異種族婚BL
仕事がロマンスファンタジーになったとたんに、異種族婚を目にすることが増えた。いままで商業漫画で異種族婚だなんて無かったので、すごい面白い、興味深い、と思ってるの。他の作家さんが描く異種族婚も気になっており、たいへん興味深く拝読いたしています。最近際立って面白かった異種族婚はBLだ。
もう30年ぐらい女性向けの漫画業界にいると、業界が知人と知人の知人で構成されているような気分になるが、この辺知人じゃなさそうなので同業者なのに感想失礼。純粋にすごく面白かったです。
異種族婚のBLなんだけど、カバーを観ていただければわかるとおり、主人公のアルカドの、夫となる宰相デネブの見た目がクリーチャー過ぎるのだ。クリーチャー過ぎるうえ、数百歳の老齢で落ち着いる、いたって奥ゆかしい誠実な紳士だ。年の差夫婦。
この漫画最初読んだとき、まっさきにあれを思い出した。ジェームズ・ティプトリー・ジュニアの『たったひとつの冴えたやりかた』だったと思うんだけど、タイトル違ったかな?レズビアンの異種族恋愛だ。こっちはラストは悲恋だけど。ティプトリーSFとBLの親和性の高さは異常。
ティプトリーは男性名の女性作家だ。マッチョイムズが激しいSF業界で女性のペンネームだと読んでもらえず、業界で作家として通用しないから、男性名でさんざん活躍し、作家人生の終盤で女性であることを明かした。でも読むとあきらかに男性社会への呪詛が激しすぎてすぐに女だな、とわかる内容だ。ティプトリー賞、というのがあって、日本のよしながふみ先生が『大奥』で受賞している。
冒頭のBL漫画は、異種族の男性同士の結婚で体の作りもぜんぜん違う。本当は従妹の少女が嫁に行くはずだった政略結婚だったんだけど、少女はデネブの姿がおそろしすぎて気絶してしまうので、主人公のアルカドが嫁?に行くことになった。
アルカドは最初からデネブの見た目が好きなんだ。
まあ、蓼食う虫も好き好きなので別にいいんだけど、デネブの見た目がクリーチャー過ぎるので、その時点でなんか可笑しい。いたって温厚で誠実なふたりが、種族の違いを乗り越えてお互い友愛を深めていく。セックスもするんだけど、身体が違いすぎてどうやってやったらいいのかわからずに、試行錯誤し続けるんだよ。それがたいへんほほえましく、胸が温かくなる。セックスがんばってね、と応援したくなるのだ。もちろん、男性同士なので生殖の意味あいはミリも無い。
人間のヘテロの夫婦も、似たようなもんではないのか、と。国際結婚とかも、そうかもね。このくらい、どうしたらいいのかわかんないのかも。
BLファンに人間のヘテロ夫婦と一緒にすんな、と怒られてしまうかもしれないけど、BLは余計な概念を削ぎ落す効果がある。この設定で男女のジェンダー階級差もリセット。性欲の一方的なベクトルもリセット。何もかもリセットされての、異種族への敬意と友愛。ここまで変な概念を削ぎ落さないと、異質なもの同士、友愛も深められないのかよ、みたいな気にもなる。
変な概念削ぎ落し装置、みたいなかんじなのよね。女性向けの漫画ってさ。特にBLはそう。ファンタジーもそうなのかもね。
ティプトリーが生きていたら、きっとアライだっただろうな。そんな気がする。なにせマーガレット・アトウッドがアライだったので。エリート女性は「男女の性差を否定したい」という欲望に抗えないのだ。そこを現実否認してしまう。対してTLは、男女の性差を肯定的に受け止めがちな中流&下流女性の文化で、ジェンダー階級差もがっつり直視してしまう。でも、だからこそ、トランスジェンダリズムの欺瞞はよく見えるのだ。そういうのも、エリート女性にはなかなか見えないのだろう。



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