どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
「こんのおバカ! すぐに人を殺そうとするんだから!」
相手を見るなり銃を抜いた狩人を、ニコが咎めた。目の前に立つのは、狩人達の因縁の相手、パールマン。
ツール・ド・インフェルノでの出来事から数日後、パールマンが目を覚ましたとの報せが入り、邪兎屋と兄妹、そして狩人は急いでブレイズウッドに集まったのだ。
パールマンが語るに、真の黒幕はブリンガー、治安局のトップ。パールマン自身はその男に操り人形にされていたのだという。
嘘をついている人間の顔では無かった。仕方なく、狩人も散弾銃をしまった。
「でも、これからどうするんだぁ? こいつの話が本当なら、治安局に頼むわけにもいかないし……」
「安心して。それには既に手を打ってあるわ」
不安がる猫又に胸を張るニコ。どうやら、治安局に対抗できるような大物を既に手配してあるらしい。
「客人が来るのか。では、もてなしの用意でもしておこう」
狩人は建物の中へ入っていった。何かもてなしに出せるものはないか、と。
椅子や机はともかく、飲食物だけは絶対にヤーナムから持ってくるわけにはいかない。ピザなどを用意すると、今度は上等な椅子の類を探して建物の奥へ進んでいった。
漁っている内に、聞き覚えのあるブレーキ音。まずいぞ。もう客人が到着してしまったようだ。急いで椅子を探す。
……なんか敵対してないか? 狩人は聞き耳を立てた。
この距離ではニコの出す大声以外は殆ど聞き取れなかったが、友好的な声色でないことは確かであった。
それに、聞こえてくる声に聞き覚えがある。とても嫌な覚えだが。
まさか、と思いながらも急いで建物から飛び出すと、狩人は思わず持っていた椅子を落としてしまった。
予想が、的中した。
邪兎屋が、兄妹が、囲まれている。パールマンとパイパーもだ。客人であろう彼らは、狩人の仲間に対し明らかな敵意を向けていた。
だが、それよりも気を引くことがあった。あれは、あの顔ぶれは──。
「……Fuck……」
彼らの内唯一の男と、目が合った。こちらを見るなり、その黄色い瞳が思い切り見開かれた。
「そんなっ、バカな……っ!? 課長っ、あいつっ……!」
全員の視線が、こちらを向いた。全員が、息を呑んだ。狩人自身も例外では無かった。
「あれはっ……!」
「ナギねえ、あの人、確か……」
「私が殺した筈……なぜだ。何故、生きている」
狩人の全身から、冷や汗が噴き出した。ニコ達をみやる。呆気に取られた様な顔だ。
「ちょ、狩人……あんた、6課とも関わってたの!?」
「……そうともいえるな」
あまり仲は良くないが、と付け加える。狩人の記憶が引き摺り出された。
あの日、狩人がホロウ内で野盗どもを狩った際、殺し合うことになった集団。
確か、対ホロウ6課、とか言ったか。狩人は、もう決意を固めていた。
──敵なら、例え子供でも殺してやる。青い肌の子供に視線を向ける。
自分の手で直接子供を殺すのは初めてではない。エミーリアが良い例だ。
敵なら、殺す。その絶対的な原則は、相手が子供だからといって揺らぐことはない。
……心は痛むが。
場の緊張が最高潮に達したその瞬間。
パンッ!
乾いた音が、鳴り響いた。ヤーナムではよく聞く音だ。だが、今回それを鳴らしたのは狩人ではない。
「伏せろっ!!」
狐の女が声を張り上げると、横から振る雨が如く大量の弾丸が降り注いだ。
狐の女は迫る弾丸を全て刀で弾いていた。しかも片手で。
まったく馬鹿げた芸当だと戦慄していると、パイパーのトラックが弾丸の雨を防ぐ様に兄妹の元へ滑り込んでいった。
乗れと急かすパイパーに気圧され、そのままトラックへと乗り込むパールマンと兄妹。アンビーも一緒であった。
「早く乗れ!」
「待て、逃げるなっ!」
怒りを露わにする狐女を置いて、パイパーのそれとは別のトラックに乗ったビリーが叫ぶ。
……あれアキラのじゃないか?
すぐにニコと猫又が乗り、ギリギリのところで狩人も乗り込めた。
こちらを追いかける6課にガトリングを浴びせながら、距離を離していった。
「撃ってきたは誰だ。6課の仕業か」
「知らないわよ! 少なくとも、私たちの敵! それだけ考えて!」
了解した、と呟くと、もう追手が見えてきた。黒い鎧の様なものに身を包んだ兵士達だ。
バレエツインズで見たことがある。反乱軍だ。
何故こんなところに、と考えながら後部座席からガトリングを放つ。追いかけてくる車の内数台は止めることができた。
……後ろを見ると、猫又が発作を起こしていた。ガトリングでトラウマが掘り起こされたようだ。
少し揺さぶるとすぐ正気に戻った。が、気付けばこちらの両側に車がぴったりとついてきていた。
ガトリングを浴びせるも、効果が薄い。防弾仕様か、大したものだ。
弾が切れると、向こうから兵士が飛び移ってきた。引き剥がそうと皆が慌てて蹴り飛ばす。
が、離れない。大した根性である。
「お手々を離せ!」
うにゃにゃにゃにゃと声を荒げながら猫又が殴りつけると、遂に振り下ろすことに成功した。
一先ず自分たちの後方に追手がいなくなったのを確認し、前方、パイパーのトラックをみやる。
随分と華麗なトラック捌きだ。狩人は感心した。美しさすら感じるドリフトで追手を蹴散らしていく。
あの小女、あれでも年は食っていると言っていたが、あながち嘘でもないかもしれないな、と考えを改めた。
ふと、視界の端に何かが映る。ニコに同じ方向を見る様促すと、甲高い悲鳴を上げた。
「ロケットランチャー!?」
瞬間。タイヤが吹き飛んだ。コントロールを失い、あえなくガードレールをぶち破る。
その崖の下には、ホロウ。
そのままの勢いで地面に叩きつけられないことを祈りながら、ホロウへと落下していった。
……目が覚めた。どれくらい経つだろうか。身体中の傷の内、まだ瘡蓋ができていないものがあるのを考えると、長くとも数分といったところだろう。
周りを見渡しても、ニコ達はいない。他人をホロウ内に置きざりにする人間ではない。恐らく落下中に歪んだ空間によって別の場所へ飛ばされたのだろう。
立ち上がり、道なりに少し進むとランタンがあった。
すぐに灯し、出口を探す。キャロットを持っていて良かった。
出口へ向かって歩き、高い場所へ出ると、遠くの方に巨大な建物が目に入った。病院の類であろうか。
双眼鏡を覗く。出口に辿りつくには、あの中を通らねばならないようだ。
時空の歪んだ廃病院。抜けるのにどれだけかかるだろうかと溜め息をついていると、病院とは別の方向、遥か遠くに影を視認した。
三人。見覚えのある制服だ。狐女はどこかへ隠れているか、それともはぐれたのか、どこにも見当たらなかった。
通る道を見るに、彼らもこの廃病院を通っていくことになるだろう。
仲間を追う、「敵」。恐ろしく強いが、だからこそここで止めておかねばならないだろう。
……それに、何十人もいる兵士達には自分一人では勝ち目がない。
三人の強者の方がやりやすいだろう。戦う場所を先に調べられるなら尚更だ。
急いで病院まで駆け下り、近くにあったランタンを灯した。実に好都合だ。これで、幾らでも死ねる。
一通り探索を終えると、入り口へと戻った。どうやら、彼らはまだ来ていないようだ。
廃病院から一旦離れ、高所の茂みに身を隠す。襲うなら、後ろからだ。
待つこと十数分。来た。
「うわ〜、不気味。副課長、ほんとにここ通らないといけないんですかぁ? なんかこう、回り道とか……」
「怖いのでしたら、ここで待機してもらって構いませんよ。ホロウ内でじっとしている方が怖いと思いますが」
「ちょ、冗談ですって〜、副課長! ちゃんとやりますよ……」
「ちょっぴり怖いけど、私達なら平気だよ! ね、ナギねえ!」
6課は陽気に廃病院へと向かっていった。遠く背後から向けられる視線には気付かずに。
二分も経たない内に、狩人は入り口へ戻っていた。彼らは既に内部へと潜っていったようだ。
真っ暗な病院へ、狩人が足を踏み出した。ゆっくりと、ゆっくりと、滴るような足音で。