2026年施行 KBO 「アジアクォーター」(アジア枠)について①【制度説明を中心に】
2026年施行 KBO アジアクォーター(アジア枠)について①【制度説明を中心に】
第1 はじめに
Note初投稿となります。
私は、日本の弁護士でありながら、NPB選手会公認選手代理人として、また、当時韓国国外からは唯一第1回KBOリーグ公認選手代理人試験にも合格したこともあって、2014年のオフシーズンから日韓間の様々カテゴリーにおけるプロ野球選手の移籍交渉等に携わってきました。
昨年2024年には、KBOでは13年ぶりの日本人選手となる白川恵翔選手の徳島インディゴソックス(四国アイランドリーグplus)からKBO SSGランダース及び斗山ベアーズへの移籍にも携わりました。
こうした経験から2026年から始まる「アジアクォーター」制度について選手、関係者の皆様から日々多くの相談を受けています。
しかしながら、KBOからの発表や報道は韓国語のものがほとんどで、日本語で整理されたものは見当たりません。
そこで、今回の投稿では、KBO「アジアクォーター」制度について簡単に説明をしたいと思います。
第2 現行のKBO外国人選手制度(2025シーズンまで)
KBOの外国人選手制度は1998年に始まりました。
今シーズン(2025年シーズン)は、各球団最大3名まで契約が可能(KBO規約第29条第2項、外国人選手雇用規定第3条)で、当該3名は同一ポジションでは出場できない(全て投手又は全て野手は不可)と規定されています(外国人選手雇用規定第3条)。
出場選手登録(一軍登録)数に制限はあるものの、任意の数の外国人選手を支配下選手登録できるNPBの制度とは異なります。
第3 2026年施行 KBOアジアクォーターについて
1 2025年第1回KBO理事会に基づく公式発表内容(2025.1.22)
2025年1月21日KBOは第1回理事会を開催し、その翌日、「アジアクォーター」制度を2026年シーズンから導入することを発表しました。
KBOが発表した制度概要は次のとおりです。
<制度導入の目的>
KBOリーグの競争力強化と円滑な外国人選手需給のため【注1】
<対象選手>
アジア国籍全体(アジア野球連盟BFA所属国家基準)およびオーストラリア国籍選手
<対象選手に関する制限事項>
非アジア国家の国籍を持つ二重国籍選手は不可。直前または当該年度のアジアリーグ所属だった選手1人に制限【注2】
<対象ポジション>
制限なし【注3】
<年俸等>
上限20万ドル。
上記金額には、選手年俸、契約金、特約(インセンティブ等オプション金額)および対象選手の元所属球団に支払う移籍料(税金除外)が発生する場合にはこれも含まれる。
選手契約2年目以降の再契約の際には、当該選手の年俸は毎年10万ドルずつ引き上げることが可能。
【↓2025/1/22 KBO報道資料↓】
https://www.koreabaseball.com/MediaNews/Notice/View.aspx?bdSe=11351
【注1】
韓国では急激な出生率の低下により、今後プロ野球(KBO)の競技レベルを自国選手だけでは維持し続けることが困難になるであろうと言われています。
【注2】
この「直前または当該年度アジアリーグ所属」の意味が曖昧なのですが、直前または当該年度に非アジアのあらゆるカテゴリーに所属した経歴がある場合には、対象から外れるとの話も伝わってきます。今後の発表を待ちたいと思います。
【注3】
現状でも各チームの先発投手1番手、2番手が外国人投手であることから、国内選手の先発投手が育たない現状を危惧し、「アジアクォーター」の対象から先発投手を外したり、イニング制限を設けようという議論もありましたが、結論としてポジション制限はかかりませんでした。
2 KBOの規定には既に「アジアクォーター」の規定がある
来年施行の「アジアクォーター」制度ですが、今シーズンのKBO野球規約(KBO야구규약)の中には既に規定が設けられており、公開されています。
これらの規定の中では報道資料では言及されなかったシーズン中の「アジアクォーター」選手の交代回数の制限やその際の年俸額も言及されています。
외국인선수 고용규정
제2조 [정의] 이 규정에서 말하는 외국인선수는 계약체결 당시 한국 국적을 가지고 있지 않은 선수를 뜻한다. 다만, 한국의 중학교 이상 학교에 재학하면서 대한야구소프트볼협회 등록선수로 활동했던 외국 국적의 선수는 KBO 규약 제108조의 절차를 준용한다. 아시아쿼터 선수란 아시아 권역 내 국가의 국적을 보유한 자로서 시행시기와 영입 대상 국적 등의 조건은 이사회에서 정하는 바에 따른다. 아시아쿼터 선수는 2026년부터 영입할 수 있다. [2025.1.21 개정]
外国人選手の雇用規定
第2条[定義] この規定にいう外国人選手は、契約締結当時、韓国国籍を保有していない選手を意味する。 ただし、韓国の中学校以上の学校に在学し、大韓野球ソフトボール協会の登録選手として活動した外国国籍の選手は、KBO規約第108条の手続を準用する。 アジアクォーター選手とは、アジア圏域内の国の国籍を保有する者で、施行時期と受け入れ対象国籍等の条件は理事会で定めるところに従う。 アジアクォーター選手は2026年から受け入れることができる。 [2025.1.21改正]
제3조 [고용] 구단이 계약하는 외국인선수의 수는 3명을 초과해서는 안되며, 3명 전원이 동일 포지션으로 등록할 수 없다. 단, 제10조에 따른 부상 대체 외국인선수와 계약할 경우에는 일시적으로 3명을 초과할 수 있다. 구단은 제2항에 따라 계약을 체결한 외국인선수와는 별개로 아시아쿼터 선수 1명과 계약을 체결할 수 있다.
第3条[雇用]球団が契約する外国人選手の数は、3人を超えてはならず、3人全員が同一ポジションで登録することはできない。 ただし、第10条の規定による負傷代替外国人選手と契約する場合には、一時的に3人を超えることができる。 球団は第2項によって契約を締結した外国人選手とは別に、アジアクォーター選手1人と契約を締結することができる。
제4조 [동시 출장] 한 경기에 출장하는 선수의 수는 3명까지 허용된다. 단, 구단이 아시아쿼터 선수를 영입했을 경우 해당 선수를 포함하여 총 4명까지 허용된다.
第4条[同時出場]1試合に出場する選手の数は3人まで許容される。 ただし、球団がアジアクォーター選手を迎え入れた場合、該当選手を含めて計4人まで許容される。
제8조 [연봉 등]
(중략)
아시아쿼터 선수에게 지출할 수 있는 최대 비용은 연봉, 계약금, 특약(옵션 실지급액 기준) 및 원 소속구단에 지불하는 이적료(세금 제외)를 합쳐 미화 20만달러를 초과하여 비용을 지출할 수 없으며, 재계약시 매년 10만불씩 한도를 증액한다. 기존 외국인선수 계약 시 지출할 수 있는 금액 상한액과는 무관하다.
第8条[年俸等]
(中略)
アジアクォーター選手に支出できる最大費用は年俸、契約金、特約(オプション実支払額基準)および元所属球団に支払う移籍料(税金除く)を合わせて20万ドルを超過して費用を支出することができず、再契約時に毎年10万ドルずつ限度を増額する。 既存の外国人選手契約時に支出できる金額上限額とは無関係である。
② 제1항에도 불구하고 2월 1일 이후 외국인선수를 부상 대체·교체하거나 정규시즌 개막일 이후 신규 외국인선수와 계약을 체결하는 경우 지출할 수 있는 최대 비용은 연봉, 계약금, 특약(옵션 실지급액 기준) 및 원 소속구단에 지불하는 이적료를 합쳐 잔여 계약기간 1개월당 최대 미화 10만달러로 제한되며, 아시아쿼터 선수의 경우 잔여 계약기간 1개월당 최대 미화 2만달러로 제한된다.
② 第1項にもかかわらず、2月1日以降に外国人選手を負傷代替·交替したり、レギュラーシーズン開幕日以降に新規外国人選手と契約を締結する場合、支出できる最大費用は年俸、契約金、特約(オプション実支給額基準)および元所属球団に支払う移籍料を合わせて残余契約期間1カ月当たり最大10万ドルに制限され、アジアクォーター選手の場合、残余契約期間1カ月当たり最大2万ドルに制限される。
제9조 [추가등록] ① 구단은 외국인선수와 제3조의 범위 내에서 계약을 체결할 수 있으며 소속선수 공시 후 외국인선수가 계약이 해지되었을 경우 2회에 한하여 추가등록을 할 수 있으며, 아시아쿼터 선수의 경우 1회에 한하여 추가등록을 할 수 있다. 이 경우 선수계약의 양수도를 통해 외국인선수를 영입하는 경우도 추가등록 횟수에 포함한다. 단, 외국인선수와 계약해지 후 2회를 추가등록하지 않은 경우 6월 30일까지 외국인선수간 양수도는 추가등록 횟수에 포함하지 않는다.
第9条[追加登録]①球団は外国人選手と第3条の範囲内で契約を締結することができ、所属選手の公示後、外国人選手が契約が解除された場合、2回に限り追加登録ができ、アジアクォーター選手の場合、1回に限り追加登録ができる。 この場合、選手契約の譲渡を通じて外国人選手を受け入れる場合も追加登録回数に含まれる。 ただし、外国人選手と契約解除後、2回を追加登録しなかった場合、6月30日まで外国人選手間の譲渡は追加登録回数に含まれない。
第4 これからの1年強で最大25名程度の「アジアクォーター」選手が誕生する?
KBOの正規シーズンが終了する2025年の10月初旬以降、KBO各球団は順次アジアクォーター選手と契約し、まず10人の「初代アジアクォーター選手」が誕生することになると思います。
しかしながら、残念ながら選手の「見切り」も早いKBOリーグでは今シーズンもおおよそ40%の外国人選手が交代又は(臨時)代替外国人選手制度によって別の選手に代わっており、各球団手探りの状況で始まる「アジアクォーター」も同様の状況になると予測されます。
そうなると、KBOの2026年のシーズン中には、既存の10人に加えて4~5名程度の「アジアクォーター」選手が追加で登場することになるわけです。
そして、さらに来年の今頃、初年度の経験や反省を踏まえて各球団は更なる補強を行うでしょう。理屈の上では10人全員交代ということもありえますから、そうなるとこれからの1年強で最大で25名程度の「アジアクォーター」選手が誕生する?ことも考えられるわけです。
第5 終わりに
以上簡単ではありますが、今回の投稿では、KBO「アジアクォーター」制度について説明をさせていただきました。
「アジアクォーター」制度が始まるとアナウンスがあってから、日本の選手、関係者の皆様から日々多くの相談を受けています。
この投稿をご覧になられた選手、関係者の中で、御質問、御相談等ある方は弊所(東京神谷町綜合法律事務所)までご連絡いただくか当職のX(@LawyerKimagent)へお問い合わせいただければと思います。
【弊所HP】
次回の投稿でも「アジアクォーター」に向けた動向等についてご紹介させていただきたいと思います。


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