第3話

初めてきみに恋をした時
214
2024/11/25 04:36 更新
僕は、元々病気がちだった。
ゾーヤに会った時も、採血やら入院やらで中々家に帰ってこられず、それら全てが終わってから帰ってきたような気がする。
シュヤ
シュヤ
…大して動いてないけど、つかれたな。
そういえば、最近引っ越してきた子がいるって
母上、が…
…思わず息を呑んだ。
視界に映る、凛とした美しい顔。
風に吹かれてなびく、宝石の様に美しい長い白髪。
もしあれがクォーツと言われたなら、僕は信じるだろう。
そう思うくらいには、きらきらと輝いていた。
シュヤ
シュヤ
…きれーな子。
そう言いながら僕は、ずっとその子を眺めていた。
…初めて、自分から話し掛けてみたいと思った。
仲良くなりたいと思ったから。
でも、僕の喉は閉じたまま。
右手も、何かを怖がるみたいに
ずっとシャツを握りしめている。
いつもの癖。
怖くなると、心臓の位置に近いところを握りしめる。
なんでかは分からないけど、こうすると
少し、安心するから。
シュヤ
シュヤ
…なかよく、なりたい
…だけど、無理だ。
僕は、人を傷付けてしまう。
誰のことも、理解できないから。
あんなに綺麗な子を、傷付けてしまうくらいなら
手を伸ばさぬまま、閉じこもっているべきだ。
シュヤ
シュヤ
……なんて、勝手なことを考えているけど
結局、僕が怖いだけだよな。
…嫌われて、離れて
失うのが、怖いだけだ。
もう、あんな思いはしたくない。
…だったら、最初から関わらないのが
一番、簡単だ。
シュヤ
シュヤ
……帰ろうか、テトも待っているだろうし。
思い出した悲しさに耐えられるように
口元に笑みを浮かべる。
大好きな黒猫のぬいぐるみ…テトのことを考えながら。
今日は久しぶりに、テトとおひるねをしようかな…
テトは大きいから、枕にちょうどいい。
なんて思いながら、帰路につく
…はずだったのだが。
ゾーヤ
ゾーヤ
……
(なまえ)
あなた
…え?
お月さまの様な、イエローダイヤモンドの様な
金色の、美しい瞳が
こちらを、じっと見ている。
金色が、色の白い肌によく映えていて
あまりの美しさに、触れたら壊してしまうのではないか
という、変な恐怖が生まれた。
…おかしな話だ。
僕は普通の人間より、ずっと力が弱いのだから
壊すはずなどないのだけれど。
ゾーヤ
ゾーヤ
…なんだか、カーテンに隠れるこねこみたい。
シュヤ
シュヤ
え、あぁ…僕のこと、ですか…?
ゾーヤ
ゾーヤ
うん、君のこと。
…さっきまで、遠くでボクのこと見てたから。
そういえば、さっきより
いくらか距離が縮まっている。
…いつの間に……?
シュヤ
シュヤ
…もしかして、僕が無意識のうちに
近寄ってしまった…?
ゾーヤ
ゾーヤ
君が何か考え事をしていた時に
ボクが近づいただけだよ。
シュヤ
シュヤ
忍か…?
いや、多分僕が注意散漫なだけなんだけど…!
ゾーヤ
ゾーヤ
…望遠鏡で見られる月みたいな気分だったよ。
あんなに見つめられてたら、さすがにね…
ボクも気付くよ。
シュヤ
シュヤ
あ、えと…
ごめんなさい…
望遠鏡…月…
合っているかは分からないけど…
ものすごく見つめられて、気はずかしい思い
ということなのだろうか…
……とても申し訳ない…
ゾーヤ
ゾーヤ
ううん、大丈夫だよ。
少しびっくりしたけどね
そっと、優しく笑うその子が
眩しくて、暖かくて…
とても、美しいと思った。
思えば、この時に恋に落ちたのだろうなと思う。
…一目惚れの可能性もあるけど。
シュヤ
シュヤ
…きれい
ゾーヤ
ゾーヤ
え?
シュヤ
シュヤ
はっ…!
な、なんでもない!なんでもない、です!
忘れてください……
ゾーヤ
ゾーヤ
…ふふ、君って素直なんだね。
産まれたばかりのひよこみたい
そう言って、楽しそうにその子は笑った。
僕は心拍数が上がりすぎて、生命の危機を感じているけど。
…やっぱり、綺麗だ。
ゾーヤ
ゾーヤ
…あ、そういえば自己紹介してなかったね
ボクの名前はゾーヤ。
せっかくだし…君の名前、教えてほしいな
シュヤ
シュヤ
え、あ…
シュヤ、です…
ゾーヤ
ゾーヤ
シュヤ…いい名前だね。
家も近いし、関わることも多いだろうから
仲良くしてくれると嬉しいな。
これからよろしくね、シュヤ
シュヤ
シュヤ
こ、こちらこそ…よろしくお願いいたします。
ゾーヤ、さん…でいいのかな…
ぎこちなく、挨拶を返す。
合ってるだろうか…失礼にならないだろうか…
…仲良く、できるだろうか
そんな思いが、ぐるぐると駆け巡る。
ゾーヤ
ゾーヤ
…無理に敬語使わなくていいよ
同じくらいの歳でしょ?
シュヤ
シュヤ
え、あ、じゃあ…
ゾーヤ、と呼んでも…いいのでしょうか…
そう言う僕に、ゾーヤは少しきょとんとしてから
小さく笑った。
ゾーヤ
ゾーヤ
…ふふ、うん。
呼びやすいように呼んでいいよ。
ゾーヤ
ゾーヤ
さてと…ボク、そろそろ帰らなきゃ
またね、シュヤ。
シュヤ
シュヤ
あ、うん…!
またね、ゾーヤ…!
そういえば、かなり話していた気がする。
慌てて我に返り、ゾーヤに返事をした。
…僕も、持って帰ってきた本たち
片付けないとな、なんて思いながら
帰路についた途端、足を地面に引っかけて転んだ。
それはそれは盛大に。
ゾーヤ
ゾーヤ
え、大丈夫?
ものすごく痛そうな音だったけど
ゾーヤが慌てて戻ってきてくれる始末である。
申し訳ないやら痛いやらで、泣きながらゾーヤと
会話する羽目になった。
シュヤ
シュヤ
……いたい…
ゾーヤ
ゾーヤ
だよね…
家まで送ってあげようか?心配だし…
シュヤ
シュヤ
……おねがいします…
ゾーヤ
ゾーヤ
うん。
…あ、大丈夫?立てる?
ゾーヤが手を差し伸べてくれたので、その手を掴み
フラフラと立ち上がった。
嬉しさもあるが、兎にも角にも足が痛い。
ゾーヤ
ゾーヤ
…ゆっくり歩こうか。
家までそんなに遠くないし、焦らなくていいからね。
僕の考えを感じ取ったのか、ゾーヤは優しく
そう言ってくれた。
シュヤ
シュヤ
うん…ありがとう…
ゾーヤ
ゾーヤ
どういたしまして
そうやって話しつつ、手を繋いでもらいながらゆっくりと歩き
最終的に家まで送ってもらって、もう一度またねを言った。

これが、僕が初めてゾーヤに会った時の記憶。
初めての恋の記憶でもある。
……それにしては随分みっともない過去なので
記憶から消そうか迷うものだ。消せないけど。
まぁ、でも
悪い記憶では、ないなと思う。

プリ小説オーディオドラマ