2007年、26歳で大阪府寝屋川市議会選挙に初当選した吉羽美華元議員。「美人過ぎる市議」と話題になり、その知名度を活かして国政にも挑戦。しかし裏では、異常なまでの金への執着、そして市議という肩書きを利用した詐欺があった。だまし取った金は6億円以上。許されないその手口を、当時の報道、裁判資料、関係者の取材などをもとに再現ドラマで紹介した。

2017年、吉羽はかつて大阪府摂津市の市議会議員をしていた女性・千恵子さんに会った。千恵子さんが会った理由は、吉羽を衆議院選に出馬させるため。吉羽は以前、当時の希望の党から衆議院選挙で東京24区から出馬。千恵子さんも一緒に出向き吉羽をバックアップした。しかし選挙は落選。それでも吉羽は千恵子さんとの交流を続けていた。

しばらく経った頃、吉羽が暇さえあればスマホを眺めていることが気になり聞くと、吉羽は「暗号資産やってるんですよ」と吉羽。「千恵子さんも絶対に始めた方がいいですよ」と吉羽に勧められ、吉羽を通じてコインを買う事に。だが次第に意外な一面が見え始める。

ある日千恵子さんが吉羽とランチに出かけると、バッグの中には400万円の札束。「知り合いの男性がコインを買うから預かってきた」という吉羽だったが、次に会った時、吉羽の手にはクチャクチャの千円札が。
だがまたしばらくすると儲かったと言ったりお金がないと言ったり、なにかがおかしかった。千恵子さんは吉羽との距離を置くようにした。吉羽は一体どんな人物なのか？

大阪府寝屋川市で生まれ育った吉羽は大学を卒業後、政治家の秘書を経て、2007年、26歳の時、当時の民主党から寝屋川市の市議会選挙に立候補し当選。「美人すぎる市議」と持てはやされた。翌2012年、市議会議員を辞職し、同じく民主党から衆議院選挙に挑戦したが落選。2013年には、新党大地から参議院選挙に出馬したがこれも落選。

その後、2013年に吉羽は結婚し子供も生まれたが、2016年に離婚。その頃、大阪府阪南市長選に無所属でチャレンジしたが落選。吉羽が初めて千恵子さんと会い、希望の党から出馬した衆議院選で落選したのもこの頃だ。

そして2019年、吉羽は三度目の寝屋川市議選に無所属で出馬し、子育てに奮闘するシングルマザーという点を押し出し当選。女性を代表する市議として市議会でも熱弁をふる一方で、議会の日は高級外車で登庁。服や持ち物もブランド品で、自宅も新築のタワーマンションの高層階を購入。

そんな吉羽の裏の姿が明かされはじめる。吉羽とは距離を置いていた千恵子さんに一本の電話が。相手は友人の議員。コインの購入を勧められ金を払ったが、一向にコインが送られてこない人が何人もいるという。

日に日に吉羽に騙されたという人たちは増えていく。弁護士に相談するも、被害者の多くは共に選挙を戦った議員仲間や支援者。吉羽を信用していたため、契約書は交わしていなかった。そもそも吉羽を選挙に誘ったのは自分。被害者の中にはそこで知り合った人もいる。責任を感じた千恵子さんは「議員の信用をもしそんなことに使っていたらなら謝罪してやり直してください」と吉羽に連絡した。

すると「嘘はついていませんよ。伝えたかった事が伝わっていなかったケースです」「私もプライベートまで詮索され恐怖を感じております」と、むしろ自分が被害者だと言わんばかりの返信に愕然とした。

吉羽はこの暗号資産トラブルとは別に、新型コロナウイルスが蔓延した事態を利用しとんでもない事を企てる。

2020年、コロナが猛威をふるい始めた頃、吉羽はある男性と会った。彼は、貿易業やエステ事業などを営んでいるという。そして吉羽に「WAMという機構はご存知ですか？」と言った。

WAMとは独立行政法人福祉医療機構のことで、コロナ禍で人々が外出を控えたため医療施設などでは来院者が激減、入院施設や介護施設では集団感染が発生するなどして収入は大幅に減少していた。そんな中WAMがおこなったのが「新型コロナウイルス対応支援金」。医療機関や福祉施設が減収の程度によって融資を受けられるというものだ。

「困っている医療施設などがあったら、ぜひ私に紹介してもらえませんか？もちろん吉羽さんにも手数料はお支払いしますから」と言われ、吉羽は医療品販売をしている人や保険の外交官など医療関係に詳しい人から融資を希望する施設の情報を集めた。医療機関を助けるためのはずが、この間に2人はとんでもない計画を練ったと思われ、実行に移し始める。

吉羽は男性と融資を希望する施設へ。ある日訪れたのは老人介護施設。男性は自分の立場をWAMの融資を審査する審議官だと名乗った。そして「この融資、一番の条件は無担保無保証という点なんです。返さなくてもいいお金ということになります」と説明。そして自分達を通しての申し込みだからこそ、無担保無保証、さらに満額の融資が受けられると言い、無担保無保証のため差し押さえを受けることもなく支払期限を延長し続けられると説明。だが、正規のルートで申請しても無担保無保証だった。しかし返済期限はちゃんと決められていて、融資金は必ず返済しなくてはいけない。

ではなぜこんなウソをついたのか？彼らの本当の狙いはここからだった。業務委託料として融資額の半分を支払うように言い、それは政治資金として使うと説明。こうしてこの施設から申請に必要な書類を全て受け取り、その書類とともにWAMに対し融資の申請を行った。

この老人介護施設にはWAMから1億2000万円の融資が下りた。施設に対しては、融資額の約半額に当たる5940万円を指定した銀行に振り込ませ、2人はその金を政治資金などに使わず全て懐に入れた。そして、この方法で次々と金を奪っていく。

皆が信じる最大の武器は、現役市議会議員という吉羽の肩書き。だます相手は大阪に留まらず、東京や四国、九州と広げていった。そんな詐欺を働きながら市議として活動し、寝屋川市独自でおこなったコロナ支援金に対し市長の責任を追及する。その裏でだまし取った金の一部は貸金庫に入れた。

この詐欺を始めて3か月が経った2020年10月、吉羽と男は福岡県の病院にいた。この病院もニセ融資話を信じてしまい、申請代行を依頼した。だがこの後、吉羽は驚きの行動に出る。

福岡の病院と業務委託契約を交わしたあと、吉羽は男を外し別のメンバーと同様の詐欺をはたらくことにしたのだ。吉羽は「審議官が貴院の融資について前向きでないです」と福岡の病院にメールを送り、メールには「別ルートをつなぎました。貴院が審議官へは辞退で貫いて頂けるなら今日にでも申請書類を発行します」とあり、さらに共犯者の男が業務委託金の10％をせしめようとしていたとウソをつき、私なら委託料を40％でいいと相手にとっては更においしい条件を出したのだ。

担当者もそれをすっかり信じてしまい「新たなルートでの申請をお願い致します」と返信。その融資額は満額で6億円。吉羽達が委託料として手にする金額は2億3200万円にもなる。

この出来事以降も表面的には連絡を保ち、男の動向を探っていた吉羽のもとに、2021年3月、党派事務所に一本の電話が。電話をしてきた人物は、吉羽と詐欺を働いていた男だった。

数日前、貸金庫に吉羽の姿が。そこには男が管理している大量の現金が入っていた。吉羽は鍵を持ち出し、その金を持ち逃げしたのだ。その額は1億5500万円。

この事により男は必死に吉羽を探していた。一方、吉羽は市の定例会には堂々と出席し続けていた。なかなか吉羽を捕まえることができない男はとうとう警察署に駆けこみ、すぐに警察が貸金庫の防犯カメラをチェックすると、金を持ち出す吉羽の姿が。さらに捜査を進めていくと徐々に吉羽達の犯行が明らかになり始めた。

捜査は福岡の病院にも及んだ。病院は刑事から捜査協力のため指示を受ける。吉羽が病院に現れると録音を開始。この時の実際の音声が残っており、吉羽は「私は使われたんだなって思いました。客寄せパンダみたいな感じなのかな」と、自分も騙されていたことを強調していた。

2022年8月1日、吉羽は逮捕された。吉羽以外にも共犯の男女が逮捕。吉羽が詐欺で得た金は約6億円。裁判では、自分も融資の特別ルートの存在を信じていた、全て共犯者の男にだまされていたと主張。

しかし会話を録音されておりこの言い分けが通るわけはなく、2024年10月、下された判決は懲役10年。1億9800万円の追徴金も命じられ、その後、確定した

共犯の男と女は被害者に対し弁償をし示談が成立していることなどから、執行猶予つきとなった。一方騙された医療機関はWAMへの返済に追われることに。吉羽達が奪った手数料も免除されず、福岡の病院は、融資額の返済に迫られたが病院にはもうその力はなく、現在破産手続きを進めているという。

また、吉羽に暗号資産で騙されていた千恵子さんは吉羽が融資金詐欺を働いていた頃、民事裁判を起こし2024年12月、裁判所は吉羽に対し千恵子さんへの返金命令を下した。しかし、吉羽はその後、控訴。千恵子さんはこれ以上関わりたくないという
思いから、訴えを取り下げた。

かつて「美人すぎる市議」と持てはやされた吉羽の末路。未だに反省の言葉は口にしていない。