追記:毎度の誤字報告、誠にありがとうございます。感想と同じくらい、いっぱい好き。
パエトーン視点と六課視点の2本立てと言ったな……あれは嘘だ……。
また次回にさせてください。
それから今話には"デザイン課"というオリジナル人物が少しだけ登場しますが、特に深い意味はありません。六課の衣装とか絶対特注品やろという。それだけです。
少し昔の話。
1人の少女がいた。
通常であれば、これはエーテリアスとなる。
少し昔の話。
1体の竜がいた。
竜はホロウの空を飛んでいた。
微かな鱗粉が地に撒かれども、エーテリアスに触れたところで同種は増えず、人間に触れたところで衣服や耐侵食装備に阻まれ、皮膚や呼吸器から接触したとしても充分以上の量を暴露しない限り保有するエーテル適性に病原菌の如く駆逐され、狂わせはしても同種とするまでは届かない。
仮にエーテル適性の極端に低い人間が一糸纏わぬ姿で転がっていたなら、通常であればこれは黒蝕竜となる。
そんな偶然、起こりはしないと竜は思っていた。
人間は服を着ているものだし、
可能性自体はゼロではない。
けれど竜の鱗粉を容易に暴露する人間は、つまりエーテルにも耐性がないということだ。竜はこれまでのホロウ生活と、人間に対して向けた鱗粉の手応えのなさからそれを知っている。
過去に自身を食べてくれと言った人間にでさえ、今際の際にあっても鱗粉の生殖細胞は充分に働かなかった。その人間を食べた後には鱗粉の生殖細胞組織にその人間の遺伝子情報が組み込まれたが、人が人の形を保っている限りは、エーテルへの免疫でもあり鱗粉への免疫でもあるエーテル適性が残っているために、鱗粉が同種を増やす働きを阻害される。
仮に鱗粉を長時間当て続けるなどして、その免疫の壁が削られれば、鱗粉は確かに相手に届き、相手を同種にするだろう。
だがその時は、相手がエーテルへの免疫を失ったという事でもあり、鱗粉が相手を同種にするよりも圧倒的に早くエーテリアスになってしまう。
こうなると、エーテリアスはエーテルの塊なため、鱗粉の生殖細胞が届くことはない。
竜が正しく生殖するためには、生体でも死体でもとにかく生き物があればいい。
それに付着した鱗粉が生き物を狂わせ、体力を使い尽くさせるでも他生物と戦わせるでもして、結果命が失われれば成り代わって体組織を黒蝕竜へと造り変える。
その役目を果たす事ができる。
しかしながら似たような原理で生き物をエーテリアスとする同業他社、エーテルとかいう競合会社は尋常ではない納期でそれをやってしまうため、"作り替える速度"において一段も二段も劣っている鱗粉はこれまで役目を果たす事が出来ないでいた。
だからそんな、そんなそんな。
鱗粉に暴露しやすいように全裸で。
それでいて免疫たるエーテル適性が低くて。
そんな偶然、ある訳が無いと諦めていた。
そして同時に、同種が増える心配がないのだと安心していた。タカをくくっていたと言い換えてもいい。
パパになるなんてそんなわけw
しかしそんな偶然が、起こってしまったわけである。
暴行された少女は、裂け目から乱雑に捨てられた。
偶然にも裂け目の先は、黒蝕竜が飛び去った直後の場所であり、跡に残された鱗粉が充満していた。
突如現れた格好の獲物に鱗粉は我先にと入っていき、細胞の結合と書き換えを行い始めた。なんでかボロボロだし出血は多いし粘膜を一部失ってたり人間の生殖細胞が先入りしてたり、物件としては要リノベーションだったものの、同時進行で母体を黒蝕竜へと変え始めた。
通常であれば侵食され始めた生物は『狂竜症』と呼ばれる発狂・暴走症状を起こすが、少女には既に狂えるほどの体力も残っていなかったため、リノベーションは順調に進む。
ちなみにこの時、黒蝕竜は空腹に耐えかねて飛び去ったため、この事に気付いていない。
そうして大気中の鱗粉が少女の周囲に集中し、少女の命が減っていくのに比例して、大気中から少女の体内へと移り住んでいく。
事が進むにつれて少女には竜らしい部位が形成され始め、始めは末端の翼や尻尾が完成する。
体内遺伝子情報の書き替えではなく、無かったものを足し算するだけでいい翼と尻尾、それから角が出来上がったあと、次に既にあるものを書き換えるために時間のかかる人間の部位に取り掛かる。
しかしそこで、競合会社エーテルが現れる。
少女の体内へ移り住む事で目減りしていった大気中の鱗粉にかわって、ホロウ内に常在するエーテルがついに少女の体を侵食し始めたのだ。
既に完成した角・翼・尻尾は黒蝕竜の細胞に満ちているからと避けて、着工途中の人間部位から横取りし始める。もちろんこれを良しとする鱗粉ではない。
エーテルは瞬く間に少女を侵食し、もとより耐性の低かった少女にはものの数秒でコアが形成されていく。
このままでは、また納期で負けてしまう。横取りを許してしまう。そう考えた鱗粉は生殖本能のひらめきによって、一斉に
全身を均一に満たして、また均一に作り替えていた鱗粉達は、確かに侵食速度ではエーテルに大きく劣る亀である。しかし一致団結して集結したなら、ただ一時だけはエーテルを凌ぐ侵食速度を発揮するのだ。
そうして心臓を一手に掌握した鱗粉は、次に心臓に溜まっていた赤血球・白血球・血小板からなる『血球』と、水分・栄養素・酵素・老廃物そして
少女の体の至る所で、エーテルと鱗粉の陣取り合戦が始まったのだ。
そうして幾日が経った後、少女の体内には双方の死骸が満ちていた。
エーテルと鱗粉が互いを拒絶しあった結果、踏み荒らされた少女の母体は、その双方に対する免疫、一般にエーテル適性と呼ばれるものを高い純度で獲得した。
するとエーテルも鱗粉も少女の体を侵食すること自体が難しくなり、エーテルは外へ排斥され、鱗粉は角・翼・尻尾それぞれに閉じ込められる形になった。
そして鱗粉が少女の体を
エーテルと鱗粉の死骸が満ちた血液は日を股げば古くなり、古くなった血液は外へ排泄される。
かつて少女だった母体は、傷一つない新品の体と鱗粉の痕跡ひとつない体内環境を手に入れたのだ。
その結果に記憶や人間性が失われたり、鱗粉のもっていた遺伝子情報が組み込まれたり、黒蝕竜の記憶が流入したりしたけれど、文句をいう者はいない。
少女は既に、黒蝕竜に成ったのだから。
竜は空を飛んでいた。
竜はパパになっていた。
自分の知らないところで娘が出来ていた。
それを先日、偶然に鉢合わせる形で知って、竜は一旦その場を退散した。冷や汗もんである。
余談ではあるが、過去のとある人間2人との接触により、竜にはある程度の道徳観念というものがある。
母親を求めるりんの寝言を聞いたことがあるし、親子という概念を学んだ事がある。だから自分とあの子竜が、その親子にあたるのだと理解はしたのだ。
親は子を守るものだと。
だが、自分という親は子にとって猛毒なのだ。
確かに、自分の娘は完全な黒蝕竜ではなく、人間と黒蝕竜の遺伝子キメラ。ツギハギの状態。人間の部分が獲得している高いエーテル適性が同様に鱗粉にも抗うだろう、だから人間の躯体でいて、自分自身の鱗粉に侵されないでいられるのだ。
だが単なるツギハギではない。角と額が、翼と背中が、尻尾と腰が生物的に繋がっていて、血管や神経が繋がっている。エーテル適性の高い人間体の血液が竜としての部位に流れ込み、竜に満ちた血液が人間体に流れ込み、少しずつエーテル適性という壁で隔たれていた互いの境界が曖昧になり続けている。
竜は己の娘を一目見て、これを確信した。
いずれ娘は、人間と竜のキメラではなく、正しく"人の姿をとった黒蝕竜"に成り代わる。
そうなればその性質は竜と変わりない。
つまり、先に進化した一体のみが生存を許される非情な生存競争の相手となるだろう。そしてそれは避けられない時間の問題だ。
そして非情にも、事実として成長過程は自分の方が長く多く積み重ねてきている。それは娘が何をしても覆せない時間の差だ。
このまま順当にいけば自分が先に進化をする事は明白であり、後に残された娘が苦しんで死ぬか……最悪、苦しみながら死に続ける半端な姿になる事は確定している。
……竜は、とある昔の記憶を想起した。
なんて事はない、一時期に食と住を共にしていた
竜に人を教え、親子を教えた人間の記憶。
早くに親を亡くしたと竜に語った彼らはとっくに自立をしていたけれど、親子という関係性に特別な感情を残したままだった。親に守られたい子供のままだった。
兄妹は、言うまでもなく竜にとっての『特別』だ。
その特別が、特別な感情を残していた親子という繋がりを今、自分はもった。
ならばこう言うべきだろう。
親は、子を守るものだ。
▽
──【鱗粉隔絶翼膜装備】
読んで字のごとく、鱗粉を隔絶するための翼装備。
保護されたゴア・マガラの翼から散布される鱗粉についてH.A.N.D.主導で研究が行われ、
これまでに判明している黒蝕竜の放つ鱗粉には、エーテルと互いを侵食し合う対消滅現象・対生物のエーテル適性の減衰・エーテル適性の低い状態にあっての被曝による『狂竜症』の発症等がある。
当初はゴア・マガラの放つ鱗粉も全く同様の性質を持つと見られていたが、研究職いわく
なんでも、鱗粉を形成する細胞密度が、黒蝕竜のそれよりも低いのだという。働きそのものは同一であるものの、密度が低いために効能が弱く、モルモットに投与しても『狂竜症』の発症まではいかなかったらしい。精々が興奮剤程度の影響しか与えられなかったと。
また、黒蝕竜の鱗粉には見られた"用途不明の細胞"がそもそも含まれていなかったという。生殖細胞なのでは? という憶測もあったなか飛び込んできた新鮮なサンプルに浮き足立っていた研究職達は、この結果に肩を落としたとか。
それでも麻薬を振り撒いているのと似たようなものだからと、開発されたのが前述の装備。
ハッキリ言って用途はマスクである。
病原菌はしまっちゃおうね〜。のマスクと一緒。
装甲1枚からボルトの一片までエーテル合金で整形された、超高級耐侵食装備だ。エーテルに対して高い侵食耐性を発揮する「輝磁」に特殊なエーテル加工を施した逸品。過去の研究から「エーテル耐性=鱗粉耐性」と判明していなければ完成しえなかった物である。
この装備の作成にあたって「輝磁」の大量発注があったため、輝磁産業が盛んな澄輝坪は結構潤ったとか。
そんな機械の翼をつけられたゴアが今、柳の前にいた。それも不機嫌を通り越した怒りの形相で。
鱗粉を撒く翼を封じ込めたとはいえ、用心のためだろう耐侵食装備を身につけたH.A.N.D.職員が大勢いた。柳も同様の装備を着けて入室するよう求められて、辺りには全く同じ見た目の人間が沢山いる。
それでいて暴れるゴアを抑えようとして、しかし蹴散らされる大立ち回りが、柳の前で繰り広げられていた。
場所は病室だ。収容されている患者がゴア1人きりとはいえ、辺りには精密機器やら薬品やらが集められていただろうに、機械は砕けているわベッドは横転しているわ薬品はばら撒かれて床が水浸しになっているわ、柳が到着した時には嵐が過ぎ去った後のようだった。
そしてその嵐は今も荒れに荒れている。
「な、一体なにが……!」
分厚い扉を何重にも開いて、やっとたどり着いたかと思えば飛び込んできた喧騒。
柳は近くの床に倒れ伏していた職員を1人起こし、介抱して目を覚まさせる。
その間にも職員達がゴアを抑えようとしているものの、部屋の一角にとどめるのが精一杯で状況は停滞していた。声でさえ、怒号と絶叫が入り交じってとても聞き分けられたものではない。
「大丈夫ですか!? 何があったんですか!」
「……わ、わからないんだ。最初は利口なくらいに話を聞いてくれていたのに、急に怒りだして……うぅ」
屈強な成人男性が、柳の腕の中でしおらしく涙を流し、意識を手放した。相当な恐怖を味わったのだろう、現に今も人の壁の向こうから聞こえてくるゴアらしき怒号はまるで獣のようだ。
残業明けの柳にはかなり堪える。
そんな柳の視界の端に、気になるものが映り込む。
「これは……布?」
偶然にも柳の近くにあったのは、ガーゼなどの医療用清潔布とは異なる水色の一片。
強い力で引き裂かれたような、肘から指先くらいの長さの切れ端が、そこにあった。
柳がそれを拾い上げるのと時を同じくして、ついに職員達が蹴散らされる。
「うわっ」
「げふぅぅ!」
「ぐぎっ!」
ある者は天井に叩き付けられ、地面に落ち。
ある者は壁材にハグをして。
ある者は床をカーリングのごとく滑って。
打ち破られた人の壁から現れたのは、首元から胸部にかけて一部が大きく破れた院内服を身につけた、変わらず怒髪天のゴアだった。
そしてゴアは口を大きく開けて、
「私の!! 服!!!! どこ!!!!!!」
まるで咆哮するように、殊更に怒りを顕にした。
子供にしか見えない見た目には収まりきらない獰猛性が、プレッシャーの形をとって一室の全てを威圧する。
「だから! そんなの知らないって、そんな報告聞いてないって言ってるじゃんかよぉぉ!」
「ウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ウ"ッッ!!!」
「ひいぃぃぃぃっ!」
既に恐怖で縮こまり震えるものや、泣きじゃくる者まで出てきており、収集がつきそうにもない。
ゴアの翼や尻尾は装着された装備が強制停止されているため、機械の翼と尻尾は半端に暴れた状態で固着している。しかし中で暴れている本物の翼と尻尾が内側から装備を叩いて、工事現場でもしないような金属音が鳴り続けている。
その中でいてハッキリと聞こえる程のゴアの怒りは相当なものだ。
だって、自分の服を取り上げられたままなのだから。
「落ち着いてください、ゴア・マガラさん」
腰を抜かし、恐慌に堕ちてゴアから逃げようとする職員達の流れに逆らって、柳は凛とした姿勢でゴアへ相対する。他の職員が制止しようが、全て無視する。
目の前の少女が怒りに支配されている理由が、もうはっきり分かっているのだから。
ゴアは突然現れた新しい人間を睨む。
どいつもこいつも同じ顔だ、同じ敵だ。
殺意に等しい敵意が柳にあてられる。しかし柳は怯まず、真っ向から更に一歩踏み出す。
意味不明な行動にゴアは驚き、一歩退く。
さらに一歩、二歩。
繰り返した所で柳は耐侵食装備を外し、素顔を見せる。そして、深く頭を下げた。
「無神経な行いでした、謝罪させてください」
「……? ……??」
頭を下げること、謝罪ということ、その意味は分かる。しかしその行動が全く理解できず、ゴアは首を傾げる。その姿に数秒前までの圧はなく、翼や尻尾の音がしだいに収まっていく。
事の形勢は既に柳のものだった。
「貴方のドレスは、私達のデザイン課にて修繕作業が進められています」
「っ! 本当か!?」
続く柳の一言を聞いた途端、ゴアはさっきまで暴れていたのが嘘のような、年相応の子供の顔で柳に駆け寄り、下げた頭を起こさせて何度も体を揺らす。
まるで親に物をねだる子供のように。
「えぇ、本当ですよ」
柳は膝が薬品で濡れることも厭わず膝を曲げて、ゴアと視線を合わせる。
それから通話の状態になっている携帯をゴアに近づけて、電話の相手に「ですよね?」と確認する。
電話の向こうにいるのは、直近に
「そだよー。いやーひっさしぶりに職人技っていう豪勢な服を見ちゃって、傷ついてるって知っちゃったもんだから徹夜して直しててさー? あと2日あれば直るからー。じゃっ!」
そしてブツ切り。
この場のほぼ全員、ゴアの怒りを真っ向に受けて苦労をした職員達の殺意が彼女に向いたことは言うまでもないだろう。南無三。
柳はそんなデザイン課の課長をサラッと見捨てつつ、ゴアを抱き寄せる。
「ごめんなさい、怖かったですよね」
ぎゅっと、強く抱きしめる。
怖かったに決まっている、目が覚めたら同じ装備・同じ顔の大人に囲まれて、体に枷を付けられて、更にはあの怒りよう。相当思い入れのあるドレスを取り上げられた不安もあっただろう。
その詫びにもなるまいが、せめて少しでも安心させられるならと、蒼角と同じくらいの少女を抱擁する。
そんな気持ちが、少しでも伝わったのかもしれない。
「……名前、おしえて」
ゴアのその言葉が、柳はたまらなく嬉しかった。
「私は月城柳、対ホロウ六課の副課長を務めています。今日から、貴女も六課の仲間ですよ」
「なかま……」
その一部始終を見ていた職員の1人は、その光景を聖母と例え、月城柳ファンクラブに入会した。
激しいバブみを感じたと供述しており、彼女にはこっぴどく振られた。
「なるほどなるほど副課長、大変素晴らしい感動ストーリーをお聞かせいただいて、寒い朝に出勤してきた僕の心もあったまる〜って感じなんですがねぇ?」
そして、六課オフィス。
「なんで僕のデスクがそのドラゴンっ娘に占領されちゃってんですかねぇぇぇぇ!?」
浅羽悠真、出勤早々魂の叫び。
六課の制服を身に着け、悠真のワーキングチェアに脚を畳んで腰をかけ、蒼角と一緒になってチェアごとくるくると回るゴアの姿はとても自然体で、悠真のチェアとお菓子とをシェアしている2人はとても仲良し。
姉妹かな?
切実に椅子を返して欲しい。
「マサマサ朝からうるさいよぉ」
「この状況でこっちに不満言えるぶっとい神経はママ由来かなァ? 蒼角ちゃん」
しかし無慈悲が1人。
「悠真、私は今"歓迎会用に注文したメロンを待つ修行"の最中だ。あまり気を散らしてくれるな」
「課長? 就業時間ですよね? 就業時間中ですよね?」
無慈悲が2人。
「浅羽隊員、ゴアさんは嘱託職員としての六課配属となりましたので、基本的にはデータ採取に対する協力が業務内容です。ですのでそれ以外の時間は業務内容を不問としていますが……せっかくなので浅羽隊員が出す休暇申請の判定を手伝って貰うことにしました♪ 本人の了承も得ておりますのでご心配なく」
「副課長ぉ〜? その調子で僕の了承も得てくれていいんですよぉ〜?」
「柳、これ嘘」
「コツを覚えるのが早くて、教えがいがあります♪」
「ちょっとォ!?」
無慈悲が3人、4人。
悠真は半ば本気で転職を考えた。
副課長が昨日とは打って変わって柔らかい表情をしている事自体はとても良い。
自分だけ初耳なのが若干癪なところはあるものの、課長が歓迎会を開こうとしていることも喜ばしい。
あの蒼角が副課長にするそれと同じくらいにベッタリくっ付いていることも、波長が合うのかもしれない。
それはいい、それ自体はいい。
でも、でもさ? ちょっと僕の扱いが雑すぎやしませんかね? と言葉無しに抗議の視線を向けると、事の主犯らしい副課長がやってきて、ゴアが嘘と言った休暇申請を手に取ると、代わりに真新しい休暇申請書をこれみよがしに取り出した。
その数、3枚。
「浅羽隊員、ここに理由を書かなくていい休暇申請書があるのですが……たしか今日は
「……あぁ。えぇ、実はそうなんですよぉ、勤勉な僕は間違えて出社してきちゃいまして」
「私の勘違いではなかったようで一安心です、これでこの休暇申請書は正しく浅羽隊員の
浅羽悠真、絶好調。
物はなんでも言ってみるモンである。
「いやーそれにしたって副課長もお人が悪い、ドッキリでも僕の休暇申請のダブルチェックをするなんて、いやーハハハ」
「……?」
「?」
一時の静寂。
浅羽に電流走る。
「つ、月城さん? まさか……?」
「ゴアさんにチェックを手伝って頂くのは本当の事ですよ? ちなみにデスクは浅羽隊員の隣です、仲良くしてくださいね♪」
万民が見れば黄色い歓声が上がるであろう、月城柳の満面の笑み。しかしこの時ばかりは、悠真にとって悪魔の笑みにほかならなかった。
ということでゴマちゃんの誕生秘話?でした。
コメントで勘の鋭い方が何名か推測していたとおり、2話のアストラ救出時の救助隊員を食べたゴアマガラから散布された狂竜ウィルスが、ゼンゼロ世界に適応してシリオンというフォーマットをとって生まれた形になります。
ただしゴアマガラの設定的に生殖には寄生先の生物が必要なので、今話冒頭のように母体があります。
救助隊員の面影を残したドラゴンっ娘の完成です。
ところでその救助隊員に特別な関わりのある歌姫がいますね?今作品は一旦の区切りをその歌姫のストーリーとしています。
『輝きのモーメント』までは頑張ります。ぞい