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株式市場を騒然とさせた「オルツショック」。そこに至るまでの変遷を振り返る

わずか半年前、生成AIベンチャーの星として東証グロースに上場し、「5年で時価総額1兆円」を高らかに宣言したオルツ〈260A〉。しかしその夢物語は、主力サービス「AI GIJIROKU」の売上過大計上疑惑とともに揺らぎ始めています。

第三者委員会の設置、株価の急落、元社員による内部告発――短期間に噴出した不信の連鎖は、華々しい提携発表で彩られてきた成長ストーリーの裏側を生々しくあぶり出しています。

今回は、IPOまでの軌跡から疑惑発覚後の市場の動揺までを追い、投資家が直面する「期待と現実の乖離」を検証します。


「5年で時価総額1兆円」。壮大なビジョンを掲げたIPOまでの歩み

株式会社オルツ(以下、オルツ)は2014年11月に創業されたAI(人工知能)企業で、「P.A.I.(パーソナル人工知能)」すなわち自分自身のデジタルクローンを創り出すことを目指して研究開発を行ってきました。

同社は音声認識技術を活用した自動議事録サービス「AI GIJIROKU(AI議事録)」を主力製品として提供し、それ以外にも対話エンジン技術を応用した各種プロダクト(「altBRAIN」「CLONEdev」「altTalk」など)やAI受託開発を手がけています。2010年代後半から複数の大手企業との提携や資金調達を重ね、2021年には凸版印刷との資本業務提携、2022年6月にはシンガポール政府系VCから約35億円の出資を受けるなど、上場前から事業を急拡大させました。

こうした成長を背景に、オルツは2024年10月11日に東京証券取引所グロース市場へ新規上場を果たします。上場時の公募価格は540円、初値は570円で、想定時価総額は約170億円とされました。

当時オルツの米倉千貴社長は「5年で時価総額1兆円」を達成するとの大胆な目標を掲げており、IPO時点ではその技術力と成長ストーリーに高い期待が寄せられていました。上場直前の2023年9月にはキーエンスとの資本業務提携を発表しており、大手企業との連携もオルツの技術ポテンシャルへの期待を裏付ける材料となっていました。

実態が見えない提携発表と株価の推移

上場後、オルツは積極的に新規提携やサービス展開を発信し、市場の注目を集めました。2024年11月にはシンガポール政府の国家AI推進計画「AI Singapore」との提携を発表し、このニュースが材料視されて株価が急騰しています。

提携内容は自社のAI技術(「altBRAIN」や「CLONEdev」など)を強化・活用し、同プログラムとの共同開発を検討するというもので、アジア地域における生成AIサービスの向上を目指す協業でした。このように具体的な売上貢献は未知数ながら、大きな提携話を次々と打ち出す情報戦略により、上場直後の株価は一時大きく上昇しました。

しかし、一連の提携発表はいずれも「検討開始」段階のものが多く、実態とのギャップを指摘する声も専門家から上がっていました。例えば2024年11月のAI Singaporeとの協業も、詳細なプロジェクト内容は不透明であり、「話題先行で実利が伴っていないのではないか」と市場関係者の間で慎重な見方も出ていました。

また、オルツは上場前後にかけて多額の広告宣伝を実施しており、個々のKPI(導入社数など)の伸びと売上高の成長が不自然に比例しすぎている点を不審視する専門家もいました。

実際、上場後の2024年末時点で「AI GIJIROKU」の有料アカウント数は2万8,699件、利用企業は9,000社を突破したと発表されています。オルツの売上高の約88%をこのAI議事録サービスが占める状況で、この急激な顧客数の拡大と売上成長をそのまま信じてよいのか、社外からは冷静な評価もなされていました。「技術自体の水準は高いが、掲げるビジョンほど革命的ではなく、成長ストーリーに過度な期待は禁物」との指摘もあり、提携発表や大規模広告による株価上昇の局面では、内部者に大量の新株予約権(ストックオプション)が付与されていた事実も後に疑問視されています。

このように、上場後しばらくのオルツは市場から熱い視線を浴びつつも、その情報開示の姿勢について一部では不信感を招き始めていました。

「AI GIJIROKU」の売上過大計上疑惑の発覚

2025年4月、上場から半年あまりが経過した時点で、オルツの財務に関して重大な疑惑が表面化しました。同社の主力サービスであるAI議事録『AI GIJIROKU』に関する売上高について、過大計上の疑いが浮上したのです。

オルツは4月25日に開催した取締役会で、第三者委員会の設置を決議し、同日付で適時開示資料を公表しました。このプレスリリースによれば、オルツは4月初旬より証券取引等監視委員会(SESC)の調査を受けており、その過程で判明した事実として、「AI GIJIROKU」の有料アカウントについて一部の販売パートナーから受注し計上した売上の中に、実際には利用されていないアカウントが含まれていたとしています。

簡単に言えば、提携先経由の販売実績の一部に架空または実質的に使われていない契約が混在しており、その分だけ売上を水増ししていた可能性が高いという指摘です。

オルツでは売上の4~5割を特定の1社の販売パートナーに依存していたことが以前より課題視されていました。実際、同社の有価証券報告書によれば最大の販売代理店は「株式会社ジークス(ZYX)」という広告制作会社で、2022年12月期にはオルツ売上全体の54%をジークス社向けの計上分が占めていたと報告されています。オルツは2021年にジークスと議事録サービスの販売パートナー契約を締結しており、一緒に拡販を進めてきた間柄でした。

しかし結果的に、このジークス経由の売上に未使用の契約が多数含まれていた疑いが濃厚になったため、社内だけでなく外部の独立した調査によって事実関係を解明する必要があると判断されたのです。

同日発表のリリースでは、第三者委員会の調査範囲として「2020年12月期から2025年12月期第1四半期まで」の連結財務諸表等への影響を検証することが明記されました。つまり、上場前を含む過去数年間に遡って類似の不正がなかったか、徹底的に洗い出す方針が示されたことになります。

第三者委員会の構成メンバーは社外の法律専門家および会計専門家3名で、委員長には元大阪高等検察庁検事長の小山太士弁護士、委員には証取監視委で検査官経験のある白井真弁護士と、PwCリスクアドバイザリー所属の那須美帆子公認会計士が選任されています。社外の有識者による客観性・中立性の高い調査体制を構築し、事実関係の解明および原因分析・再発防止策の提言まで含めて調査を行うとしています。

また、この適時開示においてオルツは、当初2025年4月25日に発表を予定していた2024年12月期の本決算および2025年12月期第1四半期(1~3月期)決算短信の開示を延期すると発表しました。四半期決算短信については本来5月14日に公表予定でしたが、第三者委員会の調査に時間を要するため、法定の提出期限(四半期末後45日)を超えて開示が遅れる見込みであることが併せて公表されています。投資家や取引先などステークホルダーに対して深い謝罪の意を示すとともに、調査結果の報告書を受領次第速やかに公表する方針も示されました。

このように、4月25日のリリースはオルツに関する一連の不正会計疑惑を正式に認めたも同然の内容であり、同社にとって極めて深刻な局面の到来となりました。

元社員からの暴露も。加熱する報道とSNS上の反応

この「売上過大計上疑惑」の発覚は、翌日以降のメディア報道やSNS上でも大きく取り上げられました。経済紙やニュースサイトは「上場半年のAI新興企業で不正会計の疑い」「AI議事録で架空売上か」といった見出しで一斉に報道しています。

また、オルツが2020年発売のAI議事録サービスを中心に急成長し、2024年10月に上場した経緯や、上場後に株価が4分の1にまで下落していたことにも言及しています。メディアは今回の疑惑について「上場ゴール(上場達成が目的化し業績が伴わないケース)になる懸念」を指摘し、第三者委員会調査の行方次第では更なる詳細が明らかになるだろうと論じています。

一方、SNS上でも一般投資家や有識者による活発な言及がありました。Twitter(X)では適時開示情報の全文や要点が瞬く間に拡散され、「昨年10月に上場したばかりのオルツが決算粉飾の疑い、第三者委員会設置」という速報が共有されています。株式市況に詳しいブロガーや個人投資家は、「上場前から怪しい兆候があったのではないか」「上場してすぐに粉飾とは上場詐欺ではないか」といった辛辣なコメントを発信しました。

実際、事件発覚直後の4月26日には、とある著名実業家が運営するYouTubeチャンネル上で元社員の内部告発インタビューが公開され、オルツの実態について肉声で証言する内容が注目を集めました。この動画では「上場直前に売上を作るため、実際には売れていないアカウントを提携先に計上させ、オルツ側から資金が還流していた」という衝撃的な証言が飛び出し、続く4月27日・28日にも追加の証拠資料や内部文書が暴露されています。

内部告発者の証言によれば、売上の95%近くが架空だった可能性すら示唆されており、この数字が事実であれば極めて悪質な粉飾決算に当たると受け止められています。

SNS上では他にも、オルツが上場直後に掲げた「5年で時価総額1兆円」という大言壮語が痛烈に皮肉られました。「5年で1兆円どころか半年で株価5分の1」「夢物語に投資した結果がこれでは株主が浮かばれない」といった投稿も見られ、当初の期待との落差に対する驚きと失望が広がっています。

また、「赤字続きで営業キャッシュフローもマイナスなのによく上場できたものだ」とIPO審査の甘さを批判する声や、監査法人・社外取締役などガバナンス機能の不全を指摘する声も上がりました。

実際、監査役や社外取締役といった経営監視の役割を担う人々が機能していなかったのではないか、との疑問は専門家からも提示されています。とりわけ、多額の資金が広告宣伝費として社外に流出していた事実に注目が集まっており、「仮に売上10億円を捏造し同額を広告費に使えば、帳簿上は利益も現預金残高も動かず不正を隠蔽できる」という粉飾の手口が議論されました。

この指摘からは、オルツが調達資金を用いて提携先に広告費等の名目で資金提供し、その提携先から売上計上に必要な入金を得るという循環取引的な構図が浮かび上がります。実際にそのようなスキームが行われていたかどうかは現在調査中ですが、少なくとも社外では既に「オルツは上場詐欺同然」との厳しい評価が定着しつつある状況です。

株価への影響と推移

この一連の不祥事の公表は、株価にも直ちに劇的な影響を及ぼしました。適時開示が行われた翌営業日(2025年4月28日)から、オルツ株は連日の急落となります。

発表直前の4月25日終値が417円だったのに対し、疑惑判明後の初取引日には値幅制限いっぱいの売り注文が殺到し、大幅安で取引を終えました。その後も売り圧力は収まらず、4月30日まで連日で株価は下げ続けます。そして5月1日には一時前日比152円安(-59%)となる105円まで急落し、終値は113円となりました。

わずか3営業日で株価は4月25日時点の3分の1以下にまで暴落した計算で、時価総額もピーク時から大幅に棄損しています。上場時に170億円規模だった時価総額は、この時点で40億円台にまで縮小し、投資家の信頼喪失の深刻さを物語りました。

急落局面では市場心理も極端に悪化し、東京証券取引所はオルツ株を注意喚起銘柄として監視する動きを見せました(※正式な監理銘柄指定等はこの期間には至っていませんが、決算開示遅延に関する注意情報が出されています)。信用取引面でも新規の買建てが制限されるなど、市場取引上の規制が強まったことで売り圧力に拍車がかかった側面もあります。

5月1日の暴落を受けて個人投資家の間にはパニック的な売却が広がりましたが、翌5月2日にはようやく下げ止まりの兆しが現れました。この日は前日終値113円に対し19円高の132円(+16.8%)と大きく反発し、連日の大幅安から一転して買い戻しが優勢となりました。この反発には、売り一巡後の自律反発狙いの買いや、過度な悲観による売り過ぎに対する修正の動きが入ったとみられます。しかし水準的には依然としてIPO初値(570円)の 約4分の1 に過ぎず、短期間で膨大な含み損を抱えた投資家も多い状況でした。

株価下落の背景には、単に不正疑惑というネガティブ材料だけでなく、同社の業績先行きに対する不透明感の増大がありました。第三者委員会の調査結果次第では、過去の売上の取り消しや決算の修正が不可避となり、業績が大幅に下方修正される可能性があります。その場合、上場維持に必要な基準(例えば株主資本や利益要件)を満たせなくなるリスクも指摘されました。

また、最悪のケースでは上場廃止も視野に入るとの観測が流れたため、投資家はリスク回避を優先して一斉に売却に動いたのです。実際、東京証券取引所グロース市場の規定では、財務諸表に重大な虚偽記載が判明した場合や、適時開示違反が重大と認められた場合には上場契約違約金の徴求や上場維持審査の対象となりえます。

オルツの場合も、第三者委員会の報告内容次第では厳しい処分が下される可能性があり、株価には常に最悪のシナリオが織り込まれる格好となりました。

第三者委員会調査と現在の状況

2025年5月初旬時点では、第三者委員会の調査は継続中であり、オルツから正式な調査結果や追加の開示はまだ出ていません。ただし、オルツ自身も調査期間中の事業活動に影響が生じています。

同社は本来2025年5月16日に開催予定であった大規模イベント「オルツカンファレンス2025」を中止すると発表しました。このカンファレンスでは新製品発表や講演などを行う予定でしたが、4月25日に公表した適時開示の通り現在第三者委員会の調査を受けている状況を踏まえ、開催を見送ったと説明されています。

オルツは「本件(過大計上疑惑)は当社の技術・サービス自体には直接関与しないものの、調査中であることを勘案した結果」としており、参加を予定していた関係者への謝罪と参加費用の全額返金を表明しました。この対応からもうかがえるように、現時点でオルツは企業活動よりも真相究明と信頼回復を最優先に掲げざるを得ない状況です。

株式市場でも、依然としてオルツに対する見方は厳しいものがあります。不正会計の有無やその程度が明らかになるまで業績見通しが立てられないため、アナリストによる投資判断も保留状態が続いています。幸い、5月連休明け以降の株価は100円台前半で下げ渋っており、最悪期は脱したとの声もあります。

しかし、出来高は細り株価水準も低空飛行のままで、投資家の関心は大きく後退しています。市場関係者からは「調査報告と再発防止策の提示なしに信頼回復は難しい」「上場後すぐの不祥事でブランドイメージも失墜しており、顧客離れが懸念される」との指摘が聞かれます。実際、オルツの提供するサービス自体には直接問題がないとはいえ、一連の報道によって企業イメージが損なわれたことは否めません。

第三者委員会の報告書受領後、オルツは速やかに結果を公表し、必要に応じて過去の財務諸表を訂正する義務があります。その内容次第では経営陣の責任追及や体制刷新も避けられないでしょう。現時点では、米倉社長以下経営陣は続投し調査に全面協力するとしていますが、調査結果によっては創業者経営者の辞任や処分も十分考えられます。

また、証券取引等監視委員会の調査結果が確定すれば、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載等)として課徴金勧告や告発といった法的措置に発展する可能性もあります。いずれにせよ、投資家・ステークホルダーが求めるのは事実関係の徹底的な解明と、それを踏まえた明確な再発防止策の提示です。

オルツにとって、この危機を乗り越え信頼を取り戻すためには、調査結果を真摯に受け止めた上でガバナンス体制を再構築し、地に足の着いた事業展開で実績を示していく以外に道はないでしょう。

【参考資料】 オルツの第三者委員会設置に関する適時開示、および各種報道(朝日新聞、東洋経済オンライン、ITmediaニュース等)、有価証券報告書、SNS上の有識者の指摘などを総合して作成しています。

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コメント

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AI期待の星、オルツの巨額不正会計:上場審査や監査が機能しなかった構造的問題の深層
未公開企業調査委員会
https://note.com/investigation_g/n/n7cbb57fa8c9d

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株式市場を騒然とさせた「オルツショック」。そこに至るまでの変遷を振り返る|ユータロー先生@キャリアと人生設計の伴走者
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