まだ2話しか書いてないのにお気に入り400件・赤色評価……?あ、ありがとうございましす……?
ちなみにビビアンは天井1歩手前(あと2単発で天井)で無事確保しました。音動機?余裕ねぇよ!白髪イケボデカパイ女が待ってるんだぞ!!!!!
六分街・昼。
ホビーショップ『BOX GALAXY』
「いらっしゃいませー、BOX GALAXYへようこそ! 旅行のお供に新作の玩具はいかがですか〜? この音動機"『月相』-望"*1なんかオススメでして〜……え? なんで旅行かって? 物珍しそうに六分街を見る人は電車の乗り間違えか旅行者のどっちかですからね〜、あ! まいどありー!!」
雑貨屋『141』
「ンナナ! (いらっしゃいませー!)」
「ン、ナナン。ンナナナ? ンナ! (自由に見ていってくださいねー。お腹減り虫の音が聞こえましたよ? そんな時は当店のバーガーがオススメですよ!)」
「ンナナ〜……ンナナナァ!!!? (毎度あ……僕達の言葉が使えるの!!!?)」
喫茶店『COFF CAFE』
「おや、はじめましてのお客様ですね。……旅行で? ここは小さな街ですが良い所です、貴女の旅路に良い記録としてこの街が残るよう、こちらの"ティンズ・スペシャル"*2はサービスです、ごゆっくりどうぞ」
街の角『箱の賢者』
「……なんじゃ、喋るゴミ箱が珍しいか。……そうでもない? ………………そっか」
ゲームセンター『GOD FINGER』
「あら? おいでやす! でも堪忍なぁ、ちょうど今日新作入荷の日で見ての通り混雑してるんよ、遊びたかったら少しだけ待ってな? ……え、もう充分? お嬢ちゃん変わっとるねぇ、でもええよ。この街はそういう所も受け入れるからね」
ニューススタンド『HOWL'S』
「ワフ、ウォン。(今日のニュース1番は"黒蝕竜"だって、ドラゴン。なんでも10年は前から確認されてたらしいよ、情報公開に至ったのはやっぱりデッドエンドホロウに出現したかららしいね、タイミングもパールマン元長官の汚職発覚と同時、赤い猫のシリオンがパールマン元長官を人質にしてる真横に裂け目から顔を出して咆哮、目立ってたね。ちょっと僕もやってみたいかも)」
「ワフゥ? ワン。(なんでこんなに話しかけてくるのか? 君僕の言葉が分かるみたいだし、シリオン? なのかな、その背中と腰のは。何よりほら、特別強いでしょ? 君。だから今のうちに……
CDショップ『BARDIC NEEDLE』
「あら、両手がいっぱいのお客様。玩具にハンバーガーにゲームセンターのチラシ、今日の新聞……ふふ、六分街を満喫されているみたいですね、嬉しいですわ。綿鯉にはもう? まだでしたか、そのハンバーガーを食べたらぜひお召し上がりになってみて下さい、美味しい……らしいですよ? …………? このポスターですか? アストラ嬢ですね、帝高*3の歌姫で……あら?」
ラーメン屋『滝湯谷・錦鯉』
「らっしゃい! 何食う……ってバーガー食いながらラーメン屋来た奴は初めて……でもねぇな、あの嬢ちゃんがいたか。あいやすまねぇ、こっちの話だ。何食う? ……あいよ! 黒鉢豚骨ラーメンな! *4……アストラ? 歌姫ちゃんがどうかしたか? あーポスターね、それならそっちのビデオ屋に歌姫ちゃんの出てる映画なりなんなり…………もう居ねぇ、食うの速ぇな……」
──レンタルビデオ店『Random Play』──
「知ってる? 『
人払いの済んだレンタルビデオ屋、という客商売にしては矛盾した空間において、たった1人残った利用客らしき
カウンターに片肘をのせ、手に顎をのせ、店長やってるかい? 的なノリで上目遣いで愉快そうにいる緑髪の女こと『明けの明星』。独断と偏見において絡み酒と泣き上戸ともくされる人物。
一見するとビデオ屋にやってきてカウンター前を陣取る迷惑客だが、ことこの瞬間において彼女は迷惑客などではなく、むしろ正当な客人であった。
今、ビデオ屋はビデオ屋ではないのだから。
六分街に面した扉は知能機械"ボンプ"の『イアス』が門衛をし、常であれば『6号』と呼ばれ親しまれるボンプが目を見張って固く閉ざされている扉が、
2人の店長の顔はとっくに"六分街唯一のビデオ屋の温和な店長兄弟"から、"プロキシ"に変わっているのだ。
「それで、今回はどんな依頼なんだい? わざわざノックノックでなくこちらに出向いてくるなんて。『Random play』は万時新規のお客様をお待ちしてはいるけれど……なんなら、会員証をつくろうか?」
「うん、ぜひよろしく♪ ながらで聞いてくれるわね?」
兄の店長『アキラ』はそれとなく"アポ取ってからこい"と同業者である明けの明星へ苦言を呈し、若干心に刺さった明けの明星は入会費を差し出す。
定期収益ゲットだぜ。
「依頼は今話題沸騰中の黒蝕竜に関するもの、内容自体は簡単で、黒蝕竜の写真を
「写真? ……それくらいなら今日の新聞にもなっているあの時のもので充分じゃないのかな」
「それが依頼主のコレクター様は黒蝕竜に大層執心でね? 1/1スケールの立像を作りたいんですって。これでも最初は剥製をご所望だったらしいけれど、なんとか譲歩してもらったって使用人の人が言っていたわ」
「使用人、ね。写真ならその人でも撮れるんじゃないかい? 隠し撮りでも、エーテル適性さえあれば」
「その使用人さんからの依頼なのよ、なんでも別のコレクションの収集を先に頼まれてて手が離せないとかで……あの狼のシリオンさん」
つつがなく会員証を作成していくアキラ。
慣れた手つきでレジスターを操って代金を収め、何事でもないように依頼内容と背景を詳らかにしていく。
昼時の井戸端会議のような温度感で進められていく話には時折物騒な単語が混じっていく。
特に今回物騒なワードは黒蝕竜。
インターノットのスレッド視聴数は異例の100万超。新エリー都を一時パニックに陥れた、いまやその異名を知らぬ者はいないドラゴン。
現実世界に出現した
さてこの黒蝕竜の写真を撮ってこいという依頼。
細かくしていくとこういう事である。
黒蝕竜が現在周知されている、ないしTOPSに連なる研究機関や学会が公表するに至った情報は主に3つ。
ひとつ、黒蝕竜という異名。
ひとつ、エーテル濃度に関係なく、ありとあらゆるホロウ・裂け目から出現する可能性があること。
ひとつ、撒かれる鱗粉が
その上での依頼内容は、立像を作りたいという願いを叶えられるような黒蝕竜の写真の撮影。つまり複数画角からの撮影である。
これにおいて確定している難点は以下の通り。
神出鬼没の存在を見つけ、
ただでさえ侵食に弱い精密機械のカメラが必要で、
中型エーテリアス以上と噂のある化け物から隠れつつでなければならない。
しかも最速で。
重ねて。やはり依頼内容それ自体は簡単なものだ。
ただ相手と環境が悪い。
ホロウとホロウ、時には裂け目さえあれば新エリー都にも出現してみせたかの黒蝕竜を写真に収めねばならない。アキラは確信した、うん面倒だコレ、と。
「もーお兄ちゃん、あんまりイジワルしないであげてよ」
そんな気持ちが顔に出ていたらしい。
リンが前に出てきて、間を取り持ち始める。
「それで? 報酬はおいくらくらい?」
「そこはこの明星お姉さんに任せていいわよ〜、相手のシリオンさんが話のわかる人で弾んでもらったわ♪」
「きゃー♪」
あっという間に置いていかれるアキラ。
アキラの会話デッキに女子会特効のものは生憎ながら手持ちがない。これが例えば娯楽に乏しい社会に疲れたOL系治安官とか、ダウナー系ネズミシリオンとか、修行系狐シリオンとか、快活系歌姫様とか、バイザー狙撃手系とか、ゴスロリなのですお嬢様とか、そういうよくいる女性との関わりがあれば違ったかもしれないのだが。
そういうのはもう少し先の話なので、今のアキラはただ肩を竦めて、指を鳴らして妖怪電気代大飯喰らいに合図を送るのだ。
確かに、普通のプロキシなら足踏みをするような至極面倒な依頼が飛び込んできたのは事実。
しかし? 明けの明星はとても運が良い。彼女がただ期待のできる新人プロキシだと思っている兄妹は、伝説のプロキシ『パエトーン』なのだから。
「依頼を受けよう。リン、イアスを──」
バンッ──!!!
外で人払い兼門衛をしてくれている家族の1人、ボンプのイアスを呼び戻してくるようにリンに伝えようとしたところで、その
「ンナナナ──!!! (入っちゃだめ──ー!!!)」
まるで治安ボンプの突破劇のように開け放たれた扉から、1人の少女と、その足元で少女を必死で抑えようとするイアスの姿があった。
フローリングすれすれまで伸びた紫黒色の髪。
閉じきった瞼に、雪のように白い肌。
髪型こそ違えど、とある歌姫がその顔を見れば、いつかに歌を教えてくれたあの人だと幻視するくらいに、既に死亡扱いされて久しい一人の救助隊員に似た顔。
ちょうど14歳くらいの背丈に豊かな胸部。
借り物のようにサイズのあっていない上に、邪兎屋の主人よりも肌露出が極端に多く、部分的にしか身につけられていないダボダボの男性用耐侵食服。ヨレヨレのタンクトップを直肌に身につけて、ベルトがないせいで鼠径部から下までも見えている厚手のズボン。
何より目を引くのは肩に爪のような装飾でとめられた背中の黒い
そして同時に、かすかに鼻腔をくすぐるエーテル火薬の匂いが、少女が只者ではないことを、その場の全員に理解させる。
──必然、3人の警戒度は跳ね上がる。
2人と1人の稼業、プロキシと違法案件の仲介人。交わしていた会話はそのまま治安局に伝書鳩するだけでサイレンが火の玉ストレートですっ飛んでくるものだったのだから、3人は一斉に口をつぐむ。
少しの沈黙。
時間にして約2秒、3人は目配せを何度も交わす。短いようで長い2秒間、3人は如何にしてこの状況を解決するかに思考を集中させる。
そして、
「……あー、お客さん……かな。ごめんよ、今はちょっとした準備中でね、営業はしていないんだよ。入口にボンプが立っていたのはそういう事で──」
最初に動いたのはアキラだった。
ごく自然な対応である、さすがは将来人たらしルートまっしぐらの男。話題逸らしに余念が無い。
それでいて筋が通っている言い分、普通であればこれで解決できる。もしそれで事が進まないのであれば──
「……アストラ」
「……へ?」
「…………アストラ、ここにいる?」
──のであれば、大抵は面倒事である。
▽
(ちょっとちょっとお兄ちゃん!! なんであの人フツーにビデオ物色してるの!?!?)
(仕方がないだろうリン、一応はお客さんなんだ。アストラが居るかどうか聞かれた時は驚いたけど、アストラさんが出演しているビデオならと案内したらあの様子だ、話は通じるみたいだし……)
(どういう状況……???)
(ンナナン……)
Random playのカウンターの影で、3人と1体のボンプが顔を付き合わせて作戦会議。
ちょこっと顔を出して店内を見渡せば、さっきの少女がアストラ・ヤオが描かれているパッケージを手に取っては、何か違うのか戻すを繰り返す姿が見える。
(明けの明星にも残ってもらったのは僕の判断だ、あの子がどこまで僕らの話を聞いてしまっているか分からない以上、安易に帰す訳にはいかない)
(でもどうやって確かめるの? はぐらかされたら突き詰めようないんじゃないかしら?)
(そこは……ごめん、考えてなかった)
(お兄ちゃんのバカ!!!!)
「ねぇ」
「はっはい!」
「アストラ、いないんだけど」
「え……??」
3人が作戦会議をしていたところに、カウンターの向こうから件の少女が顔を覗かせる。
驚いたリンが残る2人と1体を庇うようにして立ち上がり、しかし直後困惑に見舞われる。
コイツは何を言っているんだ?? 尚もアストラを探している彼女の手には既にRandom playにあるアストラ・ヤオ出演作品の全てが収められている。人気女優とだけあって相当な数だが、既に興味を失ったらしい少女の視線がそれらに向けられる事は二度とない。
リンは更に困惑した。
当然、このレンタルビデオ屋にかの歌姫アストラ・ヤオがいる訳がない。そんな事があったらアストラのコアなファンである我が兄が黙っていられるはずが無いのだと、兄への解像度が高い妹は確信する。
しかしやはり目の前の少女は怪訝そうな顔でそこにいる。美術館でエーテリアスが描かれた絵を見て、"どうしてこのエーテリアスは動かないんだ"と言っているような少女の「アストラは居ないの?」にリンの脳内CPUはブルースクリーン寸前。
無駄だアキラ! リンは既に少し錯乱している!
「そ、そういう事ならルミナスクエアに行けば会えるんじゃないかな.……? 多分だけど……」
「でも、アストラはここに居る」
「ああっ! リンの顔がズバットボンプみたい*5に!!」
~選手交代~
「妹のリンがすまなかったね、僕はアキラ。よければ君の名前を教えてくれないかな? 僕はこう見えても顔が広くてね、いつかアストラさんと知り合いになれる日があるかもしれないいやあってほしい……ゴホン、とにかく、その時があったら君にも伝えるから今日のところは……」
「君はいつかアストラと友達になれるよ」
「本当かいッ!?」
「妹の後で」
「ああっ! 店長ちゃんの顔がビリビリボンプみたい*6に!!」
~選手交代~
「ええと、ええと……」
「…………」
少女は、様子をうかがっている。
「あ、あなた、ホロウレイダーに、興味ある……?? 」
「ちょまっ! 何言ってるんだい!?」
「お口チャック〜っ!!」
狂気! 『明けの明星』狂ったか!
すぐさま飛び起きた兄妹がその口を塞ぐが、しかし時すでに遅し、明けの明星の
"ホロウレイダーに誘われた"、この一言を治安局に持っていくだけで明けの明星のシャバ人生は終わりを告げることになる。まして場所がRandom playでと付け加えるだけで、疑いの目は店長兄妹にも向けられる。
3人は今、過去最大のピンチに陥ってしまっていた。
……少しの間、少女は口を開かない。
しかしてもう、挟める口を3人は持っていない、まな板の上の鯉そのものだ。ただ振り下ろされる通報という名の包丁に震えるだけの、愚かにも自らクーラーボックスに飛び込んだ鯛なのだ。
インガオホー、ハイクを詠むしかない。
「ン、ンナナ、ナナンナナ。ナナンナナナン、ンナンナ、ンナ! (ねぇ君、お願いなんだけど、治安局には行かないで。アキラとリンは僕にとって大切な人なんだ、僕は2人を守りたい。あと、できたら、2人の友達になって! お願い!!)」
「……いいよ」
しかし! それは3人であったならの話!
ここにはイアスがいる、1体の心優しき知能機械は自らの大切な人のために無謀な賭けに出た。
そして掴んだ! 水の一雫!!
「なるよ、ホロウレイダー」
どうしてこうなった!!!
▽
「……で、お兄ちゃん、私これデジャヴだと思うっていうかデジャヴなんだけどさ」
「断言するんだ」
「どうしてこういうことになるの!?!?」
リンは自らの感情を爆発させる。
力強く足を踏み鳴らし、訳が分からないと悲愴な表情をアキラに向ける。
無理もない、今まで秘密にコツコツ積み上げてきた影の立場が呆気なく崩れてしまったのだ。
明けの明星は家へ洗濯に。
イアスは2階に充電へ。
桃がどんぶらこ、なんてことはなく。
件の少女はなんということかH.D.Dの前で、猫が玉で遊ぶかのようにマウスを弄んでいた。プロキシとしての心臓『H.D.D』に住む
哀れFairy、以前に電気代節約案を出し渋ってしまったばっかりに助けてもらえず。
この現状が指し示す一応の事実として、少女は無事(?)にホロウレイダー。
裏稼業の仲間入りを果たしたのだった。
どこの組織にも属さない、パエトーンお抱えとして。
「いいかいリン、落ち着いて聞いておくれ」
「な、なに……!」
尚も混乱している妹に対して、兄は事の説明を試みる。無理にでも理解をしなければその先にあるのは豚箱コースなのだから。
「あの後リンはレゾナンボンプの外装みたいな顔色で気絶してしまったけれど、その間に僕は僕のほうで彼女と話をしてみたんだ、すると……」
「す、すると……?」
「彼女は世間知らずだ」
「世間知らずゥ??」
素っ頓狂な声が上がる。
結果的にとはいえ伝説のプロキシ『パエトーン』を終了寸前にまで追い込んだ人物が、まさかの世間知らずだというのだから納得など出来るはずもない。
確かに会話は成り立たないし、立ち振る舞いは不思議ちゃんだし、何を考えてるのか分かったものじゃないけれど……あれ、もしかして世間知らずなんじゃ?
リンは訝しんだ。
首を傾げるリンは一旦さておいて、アキラはリンを件の少女から離れた場所……駐車場まで連れて行って続きを話す。
「曲がりなりにもホロウレイダーになると言った彼女に、僕は色々と聞いたんだ。"ホロウレイダーが何か分かっているか"とか、"ホロウ適性はあるのか"、"戦えるのか"……僕らが依頼にあたってホロウレイダーを募る時に注意する点を聞いてみたら……彼女、そもそもホロウレイダーが何かすら分かっていなかったんだ」
「……えぇ?」
嘘でしょう? とリンは少女を疑う。
ホロウレイダーとは、ホロウ災害に呑まれたエリアを利用して犯罪行為を繰り返すならず者のこと。チンピラをチンピラというように、強盗を強盗というように、ホロウレイダーはホロウレイダー以外何者でもないのだ。
それ以外言い表しようがない。
それくらい常識中の常識を、彼女は知らないという。
それはもう、世間知らずというレベルではないのでは? 他人の事であるはずなのにリンは少女が心配になった。
「しかも、彼女は治安局も知らないみたいなんだ」
「……マジ?」
「マジだ。ブリンガー長官の名前も知らなかったし、ルミナスクエアにある治安局施設も、そもそもルミナスクエアも知らなかった」
「それ、もう世間知らずってレベルじゃないでしょ……」
「……僕もそう思う」
さすがにそれは……と2人は顔を見合わせる。
そこには、そんな度を越した世間知らずに破滅一歩手前まで追い込まれたマヌケなパエトーンの顔がある。いっそ笑い飛ばしてしまえればどれだけ楽なことか。
しかしそれはそれとして、流石に世間知らずで収まらないのではと2人は意見を一致させる。
ブリンガーは治安局の長官、リーダー。市長選にも立候補するという有名人。
ルミナスクエアは新エリー都でも有数の発展都市。
知らないという一言で流すには、あまりに残る違和感が大きすぎる。これでは知らないと言うよりむしろ……
「流石は僕の妹だ、僕も同じ考えだよ」
──記憶喪失。
こう考えると、不思議なくらい納得できる。
納得は全てに優先される。それからアキラは件の少女と話している最中で前提概念を世間知らずから記憶喪失にシフトして聞き出した情報を、兄妹間で共有した。
「目が覚めたらホロウの中で、服はホロウ荒らしからぶん奪ったもの。名前も思い出せないまま放浪して、唯一覚えているアストラさんを頼りにここまで来た……」
リンは反芻し、復唱する。
それは記憶喪失の少女が経験したという、これまでの軌跡。同じアストラ好きとして見捨てられなくなったと、アキラは熱く語る。
「でもそれって、あの子はアストラさんの関係者ってこと? アストラさんの周りにあんな子供が近づけるとは思えないんだけど……あと、ホロウ荒らしから服ぶん奪ったって、あんな子供が? どうやって?」
そこに突き刺さる正論の嵐。
しかしこれはアキラの想定内であったらしく、答えはすぐに返ってくる。
「前者に関しては僕も同意見だ、ファンとしてアストラさんの周りにあのくらいの子供がいたなんて事はないと断言出来る。多分だけど僕と同じファンなんだ、記憶を失っても覚えていられるなんて、ファンとして誇らしいし、アストラさんの魅力を再認識したよ」
「お兄ちゃん、時折バカだよね……で、後者は?」
「Fairyに簡易検査をしてみてもらって分かった事だけど、事実と見て間違いないらしい。彼女の着ていた服には少しだけ血痕が付着していたし、彼女のものでは無いことも確かだ。状況証拠的に彼女がホロウ荒らしをボコったと見て間違いないよ」
「ボコったって、えぇ……?」
兄の大袈裟な表現に、リンは首を傾げる。
ドアの隙間から様子をうかがって見れば、そこには椅子に座ってクルクルと回る件の少女の姿。
とてもホロウ荒らしを、物を奪う側のならず者を奪われる側にするような強さがあるとは、とても思えない。胸以外自分よりも全部が小さい少女が……。
ほんと何食ったらあの歳であんな……おっといけない。
「でも何であれ、あんな小さな子がホロウに入るなんて、プロキシ以前に人として止めるべきだよ」
頭に浮かんだ邪念を振り払って、リンはアキラの手を取る。あの少女がホロウレイダーになるのを止められるのは自分達だけで、今しかないのだ。
「僕もそう思うよ、でも僕達の立場をよく考えるんだ。僕達はその少女に弱みを握られているんだから」
「あっ……」
アキラの言葉に、リンは言葉を詰まらせる。
考えてみれば自然と分かる事だ。記憶喪失の少女が本来頼るべき場所はどこか? という質問にまず上がる答えは治安局だ。そして彼女が治安局を頼り、そこで今日あった出来事を話さないという確証は?
……無いのだ。
だから、パエトーンは自らの安寧のために、彼女が治安局に行く事だけは何としても阻止しなければならない。それか──
「あの子をホロウに行かせて見殺しにしようって、思ってないよね!?」
──ホロウの中で物言わぬ
まさかそんな非人道的な考えはしていないだろうと、リンは兄を糾弾する。
そんな事はしてはいけない。
いくら違法の海に肩まで浸かっているプロキシの身であっても、超えてはいけない一線はある。
そんなこと、先生が知ったらなんて言うか──。
そう考えたが故の悲痛なまでの声の続きは、しかしアキラに阻まれる。
「そんな事は考えていないよ、むしろ逆さ」
「逆……?」
「彼女を、僕達専用のホロウレイダーとして抱え込んでしまうんだ」
アキラが続けて語った内容はこうだった。
記憶がなくて、けれど治安局に行って欲しくないなら、それでいて人道的な対応をしたいから、いっそ自分たちで面倒を見てしまえばいい。
ホロウレイダーになりたいというなら、自分達でその手伝いをしてしまえばいい。
自分達で育て、抱え込んでしまえば治安局に通報されることも無い。ホロウ内で降りかかる危険も、伝説のプロキシ2人がかりで払えないことは無いのだと。
「それって、彼女に了承してもらってるの?」
リンの疑念はもっともだった。
いくら伝説のプロキシとはいえ、いくら相手が記憶喪失とはいえ、兄妹に他人の人生を縛り付ける権利はない。そんな事までして守る『パエトーン』の立場になんの価値もない、そんな事をするくらいならいっそ郊外にでも出ていった方がマシだと、リンは本気で思った。
けれどアキラは言う。
「実はとっくに了承を貰っているんだ」と。
「いいよ」と、たった一言。
それだけで彼女はパエトーンに縛られる人生を許容した。それは彼女の人生が空っぽなことから来る暴投か、それとも……
「とりあえず、『明けの明星』から受けた依頼を彼女に行ってもらおうと思う。Fairyによれば彼女はとても高いエーテル適性を持っているらしく、まるで
「……わかった」
「──あぁそうだ、大事なことをもうひとつ」
──彼女の名前。
彼女がもうひとつだけ覚えていた単語があってね。
それをひとまずの裏稼業での名前にしてあげようと思うんだ、いつかそれをきっかけに彼女を知る人物が現れるかもしれない。
伝えておくよ。
──ゴア・マガラ。
それが彼女の名前だよ。
──後日、2人はイアスの視覚を通して蹂躙を見る。
無手で数多のエーテリアスを砕いていく、暴力を。
感想の、明日への活力100億兆倍〜♪
もらって嬉しいものはもっとほしい(強欲)