どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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書いた後からでも「これ文脈おかしくね?」ってなったらバンバン修正していきます。
ご容赦を。


人形ちゃんとの再会。最悪の目覚め。そしてビデオ。

 Random Playのど真ん中で目が覚めた。

 

 真夜中。兄妹は寝静まっていた。起こすと申し訳無いので静かにランタンに手を翳した。

 そういえばあれがこの地に来てから初めての死だったな、などと考えながら、夢に沈んでいく感覚に身を任せた。

 

 また、目を覚ました。

 並ぶ墓石から伸びる階段を見上げればこじんまりとした、しかし清潔感のある立派な洋館が聳え立っていた。

 狩人の夢だ。

 

 洋館から視線を下ろせばやけにデカい、いや本当に体躯がという意味でデカすぎる人形が突っ立っていた。時々自分が180センチ近くあるのも忘れてこちらが小さいのでは無いかと錯覚する。

 

「おかえりなさい、狩─」

 

 言葉を言い終えるのも待たずに飛びついた。久し振りに会えた喜びをこれでもかと表現するように抱き締めた。無言で、頭を撫でて貰う。赤子に戻った様な気分だ。

 気持ちの落ち着いた狩人がようやく顔を離す。

 

「久し振りだな、人形」

 

「ええ、お久しぶりですね」

 

 言葉を交わす度に、狩人の心は弾んだ。

 血と汚物に満ちたヤーナムで荒んだ心を、洗濯するように浄化してくれる存在であった。

 狩人は、新エリー都での出来事を語った。それはもう浮足立つような調子で。

 

「そこで、私が散弾銃をお見舞いしてやったのさ!」

 

 

 

 

 一通り話を終えると、狩人は武器の手入れを始めた。新エリー都に入ってからずっと修理していなかったからだろう、破損が酷い。

 死血の雫を砕いて得た血の遺志で修理を終えた狩人は、その後暫く武器につける血晶石を変えるなどして時間を潰したあと、ホロウ内で拾った本を読み始めた。

 

 中には子供向けのものもあったが、大抵は普通の小説だった。それでも、19世紀の西洋文学とは遥かにかけ離れたそれらは、狩人を楽しませるのには十分過ぎる程のものであった。

 中には自己啓発本などもあったが、狩人にはあまり合わなかった。ヤーナムで自己啓発したところで。

 

 十数冊読み終わった所で、狩人はまた新エリー都に戻る事にした。時間で言えば一、二ヶ月は経った頃だろうか。しかし狩人は上位者、狩人の夢の中ならばその力は特に強いものであり、時間の流れを変える位容易い事だった。

 ……今までは月の魔物に邪魔されて出来なかったのだが、気配が消えていたので試してみると可能になっていた。

 月の魔物がどこかに消えたのである。あとゲールマンも。これで完璧に上位者だ。狩人は一人ガッツポーズをした。

 

 そろそろ、あちらでは夜が明ける頃だろう。人形に、新エリー都と繋がる墓石を教えて貰う。最後の戦いの時、ゲールマンが立ち上がる場所。大樹の麓に、ぽつりと墓石が立っていた。

 

「有難う。では行ってくる」

 

「いってらっしゃい、狩人様。貴方の目覚めが、有意なものでありますように」

 

 また、暫しの別れ。それを惜しみながらも、狩人は目覚めの感覚に包まれていった。

 

 

 

 目覚め。まだ店は開けていない様だ。

 ちょうど、カウンター横の扉から出てきた娘と目が合う。

 

「……え?」

 

 永遠に思える程の、硬直。こちらを見つめる小さな顔からみるみる内に血の気が引いていく。今気づいたがカウンターのボンプも震えている。

 まだ開いていない店に入り込むのは失礼だったか。狩人は激しく反省した。

 

「開店前にすまない。今度からは」

 

「おにいちゃんっっ!!!」

 

 涙を浮かべる瞳を大きく開いて彼女が叫ぶと、ドタドタと凄まじい勢いで男が階段を駆け降りて来る。家族思いだな、と狩人は思った。

 

「それ以上妹に近づくなっ! 治安局を呼ぶぞっ!」

 

 恐怖で額に汗を浮かべながら、それでも妹を守る為明らかに勝てない相手への威嚇を行う男。流石の狩人でもまだ正気の恩人を殺すのには罪悪感が湧く。必死の弁明を始めた。

 

「待て待て、警察の類は勘弁してくれ給えよ。先程ここで目覚めたものでね」

 

「目覚める……? 一体何の事を言っているんだ?」

 

 ああ、そうだ、と狩人は思い出した。ここはヤーナムではない。常識が違うのだ。

 ワープが出来るのだ、と狩人は端的に説明した。何なら目の前で実演した。

 

 

 

 

「信じられないな……こんな事が本当にあるのか……」

 

「うわあ! すごいすごい! お兄ちゃん、これって夢じゃないよね!?」

 

 つい先程まで死を覚悟し恐怖に震えていたとは思えない態度だ。特に小女の方はマジックショーでも観ている様な反応だった。

 

「……それで、今のところここにしかワープ出来ないのでこのような状況に陥った訳だ。本当にすまない」

 

「別に、事情が分かったんだ。もう気にはしていないよ。ただ、僕達とは鉢合わせない時間帯にしてもらえると有り難いかな……流石に心臓に悪いんだ」

 

 深々と頭を下げた狩人に、兄妹は軽い注意で済ませてくれた。

 優し過ぎる。こんな善良な人間がヤーナムに居なくて良かった。きっと、真っ先に殺されていただろう。狩人は心からそう思った。

 

 お詫びにたんまりとビデオを借り*1、店を出た。小さなポッケにどう収納したのか聞かれたが、あやふやに誤魔化しておいた。ワープが出来るのだ。今さら亜空間収納ごとき、大して驚くことでもあるまいに。

 

 いつの間にか太陽も見上げる高さまで昇っていた。

 今日はホロウ外部、街中を探検しようと決めていた狩人は、地図上で最も大きな都市、ルミナスクエアに訪れた。

 

 人が多い。あまりにも。それが狩人の第一印象だった。

 そこら中、至る所に人、人、人。人間も獣人もぐちゃぐちゃにごった返していた。獣の臭いに沸き立つ血を抑える。

 人間以外の全てが大きな街で、狩人は明確な目的地もなく歩き始めた。

 

 服を売っている所を見つけた。シンプルなジーパンから、蛍光色のシャツなどのキワモノまで、ファッションセンスの赴くままに、服をカゴに詰めていく。大半は、恐らく永遠に着る事は無いだろう。

 

 茶も嗜んだ。蛙の卵のような物がひしめき合っているミルクティーには思わず啓蒙を得たが。

 タピオカと発音する真っ黒なそれは、しかし食感が面白く、喉につまらせて危うく夢送りになりかけたりしながらも、狩人は初めて体験する味を楽しんでいた。

 ……そういえば、夢に囚われてから初めてロクなものを食べたかもしれない。いつの間にか涙を流していたのはそのせいだろう。

 人形ちゃん用にもう一つ、いや二つ、追加で買っておいた。

 

 テレビ、なるものを買った。再生機もだ。どちらもビデオ鑑賞には必要らしい。狩人が唯一、これだけは必ず買おうと先に決めていたものだ。

 木材で縁取られたそれは、どうもこの近未来的な街には似つかわしくないようにも思えたが、寧ろ狩人の洋館にはぴったりだと考え、良い買い物をしたと満足気に店を去った。

 

 ルミナスクエアの路地裏にあったランタンを灯し、狩人の夢に戻る。

 

「おかえりなさい、狩人様」

 

 聞き慣れた、心地良い声。

 ただいま、と返事をしながら洋館へ向かい、暫くした後人形ちゃんを呼ぶ。

 

「これは……?」

 

「テレビ、というそうだ。新エリー都で買った。動いて音の鳴る写真を見れる優れものだ」

 

 道具をどかしたカレル文字の付け替え台の上に、ぽつん、とテレビが乗せられていた。

 ケーブル配線弄りは大変だったが、あの親切過ぎる兄妹に教えて貰った通りに事を進めれば、あまり時間は掛からなかった。

 電気はトニトルスを可哀想なくらい魔改造して作った発電機で補った。アーチボルドよ、許してくれ。

 

 ソファーを置き、早速ディスクを再生。

 脳死で見れるタイプのアクション映画だった。

 画面の中で暴れる俳優たちとは対照的に、二人は肩を寄せ合い、静かに見入っていた。

 

 観終わった。これは面白い。あの人形ちゃんですら笑顔を浮かべ、次はこれを観ましょうと提案までしてきた程だ。

 

 アクション、コメディ、ロマンス、ドラマ。

 

 二人で飽きるまでとにかく見まくった。

 途中で、忘れていたと言って狩人がタピオカミルクティーを取り出す。

 喉に詰まらせないようにと注意した。人形の体で飲食が出来るのか心配だったが、カップの中身が減っていく様子を見るに大丈夫そうだ。

 

 タピオカミルクティーを飲みながら、その後も暫く二人で映画を見続けていた。コメディと、ロマンスが気に入った。

*1
ディニーはヤーナムの硬貨を換金して結構な量を持っていました。純金とかでは無いので想定していた程ではありませんでしたが。




念の為書いておきますが、別に私の身長が180センチ近くあるとかでは無いです。
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