狩人さんが今度はテラの大地に赴くようです   作:ron3studio

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これにてバベル編終了、以降ロドス編へと移ります。
しおりの数とかお気に入り数も増えててすんごい嬉しい、見てくださる皆様に感謝!!!

誤字脱字報告感謝であります、基本的におっマジ?教えてくれて助かるラスカルなのでね、もし誤字脱字なんかがありましたら容赦なく報告してください。



新たなる時代へ

 

 

バベルがカズデルへの奇襲に掛けれる時間は6時間、それまでに出せる限りの精鋭戦力を持ってカズデルを攻め落とす。

船の守りはテレジアと残存戦力が担当し、その指揮はドクターが執る。

それが今回の作戦だった。

故に我らが成すべきことは早急なカズデル都市内の鎮圧であり、船の事を憂いる暇など無いのだ。

だが……この常に付き纏う嫌な感覚は何だ?

 

 

———

 

カウントダウン

1時間33分48秒

 

「都市内の全部隊に告ぐ、巡回部隊を無力化せよ」

 

『了解。都市内の防衛は非常に手薄になっている。ほぼ軍事委員会の都市防衛部隊のみだ。合流させる前に各国撃破するとしよう。急ぐぞ」

 

「……ケルシー、この状況は」

 

「……双方とも戦火が都市内にまで波及する事を避けていると考えても、この状況は不自然だ。全ての情報をドクターに転送してくれ。作戦小隊は速度を上げ、警戒を怠るな」

 

カズデル都市内へとバベルの戦略が侵攻し、制圧へと動き出す。

ケルシーと狩人は不自然な状況に違和感を覚えながらも、作戦完遂の為に動くしかなかった。

 

「ケルシー殿よ、私の方は好きに動く」

 

「あぁ、君はそうしてくれた方が良い。……軍事委員会の旗を広場から撤去し、都市全域に放送通信を開放するんだ」

 

 

———

 

 

「……これが最後か」

 

血を流し、倒れ伏した敵に聖剣を突き立てその命を刈り取る。

既に周囲には無数の死体が転がっており、ここでの勝者は狩人一人である事を示していた。

 

「残り時間26分……そろそろケルシー殿と合流せねばならんか」

 

使える時間は着実に減っていき、しかしカズデルの制圧も順調に進んでいる。だが狩人から嫌な予感が離れる事は無かった。

 

 

———

 

 

残りカウントダウン

22分48秒

 

「クロージャ、本艦に連絡はついたか?」

 

「今のところ応答なし」

 

「……」

 

「ま、まだ都市内放送の出力設定を上書きして範囲を拡大してるところだよ。本艦の通信が一時的に故障してるかもしれないし……とにかく今頑張って復旧してるから!」

 

「……」

 

「ケルシー殿、戻った」

 

「……あぁ、ハンターか」

 

「その顔、何かトラブルか?」

 

「本艦との通信が取れていない、故障の可能性もあり得るが……」

 

「成程、だが我らから手出しできる事も多く無い、今は信じて待つとしよう」

 

「そうだな……」

 

 

———

 

 

「クソッ!こんな時に限って人形を夢に戻らせていた自分が恨めしい!」

 

狩人は議長室を目指して走っていた。

ケルシー達と共にカズデルのバベル事務所跡地に居た時、恐ろしい程の悪寒が背中に走った。居ても立っても居られなくなり、狩人の確かな徴を使って艦内へと戻って来ていた。

 

「!願いは無駄になったか!ドクターよ!」

 

走っている最中に視界に入るバベルメンバーの死体。

それは内部に侵入者がいる事を示し、そして狩人の疑念を確信へと至らせた。ドクターがバベルを裏切ったと。

狩人は出来る限りなく力を振り絞って議長室へと急ぐ。狙われるのは大将首ただ一つ。テレジアの命。

 

「間に合ってくれ……!」

 

 

———

 

 

議長室の目前まで来た時、入り口には一人の人物が立っていた。

敵とならない事を願い、しかし敵となったドクターであった。狩人は眼前の人をどうしようかと一瞬考え、だがテレジアの安否確認が先決と決めてドクターを押し退け議長室へと踏み入った。

 

「テレジア!」

 

「ハンター……」

 

そこに居たのはテレジアと、側で眠りこけるアーミヤ、そして残り僅かな刺客達。

 

「やらせんぞ!」

 

狩人は月光の聖剣を敵を殺す為に振るう。

かつての偽りの光ではなく、純然たる怒りに呼応するかのように、刀身に月光を纏った。

 

 

傷を負い、敵の血を浴び、一人、また一人と命を奪っていく。

そうして全ての敵を殺した時、そこに残るはもはや通常の手段では助からないテレジアと立ち尽くすドクターのみだった。

 

「……ドクターよ、私が貴公に言った言葉は覚えているな」

 

「……」

 

「貴公を殺したからといってテレジアが生きれる訳では無い。だが、貴公を殺せばこの怒りも落ち着くだろうさ」

 

「ハンター、駄目よ」

 

ドクターを殺そうとした時、テレジアから静止の言葉を掛けられ動きを止める狩人。彼女に向いた目には、何故止めるのかと言わんばかりの意志が宿っていた。

 

「何故だ」

 

「止めるのに理由がいるのかしら?」

 

「……分かった、従おう」

 

「ありがとう。さ、ドクター。お話しましょう?」

 

 

———

 

 

「話は済んだか?」

 

「えぇ……」

 

壁に凭れかかっていた狩人は、ふらりと倒れそうになるテレジアを見て即座に近付き受け止め、そっと地面へ横たえる。

 

「ドクターはどうした」

 

「彼は……純粋な姿で、もう一度この大地で生き直すわ……」

 

「そうか」

 

「ねぇ、約束……覚えてくれてる?」

 

「無論、私がこの大地に居る限り、忘れる事など無い」

 

「ありがとう……ちょっと、疲れちゃったわ。あの王冠を持っていると本当に疲れるの」

 

「そうだろうな、人の身で持つには余りにも重すぎる代物だ」

 

「そうね……疲れたら休まないと。ね、ハンター、それにアーミヤ」

 

「……そうだな」

 

血溜まりの中、テレジアはアーミヤを力強く抱きしめ、その心音に安心感を覚えていた。

狩人は側で地面に膝をつき、テレジアの言葉を聞き逃さないようにしていた。

 

「私はこれまで……いつの日か……この大地の一人ひとりを、安らかな眠りに就かせてあげられるかも、なんて考えていたの」

 

「はるか遠い願いだけど、もしかしたら、この娘が私に代わってその日を見届けてくれるかもしれない」

 

「……アーミヤは今でも、充分に強い子だ。もっと大きくなれば、テレジアの夢を見届けれるかもしれん」

 

「そうね……アーミヤ、目が覚めたら…………前へ進み続けなさい」

 

「ふぅ——疲れた……だけどまだよ、彼女が来ていないもの」

 

「ケルシーなら、もうすぐ来るだろう」

 

「えぇ、そうね……」

 

テレジアには、もう最後のほんの僅かな力しか残されていない。

それでも、どうしてもケルシーの事を待たねばならない。

幸いな事に、駆けつける音は既に彼女の耳に届いていた。たとえ再び目を開く力が残っていなくとも、彼女にはわかった。

ついに、彼女が帰ってきたのだと。

 

「……テレジア……アーミヤ、ドクター……」

 

「ケルシー殿、ようやく戻って来たか。テレジアが待っていたぞ。思う事は色々とあるだろう、気持ちは痛い程分かる……だか、今は捨て置け」

 

狩人に促され、ピクリとも動かないテレジアへと近寄る。

 

「……テレジアの、死亡を……確認」

 

「私は後続の襲撃に備える。彼女の側に居ると良い」

 

「すまない……」

 

 

———

 

 

「ケルシー、これからどうするのだ?」

 

「ここで立ち止まる訳にはいかない、テレジアは死んだ……だが、アーミヤに、ドクターが居る」

 

「そうだ、貴公は立ち止まる訳にはいかない。進み続けるしかない」

 

「君は、どうするんだ?」

 

「変わらん。ここに居続ける、人手は少しでも多い方が良いだろう」

 

「そうか……ありがとう」

 

「構わん、友人の手助けをするのは当たり前であろう?」

 

 





今代の魔王が死に、その王冠は幼き後継者へと受け継がれた。
バベルの塔は崩れ落ち、瓦礫の中から新たなる希望が芽生えるだろう。
新たなる時代が訪れる。
それを照らすは月光の明かり。本来ならば存在しえぬ月光が、道を照らしてくれるだろう。



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