どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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この章結構長くなるかも。一話が短いせいなんですけどね。


不死の怪物。

「あれは! いたずらレベルじゃない!! 殺すぞ!!」

 

「コワっ……何があったの……」

 

 口調が崩れる程ブチ切れる柚葉に怯えるリン。寝起きに顔面目掛けてレッドゼリーを投げつけられたのが相当効いたらしい。しかも弱い爆竹入りである。顔からずり落ち両手に乗せられたそれの正体に彼女が気づくと同時に破裂、そこら中に飛び散ったのだ。

 

 被害に遭ったのは柚葉だけである。尿意によりいの一番に目を覚まし、トイレへ向かっていた際の出来事だったのだ。何が起こったのかは語らないのが彼女の尊厳の為であろう。

 

「酷い誤解だっ。あれは新しい狩道具ができたからと試しに投げたところ偶然──」

 

「うっさい!」

 

 そっぽを向く柚葉。彼女の怒り具合は凄まじいもので、狩人はもうこの朝だけで二回殺されている。ゼリーを投げた際の脊髄反射ショットで一回、あとから事情を説明すると今度は文字通りハートを撃ち抜かれもう一回。もうすっかり立ち直っているようである。

 

 しかも二回というのは「彼女に」殺された回数である。この後アリスにも話を伝えると狩人はスポンジ・ボブより穴だらけの身体にされた。上位者の智慧も要らないと言われた。

 

 それはさておき数刻後。研究所の扉、そのパスワードを解読し開いてみれば、オブスキュラが大量に捨て置かれている様が一同の目に飛び込んだ。この研究所は、やはり違法な工場と化していたのだ。

 

「こうなったら、徹底的に調べ上げてやるんだから」

 

 怒りに震える柚葉。ポーセルメックスの悪行を片っ端から暴いてやると息巻いている。狩人も秘密探しにノリノリのご様子である。

 

 狩人は武器を変えていた。装いは普段となんら変わりないものだが、右手に獣狩りの斧を握っている。多数の弱者を一度に相手取る時はこいつか杖か獣肉断ちかと相場が決まっているのだ。

 

 散弾銃を背中に回し、その場でぐっと後ろ手に構える。隙ありと突っ込んできたエーテリアス達数体が、瞬きする間に回転薙ぎ払いによって吹き飛ばされた。

 

 獣の膂力に任せ軽々と大剣を振り回す真斗とは違い、狩人は一撃一撃にわざわざ全身の力と体重を総動員している。そうでもしなければ、獣相手に人の打撃など効かぬのだ。

 

 脳筋が二人も……痛む額を押さえ、柚葉も散弾をぶっ放すことに集中した。相手はエーテリアス、初手から殺傷弾である。

 

 もう狩人のことはあまり気にしなくなっている。それはそれとして誤射には気をつけるようになっているが。

 

 ダクトに潜ることになると、柚葉は露骨に動揺した。理由を聞いてもはぐらかすばかりである。

 

 罠が仕掛けられていた時の為に狩人が先頭を進んだ。不死人程優れた盾も居ないだろう。皮肉なことに、当の本人は盾を頑なに使わないのだが。

 

 ダクトを進む内、ブラインドの様な形をした吹き出し口から覗く床に死体が転がっているのが見えた。空気が重くなるのを皆は感じた。

 

 皆、まだ冷静であった。狩人など驚きすらしなかった。

 が、次に横から刺してきた赤い光に視線を向けた瞬間、全員が己の目を疑った。そんな、馬鹿なと狩人の口から声が漏れる。

 

「あれはっ……」

 

「讃頌会の、シンボル……!?」

 

 アキラとアリスが息を飲む。真斗も例外ではない。しかしどうにも柚葉は押し黙ったままである。流石に少し狩人も気になってきた。翌日までに打ち明けてくれなかったらはっきり問い詰めよう。

 

 ダクトから降りる。高さがあったので狩人は両足がひしゃげたが、輸血液を刺すと息を吹き込んだ吹き戻しのようにめきめきと元に戻った。アリスが凄い顔をしていた。

 

「なんだよ、これ……」

 

 真斗は言葉に詰まった。赤い光に満ちた部屋に捨て置かれていた書類達には、讃頌会による凄惨な人体実験の様子が記録されていたのだ。更に追い打ちをかけるかのように、その被験体は皆年端も行かぬ子供であった。

 

 活動資金を求める讃頌会と、研究技術を求めるポーセルメックス。最悪なことに利害関係が一致してしまったのだ。

 

 ふと、圧倒的な殺意を感じ真斗が振り向くと、狩人が別のテーブルに両手をつき、その上に乗せられた書類の山の前で俯いていた。凄まじい殺気がどうにもこちらに向けられたものでないことを理解し、真斗は少しだけ安心した。

 

What a horrible thing(こんなのは、あんまりだ)……It sickens me(反吐が出る)……」

 

 ぼそりと呟く狩人の拳は、頑なに握り締められていた。ぼろぼろと零れる涙が、机上の書類を濡らす。こんなことが、こんな非道が許されるのか。

 

 許さない。許してなるものか。讃頌会も、ポーセルメックスも、皆、根絶やしにしてやる。誰一人として生かしてはおかない。

 

 そのどす黒い腸の中から、必ず穢れた「虫」を抉り出してやる。歯ぎしりする音が狩人の口内で木霊する。ぴちょん、と肩に垂れたミアズマ液に反応するまでは。

 

「狩人っ! 危ないっ!」

 

 アキラが叫ぶ。狩人が咄嗟に上を見やるも、時既に遅し。狩人は天井から降ってきた二本の剣の内一本に串刺しにされてしまった。腹を貫かれ、ぐったりと力を失っている。最近はこんなことばかりである。

 

 ほぼ同時に、その剣を足場にして得体の知れない怪物が降り立った。

 

「し、『白い髪の女の幽霊』……!」

 

 柚葉は目を見開いた。泅瓏囲で流行っていたあの怪談は、嘘八百では無かったのか。

 

 長い白髪をした黒い素っ裸の女にも見えるが、その背中から伸びる巨大な三、四本目の腕を見ればそれが人でないことが分かるだろう。顔にはキョンシーめいた札が貼られている。

 

 アキラを後ろへやり、いざ勝負とお互いの緊張が限界を迎えたその時。

 かちり。そんな音を聞いた怪物が下を向き──六角形の銃口と目を合わせた。

 

 轟音と共に怪物が吹き飛ぶ。正確に言えば飛び退いたのだが、散弾のいくつかは彼女の身体を確実に抉った。

 

 狩人が自身に突き刺さった剣を引き抜くと、それは怪物の手元へ磁石のように吸い寄せられていった。空中で自由自在に浮遊、回転させている。明らかな強敵である。

 

 丁度良い。最悪な気分なのだ。彼女には申し訳無いが、ストレスの発散に付き合ってもらおう。狩人が斧を展開する。

 

 痰の絡まったような怪物の叫び声が戦いのゴングであった。狩人とアリスが残像を残しながら距離を詰めると、柚葉の背中から爆弾を持ったかまちーが飛び上がる。

 

 爆発に怪物が怯めば、爆煙の中からはレイピアが飛ぶ。逃れようとすれば散弾銃で動きを止められ、いつの間にか追いついていた真斗の剣に地面へと叩きつけられる。

 

 戦いながら、アリスは狩人と真斗の「重量武器の扱い」に差異こそあれど優劣が無いことを見抜いた。

 

 常人ならば両手でも持てるか怪しいそれに真っ赤な火炎を纏わせ、絶え間ない連撃を浴びせ続ける真斗。俊敏なステップや軽快な足捌きに重たい一撃を混ぜ込む狩人。はたから見れば、彼らはまるで踊っているようであった。

 

 真斗の頭突きをくらい怪物がふらついた隙に、狩人が背後へ回る。いつの間にか視界から狩人が消えていることに怪物が気付く頃には、それは既に背中から体勢を崩されていた。

 

 ばちゅんと音を立て、狩人が腕を突き立てる。脊髄と臓物を引き摺り出す。ぴくりぴくりと地面に伏せたそれは痙攣しているが、すぐに動かなくなるだろう。

 

 案外呆気のない相手であったな。失笑しながら振り向く狩人。何故か皆呆然と口を開けている。すぐに叫び始めたが、戦いの興奮が冷めきっていないせいで何を言っているのか良く聞こえない。どうにかして、口の動きから言葉を読み取る。

 

「後ろ……? まさかっ──」

 

 瞬間、狩人の腹から刃が飛び出す。本当に、最近はこんなことばかりである。即座にアリスのレイピアが閃き、怪物を引き剥がした。

 

「再生してる……!?」

 

 まさか、ミアズマを吸収しているのか。柚葉の隣でアキラが分析する。確かに見てみれば、部屋の四方に生えた巨大なミアズマの塊から何かオーラのようなものを吸い取っている。

 

 あれを壊せば。でも誰があいつを止めるの。私がやるのだわ。いや俺がやるッス。色とりどりの声が飛ぶ中、既に狩人は飛び出していた。あっと皆が声を揃える。

 

「ミアズマを壊せっ。私はこの不死を狩る」

 

 狩人の心はもう限界だった。久しぶりに、久しぶりに不死と闘える。あの文字通り血で血を洗う死闘に、もう一度身を投じられるのだ。長らく辺境へ潜っていなかった狩人の心が沸き立つ。

 

 斧を持っておいて本当に良かった。狩人は数時間前の自分にただ感謝をした。

 

 怪物の右手飛び掛かり。左前へのステップで潜り込むように背後を取る。振り向きざまの右振り下ろし。身を捩って躱すも、続けざまの左を食らう。深い。床に臓物が飛び散る。

 

 噴き出す血から逃れるように、怪物が斬り払いながら後退する。逃がすか。斬り払いを始める頃には散弾が放たれていた。流石に銃弾、怪物に追いついた。

 

 怪物がよろめいた隙に、狩人が己の臓物を踏み躙って飛びかかる。怪物が体勢を整えるより先に、振り下ろされた片手斧の無慈悲な「ヘッド(斧頭)」が「頭」をかち割り、無理やりに地面へと叩きつけた。

 

 が、そんなことで死ぬ不死でもない。すぐさま復活し、膝まで立つなり一瞬にして狩人の腹を裂く。どばっと溢れる内臓が怪物の全身を覆った。激痛に狩人が絶叫する。

 

 涙を浮かべながらも、狩人は怪物の左肩に斧を突き立て、その左目に右手の親指を突っ込んだ。心地の良い悲鳴を聴きながら胸元に散弾銃を押し当て、引き金を引く。大きな風穴を開けてやった。

 

 出血が酷い。早く、早くしなくては。仰向けになった怪物に馬乗りになる。まだ動きそうな右腕を散弾で吹き飛ばし、肩に突き刺さった斧を力ずくに引き抜く。

 

「RAAAAAAAAAAAAAHHHHH!!!!!!!」

 

 顔面目掛け、思い切り斧を振り下ろす。重たい刃を叩きつける度、ぐしゃりぐしゃりと良い音が鳴った。ばたばたと暴れる四肢を気にせず、ひたすらに顔を破壊した。いじらしい叫び声は心を洗ってくれるようであった。これで良い。これが、これこそが──。

 

 怪物の顔から異常なまでの勢いで噴き出す緑色の血に塗れながら、狩人の傷が塞がっていく。飛び出した内臓は外に露出した部分が千切れ、腹の皮膚が塞がった後に再生していくのだ。

 

 相手を痛めつける加虐の愉悦、「やり返す」快感が寄生虫を呼び起こし、その傷を癒していく。これこそがリゲイン、狩人の業である。

 

 顔面を完全に潰して尚、怪物は動いた。力任せに狩人を吹き飛ばし、不完全に再生した目玉で睨みつける。

 

「そうか、そうか。まだ動いてくれるかっ。楽しい奴だな、貴公というやつは」

 

 興奮のままに狩人が語りかける。返事の代わりに、刃が飛んできた。とにかく近寄る。距離を詰める。刃の届く位置へ。「もう見た」構えだ。散弾を放つ。

 

 怪物の体勢を崩しながらも、狩人もざっくりと斬られた。左肩から腰の右まで、骨ごとである。腹から内臓を漏らしながら飛び掛かり、怪物の腹に腕を突っ込む。リゲイン。お互いの臓腑が撒き散る。

 

 これだ。この痛みだ。この臭いだ。この感覚だ。一嗅ぎする度に頭が痺れ、身体が欠ける度に脊髄を貫いてくる。身体を奪う度に脳を撫でつける。

 

 こうでなくては。この甘美な激痛の与え合いこそ、凄惨な血の奪い合いこそ、死闘だ。狩人はもはや人の言葉を発していなかった。ただ渇きのままに血を求め、咆哮し、狩りに酔っていた。

 

 一方、真斗達はミアズマの塊を殴り倒していた。どのみち効果が無いことは全員薄々既に勘づいてはいたが、それでも何もしないより遥かにマシである。

 

「畜生、全ッ然壊れねえ……ッ!」

 

 真斗が悪態をつく。皆、決して振り向こうとはしなかった。後ろから聞こえるぐしゃりべちゃりという音と凄惨な絶叫の正体を暴く勇気など無かったのだ。

 

 だが、ふと狩人の叫びが聞こえた。仲間の危機に、あまりに優しすぎる彼女は、アリスは、遂に振り向いてしまった。

 

「ひっ」

 

 アリスは一瞬、呼吸の仕方を忘れた。

 

 二体の怪物が、殴り合っていた。至近距離、お互い殆ど避けることもせず、暴力の応酬を続けている。蛇の交尾のように絡まりあった臓物はもはや互いの血で染め上がり、どれがどちらのものなのか分からなかった。

 

 両者の耳をつんざくような咆哮は、やはりどちらも人間のそれではなかった。ひたすらに相手を殴り、斬り、腹の中身を掻き出し合う。彼らの足元には、すでに緑と赤の臓腑が盛り上がっていた。

 

 狩人が斧を振り上げた一瞬の隙を突いて怪物が腹を裂くも、勢いは殺されず左肩に斧が振るわれる。そのまま振り抜く。

 

 狩人が武器を仕舞う。怪物の、その骨ごと裂かれた左の乳房に右手を突っ込み、あるかもわからない心臓を無理やりに引っこ抜こうとしている。

 

 だが当然、怪物も黙ってはいない。哀れな程に泣き叫び、狩人の身体を何度も突き刺し、引っ掻き回す。内臓をかき混ぜられ、狩人の方も大声で唸るが、それでもモツだけは抜いてやると突っ込んだ腕を全身の動きで引っ張り続けている。

 

「うぷっ」

 

「アリスっ! こっちに集中してっ!」

 

 振り向かず、柚葉が叫ぶ。はっと我に返ったアリスがミアズマに向き直り刺剣を突き立ててみるも、やはり効果は薄い。場に満ちたミアズマを吸収しているのだ。こんな塊を数個破壊した程度ではどうしようもない。

 

 どうする。どう切り抜ける。アキラの頭の中であらゆる思考が飛び交う。せめて、逃げるだけでも──。

 

「! そうか! みんな!」

 

 アキラが叫ぶ。狩人を除いた一同が振り向くのを確認して、作戦を語り始めた。

 

「近くに裂け目がある! それを利用するんだ!」

 

 裂け目に入る直前に爆弾を起動し、怪物を木っ端微塵に吹き飛ばすのだ。成功確率は低いが、やってみるしか無い。それが総意であった。

 

「狩人! 来てっ!」

 

 散弾で怪物を吹き飛ばした隙に狩人に近づき、その手を引っ張る柚葉。小女を見てすぐに狩人も正気を取り戻し、声こそ聞こえないものの皆と共に走り出した。地を蹴る度に全身から血が垂れた。

 

 凄まじい速度で追ってくるも、流石にずたずた、とても真斗達に勝てたものではない。

 

 一瞬にしてアリスが切り刻んだ壁を真斗が吹き飛ばす。裂け目はもうすぐそこである。

 

 柚葉が爆弾に弾丸をぶち込む。血塗れの手に引っ張られ狩人と共に裂け目へ潜る彼女の喉に、怪物の爪は、そして巨大な爆発は遂に届かなかった。

 

 どさりと地面へ投げ出された一行が目にしたものは、自分たちを取り囲みライフルをこちらに構えるスーツ姿の集団であった。

 

「待ち伏せだぁ……!?」

 

 唸る真斗を筆頭に、次々と銃床で殴られ気絶していく一行。十人単位の敵に囲まれては己も仲間の身も守れる筈はなく、敢え無く狩人も気絶させられた。

 

 これまた攫われるやつだ。遠のく意識の中、不思議な確信が狩人の頭をよぎっていた。




狩人ばっかり描写しててすまない。私もゼンゼロキャラの活躍書きたいんですけど如何せんね。

戦闘描写が上手くなりますように。

私の狩人こんな強くないのに……
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