灰は龍炎に惹かれて   作:ジルバ

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何これ?ふざけてるの…?(数カ月振り投稿


待たせてしまい申し訳ナスです…


暫く執筆から離れているうちに多くの方々に気に入ってもらえたようでとても幸せになれました。皆様に“感謝を!”

あと今回の話に合わせて2と3話の一部を書き直しました。







第15話:前触れ

 

「ハァッ……ハァ…!……クソ…!」

 

走れ

 

──自分の為に死にゆく友を目の当たりにした瞬間、お前は……

 

ヤツの遺した言葉がちらつく。鬱陶しい。

 

──お前は気づくだろう。この大地の上に、犠牲にできないものなど無いと

 

「黙れ…ッ!」

 

降り積もった雪を焼き溶かしながら我武者羅に走るタルラ。脳裏に浮かぶ最悪の光景が鮮明なものになっていくにつれて彼女の焦燥もまた大きくなっていく。

 

 

「■■■■■■■■■───ッ!!」

 

(……ッ!?何だ…!?)

その時、タルラの耳をつんざくような咆哮が襲い、続いて木々を揺らさんばかりの大きな爆発音が轟く。それらは音からして音源は決して遠くにはないとタルラのドラコとしての優れた聴覚が彼女に確信させた。

 

「急げ…ッ!」

 

タルラはアーツの多用、そして全速力で走った故に息切れを起こし始めた自身の体に鞭打ち走る速度を上げる。

 

「あ……」

──タルラの足が止まる。

彼女の鼻を人の焼けた臭いが襲う。辺りに人だった原型を留めきれていない黒い炭の塊が転がっている。

 

眼前に広がる光景は純黒の大地だった。周囲の降り積もった純白の雪に彩られた雪原に無理くりにねじ込まれたかのようにそこだけが焦土と化していたのだ。今尚まばらに降る雪が積もろうとするがソレを拒むかのように焦土に燻る余燼が雪を溶かし続けている。

 

 

 

そんな黒土となった領域の中心にタルラの二人の探し人の姿があった。

苦楽を共にしてきた親友たるエラフィアの娘と座り込んだ彼女に抱きかかえられた騎士の姿が。

 

「──ッ!」

決壊した涙腺から溢れる涙を拭う手間すら惜しみ、タルラは躊躇うことなく焦土へと踏み入った。

 

「アリーナッ!」

「ッ!?タ、タルラ…!?貴方どうしてここに──」

 

そのまま走り込んだ勢いのまま広げた両腕で二人を抱きしめる。

 

「あぁ…!アリーナ……良かった……無事で本当に…良かった…!」

生娘のように泣きじゃくりながら、夢現ではないことを確かめるように力強くエラフィアの娘を抱き続けた。いつもの気丈な戦士の姿はそこには無かった。

仮にこの場に彼女を追ってレユニオンの戦士たちが立ち会えば彼女らしくないと思うだろう。

 

それほどに今のタルラは弱々しかった。

 

「……えぇ、アッシュがいなかったら私は今頃……」

アリーナの手に抱えられたアッシュは力なく彼女に体を預けたまま動かない。しかし、黒鉄の兜の中からくぐもった息吹が微かに聞こえる。彼もまだ──生きている。

 

タルラはアッシュを拠点へと運ぶために彼の背に腕を回す。でなければ彼の身体が灰になって消えてしまうかもしれないと、そう思えてならなかったから。

「……すまなかった。我々が監視官の奴らを殲滅できていればこんなことには……」

「っタルラ……それは──」

 

 

「見つけたぞ……感染者…ッ!」

 

 

彼女の悪い癖だ。そうやって常に最悪の可能性から目を逸らそうとする。

 

 

低い男の声にタルラが振り向いた先にいたのは──監視隊の残党だった。

 

「ッ!まだ監視官が残っていたか…!」

臨戦態勢を取ったタルラは得物の長剣の柄に手を伸ばす。

 

「……ほう、同士討ちでもしたのか?ハッ!愚かな奴らだ」

 

 

「──は?」

しかし、柄を握りしめた腕は剣を抜き放つことなく石にでもなったかのように動かなくなってしまう。

 

 

「……何を言っている…?こいつらはお前たちの仲間だろう?」

「貴様こそ何を言う!?物資目当てに仕掛けてきたのはそっちの方だろうが!!」

 

(どういうことだ…!?ではアリーナを襲ったのは……アッシュはアリーナを誰から守って──)

 

──俺たちが追放した連中と鉢合わせになる可能性がある。

 

「……まさか」

「獣のように生に縋りおって──」

 

有り得ない、そんなこと。

 

──お前はきっと愛する人に裏切られるだろう。

 

そんな筈はない……

 

──そしてお前は気づくだろう。隣人を愛する者など存在しないと

 

五月蠅い…

 

──自らの奮闘に値するモノなど存在しないと

 

黙れ……!

 

 

──私が経験したことを、お前もきっと経験する

 

黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ──

 

「タルラ…?ダメよ、落ち着いて!」

 

過去からの囁きが龍の精神を蝕む。

アリーナはタルラの様子の異変に気づき、制止するが──既に遅すぎた

 

今のタルラは燃え上がらんとする火種だ。

 

「感染者風情が生き意地汚なく我々の足を引っ張るな!」

 

義憤でなく、向けようのない怒りに燃える炎

 

──黙れェェッ!!

 

苛立たし気に髪を搔き乱しタルラは力任せに抜刀した剣が豪炎に染まり──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──まったく……世話の焼ける……

 

ドラコによる殺戮劇が始まらんとしたその時、その場にいる者達のいづれのものでもない声が響き、その低く、呆れたような男の声がタルラの精神と燃え狂う炎を鎮めた。

 

そして次の瞬間、対峙するタルラと監視官達の彼我の間に一注の炎の渦が巻き起こる。

 

「な、なんだ!?」

「タルラッ!!」

「ち、違う…これは私の炎ではない……!」

 

次第に炎が勢いを落し、炎のベールから姿を現したのは──

 

 

 

──一人の騎士だった

踏みしめる焦土のごとき漆黒の鎧は焼け爛れたかのように歪んでおり、風に吹かれ軽々とたなびくサーコートは擦り切れ、もはや襤褸の布きれにしか見えず、騎士というにはあまりにも惨めな姿だ。

 

しかし、思わず黙り込まされてしまう威厳のようなモノがその騎士にはあった。

 

「な…何者だ貴様!?」

「出張る気は無かったのだがな……仕方あるまい」

得体の知れぬ存在の出現に恐れ慄いていた監視官の見え透いた虚勢に騎士は反応すら見せず、首だけを動かしてタルラとアリーナを見やる。

 

 

タルラも、アリーナもどういう訳か自分が視線を向けてきた騎士に対して警戒心を抱いていないことに気付いた。

そして同時に既視感を覚えていた。

 

アリーナは火の粉を散らすその姿に、タルラは己が目を射貫くその蒼き眼に。

 

そして───その声に

 

「「お前(貴方)は……」」

 

──アッシュ?

 

「っ!お、おのれぇ…!感染者を庇い立てするならば…ッ…!」

「ッ!危ない!」

 

威勢を取り戻したらしき数人の監視官が騎士へと斬りかかる。

「貴様も罪人だ!生かして返さ──」

「──吠えるな、畜生共が」

迫る監視官たちに対して騎士は回避する気配はなくただ右の掌を向けただけだった。

 

否、迎撃の前動作はそれだけで十分だっただけである。

 

「ギ…アガァァァ!?」

──“封じられた太陽”

 

彼の手から巨大な火球が放たれ、焦土の上に新たな焼死体を作り出して見せた。

 

「確かに過剰な威力だな、この呪術は。クク…だから気に入ったんだが」

「ア、アーツだ!?コイツも感染者だッ!」

 

「……竜の娘よ、ここは私に任せて行くがいい」

騎士の両の手に蒼白い粒子が集まり、黄金と暗い銀色の双剣が騎士の手に納まる。

 

「え…!?」

「な…!?」

それは二人には見慣れたアッシュの行使してきたソウルの業に違いなかった。

 

「まさかお前はアッシュの居た世界の──」

「龍の娘よ、君は何のためにここにやってきた?」

タルラが問い詰めようとするが騎士自身の声によって搔き消させられる。

 

「……その娘と男は君の大切な友人なのだろう?だから無事に連れ帰るために息を切らしてまでここまで来たのだろう?この者共の相手などしている場合か?」

「っ!それは……!」

 

焼け爛れ、歪んだ兜の内から発せられたくぐもった声からは相手の真意を読み取ることは叶わない

しかし──彼の言っていることは事実だ、今の彼女は冷静さを欠いている。そんな状態で後ろにいる二人を護りながら戦うことは困難だろう。

それに一刻も早くアッシュの容態を診てもらわなければ彼が死んでしまうかもしれない。

 

……彼が死ぬ瞬間を見た時……耐えられる自信がこれぽっちだって無い。

 

「貴方は誰なんですか!?……どうして見ず知らずの私達の為にそこまで…!?」

「……そうさな……ただの名も無き旅人だ……さぁ、さっさと行けッ!」

「でも…タルラ…ッ!?」

 

タルラはアリーナの手を取り、アッシュの身体を脇に抱え走り出した。

「必ず…必ず助けに戻ろう!それまで死ぬなよ!!聞きたいことも言いたいことも沢山あるんだからな!」

 

 

 

「……死ぬな…か。クク…ハハハ……」

離脱していくタルラの背を見届ける騎士の兜から乾いた笑い声が漏れた

 

不死だった私にそんなことを言ってくれる者がいたとは……あぁアンドレイがいたな

 

──『あなたたちは独りではない』

アッシュよ、彼女の言葉は不死者(我等)にとって救いに成り得たとも。

……もっと早く──火を継ぐ前に出会えていたらと切望するほどには。

 

そうだ、我々は決して孤独では無かったのだ。

 

「──なぁ?貴公等」

 

 

 

彼の言葉に呼応するかのように更に三つ、タルラ達を追わんとしていた監視隊を取り囲むように炎の渦が虚空に巻き起こり、三人のヒトガタが出現する。

 

一人、蒼と紅の巨剣を担いだ、亡国ファローザの蒼き騎士装束をはためかせる騎士

 

もう一人、ミラの騎士たちのチェインメイルに身を包んだ傭兵

 

そして、乾いた血がこびりついた肉断ち包丁を持った全身黒ずくめの異様な風体の戦士

 

装いも得物もバラバラだが、古傷の絶えぬそれらは一貫して主と共に死線を潜り抜けてきたことを証明していた。

 

「恐れるな、死ぬ時間が来ただけだ」

ファローザの騎士は淡々と死の宣告を告げ、

 

「まぁ安心しな、すぐに地獄送りにしてやるよ」

傭兵は殺意と力を得物に込め始め、

 

「……イッツ・ショウ・タァーイム」

狂人は髑髏の面の下にある顔を邪悪に歪ませ──

 

「クク……頼もしい限りだよ、本当に……」

はじまりの騎士が黄金と暗銀の双剣を()()()()()()()

 

「な、なんなんだお前らは…何なんだッ!?」

監視官たちはもはや押し殺せぬほどに膨れ上がった恐怖に震え上がった

──己らを囲む者たちがまるで亡霊のような悍ましい存在に見えたからだ。

 

「……さぁ──」

 

ここに■■■たちは初めて顕現した。

 

 

 

 

“外道狩りの時間だ”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴォォーン……

鐘の音が聞こえる。

 

──夢。

 

私が眠る度に必ず見る夢。

 

そこは寂れた墓地だった。存在と意識が朧になった私の夢はここから始まる。

鐘は灰を呼び起こす為に鳴らされてきたという。

今、私の目の前の棺でソレが起きている。

 

その者は上級騎士の鎧だったモノを纏っていた。“だった”というのも鎧は余さず“火”に焼かれ、歪んでしまっており、原型を留めていないからだ。

 

これは──私だ。

私の見る夢は過去の私の足跡を辿っていくものばかりだった。

 

……この時の私は酷く困惑していた…はずだ。なんせ火を継いで、死んだと思ったら今度は何処とも知れぬ墓所にて目覚めたのだから。

 

そして、私は己が再び“火”の存続の為に火の無い灰──薪の調達者として蘇らされたことを知ることになる。

火を継いだ私に続いて火を継ぐ為に命を捧げた薪の王達、本来なら彼らが再び火継ぎをする筈であり私の出る幕は無かった──しかし彼らは火継ぎを拒み、ロスリックに流れ着いた故郷へと逃げ帰った。

 

……分かるとも、この時の私も、今の私も。彼らの行いを否定などしない。

 

“はじまりの火”が己が身を、骨の髄を焼き熔かすあの耐え難き痛み。苦難と絶望に満ちた使命の旅を耐え抜き、その末に世界の──人々の為に成した火継ぎをもう一度しろなどと世界に課された彼らが拒み、逃げ出したのを何者に責める資格があろうか。

 

 

だが、この時の私には再び火継ぎを行うことに疑いはなかった。故に薪の調達者としてロスリックの城下へと降り立ち薪の王──否、彼らの内にある“火”を蒐集する旅に出た。

ロードランでそうしてきたように何度も屍を晒し、邪魔立てする敵を骸に変え、奪ったソウルを喰らいながら、ただ前に進み続けた。

 

 

──…あぁ、あんた…あんた、あの女と同じ匂いだ……

 

……しかし、

 

──そうか、あんた、火の無い灰だな。そうなんだな!

 

いつの間にか灼けた上級騎士の装備から逃亡騎士の装束へと換装し、薄暗い小教会に至った私がそこで蹲っていた赤頭巾を被ったの老騎士の取り出した紙片──絵画世界の切れ端に吸い込まれていく。

 

この奴隷騎士……ゲールとの出会いが私の転機となった。

 

 

腐りゆくエレーミ……この時には確かアリアンデルの絵画だったか…に迷い込み、そこで出会った幼き絵描きの娘の頼みで始まった新たな絵画世界を描く為の顔料──暗き魂の血を求める寄り道でしかない旅。

その道中で私は……火継ぎの果てを……全てが吹き溜まった世界の終焉を見た。

私が愕然としている。

 

(グウィン)よ、火継ぎが世界を存続させ続けるのではなかったのかと”

 

“これでは薪の王となった者達の犠牲が無意味ではないか”

 

──私は何のために今まで戦い、そして今も戦っているのか………と。

 

絵画の顔料を巡る旅が私に火継ぎの使命への疑念を芽生えさせ──

 

──お嬢様の絵の為に…!

 

──我らは、腐った世界を焼ける。次の世界の為に……それだけでまともってものじゃないか、外の奴らよりもさ……

 

──…分かりました。貴方も同じなのですね……ではこの画には──(アッシュ)の名を付けます

 

かくして王であった灰は──アッシュは新たな使命を見出した。

 

薪の王(英雄)でも、亡者の王(簒奪者)でもない──私だけ(裏切り者)の使命を

 

視界が暗転し、火の祭祀場に場面が変わる。

 

私の手には暗い一対の瞳があった。

それは薪の王ロスリックを討つ為に侵入したロスリック城の探索中に見つけた時空の歪んだ場所──無名墓地の最奥で朽ち果てていた火守女の骸から見出したモノ。それこそが己の使命を果たす切り札となる代物であった。

 

 

──私は自分の意志で薪の王となった。そのことに誇りもある。だから君も……自分の意志で選びたまえよ

 

……私は彼らが繋いできた“はじまりの火”を終わらせることを()んだ。

 

──……分かりました。私は貴方の火守女、貴方の望みに従いましょう。

──灰の方、おかしな話をお許しください。あの瞳の見せる火の消えた世界は永遠に続く暗闇です。けれどそれは──どこかずっと先に、小さな火たちがあるように思えるのです。王たちの継いだ火の証……残り火のように

 

──だからこそ私達はその暗闇に惹かれるのでしょうか?

 

私の擦り減った魂にもはや迷いも絶望も無く、熱と希望があった。

未来に生きる者達の為に、これ以上の薪の王(生贄)を生み出さないために……今までの薪の王(犠牲)が無意味にならないようにする為に。たとえ……それを彼らが望まないとしても

 

その想いが私の身体を前へと進ませてくれた。

 

深淵に堕ちた狼騎士と……共に彼の仇を討ち果たした戦友であるあの灰狼を思い出させる深淵の監視者達を

 

約束を果たさんと現れた勇猛なるカタリナ騎士と共に孤独となった巨人の王を

 

友たる騎士の遺志を胸に抱いた女騎士と共に神喰らいの聖者を

 

そして……薪の王とするためだけに生み出されたあの哀れな若者を、彼を護らんと立ちはだかった兄諸共に

 

再び場面が祭祀場へと戻る。既に玉座には王たちの遺した薪が戻されており、私が眼前に突き立つ螺旋の剣の前に立っている。

これが夢の終点だ。なぜかは分からないがこの先はいつになっても見れることは無いのだ。

 

……しかし、この夢は私に過去を振り返らせて何を求めているのか

 

…それに対する答えがこの夢の内にあったのだろうか?

 

「灰の方」

螺旋の剣に跪こうとするアッシュ()に火守女が声を掛ける。彼女の声に私は振り向きはしなかったが、剣の柄に手を掛けたまま動きを止めた。

 

貴方に寄る辺がありますように

 

火守女の言葉を毎度うまく聞き取ることが叶わない。私は彼女のから何度も贈られてきた筈のその言葉を聞き捨ててきたからだろう

 

私は彼女に何も返さずに螺旋の剣に跪いた。それを皮切りに祭祀場が闇に包まれ、玉座に戻った薪の王達の残り火が火守女の手に集まる。

 

あぁ…夢が醒める──

 

 

「……お前は私に何を求めていたのだ、火守女よ……」

アッシュが火守女へと手を伸ばすが、喉から絞り出した掠れた声に彼女が振り向くことは無かった───

 

 

 

 

 

 

「ぬ……うぅ…?」

アッシュが目を覚ますと、彼の視界は木造の天井を収めていた。

寝起き特有の倦怠感で思考が鈍いが、それでもここがどこなのか分かる。だが、だからこそ困惑を隠せない。

 

(……何故私は家にいる…?私は──)

身体を起こしてみれば常に肌身離さず身に着けていた筈の外套と鎧は無く、己の亡者の…でない身体の上に平服が着せられていた。

 

「鎧はどこだ……いや、それよりも…!」

 

──アリーナはどうなった…!?

己のソウルから取り出そうとするが逃亡騎士の甲冑は無い……アッシュはベッドから抜け出した。

 

アリーナの安否を確かめなければならない。

 

(救えた……守れたはずだ…まずは外へ出なければ…!)

“ロングソード”を腰に帯び、時間すら惜しいと彼は寝室の扉をぶち破らんばかりに瞬歩する。

 

カチャ……

 

「ッ…!?」

得物を握っていない左の掌がドアノブに触れんとしたその瞬間──ドアノブが回る。

咄嗟にバックステップし臨戦態勢を取ったアッシュが出迎えたのは──

 

「わぁっ……アッシュ…!?…良かった!起きたの「アリーナ!!」ひゃっ!?」

 

私は己の感情を律することができなくなってしまったと痛感する。だが、この手で目の前にいるアリーナが私が幻でなく、現実に生きていることを確かめたかった。

 

──良かった……私は守ることが出来ていた…!

 

「ア、アッシュ…苦しい…」

「っと…す、すまない。少々気が動転していてな…」

我に返ったアッシュはアリーナから離れ、ベッドに座り込む。傍から見れば事案でしかない

 

「心配だったのはそっちもだったよね。この通り、貴方と……あの人ののおかげで無事に帰れたの」

「あの人?……あれからどうなって私達はここにいるのか教えて貰わねばな」

「……それは──」

 

 

 

 

「…なるほど、君とタルラには世話をかけてしまったようだ…しかし…」

確証は無いが私達を助けたという騎士は不死者だ。自分と同様に気づいた時にはテラにいたクチだろうか?

(詳しい話を当人から聞いてみたいところだが──)

 

「……ところで…私の装備をどこにやったんだ…?」

「あぁそれなら……」

 

「血の汚れが酷くてな。洗濯させてもらったよ。アリーナ、彼の装備を持ってきてやってくれ」

その時、耳なじみのある女の声の主が新たに部屋に訪れた。

 

「タルラ…?貴女何処に行っていたの…?」

「……私のことは良いんだ。頼む」

「でも……分かったわ。行ってくる」

アリーナはタルラに何か言いたげな表情をしながらも寝室から出、そう時間が経たずに玄関が開かれる音がした。

 

 

 

 

 

玄関の戸が閉じ、アリーナが出ていったことを確認したタルラは目の前に座しているアッシュを見下ろす。

騎士の鎧に隠され、もうずっと見ていなかった彼の素面。こうして文字通り顔を合わせるのは……いつぶりだったか

 

「……私とアリーナが襲撃を受けたことはもう知ってるんだろう……聞かないのか」

……私の顔に言いたいことが書いてあったんだろうか?いつもの私なら平静を装えていた筈なんだがな……

 

タルラは深く息を吐き、部屋の片隅にあるアッシュが武具の修繕や手入れに使っている作業机を──精確にはその上に置かれていた一つの木箱を指差した。

 

「…装備はそこに入れておいた。改めてくれ」

そう言われ怪訝な顔をしたアッシュだったが“底なしの木箱”に手を突っ込むと石になったかのようにピタリと固まった。

 

「タルラよ…どう言うつもりだ?」

木箱を探っていた腕からアッシュの姿がいつもの襤褸纏いの騎士の姿に戻っていく。

しかし、彼は疑念と警戒心を露わにしてタルラを睨む。

 

「アリーナを騙して追い出してまで私と二人きりで話したいことがあるのか」

「アリーナに聞いても頑に口を開いてくれなかったんだ….だから、お前に聞くことにした」

「教えてくれ、アッシュ」

 

 

「お前とアリーナを襲ったのは誰だったんだ?」

「…………」

 

二人の間に沈黙が落ちる。アッシュが息を詰まらせたのをタルラは逃さない。

 

 

「私はお前とアリーナを拠点に送り届けた後、直ぐに現場に戻った。だが時には恩人である騎士の姿はなかった…だが、代わりに私はコレを見つけた…見つけて、しまった…」

「……ソレは」

タルラが左の掌にずっと握りしめられていたのは、黒焦げになった布の切れ端だった。

──緋色のレユニオンの印が縫われた……この手で屠った同胞の装備だったモノ

記憶が朧げだが確か彼らの骸は炭化していたはずだが燃え残っていたようだ

 

「なぁ、アッシュ…何故彼らが……同胞だった同じ感染者であるアリーナを襲ったんだ!?」

「…順当に考えて君への報復……だろうな」

 

 

──よせ……まだ間に合うぞ!?

 

──間に合う…?いいや、もう俺達は手遅れなんだよ……何もかもがよォッ!!

 

再会した彼等は皆共に戦っていた時とは見違えるほどに荒み、殺気立っていた。逆恨みとは考えたがとてもそれだけであれ程の殺意と憎悪を溢れさせられるものか…この手で殺してしまった以上知る術は無い。

 

「なら何故私でなく関係のないアリーナを殺そうとしたんだ!!?私は逃げも隠れもしない、彼等の怒りを受け止める覚悟だってあった!!」

「復讐のやり方などいくらでもある。君のかけがえのない友人であるアリーナを殺し、絶望に落とすことでも成立するだろうよ」

 

──お前は目の当たりにするだろう。お前のやってきた全てが無に帰す様子を。

 

(くっ……また、だ…!)

過去の暗影がタルラの精神を蝕む

 

──お前が大切にするものを平気で穢す人の姿を。命も尊厳も理念も、全く意味がないということを

 

「そんな筈はない!有り得てたまるか!!同じ理念の下に集い団結した同志だった彼らががそんな非道なことをする筈が無いッ!!」

部屋にアーツによる熱気が宿る。

 

──激情を露わに愚かなドラコは否定──否、拒絶する……決して揺るがぬ事実を

 

しかし無情にも目の前の騎士は口を開き、現実を突き付けるのだ。

 

「……タルラ、人間は目的のためならどんなことだってできる生き物だ」

 

騎士は自分の掌をに視線を落とし、続ける。

 

「私自身がそうだ。私は“火の時代”を終わらせた。ソレは世界を、そして懸命に生きていたであろう人々を裏切る大罪だった」

「それは違う、君は言っていたじゃないか!“火継ぎ”は世界を延命することしかできないと、だから未来に生きる人々に託すために呪いの連鎖を終わらせたのだと!!」

「確かにそうだ、それも戦う理由ではあった……だが私は何よりも己の後に続き火を継いだ薪の王たちの犠牲が無駄にならないために戦った」

 

「“火の時代”を終わらせることを彼ら(薪の王達)が望まないとしても、だ。私は独り善がりな理由で道を阻む全てを制し、悪を成してのけたんだよ」

「そんなことは…!」

 

そんなことはない、と言ってやりたかった。けれど反論を許さないとばかりにアッシュはまくし立てる

 

「願い、使命、夢、あるいは……復讐。そういった一度定めたモノを成し遂げる為ならばヒトは何だって出来る生き物なのだよ──」

(まただ。また彼は過去に想いを馳せて(戻って)いる。彼の居た世界の人間は皆そうだったのか…?)

 

「覚えておけ、人間は決して善良な生き物ではない、信を置きすぎるな。さもなくば……君は深く絶望することになる」

「っ…!」

 

──人を善良なものだと考えすぎじゃない?

 

(お前も……同じことを言うのか…!)

 

 

 

(……余計な真似だったか)

私はこのテラにおいて異物でしかない。故にこの世界に生きる者に干渉をする気は無い……そのつもりだったのだが……もう、友と呼べる者に堕ちて欲しくない──そんなタルラを見たくなどないのだ。

 

「……なら」

部屋に満ちていた熱気がたちまちに消え、底冷えするような低い女の声がした。アッシュはそれが目の前に立つ親友のものだと信じられなかった。

 

お前たちも信じるなということか?

そのせいで彼女の問いに応えることに遅れてしまった。

 

「ッ!?それは…!」

 

 

 

「ごめんなさいアッシュ!貴方の鎧が盗まれたかもしれないの…!」

反論しようとするが息を切らしたアリーナが戻ってきたことに気を奪われ、咄嗟に考えた言葉は霧散してしまった。

 

 

「タルラッ!…くっ…しまった…!」

一瞬目を離したことは痛恨の失態であった。

 

 

視線を戻した時には既にタルラの姿は忽然と搔き消えていたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──タルラ、私の最期にお前が言った言葉をそっくりそのまま返そう

 

──お前の語った話の方こそ荒唐無稽だったのだよ

 

 

──これで分かっただろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──お前は孤独だ。お前の(妄想)が水の泡になるのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








あとがきの時間だ

遅かったじゃないか……(天丼)

待たせてしまって申し訳ございません!色々忙しない時期だったもので……


生活面で忙しかったのもあるんですが小説の執筆に関わる理由もありまして、身内やリアフレのダークソウルシリーズのキャラデータとか一緒にマルチしていた時のスクショを調査する旅にも出てました。今後の展開に必要になるのでね。あと純粋なモチベ不足
以上が遅れた主な要因でございます。申し訳ありませぬ……





さて、今回は……何がとは明言しませんがちょっと予定より早くやりたいことをさせていただきました。あとアッシュの設定の深堀、彼の設定を厚くしないと!と思いましてね

ただその内にまた修正するかも?

※2025/7/6に追筆しました。




では、次回……龍より芽吹きし者

良ければ感想評価、お気に入り登録を宜しくお願いします














































今回の■■■

その一
右1暗銀の残滅 左2呪術の火
左1黄金の残光 左2竜紋章の盾
頭 火継ぎの兜
胴 火継ぎの鎧
腕 火継ぎの手甲
足 火継ぎの足甲

その二
右1熔鉄剣 
左1古びた熔鉄剣 左2ドランシールド
頭 ファーナムの兜
胴 ファーナムの鎧
腕 ファーナムの手甲
足 ファーナムのブーツ

その三
右1黒騎士の剣 右2鴉人の大短刀
左1セスタス
頭 アルバの兜
胴 ミラのチェインメイル
腕 ミラのチェイングローブ
足 羽の騎士の足甲

その四
右1肉断ち包丁 右2エスパダ・ロベラ
左1古びたムチ
頭 闇の仮面
胴 喪失者の鎧
腕 竜血の手甲
足 レイムの足甲

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