どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
あの事件から数週間後。
狩人は人形ちゃんと一緒にぼけっとテレビを眺めていた。
いつもの調子ならこんな事をする暇があればせっせとホロウか聖杯に潜っている筈の狩人だが、これには理由があった。
ホームシックである。爆発金槌を持った小女と共闘したり、治安局の女ふたり──しかも片方は機械仕掛けのハイテク人形である──に追われたり……
とにかく忙しい事続きだった狩人は、そういえば最近夢に帰れて無いことに気付き、暫し人形ちゃんとのんびりゆったりする時間を取ろうと考えたのだ。
この夢でもう三日は経ったろうか。時折外に出るのと、テレビはつけっぱなしにしてある*1ので、時間の流れは外と同じだろう。
「狩人様、ずずっ、このっ、ずずっ、らーめん、ずずっ、というもの、ずずっ美味しずずっ」
「ああ、食い終わってからで良いぞ」
大体言いたい事は分かったからと窘める狩人。ちょくちょく新エリー都で食べ物を買ってきては、ふたりで一緒に食べているのだ。
狩人とは違い、技量があまり高く無い人形ちゃんに箸の使い方を教えた時の事がふと脳裏に浮かび、思わず笑みがこぼれる。
唐突に寿司に突き立て新料理、寿司串を創り上げた時には度肝を抜かれたものである。*2
ふと、玄関近くのテーブルに置いた黒電話が鳴る。*3ニコからだ。
「どうした、ニコ。裁判の日程は忘れていないぞ」
「Random Playに来て。話があるわ」
裁判。ちょうど今日、我々はパールマン達と法廷で争う事になるのだ。
よし分かったと電話を切った。ビデオ屋に集まる理由は知らないが、行けば分かるだろう。
そうだ、と思い出した様に人形ちゃんに尋ねる。
「用事だ。帰りにビデオを借りてくるつもりだが、なにかお望みのジャンルはあるか?」
「狩人様、宜しければコメディを借りて来て頂けるでしょうか」
了解した、と返しながら、狩人は心の中で彼女の人間性の成長を喜んでいた。私欲で頼み事をするとは。
目覚めが有意なもので云々とお決まりの挨拶を終え、Random Playの駐車場で目覚める。
店に入った。誰も居ない。カウンターを見れば、ボンプが一匹。すやすやと寝ていた。
これでどう店を回しているのだろうかと疑問に思いながら鉄扉を叩く。
すると警備のボンプは、覗き口から狩人を一瞥するなりすぐさまその重たい扉を開けてくれた。
かわいいやつめ。使者達と良い勝負かもしれないな。
「やあ、暫くぶりだな、邪兎屋の皆。アキラとリンもだな」
「え、はっや……さっき電話したばっかよね……?」
驚愕するニコ。
なぜか空気が張り詰めていた。絶対にろくでもない用事なのだろうなと予測をつける狩人。
少し帰りが遅くなりそうだと心の中で人形ちゃんへ詫びた。
話の内容は単純だった。ニコの友人が音信不通になったかと思えば、とあるビルを発信地にひたすら空白メールを送りつけて来るように。
ニコ自身で直接調べたいのは山々だが、彼女は裁判に出廷しなければならない。そこで、我々の出番という訳だ。
ビルの名は、「バレエツインズ」。幽霊が出ると噂らしい。怯え気味のアキラ。
リンにたっぷりとホラー映画を見せられたらしい。哀れな事だ。
「じゃあ、私達はビリーと猫又を連れてくる」
「ええ、頼んだわ、アンビー」
「幸運を祈るぞ、ニコ」
その会話の数時間後には、ニコを除いた皆と共にビルの内部に居た。
「ゔぅ〜、なんだかヤな感じ……」
「おいおい、なんだか如何にも出そうって感じじゃねえかぁっ……!」
怯える猫又とビリーの横には、真顔で突き進むアンビーと狩人が居た。
特に狩人の方に至っては、あまりの落ち着きぶりにアンビーからも少し心配される程の冷静さであった。
仕方のない事だろう。狩人にとって幽霊とは、カインハーストをうろつく、なぜか物理で殴って殺せる圧倒的な弱者なのだ。群れれば話は別だが。
それに恐怖など、ヤーナムでとっくに味わい尽くしていた。獣に気狂い、果ては上位者、宇宙的恐怖とすら対峙しているのだ。
皆でエーテリアスを狩っていると、開けた場所に出た。強者の気配がした。
嫌な緊張を感じ取ったのだろう。猫又が身体を震わせていた。その時。
「危ないっ!!」
アンビーが猫又を押しのける。一瞬遅れて、先程まで彼女達の居た場所に突き刺さったのは、巨大な──。
「ハサミ……!?」
すると今度は足音まで聞こえて来た。続いて声もだ。
「さぞ容易い道中だったでしょう。ですが、ここで終点です」
階段の上から、ここは私有地だと告げる、一匹の獣。その真っ白な毛皮には見覚えがあった。
「貴公……」
「おや、これは。お久しぶり、というべきでしょうか」
緊張が解ける事は無かった。一度殺気を向けた事があるからだろうか。狩人を見ると、寧ろ彼の警戒は強まった。
白い獣、ライカンが懐中時計を開く。
「三十秒でご要件をお申し付け下さい。内容次第では……」
──ただでは返さない。そう意味している事はすぐに分かった。
だが、甘い。殺すと言わない脅しなど、ヤーナムでは鼻で笑われて終わりなのだ。
言葉を返そうとしたその時。
あらゆる陰に敵の潜む狂った街で鍛え抜かれた彼の感覚が、一つ存在を感じ取った。
丁度良い。手本を見せてやろうと狩人が思い立つ。
狩人が散弾銃をしまう。代わりに引き抜いた短銃、エヴェリンと呼ばれるそれの銃口が向けられた先は獣、ではなくアンビー、彼女の背後であった。
「……ッッッ!?」
アンビーも気が付いた様だ。警戒しきっていた狩人でも、すんでの所で気が付いたのだ。只者では無いだろう。
静かに、しかし重みを乗せて言葉を放つ。
「身じろぎ一つしてみろ、この女の頭が吹き飛ぶぞ。命令するのはこちらの方だ」
「おや、まあ……バレてしまいましたか」
いつの間にか背後に居た、女。二体のボンプも連れている。
側頭部に向けた銃口を押し付け撃鉄を起こすと、その動きは止まった。本気と察したのだろう。
依然として余裕そうな態度を崩さない彼女だが、その頬には一滴、冷や汗が垂れていた。
脅しとはこうやるのだ。無言の目配せで獣に語る。
「リナ……!」
獣が顔を歪める。卑劣だとでも言うつもりなのだろうか。
先に不意討ちを仕掛けようとしたのはどちらだ。あらゆる卑劣な手段で殺され、殺してきた狩人は心中で嘲った。
相手は紛れもなく圧倒的強者であり、その上一人ですらないときた。
わざわざ真正面から正々堂々と戦ってやる訳が無いだろう。
……こちらに仲間が居なければやっていたかもしれんが。
改めて皆が構える。一触即発のその状況で、突然何かが転がって来た。
ころころと間抜けな音を立てて転がってきたそれは、刃の並べられた、薄い円盤。
この懐かしい円盤は、まさか。
もう一つ、人影が現れた。獣が顔を顰める。
「言った筈ですよ。武器の手入れと床磨きは欠かさずに、と……」
「ああ、ううっ、ご、ごめんなさい……」
頭を下げるその小さな身体に、大きな武器の大きな持ち手。
その全てに、見覚えがあった。ありすぎた。狩人と猫又が、思わず大きな声を出す。
「その丸ノコは、まさか我が友、カリン氏ではないかっ」
「カリーン!」
こちらを見た、
「猫又さん! 狩人さん! それに調査員さんまで!」
彼女の言葉に獣が反応する。
「カリン、面識が?」
「は、はい! この前、ホロウで迷子になっていた所を助けて頂いたんです!」
それは、とライカンが目を見開く。続けて、軽い咳払い。殺気が霧散したことを感じ、狩人もゆっくりと銃口を女から外した。
「もういいでしょう。顔見知りなのでしたら、手間が省けます……」
メンバーの揃った彼らは、ヴィクトリア家政を名乗った。
……あとなんか鮫の女もいた。ハサミの主だろう。気怠げな態度だが、一目で強者だと分かった。
聞くに、彼らは少数の富める人間に仕える一級の家政集団なのだとか。
今回ここに来たのは、このツインテッドタワーに投資した者から清掃を頼まれたかららしい。
「ホロウの中の建物に投資って……流石お金もち、発想が大胆……」
おののく猫又。皆もすっかり和解し、ではこれから協力しようかという時。
ギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!!!
突如鳴り響く、爆音。皆がびくりと身体を震わせ、音のした方向を見てみれば、そこにいたのは──。
「カリン……?」
思わず声を出す鮫女、エレン。
いつも気弱な友人の、しかし愉快さと自信に満ち溢れたその姿を見れば当然の反応であろうか。
「あー……」
そういえばそうだったこいつらは、と嫌な記憶が蘇り呆れ顔で耳を抑える猫又。
その視線の先には、カリンの横で一緒になってやたらめったら物騒な見た目の武器、回転ノコギリを振り回す狩人がいた。
「久しいな、
「はい! お久しぶりです!」
ここに、
「う〜わ、メンドクサそ……」
大きなため息をつくエレンであった。
はい、もうレイン編突入です。ノコノコ。