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お店では見せない、風俗嬢たちの本音とは? 現役風俗嬢作家・長谷川瞳が読む『限界風俗嬢』

8月5日発売の、小野一光さんによるノンフィクション『限界風俗嬢』。
性暴力の記憶、毒親、セックスレスや経済的DVなど、さまざまな事情で風俗の仕事を選んだ女性たち7人が、自らの思いを赤裸々に吐露しています。

風俗の現場で働く女性として、彼女たちの姿から何を感じたのか――
元人気AV女優であり、現在は現役風俗嬢の傍ら、作家としても活動をしている長谷川瞳さんに『限界風俗嬢』の書評をご執筆いただきました。

 この本を読んだ際の率直な感想は「痛い」だった。
 興味深くて一気に読んでしまったためか、読んだ日は心がざわついて落ち着かなかった。
 この手の話に免疫がないわけではないし、わたし自身風俗(AV含む)の業界に足を踏み入れて二十年もの月日が経っている。その間、様々な女の子に出会い驚くような話も聞いてきた。が、本作に登場する彼女たちの語り口があまりにも生々しく、その壮絶な人生の一部に触れることで自身の古傷が痛んだ。
 冒頭に登場するSMクラブで働くアヤメとその友人であり朝キャバで働きながら起業しているというリカの過去は想像するだけでひどく疲弊するものであった。
 彼女たちは非常に頭の良い女の子で、インテリで実家も太い。
 はたからみたら羨ましいような環境にも思えるのだがアヤメは幼少期に壮絶ないじめに遭い、小六で輪姦され、先輩に援助交際を強要される。リカは義父に身体の関係を強要され、女の部分を出してくる母からはひどい扱いを受けている。……その他の出来事はぜひ本書を読んでいただきたい。

「一番になってみたくて」AVの世界へ

 わたしがアダルトの世界に足を踏み入れたきっかけは単純だった。一言でいえばそこに救いを求めたからである。
 大好きだった彼氏にふられ住む家も無くなり将来の展望を見失っていた時期に「一番になってみたくないですか?」と、渋谷で声をかけてくれたのがわたしをスカウトしてくれた方だったのだ。
 わたしはその一言に賭けてみることにした。そうして飛び込んだアダルトの世界は思っていたものとは違い「作品」をみんなで仕上げるプロの世界だった。
 最初の撮影は今でも忘れられない。山梨県の小淵沢で行われた撮影は一切台本無しのドキュメンタリー形式という、当時そのレーベルでは異色なデビュー作で、厳しくも楽しい現場に高揚しすぎて帰ってから三日ほど熱を出した。
 デビュー作『処女宮』がランキングで一位になった際は嬉しさを覚えたと同時にこの栄光がいつまで続くのか怖くもあった。
 順風満帆に行くと思われたスタートだったが良い時期は長く続かなかった。わたしはデビューして一年目あたりから精神の均衡を崩し、抜毛症を患い、かつらを使用するようになり、肌は吹き出物でぼろぼろになって現場やメーカーのみなさん、なにより応援してくださったファンの方々に迷惑をかけてしまうようになる。 
 そうしてわずか三年でAV女優としての引退を決意し、風俗嬢としての一歩を踏み出した。
 なんて愚かな考えだったと今になって反省しているが、AV嬢が風俗で働くことを「堕ちた」と思う時期があった。まだ現役で活躍している同期のAV嬢を見てうらやましいと落ち込むこともあった。
 そんなとき「AVと風俗は違うんだ、仕事はしっかりしろ」と、当時働いていたお店の店長に叱咤され目が覚め覚悟を決めた。もう、わたしのいる場所はあそこではない。ここ、風俗なのだと。
 

AV女優からソープ嬢へと活躍の場を移して、現在は作家業もこなしている長谷川瞳さん。
AV女優からソープ嬢へと活躍の場を移して、現在は作家業もこなしている長谷川瞳さん。
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長谷川瞳

はせがわ・ひとみ●2001年、hmp『処女宮』でAVデビュー。18本専属契約を終え、KMプロデュース『ミリオンガールズ2003』のメンバーとして活動。2004年に引退。その後はCS番組『よるとも』、インターネットTV『デラエロパラダイス』の司会等を経て現在はソープ嬢兼ライターとして活動を続けている。2018年、KADOKAWAより『ヒアリングセックス』を上梓。ミリオン出版『臨時増刊ラヴァーズ』では「長谷川瞳の桃色クリニック」連載中。

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