どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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6課編はちょっと長めになりそうです。多分三話じゃ終わらない。


リベンジマッチの時間だ。

「うぅ〜、やっぱりブキミ……」

 

「離れないで下さいね、蒼角」

 

 べっとりと柳から離れない蒼角。その背後で悠真が弓を構え、警戒を放っていた。

 

 エーテル活性により時折ちかちかと点滅する蛍光灯以外、一切の光が無い病院を、フラッシュライトで照らしながら進んでいた悠真達。

 

「とりあえず、主電源を入れに行きませんか? 光源がずっとこんな調子じゃ、すぐに目がやられちゃいますよ」

 

 それもそうだと柳が壁面の地図を見る。現在地は建物の三階。主電源は地下二階の奥にあるらしい。

 

「あ、すいません、副課長。やっぱこのままで大丈夫そうです!」

 

「そういうわけにもいきませんよ、浅羽隊員。弓使いにこの視界は命取りでしょう?」

 

「だからって、廃病院の地下二階なんて! 絶対なんか変なのが出ますってぇ!」

 

 不満を露わにする悠真を引き摺る様にして、一階へと降りていく。

 テーブルが並べられている場所へ出た。食事を取る場所だったのだろう。

 

 ふと、蒼角の嗅覚が何かを感知した。その正体に気が付いた瞬間、その琥珀色の目が輝いた。

 

「ピザだぁ〜!」

 

 テーブルの上の皿に、ピザが一枚、丸ごと乗せられていた。興奮する蒼角。

 

「ああっ、いけません、蒼角っ。ホロウに落ちているものを食べては……」

 

 恐怖も忘れ、すぐさま駆け出した。きっと腐っているだろうが、彼女の頑丈な胃袋なら平気であろう。なにより、彼女は腹ペコなのだ。

 

 可愛らしい笑顔を浮かべながら、ピザの切れ端を一つ、その手に取った。

 

 かちっ。

 

「かちっ?」

 

「ッッッ!! 蒼角っっ!!!」

 

 咄嗟に蒼角に飛びつき、抱き抱える悠真。チクタクと音を立てるピザから距離を取ったその瞬間。

 

 ──ピザが、爆発した。正確に言えば、机の下に仕掛けられた爆弾により吹き飛ばされたのだ。絶句する蒼角。

 良く見れば、ピザの切れ端にはワイヤーが巻かれていた。

 

「大丈夫ですかっっ!?」

 

 すぐさま二人に駆け寄る柳の腹部を、弾丸が掠めた。

 

「なっ……!?」

 

 弾の飛んできた方向へ、悠真がすかさず矢を放つ。

 だが、廊下の角からほんの少しだけ姿を現していた影は、すでに消えてしまっていた。

 

「まったく、良いシュミしてるね……」

 

 呟く悠真。なんという悪意だ。子供を罠にかけ、咄嗟に駆け寄って無防備になった所を、背後から射撃とは。

 一体、どんな日常を送っていればこんなことが出来る倫理観が養えるのか。

 

「ナギねえっ!! 大丈夫っ!?」

 

「大丈夫、少し掠っただけです。ですが、あれは一体……?」

 

「なんとな〜くですけど、予想がつきません? 副課長」

 

 柳の頭にも、すぐに顔が浮かんだ。とはいっても、その殆どはマスクと帽子に覆われているが。それでも、あの不気味な瞳はやけに印象に残っていた。

 

「……とにかく、電源をつけましょう。敵がいるなら、尚更この視界は危険です」

 

 すぐさま地下への階段を降りていく。ドアを空けると、打ちっぱなしのコンクリが剥き出しにされた狭い通路が一本だけ伸びていた。

 

 人ふたりがギリギリ横に並べない通路の天井には、黄ばんだ電球が一本。時折消えるが、まだ機能している。

 ゆっくりと、歩みを進める。先頭に悠真、その後ろには柳。そして最後列に蒼角という順であった。

 

 じめじめとした通路の反対側へと辿り着き、悠真がドアノブに手をかけた瞬間。

 ぞわり。悪寒が走った。穴を空けるように、じっくりとドアノブを見つめる。

 

 やはり。ドアノブの根元に、極々細いワイヤーが巻かれていた。そのまま刀で切断する。

 すぐに距離を取ったが、何も起こらないのを確認し、そうっとドアを開けた。

 

 ワイヤーが繋がれている先を、視線でなぞっていく。そして、その視線が終着点に達した時。

 

「うわぁっ!」

 

 思わず、腰を抜かしかけた。ドアを開けてすぐの天井、丁度頭上で、散弾銃と目があったのだ。

 

 ワイヤーを切っていなければ、扉を開けたのが誰であれ、その頭を上からぺしゃんこに吹き飛ばされていただろう。あるいは、「潰される」と表現すべきか。

 

「ふぅ。たまには勘ってのも──」

 

 突然、胸ぐらを掴まれた。部屋の中へ引き摺り込まれる。ばたん、と勢い良く扉が閉められた。

 がちゃり。内側から鍵がかけられる。

 

「「悠真っ!」」

 

 叫ぶ柳と蒼角。必死でドアを殴りつけるも、中々開きはしない。

 一方部屋の中では、悠真が黒尽くめのそれと戦っていた。

 

 見えなかった。いや、違う。半透明だったのだ。悍ましい形をしたノコギリを、刀をX字に交差させて受け止める。重い。

 両手が塞がれた瞬間、金的。足で思い切り蹴り上げられた。

 

 思わず怯むと、思い切り頭突きを入れられた。鼻骨が折れた。鼻への刺激に思わず溢れる涙が視界を妨げる。

 

 狭い部屋、二畳半あるかないかの場所ではまともに刀を振れないのを利用されたか。考える間もなく、折れた鼻骨に拳が飛んできた。

 

 堪らず、倒れ込む。距離が離れると、その男はまたノコギリを握りしめた。

 来る。矢を射るのが間に合うだろうか。必死で背中の矢筒に手を伸ばしたその時。

 

 バンッッ!! 

 

 男の後ろで、勢い良く扉が開いた。背後からの攻撃に振り向く暇もなく、男の首は飛んだ。

 助かった。下腹部と鼻を襲う激痛にうずくまりながらも、ほっと息をついた。

 

「大丈夫ですかっ、悠真!」

 

「だいじょーぶ!?」

 

「うう……はぁ……今すぐにでも休みたいですけど、そういうわけにもいきませんからね……」

 

 暫くして、ようやく悠真が立ち上がる。血だらけの顔をふらふらと揺らしながら、なんとか電源制御室まで辿りついた。

 

「よし、あとはこれで……」

 

 柳が機械を弄っていると、また電気が点滅し始めた。嫌な予感に襲われ、先程通った廊下を見る悠真。

 誰もいない。

 

 電気が消える。点く。誰もいない。もう一度、消える。点く。

 ──居る。

 

「気をつけてっ!!」

 

 全員が廊下に向かって振り向く。黒尽くめのそれは、暗闇と同化していた。

 光と同時に消え、光と同時に現れた。ぐんぐんと距離が詰められていく。

 すぐに、部屋の中に入られた。

 

「早く、フラッシュライトを!」

 

「やってますって!」

 

 暗闇の中、どこからともなくノコギリが飛んできた。咄嗟の対処にも、限界がある。

 柳の左腕が切りつけられた。骨までは達していないが、惨たらしい形の刃は、ベリベリとその皮膚を巻き取っていった。

 

「──ッ!」

 

 思わず、声にもならない悲鳴を上げる柳。その首元に向かってノコギリが振るわれたが、蒼角がそれを止めた。

 

 大きな斧の様なそれで男を殴りつけると、一瞬の怯みが生まれた。

 それだけで十分であった。瞬間、男の身体に何本もの矢が突き刺さる。

 

 あえなく、男は倒れた。また、身体が消滅した。

 

「こいつは、一体……」

 

「もう、何回も倒してるよね……?」

 

 皆、もう気が気ではなかった。あと、どれだけの罠が。あと、何度殺せば。

 

 主電源を入れ、視界が確保されてからは、集団で固まれば大した敵ではなかった。

 だが、きりがない。殺しても、殺しても、その度にまた襲いかかってくる。

 

 精神を蝕まれながらも男と戦っていると、ふと、悠真が気付いた。

 動きが、読まれている。こちらが何をするのか、ということだけではない。

 

 動きの癖、戦う上で出る本能を学習されている。柳も気付いたようだ。ふたりの顔は、呪われた海のように真っ青なものとなった。

 

 まさか、不死身なのか。何度殺されようと甦り、動きを学び、どれだけ時間がかかろうとも、執拗な執念でじわじわと追い詰め、最後には必ず獲物を狩る。

 

「なるほど、確かに狩人だ……」

 

 悠真が呟いた。

 

 数十分後には出口へと辿りついた。だが、もう皆満身創痍であった。蒼角も例外ではない。

 身体を引きずる様にして、出口へ向かう。差し込む明るい日光が見えてきたその時。

 

 バァンッッ!!! 

 

 後方二十メートル程先で、廊下横の扉が蹴破られた。まさか。皆が振り向く。

 廊下の角から、ゆっくりと、あの影が現れた。

 

「そんなっ……」

 

 柳の心には、最早恐怖しか無かった。全員同じであったが。

 

「逃げろっ!!」

 

 悠真が、声を張り上げる。同時に、男が全速力で走り寄ってきた。

 無我夢中で走り抜けた。廃病院を抜ければ、そこは既にホロウの外、砂漠であった。

 

 GPSで雅の位置を確認する。彼女もホロウを抜けたようだ。このまま走れば辿り着く。

 

 だが、逃げ切れるか。悠真が振り返る。こちらが疲労で足を止める度、視界に映る真っ黒な影は少しずつ大きくなっていった。

 

 ほんの数秒の小走りを挟むと、また全力疾走で距離を詰めてくる。

 時折矢を放ってみても無駄であった。既に動きは読まれきっている。悠真の心に、深い絶望がのしかかった。

 

「着いたっ……!」

 

 柳が、一番最初に道路に出た。コンクリート製の道路の上には、待ち焦がれた姿があった。

 遅れてやってきた悠真が声を張り上げる。

 

「課長っ!」

 

 心の底からの、安堵であった。振り向くと、男はもう追ってきていなかった。

 雅の横には、桃色の髪をした女が居た。あの男の仲間か。思わず構えた。

 

「待って、あたしは敵じゃないってば!」

 

「ああ、この者の助けなしでは、恩人が死んでいた」

 

 桃色髪の女、ニコの言葉に、雅が付け加えた。雅の足元に目をやると、銀髪の男が倒れていた。息はしている。

 

「そういえば、蒼角はどうした。姿が見当たらないが」

 

「「えっ」」

 

 瞬間、冷や汗が噴き出した。居ない。いつの間に置いてきたのだ。すぐに探しに戻ろうと踵を返したその時。

 

「ナギねえ……みんな……」

 

「「「蒼角っ!!」」」

 

 蒼角が、物陰から現れた。黒尽くめの男に抱き締められ、その喉元には奇妙な形の短剣が押し当てられていた。

 右肩から流れる真っ赤な血がシャツを濡らしていた。撃たれたのだろう。

 

「貴様……」

 

「一歩でも動いてみろ。首を飛ばされながらでも、喉の一つくらいは掻き切れるぞ」

 

 雅の殺気にも引かず、男は冷静に告げた。

 

「今すぐ、その男から離れろ。ピンク髪の女からもだ。指一本でも触れれば、この小女の頸動脈を切り裂く」

 

 緊張が最高峰に達したその時。

 

「う、う〜ん……」

 

 倒れていた銀髪の男が、目を覚ました。黒尽くめの男が目を見開く。

 

「アキラっ」

 

「えいっっ!」

 

 動揺により生まれた、一瞬の隙。それを逃すまいと、蒼角は力任せに背負い投げを決めたのだ。

 男が地面に叩きつけられた瞬間、その首元に雅の刀が突きつけられた。

 

「一歩でも動いてみろ、下種。その首を切り飛ばすぞ」

 

 意趣返しが如く、雅が告げる。だが、男の瞳に絶望は浮かんでいない。

 男が短銃に手を伸ばしたその瞬間。

 

「待ってって言ってるでしょ!?」

 

 ニコが叫んだ。あまりの声量に、黒尽くめの男すら硬直した。

 

「あたし達はもう敵じゃない! 殺し合うのはやめて! 狩人、アンタに言ってんのよ!」

 

 そうか、と、男の全身から力が抜けた。抵抗する気配は、もうすっかり消え去っていた。

 

 ニコとアキラ、そして雅に話を聞いた。なんでも、反乱軍の襲撃により、パールマンは攫われてしまったのだという。

 

 そしてアキラは、雅の持つ妖刀の暴走を止めた恩人。手出しは無用と雅本人から告げられた。

 

「……とりあえず、もう帰りません、副課長? ひとまず治療しなくっちゃだと思うんですけど……」

 

「珍しいですね、私も同じ意見です。蒼角も怪我していることですし、私も満身創痍です」

 

 怖かったと泣く蒼角を抱き締め慰める柳。比較的軽傷な悠真に、雅が聞いた。

 

「悠真。あの狩人という男は、それほどまでに強いのか」

 

「ええ? そりゃあ、もう。ここで死んじゃうんじゃないかって……」

 

 そうか、とだけ、雅は呟いた。その心の内では、一つの疑念が確信へと変わっていた。

 

 あの日、あの男と初めて相対した時、心にのしかかったどす黒い感情。

 随分久し振りの感覚だったせいで、気付くのに時間がかかってしまった。

 あの感情は。あの感覚は、確かに──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──確かに、恐怖であった。













6課(特に悠真)視点で書いてみました。もうちょい銃使わせれば良かったかな。
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