どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
翌日の正午ごろ、狩人はルーシー、バーニス、シーザーの三人──イアスも含めれば四人だろうか──と共に車のカスタムパーツをホロウ内で探していた。
他のメンバーを追い抜きバーニスと並んでバイクで突っ走っていると、突如、爆発。目の前にあったドラム缶だ。
輸血液三本は要るな。瀕死になりながらそんなことを考えていると、起き上がろうとしたバーニスの額に拳銃が突きつけられた。その持ち主は、マスクを着けた獣。
……待てよ? あの拳銃──。
「一発分からせて終わりでも良かったんだけど……刺激されちゃったんだ、捕食者の……本能ってやつ……?」
不味いぞ。非常に不味いぞ。ひしゃげた腕で慌てて輸血液を取り出す狩人。
が、急ぐ必要など無かったとすぐに思い知らされた。
「はあ〜、ふわふわで……あったかい……!」
「……? ……ッッッ!!」
虐待された猫のような叫び声を上げながら獣が飛び退くと、突然バーニスの周りに炎が噴き上がった。思わず目を見開く狩人。
「正気!? 自分ごと燃やして……!」
「ん〜? あったかいのはヤだった? ネコちゃん!」
顔を真っ青にする獣とは裏腹に無邪気に笑うバーニス。
ヤーナムだと結構見かける人種だ。特に、悪夢の辺境や聖杯で遊んでると頻繁に出会うタイプである。
狂った明るさ、とでもいうべきなのだろうか。決まって火薬庫武器か車輪かアメン腕を愛用しているイカれた愉快な変態どもだ。
こちらを見るなり突然裸になって素手で殴りかかってきたりするやつもいたな。無論こちらもすぐ裸になって応じたものだが。全員全裸の大乱闘は実に楽しかった。
ゴミのような思い出に浸っていると、シーザー達が遅れて集まってきた。
ぼうっとしてる場合じゃないな、と思い出した様に太ももに輸血液を突き刺す。三本を丸々消費した。
ぎょっとするルーシーを置いて、狩人は立ち上がるなりすぐさま獣へと突っ込んでいった。
そういえば、獣を狩るのは久し振りかもしれないな。そんな、下らないことを考えながら。
「──ッッ! アンタ、その武器っ……!」
鍔迫り合いになると、すぐに獣も気付いた様だ。この獣、ノコギリ鉈を使っている。
いや、ノコ鉈ではない。狩人の手に握られたそれとは違い、銃と一体化しているのだ。
だから両手に一つずつ持っているのか。それでも銃は扱えるからだ、と天才的な発想に思わず感服する狩人。
もしや、この世界にも工房が、と思案する。発想からは少し火薬庫の臭いもするが。
すぐさま飛び退いた獣。追いかける様にステップを踏むと、合わせる様に銃弾を放ってきた。三つほど、体に穴が増えた。
そのまま無理矢理ノコギリを振ると、液体の様な身のこなしで躱されてしまった。散弾銃を向けると、相手も弾丸で牽制をかけてくる。
手強いな。流石はノコ鉈使いと考えていると、後ろから、カチ、と音がした。
物凄く嫌な予感が身体中を巡り思わず右方向にステップを踏むと、先程まで狩人が居た場所を炎が埋め尽くした。
バーニスだ。こちらが避けることを前提として動いているのは何となく察せるが、それにしても心臓に悪い。
だがあの火炎放射器の火力は凄まじいものだ。今度自分のも弄ってもらおうと決意する狩人だった。
すかさず、シーザーの突進。刃のついた盾を剣と共に振り回している。
絶え間無い斬撃の雪崩を相手に、後退以外の行動を潰される獣。
続けて、獣が攻撃を避けたその先に、丁度合わせて凄まじい勢いで豚が飛んできた。
……豚? 飛んできた方向を見ると、ルーシーが金棒を振り回しバットとボールの要領で下僕の豚たちを飛ばしていた。
……一番アホみたいな戦い方してないか? つい先日ここにはアホしか居ないのかと悪態をついていた人間のそれとは思えないトチ狂った戦法に思わず啓蒙を得かけた。
頭に激突した豚に体勢を崩し、そのまま尻もちをついた獣。狩人がノコギリ鉈を展開した。
今だ。一瞬で距離を詰め、その頭蓋を叩き割ろうと全力で鉈を振り下ろす。
「待っ、降参──」
つむじ目掛けて一直線に進んだ刃は、しかしシーザーの剣に止められた。弾かれた、という方が適切であろうか。
殺すのは流石に駄目だろうと咎められた。獣の方に目を見やる。
涙の浮かんだその両目は頭上の鉈を見つめ、真っ青な顔の横までぷるぷると震える両手をあげていた。
「すまない、獣狩りは久し振りでな。つい、気が昂った」
手を差伸べると、震える手で掴んできた。そのまま手を引き上げ、立ち上がらせる。
「こ、降参、降参……っ! 私の負けだよ……! 殺すのは勘弁してっ……!」
プルクラという名の獣の敵意が消えたのを確認し、狩人も警戒を解いた。
車のパーツを回収し帰ろうとすると、ふとバーニスが目に入った。獣と話している。なんでも、仲間に迎え入れたいのだという。
「あんなに楽しく遊んだのに〜っ!」
「まあ、私は最強のやつにしか尻尾を振らないからね。最強になったら、また声をかけておくれよ」
どうやらフラれてしまったようだ。当然の話ではあるが。
それにしても、あの死闘を「遊び」とは。やはりこの女、
「ああ、あの〜……狩人さん……? さっきから言おうと思ってたのですけど、そのケガ、大丈夫なんですの……?」
ふとルーシーに声をかけられた。顔を隠す様に大きめの鏡を掲げていた。鏡の中の自分には、腹部に二つ、胸部に一つ小さめの穴が空いていた。
「おや、私としたことが。大丈夫だ、少し待ってくれ」
「えっそれってどういう──」
ルーシーの言葉をまたず、太ももに輸血液を突き刺す。すぐに、穴は塞がった。
……ルーシーが口を開けている。それも、顎でも外れたように。
「どうなってんですの……? もしかして、今朝パイパーの顔色が悪かったのも……」
考え込むルーシーをよそ目にせっせと荷物を積み込む狩人であった。
数時間後、シーザー達の拠点であるブレイズウッドへと帰還した狩人は、早速土産物探しを始めた。人形ちゃんとの約束なのだ。
品揃えは様々だった。異国情緒溢れるアクセサリーや首飾り。気に入ったものを片っ端から購入していく。
白や銀の方が、彼女には似合うだろうか。そんなことを考えながらも、狩人の懐は色鮮やかなものとなった。
次は食べ物か。飲み物もいいが。狩人が持ち帰り可能な料理店を探していると、ふとバーニスが視界に映る。
そういえば、彼女は飲み物を作っているらしいな。キッチンカーのカウンターで飲み物を振る彼女に声をかける。
「やあ。ここは飲み物を売っている場所、という認識で良いのかな?」
「そうだよ〜! この店に来るのは初めてだよね?」
「ああ。何か、おすすめの品はあるか」
それならば、とウキウキでバーニスが用意したのは氷の入った焦げ茶色の液体。少し泡立っている。ニトロフューエルというそうだ。
見た目には特段これといった特徴はないが、狩人の気を引いたのはその匂いである。
鼻にツン、と来る様な、アルコール臭。それに、
匂いの正体を探っていたが、気付いた瞬間、狩人の身体は硬直した。
「き、貴公……っ」
正気か、この女。アルコール臭はまだ良い。度数が極端に高いだけだろう。だが、これは。この匂いは──。
ガソリン。ガソリンではないか。
もう一度、バーニスの顔を覗き込む。ニコニコと純粋な笑顔を浮かべている。冗談を言っている人間の顔ではない。
……嘘だろ? 狩人は随分と久し振りに恐怖を感じた。こいつ、
こんな狂人、ヤーナムでもそうそう出くわさないぞ。流石の狩人も、あまりの狂気に怯んでしまっていた。
「貴公……既に狂っているぞ……!」
「え、なんて? とにかく飲んでみてよ! 美味しーよ!」
そうなのだろうか。もう一度、ガソリン臭いそれを覗いてみる。
ビールの様な色をしたそれは、月明かりと車のライトを乱反射する氷に照らされキラキラと輝いていた。
……うん、飲めるなこれ。狩人は確信した。
よくよく考えれば、燃料の入った酒など、ヤーナムのご当地発狂グルメに比べればかわいいものだ。
覚悟を決めた狩人は、カップを思い切り掴むと、グイ、と一気に流し込んだ。
二秒も経たない内に、狩人は己の行動を激しく後悔することとなった。
痛い。頭が。教会の石鎚で思い切り頭をぶん殴られた様な衝撃だ。その場で倒れるのをなんとか堪える。
「どう? 気に入ってくれた?」
気でも触れたか、と叫びたくなるのを抑える。こんなもの、人間の飲み物ではない。
頭を抱えていると、バーニスが声を張り上げた。
「あっ! ごめん! これ燃料の方のニトロフューエルだった!」
やっぱり。燃料を飲まされた怒りと、こんなものが常飲されていなくて良かったという安心が半々であった。
飲める方のニトロフューエルは、それはそれはどぎつい味だったが、美味いか不味いかと言われれば間違いなく美味かった。どぎつい味だが。
結局、一番甘く、一番飲みやすく、そして一番度数の低いものだけを買った。
あんなもの飲ませたら流石の人形ちゃんでも「怒」の感情を身につけるかもしれない。
あとは適当にケバブだのピザだのを買い、周りに人が居ないのを確認してから*1夢へと帰った。
全く、長い一日だったな。薄れゆく意識の中、心の中で呟いた。