高濃度猿侵蝕体“マネキン・モブ”   作:アースゴース

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◇何が始まる…!?
◇この女の目的は…!?


穏やかな夜を良しとしろ……鬼龍のように 5

 「……」

 「……」

 

 泅瓏囲の海岸には、奇妙な緊張感が漂っていた。

 イゾルデと光の司祭。防衛軍の大佐と、讃頌会の司教から分離した謎の存在という、一見何一つとして関わりのないだろう人物同士が、お互いを認識した瞬間から沈黙している。

 

 「……」

 

 イゾルデは確信している。

 この目の前の存在は、以前ラマニアンホロウにて、儀玄率いる適当観のメンバーとマネモブによって敗北した後、死神医療チームによって真っ二つに斬り裂かれた片割れであると。

 それがどうしてか、巡り巡って自身の前に現れたのだ。普通なら、自身の正体が露見しかねない危険な存在だ。だが、目の前の存在……もはや『メヴォラク司教』ではない光の司祭を、イゾルデは邪魔に思わなかった。

 

 しかし……黙っていても始まらない。

 イゾルデはボロ雑巾がマシに見える惨状のロレンツを指し、話題を切り出した。

 

 「()()は……ガルシアがやったのか?」

 「……」

 

 それ、とはもちろんロレンツのことである。

 呼吸はしているが、意識はないようで、胸部が上下しているだけの死体にしか見えない。

 ガルシアは深く頷いた。

 

 「そうか」

 

 イゾルデは咎めるでもなく、ただそう言った。

 無残な姿の上官に対し、何の感慨も抱いていない。そんな雰囲気だった。

 何かがおかしい。そう思ったのは、イゾルデの古くからの戦友である鬼火だった。

 

 『なあイゾルデ、教えてくれ。確かにロレンツは人を人とも思わないクソ野郎だった。だが、本当に私達の部隊を捨てた犯人なのか?』

 「ああ。本当だ」

 『……では、お前は奴らをどうするつもりだった?』

 

 ルクローを、ロレンツを悪逆非道の大罪人であると断じた時のイゾルデには、血気迫るものがあった。

 哀れなロレンツに同情したわけではない。それでも一抹の憐憫が無かったわけではないが。しかし、通信機から聞いたいつになく非常に冷酷だったイゾルデに……答えを聞きたかった。

 彼らをどうするつもりだったのかを。

 

 「もちろん――殺すつもりだったさ」

 『――まさかとは思うが、サクリファイス共もお前の手引きか?』

 「確実に成功すると思ったが、現実は上手くいかないらしい」

 

 強烈な復讐心が辺りを支配する。

 それはどこか不浄な気をまとっており――ミアズマの気配にも似ていた。

 

 「だがな、気が変わったよ。そこで死人のように生きているロレンツ、奥で小鹿のように震えているルクロー……彼らを見たら殺す気も失せてしまった――」

 『だったら――』

 

 鬼火の声は続かなかった。

 それよりも速く、イゾルデの拳銃から弾丸が放たれたからだ。

 目標は……死に体のロレンツ。

 

 「なっ!?」

 

 避けることもままならないロレンツはそのまま凶弾により死ぬ……誰もがそう思った。

 しかし、そうはならなかった。なぜなら……

 

 『ガ………ガルシアッッッ』

 「ガルシア……そんな奴を庇うというのか? まあいい」

 

 ガルシアが、ロレンツの前で銃弾を受け止めていた。

 手のひらを顔の前に構え、完全に受け止めているのだ。

 緊急時にすら使わないであろう、常軌を逸した防御方法だった。

 

 『気が変わったんじゃないのか!?』

 「そのつもりだったんだが……彼らの顔を見ていると怒りが再燃してきてな。自分でもこの衝動を抑えきるのが難しい」

 

 鬼火は理解してしまった。

 イゾルデは狂っている。狂気に堕ちている。

 自分ですら何をしているのか、何を言っているのか分からないのかもしれない。それほどまでに、復讐心が支離滅裂な心情を生んだのだ。

 

 あるいは、その()()()()は――

 

 「ああ、ここにいると余計なことまでしてしまいそうだ。だから――君達が追ってきてくれ」

 

 光の司祭なのかもしれない。

 イゾルデが、光の司祭に手を向けた。全員が警戒する中、衝撃の現象が起こる。

 

 「えっ」

 「なにっ」

 『な……なんだあっ』

 

 光の司祭が……ミアズマの粒子となってイゾルデに吸い込まれた。

 

 「う あ あ あ あ」

 「ひ、光の司祭ーッ!?」

 

 やがて、光の司祭は消え去った。

 そこに光の司祭はいなかった。イゾルデに、吸い込まれてしまったのだ。

 

 『い、今のは一体!?』

 「知りたければ……追ってくるがいいさ。そこですべての真相が分かるはずだ」

 

 ミアズマの波動が放たれる。

 ほんの一瞬、視界を奪うだけのそれが晴れると、イゾルデの姿はなく……船が遠くに消え去るのが見えただけだった。

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 ミアズマの異常な活性化により、ゼンレス限界を迎えつつあるラマニアンホロウ。

 そこへ雲嶽山、オボルス小隊の一行が足を踏み入れていた。そしてそこには、ガルシアの姿も。

 

 『どうして病院に行かずにこんな場所に来たの?』

 『それは医療従事者に解決できるような問題ではないからだな』

 

 ついでにマネモブもいた。

 ラマニアンホロウがヤバそうなのでそろそろ別のホロウに避難しようとしていたマネモブだったが、友人達(少なくとも、マネモブ側はそう思っている)の危機に何もしないのは信条に反する。

 

 『その脳ミソの詰まっていない頭で考えてみろ。ポーセルメックス、防衛軍、讃頌会という名だたる組織をを股にかけたこの陰謀が医者になんとかなるとでも?』

 『いやっ聞いて欲しいんだ』『殺法すなわち活法なり』

 「ダメでありますよマネモブ殿、医者が殺法使ったら」

 『すみませんちょっとやりすぎました』

 

 義を見てせざるは勇無きなり。マネモブは光の司祭を取り戻すため、全ての真実を明らかにするために協力することになった。

 

 『防衛軍、雲嶽山、ガルシア、プロキシ君、そしてマネモブだ。ホロウを何とかするぞ』

 『しゃあっ』

 

 

 

 Now Loading......

 

 

 

 「招かれざる客人達よ……ようやく来ましたか」

 

 ミアズマ装置を止めつつ、ガン逃げしたサラを葉が追って行った後。

 一行は讃頌会の大司教メヴォラクと対峙していた。対峙、と言っても、メヴォラクが一行を見下ろす形となっているのだが。

 

 「……」

 『……』

 

 メヴォラクを前にした彼らは、何か降伏勧告の一つでも言ってやろうと思っていた。

 しかし……

 

 (あれ? メヴォラクの服装、光の司祭とそっくりすぎないか?)

 

 防衛軍の誰もがそう思った。

 めちゃくちゃ嫌な予感がよぎる。雲嶽山の面々も緊張した面持ちだ。

 

 「ミアズマ装置は止まったであります! 大人しく降伏するであります!」

 『抵抗するなら塵一つ残らず焼き尽くしてやる』

 『コラ――』『ええ加減なことぬかすと鉛玉(ギョク)を喰わすぞ!』

 

 だが、彼らの目的は変わらない。

 メヴォラクを捕らえ、イゾルデを見つけ出し、全てを終わらせることだ。

 しかし、時は残酷な運命を紡ぎ続ける。

 

 「私を撃つ気かい? それでもいいが――」

 

 メヴォラクが、仮面を外す。

 

 「それで私が止まると思ったら大間違いだ」

 『なにっ』

 『な…なんだあっ』

 

 そう、メヴォラクの正体はイゾルデだったのだ。

 讃頌会の司教と防衛軍の指揮官。それらは全く同一人物だった!

 そして、司教から分離した光の司祭という存在が再び吸収されたということは――

 

 「え、もしかしてメヴォラク100パーセントになっちゃった?」

 『あ…悪夢だ…』

 

 フルパワーの司教。

 適当観の面々ですら苦戦した実力者。

 この状況はまさに、ラマニアンホロウのみならず、澄輝坪をかけた総力戦の幕開けだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『誰なんだ』

 

 しかし、マネモブはイゾルデと面識がなかった。

 ◇次回、最終決戦

 

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