どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
皆様本当にありがとうございます!!!
「あーもう、うっさい……!」
「あらあら、仲が良さそうで微笑ましいではないですか」
あまりの喧しさに眉間を皺だらけにしているエレンの横で微笑むリナ。
尤も、エレンの怒りは至極真っ当なものである。
戦っている間だけならまだ良いが、ただ歩いているだけの時でさえ隣の方でギャリギャリギャリギャリ鼓膜を痛めつける様な音が鳴り響くのだ。しかも二つ。
因みに耳を抑える猫又は居なかった。どうも裁判には邪兎屋全員で出廷しなければならなかったらしく、借金取りに追われる様に帰っていったのだ。
狩人は呼ばれなかった。何故。
「カリン……ハァ……」
マナーもへったくれも無いめちゃくちゃな態度に顔を顰めるライカン。
だが、二人のあまりの大はしゃぎぶりにもはや口を挟む気力も無く、ただため息をつき、右手で顔を覆うだけであった。
一方肝心のノコキュアはというと、
「「ヒャハハハハハハァーッ!!!!」」
……それはそれは元気そうであった。
人格変わってないかと心配する狩人だったが、一時的なものだろうと楽観的な予測を立て、もう一度共に狂った。
宙に浮いているエーテリアス。こちらの攻撃から逃れようとしているのだろうが、そうはいかない。
「狩人さん!」
「ああっ!」
それ以上の言葉は不要だった。
狩人がカリンの左手をしっかりと握ると、地面に回転ノコギリを突き立てる。
次の瞬間。
「まあ……!」
思わず、リナが口を覆った。
ノコギリの回転を利用し、棒高跳びや投石機の要領で跳び上がる狩人。
その手から遥か空中へと放たれたカリンが、飛んでいるエーテリアス達をあっという間に切断してのけたのである。
ふわりと自由落下する小さな背中を、ばふっと音を立てながら狩人がキャッチ。またもや丸ノコの勝利だ。
お互いの失敗を一切想定していないその動きに、思わずエレンが問う。
「危なっかしい……ねえ、プロキシ。アイツがカリンと出会ったの、本当にこれで二回目なんだよね?」
「うん……少なくとも、僕の知っている限りでは……」
困り気味のアキラ。当然であろう。彼も驚いているのだから。
「それにしても、光の点滅が激しいですね」
口を開いたのはライカン。電源の供給が不安定であり、急がねばニコの失踪した友人、レインの居るはずの別棟へ向かう道が閉ざされてしまうとの事だ。
なら急ぐかと早足になった途端、ぞろぞろと敵が湧いてきた。その数、軽く二十は越えているであろう。
すぐに走り抜けた一行であったが、二人だけ逃げ遅れた者達がいた。
「カリン!」
「狩人!」
囲まれた彼らに向かい、ライカンとアキラが思わず叫ぶ。その一方で、狩人はもう決意を固めていた。
「カリン、私が気を引く。だから貴公一人だけでも──」
覚悟を決めた狩人がカリンの方を見やると、んしょ、んしょ、と躍起になってノコギリの中心部にある出っ張りに足を乗せていた。
普段の狩人なら、気が狂ったかと憐れむだろう。しかし、今の彼には分かった。
「……カリン、二人乗りは出来るか」
「はい! もちろんです!」
次の瞬間、早く助けに向かわねばと構えていた家政一同が、一斉に動きを止めた。
「なんと……」
「まあ……」
「はあ……ほんとにバカすぎ……」
「ハハ……なんというか、凄いな……」
彼らの瞳に映ったものは──。
ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!!!
ノコギリ盤の中心に両足を乗せ、円形の軌道を描きながら鬼の体幹任せに全力で丸ノコを爆走させるカリン。
そして、その小さな肩の上でカリンの描く円の外側へ回転ノコギリを突き出す狩人の姿であった。
「なんと無茶な……」
そのあまりに馬鹿馬鹿しすぎる光景に、ライカン含め皆が絶句した。狩人とカリンを除いて。
「カリン!!! お前は天才だ!!!!」
「はい!!!!! カリンは天才です!!!! 私達は無敵ですぅぅぅっっ!!!!!」
うるさすぎる駆動音に負けじと声を張り上げる二人。カリンの顔から不安が消え去り、代わりにヤケクソな自信で満ち溢れる。
今や超高速で回転する圧倒的な死のトーテムポールと化した彼らの進撃を止められるものは、最早この世に存在しない。
あっという間に、敵という敵は切断され、ミンチにされ、薙ぎ倒されてしまった。
「はあ……はあ……カリン……ただいま……もどりましたぁ……」
「ありがとう……ハァ……ハァ……カリン……ハァ……助かった……ハァ……」
「……あのさ、疲れてるなら降りれば?」
エレンの提案に感銘を受け、カリンがノコギリから、狩人がカリンから降りる。
窮地を脱したカリンの顔は、いつもの気弱なそれに戻っていた。
一方エレンは、人ふたりを乗せた丸ノコを垂直に静止させられるカリンのバランス感覚が信じられず、暫くの間頭痛に悩まされた。
「点滅が更に激しくなってきました、急ぎましょう」
息切れも収まって暫くすると、ライカンがそう告げた。皆が全力で走り出す。
やはり、彼らの連携は凄まじいな。
狩人はまたしても驚かされていた。共に働いていた時間は、一年や二年では無いのだろう。
ライカンが道を開ければ、リナがイアスを運ぶ。敵の奇襲はカリンとエレンが対処する。ベルトコンベアの様なスムーズさだ。
ふざけている場合では無くなった狩人もガトリングを取り出し、後ろから追ってくる化物どもに思い切り浴びせてやった。気分がスカッとした。
「ッッ! シャッターが!」
別棟への扉が閉まりかけている。全力で走り始める一行。狩人とカリンも丸ノコバイクで並行疾走した。だが。
あと少しという所でエーテリアスに邪魔をされ、シャッターは完全に閉ざされてしまった。
もうどうしようもない。パイルで吹き飛ばせばとも思ったが、この不安定なホロウの中でそんなことをすれば建物の構造が変化してしまう恐れがあるらしい。
とりあえず、皆一旦帰宅することになった。また明日、とカリンとグータッチをして別れる。
カリンの破茶滅茶な勤務に対し苦虫を噛み潰したような顔をしていたライカン。
しかし狩人から「あの態度は私が彼女に望んだものだから説教は勘弁してやってくれ」と頼み込むと案外すんなり了承してもらえた。
実際の所、ライカンは──リナもエレンもだが──カリンの成長を喜んでもいたのだ。
雇い主の家に付いた時に確信した。一つ一つの動きに混じる動揺や不安が、減っている。
微々たるものだが、確かに自信を付けていたのだ。
ほんの少し、ライカンの狩人を見る目が変わった。
そんな事も露知らず、狩人はとびきりのコメディ映画を借りて夢へ戻るのであった。
淑やかに笑う人形ちゃんは可愛かった。
そして翌日。狩人達は開いたシャッターの前に立っていた。
電気の復旧に成功したのだ。
「……!? これはっ……!」
アキラの操るイアスが駆け寄った先には、バッグ。それはレインの持っていたものであり、狩人はかなり嫌な予感に包まれた。
まさか、死んだか。早速供養しようと火炎放射器を取り出す狩人だったが、まだ早いと皆に止められた。
バッグの中から取り出したレコーダーから、音楽が流れ始める。悪くない曲だ、と思わず聴き入った。
「きっと近くにレインが……!」
笑顔を浮かべるイアスの背後に、影。
「危ないっ!」
狩人が叫ぶと同時に、カリンとエレンがその影に斬りかかる。だが、二つの刃は両方とも弾かれてしまった。
「これは……?」
そこに居たのは、真っ黒な……女、であろうか。明らかにエーテリアスではあるが、ドレスを纏った女の形をしていた。
そのスカートの縁が刃まみれで無ければ一緒に踊ってやりたい程優雅に舞うその怪物は、しかしこちらに確かな殺意を向けていた。
「ダンスを御所望の御様子……」
ライカンが構える。それと同時に、全員が戦闘態勢に入った。
最初に動いたのは、エレンだった。目にも止まらぬ斬撃が怪物に飛ぶ。
並行して、リナの雷光が降り注ぐ。小さなトニトルスみたいだな、と思った。
真正面から足技を繰り出しているのは、ライカン。
からくり仕掛けの足からは、身の毛もよだつような冷気が噴出していた。
一方狩人はというと、カリンのように皆と連携することも出来ないので、斬り込むタイミングを少し遠くから今か今かと待っていた。
──来た。皆が怪物から離れた一瞬の隙に距離を詰める。
至近距離で散弾銃を浴びせ、怯んだ隙にノコギリ鉈を振るう。
が、効果が薄い。回転するドレスにより全てが受け流されてしまうのだ。
ならば、と距離を取ってから狩人は声を上げる。
「カリン! 挟み込むぞっ! 逆回転だ!」
「ええっ!? あっ、は、はい!」
一瞬遅れて狩人の意味する事を理解したカリンが駆け寄る間に、ドレスの怪物はその回転速度をどんどん上昇させていく。
「カリンッ! 狩人ッ!」
恐ろしい速度で回転しながら彼らに向かい突っ込んでいく怪物を見て、エレンが思わず叫ぶ。
迫り来る死に、しかし狩人は笑っていた。かかったな、と。
いつの間にか持ち替えていた回転ノコギリを取り出す。
瞬間、カリンが回り込む。怪物を挟むと同時に、ふたりの丸ノコが甲高い叫び声を上げた。
激突。黒板を引っ掻いたような嫌な音を響かせる。
「突進を止めた……? いやっ……あれは……っ!!」
ライカンも気付いた様だ。怪物の行う回転に、逆方向の回転を
みるみる内に怪物のドレスが擦り減っていく。これは堪らないと跳び上がった怪物のスカートは、鍋の蓋の様な大きさになっていた。
もう一度、来る。狩人達が構えたが、突然その怪物は動きを止めた。
なんだなんだと警戒していると、突然、戦闘の弾みに吹き抜けから落ちていったレコーダーを追いかけ消えてしまった。
「これは……一体……?」
困惑しているのは、アキラだけでは無かった。
狩人&カリンコンビのあまりにふざけた戦法でダメージを与えられた事にも困惑していたが、一番は化物の動きである。
明らかに、「けしかけられて」いた。アキラが思案していると、突然、閃光。
大量の小型ミサイルが飛んできていた。
「これはっ……マズイっっ!!」
尤も、次の瞬間にはエレンに守られていたのだが。飛んで来るミサイルを、次々と切り払っていく。
すぐに、武装した人間達が見えた。
「待ちなさい、エレンっ。全員倒しては……」
時すでに遅し。階段を駆け下りたライカン達が見たものは、疲労ですやすやと眠るエレンと、気絶した兵士達だった。
ため息をつくライカン。
「彼らは暫く起きそうにありません。一度外に連れ出しましょう」
ホロウを抜け、皆が帰宅した後。
人気の無い場所で椅子に縛り付けられ、震える兵士達の前に立っていたのはライカン、リナ、そして「尋問」は得意だとついてきた狩人だった。
「さて、何から吐かせるべきでしょうか……」
呟くリナを背景に、夜の帳は降りていった。
また長くなってしまった。
だが存分にカリンを書けたので後悔は無い。