このメールを見てる君は選ばれし者
5000万ディニーを掴むチャンスを与えられた強き者
単刀直入に言おう
衛非地区にいるある青年をぶちのめしてほしい
名はエドガード・C・ガルシア28号
クローンのファイターで“突然変異の心臓”を持つ青年だ
もちろんめちゃくちゃ強い
しかもこの戦いには絶対守らなければならない条件がある
ガルシアを倒すには徒手空拳でなければならない
銃や刃物などの武器は使用禁止
なぜなら万が一にも“心臓”を傷つけてはならないからだ
何よりも“心臓”が大事なんだ
ぶっちゃけこのガキの命なんてどうでもいいんだ
“心臓”さえ生きていればなぁ
さぁ腕に自信のある者は今すぐ衛非地区へ行け
ガルシアを失神KOさせろ
急げっ
乗り遅れるな
5000万ディニーを掴むんだ
“ドラゴン・ラッシュ”だ
『しかしキツイ防衛戦だったなオルペウス』
「はい。あと5体がなかなか倒せなかったであります」
何とか市街地を守り抜いた一行は、駐屯地まで戻ってきていた。
『だがこれで都市部は安全だ』
「次の任務は、山道方面のサクリファイス及び讃頌会の掃討、そして“VIP”二名の護衛でありますね?」
『つまり……人面獣心のルクローと蛆虫のロレンツだ』
「悪い知らせはルクロー氏との連絡が途絶えていることと、良い知らせは少将が山道下にある避難拠点に向かっていることでありますね」
『良いと悪いが逆の可能性もあるが……まあいい。とにかく、嫌でも任務は遂行する義務がある。それに山道周辺の居住区があるしな』
「では行動開始であります!」
Now Loading......
『サクリファイスをブチ殺せェ!』
「隊長、野蛮すぎるであります!」
オルペウスと鬼火が焼き斬り、シードが叩き潰し、トリガーが撃ち抜く。
道中のサクリファイスは瞬く間に数を減らしていき、逃げ遅れた住民達の安全な退路も確保できた。
とてつもなく順調に進んでいた一行だが、トンネルに差し掛かったあたりで雲行きが怪しくなる。
「倒れているのはポーセルメックスの人達のようでありますね」
『死者はいないようだが、重傷の者もいるようだ』
手早くサクリファイスを片付けると、一行はその人物達へと近づいた。
『おい、何があった?』
「か、怪物達が2~3匹くらいいて……く、首を絞めて殺したんだ。そして自殺に見せかけたんだ」
「この人、晩餐会で見たことあるよ。確かポーセルメックスの人だと思う、ここで倒れてる人達も」
「かわいそうに、混乱しているようであります。大企業の人間と言えどこうなってしまっては人生の悲哀を感じるでありますね。他の人達からも話を聞くであります」
混乱している者を放置し、別の人間に話しかける。
『何があった?』
「怪物に襲われたと思ったら、ろ、ロボットが2~3体くらい森から現れたんだ。そして私達を守ってくれたんだ」
『ううん、どういうことだ』
よくよく見ると、サクリファイスの残骸の他に、ロボットの残骸が散乱していた。
白いボディはセキュリティメカそのもの。リンはそのロボットに見覚えがあった。
「あ、このロボット知ってる。前にポーセルメックスが山道を封鎖した時に使われてたやつでしょ?」
『知ってるのか?』
「うん。なんか狭い道路だとギッチギチに詰まってるくらい多かったから」
そう、このロボットは以前、柚葉、真斗、アリス、ガルシアによってボコボコにされていたセキュリティメカと同一のものだった。
だが、彼らは封鎖の解放と共に回収されたはずである。その答えを知っている者がいた。
「聞いたことがある……」
「知っているのでありますか、ポーセルメックスの人」
「ああ。なぜか壊れていたメカも含め、我が社に回収されたはずだったが……制御を失った一部のセキュリティメカが野生化し、この山道をうろついていると噂になっているらしい」
『何を言っているんだ?』
ポーセルメックスの幹部はそう言った。
彼の言った噂話は正しかった。何を隠そう、野生化したメカ達は全てガルシアのガルシア・アイによって機能停止に追い込まれた後に制御権を失い、野生化したからである。
それを、この場にいる誰も知る由は無いのだが。
「制御を失っても人のために動いたのかもしれないね」
「文字通り粉骨砕身の献身……敬礼であります」
ロボットの活躍に感心していると、オルペウスの胸元の軍用無線機が鳴った。
そして響くのは、イゾルデ大佐のものだ。
『鬼火……君はずっと知りたがっていたな……
『イゾルデ?』
イゾルデの凛とした声は、どことなく不穏な気配をまとっていた。
『流れるべき血は二つ……一つは己の利益を優先し賄賂をちらつかせたポーセルメックスのもの……もう一つはそれを受け取った無能な指揮官のもの』
静かな、憎悪が無線機を伝う。
『ああ、ここでポーセルメックスの血が流れなかったのは残念でならないよ』
『おいイゾルデ……それは、つまり……』
『そうだ。ポーセルメックスのルクローこそ、あの時の指揮官を買収した首謀者だ』
ルクローの正体見たり。
大企業ポーセルメックスの共同CEOの片割れで知られるルクローは、自社の利益を優先し兵士はおろか市民の命すら脅かす人面獣心というのも生ぬるい鬼畜のような男だったのだ。
『今、そこにいる彼らも無実ではない……彼の腰巾着共とはいえ、恩寵を受けていたのは事実だからな。だからこそ、血が流れなかったのは……生きているのが残念でならないよ』
「イゾルデさん……例えそれが事実だったとしても、まずはちゃんとしたところで裁かれるべきだよ」
リンはアキラと共にプロキシを続ける中で、人死にを見ることはあった。
確かに中には死んでも仕方ない者もいたが……死んでしまってはそれでおしまいだ。まずは生き延び、それから裁かれるべきである、リンもアキラもそう考えていた。
『ふうん、プロキシにしては……いや、そうでなくとも立派な正義感だ。感心するよ。しかしねぇ……君にも、似たような経験があるはずだ』
似たような経験。
リンもアキラも、それを経験している。現在進行形で。
『無実の罪を着せられ、正義は叶わず……終わりの見えない闇の中であがき続ける……防衛軍、治安局、調査協会、H.A.N.D.にTOPS……巨大な存在にどれだけの“不当”を強いられ、どれだけの“正義”を追い求めてきたんだ?』
確かに、プロキシな上にヘーリオス研究所の生き残りだ。露見しないように活動する中、そうした組織から不当を強いられたことがないとは言えない。
だが、兄妹は暗闇を進む中で信頼できる仲間と出会い、邪悪な企みを未然に防いだこともあった。
“先生”の捜索についても分からないことだらけだが、確実に真相へと近づいている。そう確信している。
『イゾルデ、だが、“正義はやがて訪れる”と言っていたのは君だ』
『そう! 正義だ! 正義とは必ず訪れる! だが……だがなぁ。正義の鉄槌を下すには、私の手か、あるいは君の銃によって為されなければならない!! 他でもない、我々以外では不可能なことなんだよ』
憎悪に狂気じみたなにかが入る。
彼女の情念に飲まれてしまいそうなほど。リンは無理やりにでも、質問をすることで空気を変えようとした。
「イゾルデさん。今この話をしたってことは、何かあるんだよね……鬼火隊長に真実を知らせる以外で」
『フッ……その通りだ。鬼火、知りたいとは思わないか? もう一人の首謀者……はした金欲しさに戦友たちを殺した指揮官……』
当時、彼女達の指揮を執っていた人物。
思い出せないはずがない。その日のことは脳裏に強く焼き付いている。
『……そうか、ロレンツ少将』
『ああ。当時はまだ大佐だった……よくも、まあ……フフ……立派に出世しているよ、全く。あの時、奴はルクローと結託していた。11年経ったいまでもズブズブの関係さ』
ロレンツの正体見たり。
栄えあるオブシディアン大隊の指揮官として知られた人物の正体は、小金欲しさに部下と市民を見捨てる人面獣心ということすら生ぬるい蛆虫のような持つ男だったのだ。
『ルクローもロレンツもこの先だ。ルクローは……君達の運が良ければ生きているかもしれないな。とにかく、私は決断した、君らも決断しろ』
イゾルデは言い残した。
『私達は同じ道を歩む同士なんだ……失望、させないでくれよ』
通信が切れる。
「隊長」
『……言いたいことは腐るほどあるだろうが、今は先を急ぐぞ。人命救助が優先だ』
一行は、様々な想いを殺し、ひとまず先を急いだ。
Now Loading......
『いたぞ、ルクローだ』
「側に誰かいるであります! 民間人でしょうか?」
『いや待て、それにしては妙にガタイが良い。奴の護衛かもしれん、警戒しろ』
一行は、サクリファイスの残骸の中心に立つ人物と、尻もちをついて怯えるルクローを見つけた。
サクリファイスを皆殺しにしたと思われる人物は、接近してきたオボルス小隊を見て警戒しているようだが……やがて剣呑な気配を霧散させた。
『何者なんだ』
「鬼火隊長、大丈夫です。私はこの方と面識があります」
「私もだよ」
『なにっ、プロキシ君とトリガーが……?』
リンとトリガーが男に近づく。
それを確認した男も、同時に近づいてきた。
「お久しぶりです、ガルシア」
「やっほ、ガルシア!」
「……」
その男の正体はガルシアだった。
『知り合いだったか?』
「うん。でもガルシア、どうしてここに?」
「……」
ガルシアの目が語っていた。
用事で泅瓏囲にいたところ、突如として山道にサクリファイスが発生。
山道に遊びに行ったというダンテ達を助けるついでに、襲われていた知らんおっさん=ルクローが襲われかけていたので助け、今に至る。
「ふうん、そういうことか」
『彼は何も言ってないが』
ガルシアは沈黙しているが、目が語っている。
「で、このルクロー氏はどうするでありますか?」
『もしイゾルデの話が本当なら正直ここで殺してやりたいが、小便を漏らして泣き叫ぶ情けない男を殺すのも気が引ける』
「た、頼む助けてくれ! 金ならいくらでもやる!」
「文字通り死ぬほどもらえそうでリラックスできないでありますね」
ルクローが懇願している!
『まあいい。泅瓏囲へ連行しろ』
「……」
「や、やめてくれ引きずらないでくれ! お、お気に入りのズボンなんだ――」
そしてルクローはガルシアに引きずられていった。
ちなみにダンテはガルシアの肩に乗っている。
Now Loading......
泅瓏囲にて。
ダンテを家族の元へ送り届けた一行はロレンツに詰め寄っていた。
果たして、イゾルデの話は本当なのかと。
いや、白を切られるというのは分かり切っていること。
ボロを出すまで追求し、真実を知りたかった。
だが……ロレンツからは終ぞ、明確な証拠は得られなかった。
流石は、腐り切っても少将という立場にいるだけはある。そう思うほかないほど、のらりくらりとかわされてしまったのだ。
それに、いかに血気盛んな鬼火と言えど、守るべき者がいる立場で軽率な行動を起こすわけにはいかなかった。
「全く! 証拠もなしに好き勝手言ってくれたものだ――これは評価に響くぞ」
オボルスの誰もが思っている。
お前に評価されることなど何もないと。だが、あえて口にはしなかった。
ロレンツとその部下達は桟橋の先に停泊している船に向かうが……その船の近くに現れた存在に目を剥いた。
ザ バ ッ
「……」
「えっ」
「なにっ」
「な……なんだあっ」
部下達は驚きのあまり銃を向けた。
海から現れたのは、坊主頭の大男……ガルシアだった。
「貴様、そんなところで何をしている!?」
ガルシアは、サクリファイスが現れる前に、泅瓏囲の子供が海に落とした玩具を拾っていたのだ。
落とした時点で拾ってくれと泣きつかれていたのだが、直後にサクリファイスが現れたことを感知し、ダンテ達を助けに行ったのだ。
そんなガルシアからすれば、海から出たら知らない連中に銃を向けられているなど甚だ理不尽な状況だったに違いない。
「が、ガルシア! こっちに来てて!」
「――待て、ガルシアだと?」
ガルシアという名前に反応したのはロレンツだ。
ロレンツとて少将。ガルシア・シリーズのことは良く知っている。
今はその生き残りなど存在しないことも、ここにあるはずのない存在であることも。
「貴様、ガルシアというのか?」
「……」
ロレンツが、水にぬれた半裸のガルシアの肉体を値踏みするように、舐め回すように観察する。
リンの脳裏にマネモブの『まさかゲイってわけじゃないでしょ?』という言葉がよぎる。人の性的嗜好にケチつけるわけではない。問題はそれが合意かどうかだ。もちろんガルシアは未成年どころか年齢一桁なので、合意関係なく違法だ。
「まさかガルシア・シリーズか?」
「少将閣下、間違いありません。この胸の数字と顔のバーコードを見てください」
「28号だと……何故こんな場所にいる?」
「……」
28号は答えなかった。
いや、そもそも大した用事でいたわけではないというのが事実だ。
なんならここにいるのはガルシアじゃなくても良かったが……
「答える気はなさそうだな。おい、連れていけ」
「えっ」
『なにっ』
一行は、ロレンツが何を言っているのか分からなかった。
『何を言っている、ロレンツ。そこのガルシアは、ガルシア・シリーズではない』
「いいや、ガルシア・シリーズだ。記憶と寸分違わない容姿にバーコードと型番が何よりの証拠。ガルシアは最高機密だ……ゆえに、一緒に来てもらう」
「連れて行って……どうするつもり?」
「それを言う必要はあるか?」
リンは、ツイッギーからガルシア・シリーズの悲惨な末路を聞いている。
ともすれば、同じクローンであるシルバー小隊よりも冷遇され、人間扱いなどされなかったという。
だからこそ不要になり、全員……一人残らず処分された。
「ガルシアに人権など存在しないのだから」
『――それを言ったら殺されても文句は言えんぞ』
「何とでも言え。ガルシア、お前は防衛軍の備品なんだ。一緒に来てもらおうか――おい?」
ガルシアは一歩も動かなかった……どころか、ロレンツ達とは別方向に歩き出した。
それはリン達の方だった。
「貴様ーっ、道具如きが反抗する気かあっ」
「……」
部下が銃を突きつけるが、何の脅威にもならない。
その程度ではガルシアを止められない。
道具だから、人権が無いから。
そんなことを言われてもガルシアの心に響くことは無い。
しかし……しかしだ。自身が生まれる前にいた兄妹達や、姉妹達の処分を決定した者達の中に、コイツが含まれていたとしたら?
何の証拠もない、単なる憶測と妄想の領域を出ない言い掛かりにすぎないが……ガルシアの心はささくれ立った。
『もう一度聞く。ガルシアを連れて行き、どうするつもりだ?』
「そんなもの、言わずとも分かっているだろう?」
明言はしない。
しかし、上層部がガルシアをぞんざいに扱ってきたことから分かる答えは一つしかない。
「逃げて! ガルシア!」
「この距離から? 銃の射程距離って結構長いんだぜお嬢さ――」
部下の一人が得意げに語ろうとしたが、言葉は続かなかった。
「えっ」
「なにっ」
ガルシアが先ほどまで手にしていた玩具が、その顔面に叩きつけられていたからである。
部下は意識を失い、倒れ込んだ。
「う、撃て――あっ」
誰かが言葉を発するより先にガルシアは動いている。
一瞬で足を蹴り折られ、腕もへし折られている。完全に無力化され、痛みにもがいていた。
「ひっ――はうっ」
誰も彼も、一撃で沈んでいる。
その度にガルシアは銃を破壊し、使い物にならなくする余裕さえあった。
「く、来るな……やめろ!」
ロレンツは護身用に持っていた拳銃を放つが、震えて命中しないか、ガルシアがわずかに身をひねるだけで避けられた。
「やめろっ、やめてくれガルシアっやめろっ」
「……」
「あ――」
ガルシアの答えは……ラッシュだった。
「あ あ あ あ」
一撃で顔面崩壊、二撃目で肋骨粉砕、三撃目で腕部複雑骨折――そんな拳が一秒の間に20発も放たれた。
「あ……ああ……」
制裁は一瞬だったが……ロレンツにとっては無限に等しい時間だったかもしれない。
生きている。死んでいない。だがそれだけだ。ロレンツには殺すつもりがあったが、ガルシアにはなかった。
『……』
「お、鬼火隊長……」
『私は……ロレンツを殺さなくてよかったと思ったよ。あの哀れな……二度と飯は食えず、自分でケツを拭くことすらかなわず、身じろぎすらできそうもない姿を見ればな』
果たして、ロレンツが本当に収賄をしていたのかは分からない。
だが、彼は一般市民を不当に拘束しようとした結果反撃を受け、再起不能になってしまったことだけである。
『こんな事故も人生にはつきものなんだ。悔しいだろうが仕方ないんだ』
「……」
『ただ、ガルシア君には取り調べを受けてもらうしかないが……』
「……」
それは仕方のない話である。
例え大学生がプロレスラーを不意打ちで殴っても、無罪放免とはいかないのが世の中だ。
これからどうなるのか予想もつかない状況の中――
「何か凄い音が聞こえましたけど大丈夫ですか――」
「銃声……ロレンツ少将、何が――」
それぞれ、泅瓏囲の民家がある方と、船の中から現れた人物。
片や、讃頌会の司祭がつけていた服を着ている小さな子供。片や、防衛軍の軍服を着こなした女性。
「「ん?」」
「え、光の司祭にイゾルデさんも、どうしたの?」
イゾルデと光の司祭。
二人がついに出会ってしまった。
ロレンツ好きの人はごめんなあっ
原作じゃ恐らくこんな愚かなムーブをする奴ではないと思われるが……
流石に本編に入れる勇気はなかった没シーン
『ルクロー、助けて欲しければ一発ギャグをしろ』
「えっ」
ルクローは考え込んだ。
しばらくすると立ち上がる。そして――
「今ボク死にかけてルクロー!」
『合格だ』
そしてルクローは絶命した