プロローグ
武器鍛冶。
それは幾多もの武器を生み出し、この戦乱の世界を裏から支えてきた者達だ。
膨大な量の資料を紐解いてみれば、聖剣や魔剣といった存在は、必ずといっていいほど歴史の裏に見え隠れする。
千年を生きた魔王の滅ぶ時、勇者の手には聖剣が握られる。
大陸を統一せし覇王が討たれた時、凶賊の手には魔剣が握られる。
歴史の変動の裏には、必ずしも聖剣か魔剣の姿があった。
鍛冶師。生涯にたった一本の聖剣を打って力尽きた猛工から、生涯に何十本もの魔剣を打った魔工、その技を子孫に託し、一つの世代に一本の剣を排出してきた銘工。歴史に名を残した者はほんの僅かだ。
最も有名、かつ強力な剣を打ったとされるのは三人。
龍剣の龍皇。
龍皇の打ちし剣で最も有名なのは、『剣神』の用いし神速剣『鳳雅龍剣』であろう。
古代龍族の末裔である龍皇の打った剣は、魔力こそ宿っていないものの、決して折れず、曲がらず、どれだけ切っても切れ味の鈍らぬ名剣揃いである。世界に鍛冶師は数多く存在するが、己が剣に『龍剣』の名づけられるのは龍皇のみである。龍皇は己の気に入った者にしか剣を打たず、世の剣士は、いつか自分も龍皇に認められるほどの猛者になりたいと夢見ている。
奇剣のシシトー。
東の剣豪『惨殺達磨』の愛剣『口喧嘩』と言えば、知らぬもののなき名剣である。
かの名工は生まれた時から両手が無かった。そんな彼がいかにして鍛冶師になり、いかにして剣を打ったのかは謎とされているが、そこから生み出された武器は、おおよそ戦いに向かぬであろう者が扱うための、特殊な形状をしたものばかりであった。例えば口で使うために最適化された剣であったり、脚で使うことを前提にした弓であったり。まがりなりにも彼が名工と言われる理由は、彼の打った奇剣を持った者は、必ずといっていいほど異彩を放ち、名を残すからだ。
そして最後の一人。最も有名な男だ。
ユリアン=ハリスコの四十八聖魔剣。
二十四対の聖魔剣。あわせて四十八本の剣は、圧倒的な魔力を携え、切れ味、強度共に『龍剣を凌ぐ』とさえ言われるほどの至高の剣である。あと一歩、あと一歩で『神剣の領域』にたどり着いただろうといわれるほど、事実上最強の剣群である。
その誕生は、長く謎とされていた。御伽噺として語られることはあっても、実際にその誕生について詳しく知る者は一人もいなかったからだ。
これから語られるは、ある手記の内容を物語として起こしたもの。
四十八剣の誕生秘話に関わった英雄の話である。