第5話

月におやすみ
259
2024/12/31 17:55 更新
風月
ちょっと暗め…かもしれません…
解釈違いもあるやも……ごめんなさいね…
一応、これの前の話より前の時間の話という感じで書いてあります。
一応…うん、そう一応…
暗い、暗い、真っ暗な場所。
なんにもないのに、声だけ聞こえる。
怖い、こわい…
どうしてそんなに、僕を呼ぶの
…ねえ、やめてよ
やめてくれ
僕を、呼ばないで。
苦しいから、いたいから
もう、動けないから。
なんにも、言わないで…
ひとりで、いさせて…
…もう、つかれたよ。
シュヤ
シュヤ
…っ!
あれ…?そっか、夢か…
…嫌な夢だったな。
今日が休みでよかったと、しみじみ思った。
きっと、今の僕は
酷い顔をしているだろうから。
…土曜日だからか、少し寝すぎたらしい。
枕元の時計は、9時過ぎを指していた。
…まぁ、寝すぎたとは言ったものの
意外にそうでもないのだが。
元来、僕は寝つきが悪く
眠れても0時は過ぎるし、夜中にぱちぱち目が覚める。
こうやって、悪夢で目が覚めることも珍しくない。
…先生や他人には誤魔化しているので
睡眠時間が6時間以下、なんてことは
ほとんど誰も知らないのだけれど。
シュヤ
シュヤ
…ゾーヤのところ、遊びにいこうかな。
そうは言ったものの、今は人に会いたい気分ではない。
…でも、ゾーヤには会いたい。
困ったな…二律背反だ…
矛盾した思いに頭を悩ませながら
起き上がって、ベットの縁に座った。
…一応、起きようとか着替えようという気はある。
体が動く気を起こしてくれないだけで。
シュヤ
シュヤ
…とりあえず、お手洗いだけ行ってこよ
…………
シュヤ
シュヤ
…手、流石にさみぃな…
洗ったばっかだし…
ぱっぱとお手洗いをすまし
ちゃっちゃと手を洗って部屋に戻った。
…空気が冷たいせいで、ほんの少しだけ手が痛くなった。
シュヤ
シュヤ
…そういえば今の僕、口悪かったかな
気を付けないと…
そんなことを考えていたら、こんこんと
ドアをノックする音が聞こえた。
…驚いて2cmくらい跳ねた。
だけど、誰かは見当がついている。
むしろ、だからこそ驚いたのかもしれない。
僕の家にサラッと入ってこれるのは
ゾーヤくらいだし
なにより、うちの人達は
僕の部屋に入るためにノックなんかしない。
…別に、だめという訳では無いが。
シュヤ
シュヤ
入って大丈夫だよ、ゾーヤ
そう言えば、ガチャリとドアが開かれて
ゾーヤが部屋に入ってくる。
ゾーヤ
ゾーヤ
おはよう、シュヤ
シュヤ
シュヤ
おはよう、ゾーヤ
…すまないね、パジャマ姿で…
ゾーヤ
ゾーヤ
ふふ、君のことだから
起きたばっかりなんだろうなって思ってたから
大丈夫だよ。
…だってシュヤ、そうじゃない時は
玄関にボクが来た時点で気付くでしょ?
シュヤ
シュヤ
…よくご存知で…
…バレていたとは。
一応、色々考えて立ち回っていたのだが
……バレたら恥ずかしいので。
ゾーヤには全部お見通しらしい。
流石の洞察力である。
ゾーヤ
ゾーヤ
……ねぇ、シュヤ
ちゃんと寝れてる?
なんだか、枯れたひまわりみたいだよ。
もしかして…具合悪いの?大丈夫?
見抜かれそうになった衝撃で、一瞬言葉に詰まる。
けれど、すぐに薄く笑いを浮かべて返事をした。
こういう道化は、僕の得意分野だ。
…隠すことだけは、歳が上がるごとに上手くなっていく。
嘘をつくのは苦手だが、これだけはできるのだ。
…いつの間にか、必要になっていったから。
シュヤ
シュヤ
あ……ううん、大丈夫。
…部屋が暗いから、顔色悪く見えたかな。
ちょっと待ってて、今カーテン開けるから
急いでカーテンを開けようとして
ベットの縁から降りようとする。
それと同時に、ゾーヤが優しく僕の腕を掴んだ。
シュヤ
シュヤ
…どうしたの?ゾーヤ
ゾーヤ
ゾーヤ
…やっぱり。
眠れてないんでしょ、シュヤ。
いつもより目も開いてないし…
気のせいかと思ってたけど
…顔、色の抜けたあじさいみたいだよ。
シュヤ
シュヤ
……
…ゾーヤの目が、暗さに慣れてきてしまったのだろう。
隠したかったけれど、バレてしまった。
他の人なら、大抵これで誤魔化せるのにな。
…ゾーヤはやっぱり、よく見てるなぁ…
ゾーヤ
ゾーヤ
…それで、今日はどのくらい寝たの?
その感じだと、少しは眠れてるんだよね?
…ゾーヤが笑顔のままで問い詰めてくる。
怒ってはいない。
でも多分、今嘘をつくと怒られるだろうな…と思った。
シュヤ
シュヤ
…時間にすると、5から6時間…位かな。
でも、あんまりよく眠れた訳じゃなくて…
途中で起きるの、繰り返してたから…
ゾーヤ
ゾーヤ
確か…いつもは大体8時間くらいって言ってたっけ。
シュヤ
シュヤ
……すみません、大変申し上げにくいのですが…
それ、虚偽の申告です…
ゾーヤ
ゾーヤ
…え?
…この際だから、意を決してきちんと白状した。
ゾーヤは少し驚いた後、
まるで僕を咎めるかのように目を細めた。
怒り、というよりかは、心配、という感じの咎めだ。
とても申し訳なく思う…
ゾーヤ
ゾーヤ
…じゃあ、いつも眠れてないの?
保育園でのお昼寝さえ、ほとんどしてないのに…?
…確かに。
保育園では、特に眠れない。
ゾーヤが隣にいてくれても
一番最後に寝て、一番最初に起きるくらいだ。
…ゾーヤがいなかったら、僕にとってあの時間は
眠れもしないまま、ただ目を瞑って過ごす
無機質で、何もない時間になるだろう。
……恐ろしいな…
シュヤ
シュヤ
うっ…
そう、なりますね…
その分、休日は眠れるはずなんだけど…
ゾーヤ
ゾーヤ
…眠れなかったんだね
シュヤ
シュヤ
…うん
ゾーヤがすとん、と僕の横に座る。
そうして、いつもみたいに
そっと手を握ってくれた。
…いつもと違って、僕の方が冷えていたから
ゾーヤの手が暖かかった。
シュヤ
シュヤ
……ちょっと、夢見が悪くてね。
でも、ゾーヤに心配はかけたくなくて…
ゾーヤ
ゾーヤ
…だから、嘘ついたの?
シュヤ
シュヤ
……ごめんなさい…
ゾーヤ
ゾーヤ
…いいよ、怒ってないから。
でも…やっぱり心配だからさ
今度から、こういう嘘はつかないでほしいな。
ほら…シュヤって、あんまりごはんも食べないし
体も強くないし
すぐに無理しちゃうでしょ?
…きっと、このままじゃすぐに倒れちゃうよ。
だから、他の誰かには伝えられなくても
ボクには教えてほしいな、少しだけでもいいから。
ゾーヤ
ゾーヤ
…どうかな。
シュヤが嫌なら、無理にとは言わないけど
縋るように、願うように
小さな声で、ゾーヤがそう言う。
シュヤ
シュヤ
…いやでは、ないよ
むしろ、ありがたいくらい。
…実はね…ゾーヤがいないと、安心して眠れないんだ。
申し訳ないし、恥ずかしい話だけどね…
ゾーヤ
ゾーヤ
…そっか、よかった。
…あ、そうだ。
そんなにボクがいないと不安なら
たまに泊まりに来ようか?
母さん達に聞いてからじゃないと、なんとも言えないけど…
シュヤ
シュヤ
え、う…
流石に申し訳ないから…!
…大丈夫だよ、なんとかするから…
…今までだって、そうしてきたし。
ゾーヤ
ゾーヤ
でも…
…ひとりで、なんとかできるように。
ずっと、そう思ってきた。
僕は、誰かとずっと一緒にはいられないから。
誰かを、傷付けて
誰かに、避けられて
誰かに、嫌われて。
…変だって、分からないって
そう、言われちゃうから。
ふと、夢がフラッシュバックする。
…追憶、虚無。
あぁ…嫌だ、いやだ…
ゾーヤには、そんな風に言われたくない。
思われたくない。
シュヤ
シュヤ
あ…あれ…?
なんで…泣いて…
おかしい、なぁ…だいじょぶ、なのに
本当は、分かってる。
ゾーヤはきっと、そんなこと言わない。
そんな風に、突き放したりしない。
…分かってる、分かってる、けど
こわいんだ…
ゾーヤ
ゾーヤ
シュヤ…?
シュヤ
シュヤ
……大丈夫…大丈夫、大丈夫、大丈夫…
だい、じょうぶ…
…うぅ……
…こわい、こわいこわいこわい、こわい…!
きらわれたくない…そばにいたい…
おいて、いかれたくない…
ゾーヤには、ゾーヤだけには…
…あれ…?手がいたい。
あ、服を握りしめてるからか…
…しわ、酷くなっちゃうな。
シュヤ
シュヤ
ひゅ、っ…ぅ、けほ…
ゾーヤ
ゾーヤ
…シュヤ、ゆっくり呼吸して。
あんまり焦ると、酷くなっちゃうよ
ゾーヤが、僕の背中をさすってくれる。
慌てているけれど、慣れた感じで
とても落ち着いていた。
…僕と関わる上で自然と身に付いたのだろうな
なんて、他人事の様に考えた。
…少しずつ、呼吸が元に戻る。
頭が冷静になって、その分だけ
身に余る大きさの不安が、僕を押し潰しそうだった。
シュヤ
シュヤ
……ゾーヤ、ぞーや…
ゾーヤ
ゾーヤ
…うん、どうしたの?
シュヤ
シュヤ
……おいて、いかないで
きらいにならないで…
ゾーヤ
ゾーヤ
…うん。
大丈夫だよ、ちゃんとそばにいるから。
ゾーヤは、僕のうわ言のようなものに
きちんと返事を返してくれる。
…驚いているはずなのだ。
なんの説明も受けていないのだから。
それなのに、とても落ち着いた優しい声で
僕と会話をしてくれる。
…優しいなぁ。
シュヤ
シュヤ
…こわいよ、こわいんだ…
一緒にいたいのに、一緒にいたら
嫌われる気がして…
ゾーヤ
ゾーヤ
…そっか。
ずっと、怖かったんだね。
ゾーヤが優しく、僕の頭を撫でる。
慣れない感覚だけど、妙に安心した。
シュヤ
シュヤ
…ゾーヤは、僕のこと
いやじゃないの…?
ゾーヤ
ゾーヤ
いやじゃないよ。
シュヤ
シュヤ
…僕のこと、嫌いにならない?
ゾーヤ
ゾーヤ
うん、ならないよ。
ゾーヤ
ゾーヤ
…シュヤはボクにとって
マカロンの中のアイスだからね。
シュヤは、知らなかったかもしれないけど。
シュヤ
シュヤ
ほえ…?
ゾーヤ
ゾーヤ
…あれ、伝わってないのかな?
つまりね、だいすきってことだよ。
シュヤ
シュヤ
…だい、すき…
衝撃的な言葉に、思考回路が働かなくなった。
…はて…?
ゾーヤ
ゾーヤ
うん。
だから、いやだなんて思わないし
嫌いになんかならないよ。
シュヤ
シュヤ
…そっ、かぁ
そうなんだ…
……ゾーヤは、好きでいてくれるんだ。
みんなは、分からないって
変だって、そう言ってたけど。
ゾーヤは、分かってくれる。
…僕を、そのままで見てくれるから
こんな僕にも、好きって言ってくれるんだな。
ゾーヤ
ゾーヤ
…ふふ。
ちょっと安心した?
シュヤ
シュヤ
……うん。
なんか…こんなに幸福でよいのかとか思い始めてきた…
身に余る大きさの不安が、身に余る幸福で消えていく。
…いいのかなぁ、幸せでも。
好きになっても、そばにいても。
…誰かを、傷付けるような僕が。
誰とも、分かり合えない僕が。
…でも、せめて
だからこそ
ゾーヤのことは、ちゃんと
ちゃんと、取りこぼさずに
理解できるように、いたいな。
ゾーヤ
ゾーヤ
…いいんじゃないかな。
だって、シュヤが嬉しそうな方が
ボクも嬉しいし。
シュヤ
シュヤ
…ゾーヤがいいって言うなら、いいかなぁ。
…安心したら、少しだけ
眠たくなってきた、な。
シュヤ
シュヤ
……
ごしごしと目を擦る。
…あんまり眠さは覚めなかった。
ゾーヤ
ゾーヤ
…シュヤ、眠いの?
目は擦ったらダメだよ、傷が付いちゃう。
シュヤ
シュヤ
…うん……
ゾーヤ
ゾーヤ
…今すぐ寝ちゃいそうな感じだね
……よいっ、しょ…
シュヤ
シュヤ
ぇ、わ…
ゾーヤは少し考えるような顔をした後
僕の手を少し引いて、ベッドに寝転んだ。
…ちょっとびっくりした……ちょっとだけね。
ゾーヤ
ゾーヤ
…ふふ、シュヤってば
きゅうり見つけたこねこみたい。
シュヤ
シュヤ
…僕だって、流石に驚くさ
ゾーヤ
ゾーヤ
ごめんね、ついイタズラしちゃった。
…シュヤって、素直でかわいいから
シュヤ
シュヤ
……いいよ…ゾーヤ楽しそうだから…
そんな風に、楽しそうに笑われて
かわいい、なんて言われたら
なんにも言えないじゃないか…
ずるい…こういう時のゾーヤは、カナタとヒナタみたいだ。
…嬉しそうだし、楽しそうだから
別にいいけど。
ゾーヤ
ゾーヤ
ふふ、ありがとう。
…シュヤ、できたてのイチゴジャムみたいになってるよ。
…かわいい。
シュヤ
シュヤ
…眠気、飛んじゃった
ゾーヤ
ゾーヤ
…あ、ごめん。
すっかり忘れてたよ
シュヤ
シュヤ
…くふふ。
でもね、ゾーヤと話すの楽しいから、いいや
ゾーヤ
ゾーヤ
そう?楽しいなら、よかった。
…それはそれとして、ちゃんと寝ないとダメだけどね
シュヤ
シュヤ
…ん〜……そっかぁ…
じゃあ、ちょっとだけ…
寝よう、かなぁ
ゾーヤ
ゾーヤ
…うん。
ゆっくり寝てね
起きるまで、ちゃんとそばにいるから。
シュヤ
シュヤ
うん…ありがと……
おやすみ、ゾーヤ…
ゾーヤ
ゾーヤ
…おやすみ、シュヤ。
良い夢見てね。
ゾーヤが優しく目を細めて笑った。
…あぁ、綺麗な
やさしい、お月様みたいだ。
いい夢、見れそうだな
なんて思いながら、目を閉じた。
ゾーヤ
ゾーヤ
…ふふ、あったかい。
作りたてのマシュマロココアみたいだ。
……ボクも、ちょっと、寝ようかな…
…夢の中でも、一緒にいられますように。

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