分かりました。パールマンを追う、という点で利害が一致している以上、少なくとも今は味方です」
ようやく殺意から解放され、胸を撫で下ろす狩人。額に浮かんでいた汗を拭う。
依然として警戒や嫌悪はされているが、そんなものヤーナムでは挨拶代わりに向けられるものだった。笑顔を浮かべながら、狩人はイアスの後に続いた。
数十分後、悠真は凄く嫌な気分に陥っていた。あの男、やけに自分達と戦闘の相性が良いのだ。
それだけではない。あれだけ怯えていた蒼角が、いつの間にかすっかり彼に懐いていたのである。
「すごいすごい! どこから出してるの、それ〜!? もしかして、まだ食べ物があるの!?」
「すまない、食べ物はもうあらかた出しつくしてしまってな……後は、こんなものしか……」
にやりと口角を上げ、マジックの様にどこからともなく棒付きキャンディを取り出す狩人。蒼角は蒼角で、狩人の肩の上でそれにかぶりつき、その甘みに瞳を輝かせていた。
その男に肩撃たれてたよな……? 頭を抱える悠真。隣を見ると、柳も頭を抱えていた。というか、その場で蹲っていた。こっちの方が重症そうだな。
大切な養子がこんな気狂いノコギリ男に懐いていればそんな反応にもなるだろう。悩み込むシングルマザーを哀れに思う悠真。
そうだ、あの人なら。最後の希望に縋る様に、悠真は雅へと視線を向けた。
……雅は瞳を輝かせていた。お前もかよ。絶望する悠真。雅の視線は、狩人に、というよりは彼の握っている武器に向けられていた。
いつの間にか男の手にはノコギリでなく、刀が握られていた。洋風の拵えが施された柄から伸びるその刀身には、悍ましくも美しく、深紅の血がべっとりと纏わりついていた。
「お前、その刀……良い趣味をしているな……」
「褒め言葉と受け取っておこう」
「ああ、それで問題無い。本当に褒めているからな。見れば見るほど、実に見事な意匠だ……」
そういやこの人刀剣コレクターだったわ。顔を覆う悠真。腕を上げすぎてそろそろ疲れてきた。もう、いっそ泣き出してしまいたかった。なんなんだよこいつ。
改めて雅の顔を見る。表情筋一つ動いていない。が、その瞳には眩い金色の輝きが浮かんでおり、その長い耳はぴょこぴょこと凄まじい速度で跳ねていた。
「……欲しいのか?」
「──っ! いや、良い……大切なものだろう……?」
「ああ。だが、これと同じものは幾つもある。それで良ければ譲るぞ」
「……本当か」
「もちろんだ。この一本以外、私にはもう無用の長物だからな。売りもしない、”譲る”さ」
身体を蝕む妖刀故、不死でもない限り実用はおすすめしないが。そう狩人が付け加えると、雅は了解したとだけ呟き静かに頷いた。
狩人と雅が、無言で握手を交わした。その耳は空を飛べるのではと錯覚するほど激しく動いていた。
もし悠真が雅の隣に居れば、その鼻息の微かに荒くなる様子を確認出来ただろう。
「あと、あのノコギリ鉈があるだろう?」
「あ、ああ……待て、まさか──」
「譲ろう。他にも二十本程武器がある。欲しいなら、それも皆譲るが」
「……なんだと」
遂に雅の表情筋が動いた。口をあんぐりと開けている。感情が一周回ったのだろう、耳は寧ろ動きを止め、瞳の輝きも平時のそれに戻っていた。
「……どんなものが、あるのだ」
「そうだな……鞘と合体して大剣に変わる直剣だとか、刃が分かれて蛇腹鞭になる仕込み杖だとか……ああ、あとは背中で折り畳んだ柄と合体して大鎌になる曲剣とかも──」
「ゔっ……!」
どさり。胸元を押さえ、その場に倒れ込む雅。一番近くに居た狩人を始めとし、全員が彼女に駆け寄った。
狩人は服越しにでも分かるほど全身から冷や汗を噴き出していた。
「おいっ、どうした。起きろっ」
「……! ……ああ、すまない。あまりの刺激の強さに、一瞬気を失っていた」
安堵する一同。しかしその中で唯一狩人だけは、もう一つ、別の感情を抱いていた。
仲間を見つけた、喜びである。間違いない、この獣、
「そうか、そうか。仕掛け武器の良さが分かるか。いや、この面子に囲まれていれば当然の話か」
狩人は他の6課メンバーを見渡した。やはりこの雅とかいう獣以外、みんなして仕掛け武器を使っている。
──もしかすると、もしかするかもしれない。悠真の前に立つ。隠す気も無く警戒する彼の前で、おもむろに武器を取り出した。歪な形をした曲剣である。
「な、なに? なんか用があるなら……」
ガキィンッッッ!!!!
思い切り、変形機構を作動させた。複雑怪奇極まりないその仕掛けは、曲がりくねったその剣を一つの弓へと変貌させた。悠真の方をみやる。
「ふぅ〜ん……へぇ〜……」
目つきが変わった。「嫌いだけどセンスは良いなコイツ」の顔だ。内なる男の子が全力で刺激されているのだろう。
柳に獣狩りの斧を見せる。こちらはあまり効果が無いようで、奇遇ですね、と一言発するのみであった。
ならば、と蒼角の武器を見る。……なんだこれは。一見斧に見えるそれは、頭を展開すると冷気を放つ旗になる。見たことのない仕掛けだ。
自分のには似たような武器が無いのかと期待に満ちた顔付きでこちらを見つめている。すまない。
その旨を伝えると少し残念そうな顔をした蒼角だったが、もし似たものを見つけたら真っ先に知らせに行くことを約束すると機嫌を直してもらえた。
平然とした顔を崩さず、しかし柳の心には変化が生まれていた。
蒼角があそこまで懐く相手は多くない。少なくとも、根が邪悪な相手は見抜ける子なのだ。
「そろそろ、君の母親の所へ戻った方が良いのではないか。心配させてはいけないだろう」
狩人と蒼角が離れた隙に、こっそり聞いてみることにした。
「蒼角。あの男が、怖くないのですか?」
「えーっとね、最初はこわいって思ったけど、話してみたら悪い人じゃないって分かったよ!」
子供にブービートラップ仕掛けて人質にするのは多分悪い人だろ。
もう一度、狩人のいる方向へ顔を向けた。
「A"A"A"A"A"A"A"H"H"H"H"H"!"!"!"…………♡」
三匹の
……たかが
こんな男に、今の今まで恐怖していたのか。抱いていた懸念がなんだかバカバカしくなってしまい、思わず堪えきれない笑いが飛び出してしまった。
もう、いいか。雅もいることだ、今更裏切られた所で大した脅威にはならないだろう。少なくとも、ハティ三匹に負ける男には殺されないという確信があった。
悠真に助けてもらう狩人を見ながら、遂に警戒を解く柳であった。
全く話進まなかった。申し訳ない。
あそこからまともに仲良くなるの不可能だと判断してギャグ補正で無理矢理仲直りさせることにしました。許してくれ。