「僕もポケモンカード大会に出たい」
難病のため、寝たきりの男児の夢をかなえようと、施設の職員やポケモンカードの公式資格を持つ人らが協力して、医療的ケア児らも参加できる「公認」のポケモンカード大会を12月、東京都内で開く。障壁を取り除くために、どんな工夫を重ねたのか--。
ピカチュウ好きからカード収集
大会出場を願ったのは、東京都足立区の小学5年、徳永唯斗(ゆいと)さん(10)。筋力低下と筋萎縮が起きる難病「脊髄(せきずい)性筋萎縮症(SMA)」と診断され、人工呼吸器を装着している。
区内にある医療的ケア児や重症心身障害児の支援施設「FLAP-YARD」を週1回利用している。
父の俊彦さん(39)や施設の職員によると、唯斗さんは元々ポケモンのキャラクターの「ピカチュウ」が大好きで、「ピカチュウのカードが欲しい」と集め始めた。当初はカードを大切にファイルにしまって、眺めて楽しむだけだった。
それがバトルゲームへと興味がステップアップしたのは、唯斗さんの個別支援計画を作成するため、施設の職員と親子で話していた時だった。
ポケモンカードは見て楽しむだけでなく、対戦して遊べることが話題に上ると、唯斗さんが「僕も大会に出たい」と意思表示をした。
そこで、支援計画の目標も「ポケモンカードの大会で優勝する」と設定することにした。
どうすれば大会に参加できるか
ポケモンカードは2人で対戦するゲーム。60枚のカードを組み合わせた「デッキ」を使って勝負する。
発売元の「ポケモン」のホームページによると、大小さまざまな大会があり、7000人以上が集う大型公式大会「チャンピオンズリーグ」は毎年数回開催され、世界大会も開かれている。
施設の職員が「公認イベント」を開催することができる「イベントオーガナイザー」の公式資格を持つ男性(35)に協力を求めたところ、快諾を得た。
男性は「公認イベントならルールはある程度、コントロールすることができます。『楽しみたい』という気持ちはみんな同じ。遊べる場を提供したいと思いました」と協力した理由を話す。
公式の共通ルールを基本的には守りつつ、唯斗さんも参加できるよう一部を変更する。
通常は1対1の対戦で、介助者の参加は認められないが、使うカードやその動かし方について、介助者に指示することを認める。
試合時間は本来25分だが、介助者とのやりとりに時間がかかるため40分に変更。さらには、唯斗さんは座ることが難しいため、寝たままでもテーブルの上の状況がわかるようカメラを設置し、タブレット端末に盤上の様子を映して見られるようにする。
唯斗さんは口角や目、指につけたスイッチを動かして、介助者に指示し、ゲームを進めることができる環境が整った。
大会出場を目指して成長も
唯斗さんはこの施設で働く職員の兄で、ポケモンカードを得意とする男性から毎月1回、特訓を受けている。
「1位になりたい?」と職員が聞くと、「うんうん」とうなずくように口角を何度も動かし、大会への意気込みを示している。
母の由香さん(38)は「大会に向けて練習を始めてから、他の子との交流が増え、人見知りすることも減りました。試合で負けると『悔しい』と感情もより出すようになりました」と成長ぶりを喜んでいる。
障害により、意思疎通に時間がかかったり、なかなか伝わらなかったりする子は、自分の思いを伝えることを我慢しがちだという。
ゲームでは、攻撃で受けたダメージを計算する必要があり、積極的に算数の勉強もするようになった。
同じ施設を利用する豊島区の中学1年、窪田睦人(むつひと)さん(12)も、唯斗さんに誘われ、大会への参加を決めた。睦人さんは脳性まひで、体が不自由だ。お気に入りのキャラクターは「ミュウツー」という。
母の奈保さん(45)は「友達からの誘いをきっかけに、何かを始めるのは初めて。家族以外の人との出会いで、自分の世界を広げる経験ができました」と話す。
大会は12月20日、唯斗さんらが通う東京都足立区の施設「FLAP-YARD」で開かれる。
ポケモンカードゲーム公式サイトのイベント検索ページにも情報が掲載される予定。定員は8人で、参加費は無料。
施設長の矢部弘司さん(49)は「ポケモンカードは世界中で人気なので、同じ願いを持つ障害者はたくさんいるはず。風穴を開ける大会にして、別の地域でも開かれるようになればいいなと思います」と話している。【御園生枝里】