作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニストのブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 英紙ガーディアンは左派の新聞だから、英保守党の党大会後にはいつも批判記事が出る。だが、今年は違った。「保守党の崩壊を楽しんでいる? わかるが、それは間違っている」「自分がこんなことを言うとは思わなかった。保守党が救われることを願おう」等の見出しが並んだ。

 ベテラン左派ライターが「英国には保守党が必要だ」と書くような異常な事態である。Ipsosの9月の調査で、保守党の支持率は14%。右派ポピュリストのリフォームUKに20ポイントも差をつけられ、党大会を通夜に喩えた新聞もある。

「保守党がもっと悪いものに取って代わられたら、私たちは保守党を懐かしむことになるかもしれない」と同紙は危惧する。次の右派は、トランプと親交の深いファラージ党首率いるリフォームUKだ。マンチェスター大学の政治学者は、極右ポピュリストを追いかけた中道右派政党が成功した例はないと警告する。模倣した相手にのみ込まれてしまうからだ。だが、史上初の黒人女性の保守党党首ベーデノックは、リフォームUKの極右的政策との差を打ち出すどころか、欧州人権条約からの離脱や気候変動法の廃止を公約に掲げ、中道保守路線への決別をきっぱりと打ち出した。

 1990年代のメージャー内閣で副首相を務めた保守党の政治家ヘーゼルタインは、保守党には極右勢力に対抗する道徳的義務があると呼びかけた。「1930年代のファシストに相当する右翼が再び進軍を始めた」「(難民申請者を)泥棒やレイプ犯と呼ぶことは……最悪の偏見を助長する」と彼は言う。

 彼らの時代の保守主義者は英国を「強国」と表現はしても、自国を「火薬庫」と表現し「内戦」を煽ったりしなかった。「大人の政党」と呼ばれた保守党が、極右に対する防火壁になる主流派右派の役割を忘れ、存続の危機に瀕している。「MBGA(メイク・ブリテン・グレート・アゲイン)」の野球帽を被ったファラージたちに保守党がのみ込まれたら、チャーチルやサッチャーが棺桶を蹴破って出てくるのではないか。2人なら、「そもそも英国はサッカーとクリケットの国だ。その米国の帽子をまず脱ぎなさい」と言うだろう。

AERA 2025年11月10日号

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