第4話

見失うことがないように
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2024/11/25 12:29 更新
風月
ちょっと暗めです…ご注意ください…
11月。暦の上ではもう冬らしい。
気温も冬らしくなって、ゾーヤもみんなも
いつもより暖かそうな格好をしている。
対して、僕はさして変わりない。
しいて言うなら、靴下が少し長い。
大体そのままである。
まぁ、でも、保育園の室内は暖かいから
困ることはあまりないのだが。
…今は外にいるけど。
シュヤ
シュヤ
結構肌寒くなったね…
僕は過ごしやすいけど…ゾーヤは平気?
ゾーヤ
ゾーヤ
少し寒いけど…
あったかくしてきたから、大丈夫だよ
シュヤ
シュヤ
そっか、それならよかった。
少し安堵して、小さく笑う。
僕の尺度は、大抵人とズレているので
こういう時は、きちんと確認をとった方がいいのだ。
…辛い思いは、させたくないし。
ゾーヤ
ゾーヤ
…でも、シュヤ。
シュヤは大丈夫なの?
寒さに強いって言っても
気を付けないと、風邪引いちゃうよ。
シュヤ
シュヤ
…確かに、そうだね。
でも…少し冷えるくらいが、ちょうどよくてさ。
落ち着くんだ、寒いのって。
…肺に流れる空気が、水晶の様に凍てついて
指の先が冷えていく度、何故か安心する。
僕が冬生まれなのもあるだろうけど
もし、これが自罰感情の表れだとしたら
それは、自分を傷付けることで
安堵しているのと、大して変わらないのかもしれない。
シュヤ
シュヤ
風邪は引かないように気を付けるよ。
心配してくれてありがとう、ゾーヤ。
ゾーヤ
ゾーヤ
………
ゾーヤもそれに気が付いているのか
ほんの少しだけ怪訝そうに、悩むように
目を細めて、こちらを見つめている。
ゾーヤは優しいから、僕の意思を尊重してくれるだろう。
……それと同時に、酷く心配をかけると思うけど。
ゾーヤ
ゾーヤ
…やっぱり、そうは言っても心配だよ。
だってシュヤ、たまに雪に紛れるスノードロップみたいなこと言うから…
シュヤ
シュヤ
……
まさか、そこまで言われるとは思っていなかった。
…そんなに”まいご”になりそうに見えるのかな、僕。
シュヤ
シュヤ
……そんなにまいごになりそう?僕。
ゾーヤ
ゾーヤ
…まいごっていうより…急に消えちゃいそう。
ゾーヤはそう言って、僕の手をいつもより少し強く握った。
…手は痛くなかったが、そんな風に不安にさせてしまったことに、心が少し痛くなった。
シュヤ
シュヤ
……うーん、それはまぁ…
間違いでも、ないかな…
それは確かに間違いではなかった。
僕は、僕の性格上
いつ”いなくなる”か、定かでは無いのだ。
だから、いついなくなっても大丈夫なように
のこるものは、少なくしてある。
ゾーヤ
ゾーヤ
…ダメとは言わないけどさ。
ボク、それだけはいやだよ。
絶対に、いや。
シュヤ
シュヤ
…珍しいね、ゾーヤがそんなに言うなんて
ここまではっきりいやだと言われたのは
多分、これが初めてだ。
否定ではない、ゾーヤの思い。
…僕がいなくても、ゾーヤなら大丈夫だと思うけど
多分、そういうことじゃないんだろうな。
シュヤ
シュヤ
……あれ、もしかして
僕って思ったより、きみにとって大切だったりする?
ゾーヤ
ゾーヤ
……今になって気が付いたの?初めて?
ゾーヤが驚いたように目を丸くする。
…満月みたいだな、なんて思いながら返事を口にした。
シュヤ
シュヤ
…恥ずかしながらね、今気付いたよ…
シュヤ
シュヤ
今までずっと、僕がいてもいなくても、きみは平気だと思っていたから…
ゾーヤ
ゾーヤ
…ボク、そんな風に見えてたの?
シュヤ
シュヤ
見えてたっていうより…勝手な僕の思い込みだよ。
僕以外にも、仲のいい子はいる訳だし…
ダイヤとか、アキとか、カナタとかさ。
僕は元々、誰にとっても
いてもいなくても、どっちでもいいような
そういうものだったから。
シュヤ
シュヤ
ほら、僕がいなくても
あんまり変わりないかなって思っててさ。
ただそこにある、ぬいぐるみの様に。
道化のように、軽く振る舞い
覚めた時の夢のように、いつだって
忘れられるように。
そうやって、生きていこうとしたから。
ゾーヤ
ゾーヤ
……そんなわけない。
シュヤ
シュヤ
…ゾーヤ?
ゾーヤ
ゾーヤ
シュヤはシュヤしかいない。
他の誰だって、代わりにはなれないんだよ。
…ボクは、君がいないと寂しいよ。
寂しいし、悲しいし
それに…
ちゃんと寝れてるかなとか、泣いてないかなとか
心配になるんだよ、すごく。
シュヤ
シュヤ
え、あ…
ゾーヤ
ゾーヤ
…シュヤだって、そうでしょ?
いつも、そういう風に
ボクのことを、みんなのことを
大切にしてくれてるから。
シュヤ
シュヤ
みんなやゾーヤは、確かにそうだけど…
…分からない。
僕は、そんなにかけがえのないものじゃない。
そのはずだ。
ずっと、そう思ってきた。
……自分を大切にするとか、そういうことは
昔から、よく分からなかったから。
シュヤ
シュヤ
……僕には、唯一のものとか
そういうのが、ないから。
探せば、代わりくらいいるよ。きっと。
だから、
僕がいなくてもきっと、大丈夫。
ゾーヤ
ゾーヤ
…………
ゾーヤ
ゾーヤ
…今言ったことの意味、あんまり分かってないんだね…分かった。
じゃあ、分かりやすいように伝えるよ。
…シュヤ、こういう時は鈍感だもんね
何故か鈍感と言われた。
何故…?
……いや、うん…まぁ…
自分の大切さとか、本当によく分かってないから
妥当と言えば妥当ではある。
シュヤ
シュヤ
え、あ、はい…
ありがとう…?
ゾーヤ
ゾーヤ
…ボクが言いたかったのはね
ボクは君が好きなんだよってこと。
他の誰でもない、シュヤが好きなんだ。
…本当に、誰かが代わりになれると思う?
ボクが好きな君は、君しかいないのに。
シュヤ
シュヤ
ゾーヤ
ゾーヤ
…君がさ、君にとっては
なんでもない、そこら辺にある小さな花みたいなものでも
ボクにとってはね、一輪しかない、大切なバラみたいなものなんだよ。
…本当に、かけがえのない
大切で、なくしたくなくて
なくしちゃいけないひと。
ボクにとっての君の大切さ、伝わった?
シュヤ
シュヤ
あ、はい…
それはそれは、とても伝わりました…
シュヤ
シュヤ
…つまりは、あれですか。
僕にとってのゾーヤ、みたいなこと、ですか…?
ゾーヤ
ゾーヤ
…そう、だね。
そんな感じだよ。
ゾーヤ
ゾーヤ
これを踏まえた上で、ちゃんと考えてほしいんだけど
本当に、君の代わりがいると思うの?
ボクにとっての、君の代わりが。
…あぁ、そっか。
多分、僕が持つ力とか個性とか
考え方とか、そういうので考えたら
代わりになるような人は、山ほどいるだろうけど。
ゾーヤにとっては…
僕じゃなきゃ、意味が無いんだろうな。
…僕がゾーヤを好きなように。
僕にとって、ゾーヤの代わりなんて
この世の何処を探してもいないように。
ゾーヤは、僕を好きでいてくれたんだ。
こんな僕の、僕としての全部をひっくるめて
そのままの僕を、好きになってくれたんだ。
シュヤ
シュヤ
…い、ないね。
がんばって探しても、いない。
ゾーヤ
ゾーヤ
でしょ?
僕にとって、僕が如何なるものであったとしても
代わりのある、ぬいぐるみと同じだとしても。
ゾーヤにとっての僕は、僕しかいない。
あの子にとっての僕は、唯一無二なんだ。
…じゃあ、代わりなんて
いるわけないよな、そんなの。
シュヤ
シュヤ
…でも、そうなると困ったな…
ゾーヤ
ゾーヤ
…どうして?
シュヤ
シュヤ
いなくなれなくなっちゃったから…
いや、僕としては僕なんかいなくてもいいんだけど…
ゾーヤ
ゾーヤ
またそういう言い方…
でも、よかった。
少しは自分の大切さ、分かってくれたみたいで。
ゾーヤは少し怪訝そうにしたが、すぐにいつも通り優しく笑ってそう言った。
その笑顔は、心做しかいつもより嬉しそうに見えた。
シュヤ
シュヤ
うん…はい…
いやでも、どうしよう…
こうなるといなくなる踏ん切りもつかないし…
ゾーヤが悲しむかもだし…
ゾーヤ
ゾーヤ
…泣いちゃうかもしれないね。
シュヤ
シュヤ
それは…困るなぁ…
ゾーヤには、幸せでいてほしいし…
ゾーヤ
ゾーヤ
…ねぇ、シュヤ。
ボクとずっと一緒にいるっていうのは、ダメ?
シュヤ
シュヤ
だ、めではないけど…
ゾーヤ
ゾーヤ
…自信が無い?
シュヤ
シュヤ
うん…まぁ……本音を言うと、そうなるかな…
元々、そこまで理由があって生きている訳でもない。
…理由があったとて、それすら飛び越えてしまう可能性だって
ない訳じゃないから。
誰かと一緒に生きていく算段なんて、立ててなかったんだ。
ゾーヤ
ゾーヤ
うーん…じゃあさ
ボクが連れ戻すよ、ちゃんと。
シュヤ
シュヤ
…?
連れ戻す…?
ゾーヤ
ゾーヤ
うん。
シュヤがまいごにならないよう
まいごになっても、ぼっちにならないように
ボクが手を繋いでいてあげる。
…それでも消えたくなったり、迷ったりしたら
そばで寄り添うし、ちゃんと連れ戻すよ。
どう?
シュヤ
シュヤ
…えっと、嬉しいけど
ゾーヤの負担、大きくない…?
ユウ先生のことも、ゾーヤ心配してたのに…
僕までなんて、大変じゃ…
ゾーヤ
ゾーヤ
負担だとは思わないけど…大変ではあるかな。
2人とも、シューがクリーム配るみたいだし。
抱え込んじゃうし。
僕とユウ先生は性格的にも似ているので
そういうところは確かにある。
……申し訳ないな。
シュヤ
シュヤ
ぐうの音も出ない…
ゾーヤ
ゾーヤ
…それでも、2人とも大切だから。
ちゃんと、守りたいんだ。
確固たる決意の滲む声。
…かっこいいなぁ、ゾーヤは。
僕は、きみに救われてばっかりだ。
……僕も、きみの助けになれるかな。
もし、もしなれるのなら…
できることなら、きみがまいごになったとき
一番最初に、きみを見つけたい。
シュヤ
シュヤ
…ゾーヤ、あのさ
シュヤ
シュヤ
その、僕…なるべく、いなくならないようにがんばるからさ。
僕でも、きみの導になれるかな…
ゾーヤ
ゾーヤ
……
ゾーヤ
ゾーヤ
…ボクがまいごになったら、シュヤが探してくれるの?
シュヤ
シュヤ
…一応、そういうことにはなるかな…
…実質的なずっと一緒宣言である。
ゾーヤが、あんなに大切にしてくれているのだ。
僕だって、同じくらい
ゾーヤのことを大切にしたい。
ゾーヤ
ゾーヤ
…そっか、嬉しいな。
君がいてくれるなら、きっと大丈夫だね。
シュヤ
シュヤ
あんまり期待はしないでね…自信はないから…
そう言いながら、いつの間にか離れていた手を
しっかりと繋ぎ直した。
ゾーヤは少し驚いた後、嬉しそうに
愛おしそうに、微笑んだ。
ゾーヤ
ゾーヤ
…大丈夫だよ。
だってシュヤは、いつだってちゃんと
ボクを見つけてくれるし
ボクの手を握ってくれるでしょ?
シュヤ
シュヤ
…それだけが、僕の取り柄だからね。
きみのことだけは、他人に負けたくないんだ。
だって、きっと
シュヤ
シュヤ
僕は、きみが大好きなんだもん。
それ位は出来なきゃね
ゾーヤ
ゾーヤ
…ふふ、そっか。
そうだね、君はそういう子だった。
きみを、見失うことが無いように。
きみが、幸せに過ごせるように。
その為だったら、僕は
僕の嫌いな僕だって、大切にしてみせるとも。
この世で一番大切な、きみの為に。
シュヤ
シュヤ
…そろそろ部屋に戻る?
ゾーヤ
ゾーヤ
…そうだね、君が風邪を引いたら困るし
戻ろうか。
シュヤ
シュヤ
うぅ…
もう少し厚手の上着探します…
ゾーヤ
ゾーヤ
うん、そうしてくれると嬉しいな。
ゾーヤ
ゾーヤ
(…ずっと、一緒に)
シュヤ
シュヤ
…ゾーヤ?
ゾーヤ
ゾーヤ
…ん、どうかした?
シュヤ
シュヤ
ううん、特に何もないけど…
考え事してるように見えたから…
ゾーヤ
ゾーヤ
あぁ…なんでもないよ、大丈夫。
雲を眺めるハシビロコウみたいにしてただけだよ。
シュヤ
シュヤ
そうなの?
それならいいけど…
ゾーヤ
ゾーヤ
(…細い糸の上で回るコマみたいな考え方してても、いいことなんかないし)
大事なのは、この手を離さないこと。
見失わないこと。
ずっと、一緒にいたいから。
…それだけ、分かっていればいい。

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